あらすじ
火の山――とは富士山のこと。その富士山に寄り添いながら生きた有森家の変遷史。誕生と死、愛と結婚の型。戦中戦後を生きた人たちを描きながら、日本の近代を見つめ直した傑作長編小説。第51回野間文芸賞、第34回谷崎潤一郎賞受賞作。平成18年4月から放送のNHK連続テレビ小説『純情きらり』の原案。(講談社文庫)
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Posted by ブクログ
上下巻にに分かれておりかなり長いですが、
その長さを感じないほど深く入り込んで読める作品でした。
とある一家の物語をこれほど見事に描ききっている作品は
そんなに多くはないのではないでしょうか。
貴重な一作だと思います。
Posted by ブクログ
大江健三郎や『楡家の人びと』を彷彿とさせる圧倒的創造(想像)力のクロニクル系大長編。
有森家の1人が、連綿と続く有森家の歴史・家族の事件を綴った手記を、更にその子供たちが読み進めていくという内容。
現代の会話ではどうやら誰が生き誰が亡くなっているか窺い知れるが、手記は著者の幼少期から丁寧に進んでいく部分が肝な気がする。
津島佑子の作話力に驚きを感じる一作。
Posted by ブクログ
アメリカで生まれフランスで暮らす娘に、先祖代々甲府で生きてきた一族の歴史を父が書き残した記録―を、いとこが預かって、数十年後にようやく送り届けるという態の小説。
長年アメリカで暮らしながら根っこの部分で日本人が抜けない父親が、日本語を読めない娘に日本語で記録を残すので、間に何人か人が入って日本語を訳さなければならない。
そして、富士山についての古文書の記録や、記録を補足する注記やメモなども入り、スムーズに読むのはかなり難しい。
また、一族に代々伝わる小太郎という名前が、いつの時代の誰の話かを理解するのを妨げる。
この小太郎は祖父なのか、孫なのか?
何世代にもわたる大家族の記録は、名前を覚えるのも一苦労だ。
ようやく第二次世界大戦がはじまろうというころまでで、上巻は終わり。
下巻はもう少しスムーズに読めるような気がするが、さて。
Posted by ブクログ
太くて読みにくいかと思ったが、実は読みやすく、どんどん読み進めることが出来た。登場人物をひとりひとり丁寧に描いており、有森家を身近に感じることが出来た。
Posted by ブクログ
甲府でそだち、富士山に親しむ少年時代を送った有森勇太郎は、長じてアメリカにわたり、娘の牧子をさずかります。牧子はフランスに移住しますが、彼女の息子のパトリス・勇平のもとに、牧子のいとこである杉由紀子からの手紙がとどけられます。由紀子は、勇太郎の記した長大な「記録」を託されており、勇平は彼女たちの協力を得て、日本語でしるされた「記録」を読み解き、有森家の来歴を知ることになります。
「記録」の執筆者である勇太郎は、拠点をアメリカに移しており、牧子や勇平は日本語ではないことばを母語として生まれそだちました。そんな彼らに、雄大な富士の山を擁する自然と、そのふもとで近代から現代にかけて日本という国がたどることになった歴史の重みをつたえたいという思いが、「記録」を執筆した勇太郎の原動力となっていました。
「記録」の執筆者である勇太郎の視点を中心にして、甲府の名家だった有森家の歴史が語られてはいますが、早世した兄の小太郎に代わって有森家の総領息子となった勇太郎よりも、彼の五人の姉たちの存在感のほうがきわだっています。彼女たちのだれもが過酷な運命に翻弄されますが、たんなる「家」制度の犠牲者としてではなく、太平洋戦争の前後の時代をたくましく生き抜いた主体的な存在としてえがいているところに、著者のまなざしが向けられているように感じました。