津島佑子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
読売新聞の記者の鈴木美潮さんが一気に読んでしまった、とコラムで紹介されていたので、読むことにした。
1930年代に日本が台湾を統治していた時代を生きるミーチャとその姪にあたる50代のリーリーが主人公。
過去と現代を行き来しながら物語が進んでいく。
ミーチャの日常の描写を通して、当時の生活が興味深い。
統治時代の知識がほとんどなかったので、理解しにくい部分が多くあった。
また主人公のミーチャは精神疾患を患ってしまうため、現実との描写の違いが混同してしまう場面も。
最後の参考文献の多さを見ると作者がこの小説を書きあげるためにどれだけの調査に時間をかけ、真剣に取り組んでいたかがよく分かる。
上下巻で -
Posted by ブクログ
勇太郎は大学で物理学を専攻し、学問の世界に生きることをめざすものの、日本を取り巻く国際情勢が悪化していくなかで将来の見通しを立てることができません。さらに終戦後も、大学に居場所はあるものの、急激なインフレのために生活がままならず、悩みは尽きません。
勇太郎のすぐ上の姉である桜子は、婚約者の松井達彦が軍に召集されて連絡がとれないまま、勇太郎を支えます。そんななか、思いがけず達彦が帰還し、桜子は松井家に嫁いで子どもをさずかるものの、病に犯されてこの世を去ります。
国語教師だった笛子は、画家の杉冬吾のもとに嫁ぎ、彼を献身的に愛するようになります。戦中から戦後にかけて日本中が物質的に窮乏していた時 -
Posted by ブクログ
甲府でそだち、富士山に親しむ少年時代を送った有森勇太郎は、長じてアメリカにわたり、娘の牧子をさずかります。牧子はフランスに移住しますが、彼女の息子のパトリス・勇平のもとに、牧子のいとこである杉由紀子からの手紙がとどけられます。由紀子は、勇太郎の記した長大な「記録」を託されており、勇平は彼女たちの協力を得て、日本語でしるされた「記録」を読み解き、有森家の来歴を知ることになります。
「記録」の執筆者である勇太郎は、拠点をアメリカに移しており、牧子や勇平は日本語ではないことばを母語として生まれそだちました。そんな彼らに、雄大な富士の山を擁する自然と、そのふもとで近代から現代にかけて日本という国がた -
Posted by ブクログ
純文学作家の発想
ひとつづつ評していく。
川上弘美。未来SF。
発想が陳腐だと思ふ。書きたいことを意識的に書いてはゐるが、予定調和的で凡庸から突き抜けない。
人間由来の人間を工場で作らず、多様な動物由来の人間どうしが結婚し合ふ未来観(近親交配によるホモ接合型を減らすためだらう)。そこでの恋愛。
厳密にいへば、人間と他種ではゲノムの相補性が少ないからありえない。遺伝子組換かもしれない。まあそこは目をつむることにしても妙だ。
未来でも入籍といふ制度は残ってゐる。人間に本能の性欲が残ってゐるんだらうけど。結婚しない人や、核家族がどうなったかも書いてない。
妙にSFが現実路線のわりには -
Posted by ブクログ
普段、ほとんど読むことのない現代の日本人作家のアンソロジー。
興味深く読んだ。
もとは、深堀骨 の作品を読んでみたかったから手に取ったが、どれもなかなか良かった。ありそうでない話というファンタジーというか、不気味な話が多い。恋愛要素はどれも少なく見えるが、一応恋愛ものという括りらしい。
一作だけ、多和田葉子の漢字の話はすでに読んでいた。
特に印象的だったのは、
本谷由希子、迫力とリアリティと奇想天外で面白かった。
村田沙耶香、細かく書き連ねて積み上げるのがうまい。
吉田知子、多分この中で一番好きなタイプの作家。
小池昌代、切れ味がよい。
星野智幸、描写がうまい。
というかんじ。
編者は岸 -
-
-
-
Posted by ブクログ
遺作「ジャッカ・ドフニ」を読み終えたところであったため、アイヌ世界を描いた遺作の執筆動機が垣間見られる「アイヌ叙事詩翻訳事情」は、理解を深める上で重要なエッセイだと思えた。
マオリ、アイヌ、ブルターニュなど、少数民族言語の現在地点をめぐるエッセイ集ともとれる。東京で生まれ育った津島佑子にとって、周縁から中央を見る視点というものが重要な意味を持ったことが、本書を読むと理解できる。
巻頭の一章は、盟友であった中上健次を追悼する内容。中上は周知のとおり、日本を熊野という周縁から見つめた作家であるが、その中上文学への、おもねらない率直な限界の指摘もあり、興味深い内容。