この身ではあなたの涙が拭えない
いつかのナガツキのほつほつとした足跡が、促されて出来たものだとしたら。今のナガツキの足跡は、アカリヤにはどう見えていたんだろうね。
アカリヤの眼から見た、ひとりの人間のはなし。
死なずの男と、その手を引いて歩いた顔も認識できなかった誰かたち。
ナガツキの傷が治る特異性が、改めて浮き彫りになりながら、ナガツキの人間としてのひかりを再確認する一話です。
前話、レビューで「そしてあなたを抱きしめる」とタイトルをつけ、「腕に掻き抱いたそれは温かい」と書きました。
居酒屋でともに酒を酌み交わしたあの夜の喧騒が、アカリヤにとって蓋をした中でどれほどの感情の奔流だったかと思うと、胸が熱くなります。
首だけになったナガツキには、あなたの涙を拭うかいながなく指先もない。
そのことがとても悲しいけれど、懺悔、後悔、悔恨、アカリヤの慟哭に寄り添える、そんなナガツキの涙があるだけで、アカリヤの刻はきっとようやく動き出すんだろう。
アカリヤザガマは、激怒した天の神(太陽など)により、罰として桶を担いだまま永久に月に立っているよう命じられたとする話もあります。
月の影はアカリヤザガマの影だとする話も。
この話のアカリヤが今立っているのは、月ではない。
死なずの男と同じ「終端街」に立っているのだと、同じ地続きの場で、側使える距離でなく、目隠しなしで段差もなしで目を合わせて会話していられるのだと、それをとても喜ばしく思う。
等身大の彼らの影が並ぶのが、とても待ち遠しくなりました。
それと新たなメカクレとストールの男、これからの登場がとっても楽しみです。
先生の「赦す男」とっても好き…。
前話は不透明で熱があって骨が見え隠れする、滋味深いあら汁のようでしたが、今回は椀の底までよく見えて。ほとりと落ちた涙も、波紋はすぐ消えてほの温かい汁の中に消えていく。それは悲しいことではなくて、やっと呑み込めたあなたのかなしみ。
吐露された気持ちに応えたくて手を伸ばす。
伸ばした先にあるものは丸くて柔らかくて、力を入れると壊れてしまうから、そっと僕は抱きしめる。
一緒に水面に上がってみよう。
酸素を求めて、大きく息を吐いてみよう。
そのときまだあなたが泣いていたのなら、漸く僕は君の涙が拭えるね。
魚をすりつぶした団子が入ったすまし汁のような、臓腑に熱が点る塩味を感じる一話です。