青山文平のレビュー一覧
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ネタバレ時代小説家は、『キャラクターの心情を3文以上記述したら血を吐いて死ぬ呪い』にかかってるのか?
とまで疑ったくらい、前に読んだ『海神の子』が悲惨な出来だった。だが、その疑念は杞憂に過ぎなかった。
本作は、時代
背景に即した、血肉のかようキャラが描写されている。
タイトル通り、かけ落ちした、武士の妻、そしてその娘がでてくるお話。
といっても、女性視点は謎解き的にでてくるだけ。
殖産に賭ける下級武士(事情もち)とその娘婿がメインキャラ。
かつ、読者は『各キャラの述懐』を総合することで新たな光が当てられ、主人公・阿部重秀と同じような新鮮な驚きが、味わえる。
時代小説読みなら知ってて -
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このミス2018年版7位。100頁弱の短編?3編からなる短編集です。すべて、江戸時代の同時期の話でテイストは同じですが、主役はそれぞれ異なります。で、とにかくこの本凄いです。3作とも素晴らしい、というか完璧です。最初の2作がストレスなく読めてとても面白く、表題作が最後に残されておりすごく期待します。表題作は途中までは、なんだ尻つぼみかな、と思ってたら、ところがどっこい最後に鳥肌たちます。
全編無駄なく研ぎ澄まされた文章で表現能力が半端ないです。三浦しをんとかのお仕事小説にも通じるんですが、全く初めて接する江戸時代の風俗や仕事を、ほとんどなじみのない単語を使いながら端的に理解というか、その場 -
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ネタバレ先日直木賞を受賞した青山文平の「かけおちる」を出張中に読んだ。
時代は寛政期で、西暦で言うと1789年から1801年と、江戸時代のそろそろ後半だが、まだまだ開国の機運も全く無い「江戸時代ど真ん中」である。江戸時代は恐らく日本の歴史上最も何も無かった時代のように思われ、私も殆ど印象が無い。その時代を背景に描かれたこの「かけおちる」は、そんな江戸期の恋愛小説というか、人を愛するというのはこう言うことなのかな、と言う小説だった。
主人公である阿部重秀は、東北の小藩である柳原藩の、齢六十手前の執政である。執政とはその藩の職位の中における家老・中老に次ぐ地位を占める、藩でも相当上位の行政官だ。元 -
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江戸時代の後半、主人公・平助は本屋「松月堂」を営み、城下から在郷の名主らに本の行商に出ます。舞台が華やかさと無縁の村なのが特徴的です。
平助は、人気の読み物などは扱わず、学術書にこだわる矜持をもっているのでした。異問や謎を、本を介して解き明かしていく3編の連作物語です。
単なるエンタメやミステリーではなく、本が生活に根差し暮らしを支えていた情景が浮かびます。本を愛し知識を求める人々の個性が豊かで、当時の本を作る・売るという様子を知り、さらに本の世間への浸透や寄与を想像するよい機会となりました。
作中に出てくる多くの言葉へも共感が多かったです。特に、「本は出会いだ。蔵書は出会いの喜び -
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本屋で見かけて一度は手に取ったものの、(いやいや積読半端ないし)と諦めた。
しかし、やっぱり気になる。
えーい、今買わねば後では出会えぬやもしれぬ!と購入。
買って良かった。
惣兵衛さんの御新造さんの森と里の際の話、これは自分の場合はまさに子供と社会との関わりについても言えるし、名主がなぜ国学をやるのか、についても考えさせられた。他にもあるを信じられることで楽になる、というのは実感してるからなあ。諦めるわけでも見放すわけでもない。
だけど、他があると思えることでちょっと楽になることはある。
今の自分にとって、何か種を植えてもらったような、そんな本だった。
気になったのも、このタイミングで -
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ネタバレとても読みやすく良質な作品である。ビックリした。が、御殿様の妄言とは何だったのか?? 作品内でヒントがあったのかな?他の方のレビューを読んでも考察などが見つからない。ということは私の読み方が浅いわけではなく、読者の想像に委ねられているということだろうか。
私の頭に浮かんだのは、御殿様は元重さんを禁じられた意味で愛しており、元重さんもまた心の内で愛していた(それ故に彼の痛みを感じることができた)という説しかない…。
元重さんは、心の深いところで家族よりも誰よりも御藩主を愛してしまったこと、それが痛みの共有という形で証されていることを畏れ悩み、また御藩主に立派になってほしい気持ちと、自分が彼の愛