ラブコメの皮を被った、お仕事系ヒューマンドラマ。
怒れない私も、怒った私の顔も大嫌い!
これは、彼女が正しく怒れるようになるまでの物語。
※※※以下、ネタバレありの感想※※※
・作品全体を通じて
憧れた相手ではなく自分の弱さや醜さを見せられる相手との関係を心地良く思う、という部分に深く共感した。
香子と宮原で「虚栄心が邪魔をして本音を言い合えない男女」を描きつつ、春木を通して一人の青年の精神的・社会的自立を描いており、単なるラブコメに留まないヒューマンドラマになっている点が良い。
物語が進むにつれ登場人物達が抱える生きづらさが見えてきて、特に宮原の悩みは社会人であれば共感間違いなしのリアルなものになっている。
自身が抱えている悩み=呪いを無意識に他人に押し付けているという構図が明かされる終盤の展開は読者自身をも刺してくるのが面白かった。
・プロローグ
主人公のキャラクター性と日常が中心に描かれており、強烈なインパクトを残す章だった。
どんなに嫌な目に遭っても笑顔を崩さず怒らない「仏の塩見」だが、表に出さない怒りを誰もいないオフィスで爆発させる「ブタ鼻の香子」としての二面性が後半で描かれており、人間味のあるギャップに惹かれた。
・第一章
少女漫画のような怒濤の展開に、これからどうなるのだろう? とワクワクが止まらない。
ベタな展開ではあるものの、主人公のツッコミが読者の気持ちを代弁してくれており、しつこさを感じない。
同窓会で再会した宮原との恋愛フラグは大注目なのだが、隣人である菊田春木が香子の職場でバイトとして雇われることとなり、春木との絡みも気になる。
・第二章
宮原も香子同様にやる気のない部下の指導に悩んでおり、上司との板挟みになっている描写があった。香子自身が愚痴をこぼさないと決めているため香子はこの事実を知らないが、愚痴を言い合えば溜飲を下げられるかもしれないと感じたためデート中の二人のすれ違いが切なかった。
香子から見た春木は、コミュニケーション能力に欠け最低限の社会人マナーもなっていない「ぼんくら甥っ子」だが、春木視点では「周囲の会話はテンポが速すぎてついていけない」「悪気はなくても周囲を苛つかせてしまう」との自覚があるようなので、春木がバイトを通じて良い方向へ変わるかもしれないと淡い期待が持てた。
特に章末ではブタ鼻になった香子を見て驚きはすれど、「怒りを感じない人ではないと分かり安心した」と前向きに受け止めているのが印象的だった。今後もバイトで一緒に働くのだから、香子の理解者ポジションになる可能性もあると思うとこれからが楽しみ。
・第三章
春木の精神的成長が見られ、感動した。一方的な誤解で叱られている香子を庇い、目上の人にも臆することなく(単に空気が読めないというのもあるが)言い返したのは読んでいてスカッとする。
以前に趣味が登山と語っていた春木だが、何やらトラウマがありそうな描写が気になった。
おせっかいな母の存在が結果として宮原との距離を縮めるきっかけとなったが、二人の気持ちがすれ違いつつあるのが味わい深い。
香子は怒るとブタ鼻になってしまうマーガレット症候群を隠しつつ、内心では春木が受け入れてくれたように宮原も理解してくれるのではと楽観的な考えが出てきている。
ところが、宮原視点では「感情の制御ができる、自己管理が徹底した女性」と香子が美化されてしまっており、それ故に宮原はしつこく迫ると嫌われてしまうからと紳士的な付き合いに終始している。
二人の恋の行方に波乱の兆しが見えて、いつ宮原にマーガレット症候群を打ち明けるのか、宮原の反応はどうなるのか続きが気になる展開で面白い!
・第四章
デート中の宮原と香子のすれ違いが切ない。二人とも自分をよく見せたいと思っているからこそ本音で語り合えず、表立った衝突はないものの心が離れていく……という大人の恋愛を見せつけられて私のライフポイントはゼロです。
香子の抱える「みんなは『怒らない仏の塩見』が好きなのであって、本当の自分をさらけ出せない」という葛藤が恋愛感情によって怒りの火種となり、ますますマーガレット症候群の件を宮原に打ち明ける訳にはいかなくなる展開はビターすぎてなかなかに痺れる。
一方で、春木との仲に進展が見られたのが面白かった。使えなさ、コミュ力のなさは相変わらずだが、彼なりに懸命に仕事のフォローをしてくれたのは「香子のため」という思いも多少はあったのではないかと感じた。
香子の部屋から出てきた春木が宮原と廊下で鉢合わせる気まずい展開は宮原失恋フラグのように思えた。
・第五章
春木との登山で「ありのままの自分をさらけ出せる心地よさ」を感じた香子と、職場での経験を通じて人それぞれに生きづらさを抱えていると知り人と関わる意思が芽生えつつある春木が帰り際に宮原と鉢合わせしてしまい三人の本音と建前が交差するのが読んでいて面白かった。
香子と宮原は本音を口にしない(香子の場合は「できない」に近いが)ため大人の対応をする点において香子も宮原も似たもの同士であると感じた。
宮原を追いかけて弁明をする春木だが、香子への想いを宮原に指摘され、かつ香子をまた登山に誘うなど初登場時からは想像もつかないほど香子に心を乱されている様子が意外だった。
・第六章
前回は言葉足らずだったためにアオヤマ先生を怒らせてしまった春木が、今度は自分の考えを言葉で伝えてアオヤマ先生を立ち直らせるという春木の成長が描かれた回だった。
香子は宮原に対してはマーガレット症候群を知られることを恐れている夢の描写があるが、春木といると恐怖心が薄れ自然とアオヤマ先生に対して怒れているのが二人の関係性の進展を表していて良き。
しかもアオヤマ先生に対する怒りは仕事への誇りを傷つけられたことに起因するため単なる愚痴とは格が違い、自分の中の譲れない誇りを守るための怒りである。かつて香子が感じた「怒り=悪いこと」という図式を否定してくれた春木が傍にいてくれたからこそ怒れたのではないかと思うと、春木の存在が心の支えになってきているのが伺える。
・第七章
春木の行動力にビックリ。激気まずい登山回だったが、遂に宮原との曖昧な関係に決着がつきお互いの気持ちを伝え合えて良かった。
香子が宮原を好きになった理由が「人当たりの良い宮原だから」であり、自分がされてきたのと同様に宮原を無意識に理想化していたところがブーメランすぎて大人社会の面倒臭さが描かれているのがリアル。
独りが好きだった春木が、母の死や他人と関わってこなかった自分との決別を経て辿り着いた山の上で初めて「一人が寂しい」と感じるシーンは胸アツ。
・第八章~エピローグ
香子が自らにかけた呪いを克服し人前で怒れるようになっており、正しく怒ることで仕事がやりやすくなっているように思えた。
運命の再会シーンは漫画のプロモーションとマーガレット症候群の症状がうまく組み合わさっており、都会の雑踏の中で堂々と怒る主人公の姿にはカタルシスを感じた。