豊島ミホのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
「あたしは、ホント言えばあたしから逃げたいんだよ」P329
「いったいなにを言えば、孝子に届くんだろう?」P330
吉村萬一さんの「回遊人」を思い出した。
回遊人は、拾った薬を飲むと時間が巻き戻り、そこからやり直す物語なので、そう似た話でもない。
しかし、そのとき感じたのは、やり直すとなると、前の人生を再現できるかどうか、すらもタイトロープになる。
それも恐怖。ということ。
それは、この物語でも感じた。
リテイク・シックスティーンで描かれる、10代の時期。
やり直したら上手くやれるんだろうか。
「上手くやる」って一体なんだろうか。
振り返れば、かけがえのないない時間であることは50代も10代もなにも変わらないはず。
だとすると、今50代のかけがえのない時間を、自分は「やり直す」ぐらいの気迫で過ごしているのだろうか。
気迫を込めるとして、ここからどう気迫を込めればいいのだろうか。
やり直す、という以上、前の人生は、戻るところで放り出してきた、ということ。
その放り出したくなったところに、また再び流れ着くんじゃないだろうか、という不安。恐怖。
遺伝と環境。人の人生はそれがすべて。
生まれたとき与えられ、握りこんでいたリソースは、あまりにも不平等。
分かったようなことをいう、銀のスプーンを咥えた者たちへの苛立ち。
なぜか出会えた、友。
その友との関係も、揺らぎの中にしかない。
思いもよらず、途切れたり、つながり続けたりする。
そうした、頼りない掌の玉を、そっと大切にし続ける。
できれば、同じ絶望の淵でもう一度人生を投げ出さないことを祈りたい。
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Posted by ブクログ
幼馴染との友達以上恋人未満の関係を紡いだ短編集。
甘酸っぱくて胸きゅんな青春活劇で終始することなく、ちょっとダークで大人な関係性まで描き出している。様々な形で幼馴染との距離感が展開しているけど、一貫して幸せ純度1000%のハッピーエンドには至らない。80%~60%ぐらいの割合で揺れ動き、物語以後の余韻が残る。
読者の経験や年齢層で一番刺さる物語が異なる気がする。私のベストは表題作「夏が僕を抱く」。
少し年上の幼馴染との叶わない恋愛。この設定だけで、切なさに胸が張り裂ける。互いに相手を利用しているエゴを内心では認め合いながらの卑怯な関係性が根幹にはある。けれども、主人公は抑えることができない恋心が溢れ、そこで対等な関係性が決壊する。うん、私は報われない片思いを描く作品が好きだ。
久しぶりの恋愛小説だったが、単純な恋のときめきだけでなく少し冷めた眼差しとリアリスティックな情景を散りばめている点が読み易さを助長してくれる。読者にもかつてあったかもしれない憧憬が本書を通じて蘇る。 -
匿名
購入済み意外な引き出し
この作者には内向的な若者の青春をみずみずしく描いた作品が多いので、こんな引き出しもあるのかと驚いた。あとがきで語られるように、作者の凄まじいコンプレックスと、それでも捨て去ることはできない美への憧憬が人形に強く息を吹き込んで、執念すら感じられる濃密な物語を形作っている。
ここに出てくる主人公たちは、生きた時代から容姿のレベルに至るまで、いつもの短編集以上にバリエーション豊か。また、人形の性質や姿かたち、物語の起承転結にも想像力が炸裂している。人形や「美」というものが、いかに深いインスピレーションを作者に与えているのかが伝わってくるようだ。 -
匿名
購入済み地味だけど、ドラマは濃い
出だしがあまりにむさ苦しい雰囲気なので、なかなか入り込みづらかった。でも何とか前に進んでみたら、嘘みたいに「読んでよかった」という感想に変化した。
この短編集に書かれているのは、どれも「あるある」「ありそう」と思えることばかり。と同時に、「こんな物語は見たことがない!」「よくこんな状況をすくい取って物語にすることができるなあ…」という感想も抱かされた。
ここに描かれているようなことは、あまりに繊細な揺れであるために、大抵の人間には感知するのが難しく、それゆえに今まで物語化されてこなかった風景なんじゃないかと思う。
だから、「ありそう」なのに「見たことがない」のだ。
私はこの本に救われた部分もあるし、痛いところを突かれた部分もあったし、反省しなきゃとか、もっと人を大切にしようとか、青春にまつわるあらゆる感情を動かされた。
地味な物語だと感じる人もいるかもしれないけど、私としては、充実した悲喜こもごもを味わえた。地味であることとドラマチックでないことはイコールではないのだと思った。