青山文平のレビュー一覧

  • 泳ぐ者(新潮文庫)

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    とても感慨深い本でした。
    「半席」の続きです。徒目付の、片岡直人が主人公の江戸時代を舞台にした話です。
    今回は上司の内藤はあまり出ませんが、海防の話が下地にあり、そのために長崎に行って来た話をし、直人に意見を求めます。
    それとは別に、夫殺しの「なぜ」を調べ見抜こうとします。しかし、考えに考え、調べたり話を聞いても、完全には納得いかず、犯人の妻には死なれてしまいます。
    その後、訳あって、川を泳いでいる男と知り合い、その男に何かを感じたのですが、結局は切り殺されます。死ぬ間際の「笑み」に何故を感じ、殺された男の過去を深くさかのぼり、その笑みの理由に行き着きます。暗闇を理解して、「見抜く」ことができた。
    このことによって、ようやく夫殺しの妻の「なぜ」も理解できたが、ずっと心に留めなくてはならなくなったのです。
    作者は、とてもきめ細やかに、丁寧に、事実や直人の心情を描いています。前作は爽やかな終わりでしたが、本作はとても深い、考えさせられる終わり方でした。

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    2026年09月17日
  • 下垣内教授の江戸

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    人を斬ったらどんな思いになるのか。
    幕末の豪農の剣豪が美術批評の大家になるまでの心の葛藤が、描かれている。
    幕末の世間、というものが、目の前で展開される面白さに目を見張った。
    時代の中で変化していく価値観、本質とは何か、ほとばしる憧れへの筆致がみずみずしくて、なんかスッキリした読後感。

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    2026年09月15日
  • 半席(新潮文庫)

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    これまで読んできた時代小説の中でも変わってるけど、とても何か爽やかな小説でした。
    どこかで藤沢周平に似ていると書いてあったから読み始めたのかもしれません。
    主人公の片岡直人は半席という身分であり、とても苦労して徒目付となり、勘定方の偉い人になることを目標にして、旗本への昇格を狙っています。
    しかし、上司の内藤から、事件の真の動機を調べるように言われるのです。その短編が6つあり、その過程で、直人は成長して、「見抜く者」になってゆくのです。事件の動機を探すのは、すでに事実は分かっているので、見抜くのが主体です。そこがサスペンスです。
    武士の小説としては、戦さなどのない日常的な出来事が主で、作者が丁寧に説明してくれて、分かりやすく、さまざまな苦悶する人達をやさしくしかし真実味をもって描いています。
    続編もあるので、近いうちに読みたいです。

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    2026年08月23日
  • 下垣内教授の江戸

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    ネタバレ

     斬新ではないが新しい。
     幕末史を、このような角度で切り取るという視点が。豪農・農兵隊・小作といった人たちの存在は知らなかった。が、それを極めてリアルに感じることができた。
     ストーリーの展開は、もしかするとありきたりかも知れない。「絵師」の描写に、多くの読者は気付くところがあっただろう。その意味で、謎解きはあまり期待しない方が良い。
     しかし、それでも自立した江戸から明治の人が、この作品の中に存在していることに心から驚きを覚える。

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    2026年02月10日
  • 鬼はもとより

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    ネタバレ

    面白かった!
    最初から先が気になってどんどん読み進めた。

    藩札掛として貧乏藩を立て直す話だったんだけど、主人公の聡明さと覚悟が伝わって来て痛快だった。

    殺陣の描写もあって楽しかった。

    清明の人生どうなっちゃうの〜って気になってたら、最後はああやっぱりね……でもどうすんの……って終わり方だった。
    そしたら主人公が全く私と同じ気持ちで終わってて、すげ〜ってなった。

    すげ〜ってのは、私は小説を読んでて登場人物に感情移入したことがほぼ無いんだけど、これは人が人に向ける感情において、私の気持ちと差異がないのがすごいなって思った。
    私が青山文平を読んでる理由はそこだな。

    前読んだ『乳付け』でもそうだったけど、そんなこと人生で経験したことないが、そうなったら嫌だなって思う感情を自然に思わせてくれる文章、感動する。

    『乳付け』では主人公のお乳が出なくて我が子の乳を別の乳母に頼むんだけど、その乳母が旦那の昔馴染みの美女で、うまくいかない自分がたいへんよそ者に感じられて寂しいって描写。

    そんな状況になったことないけど、もしなったら自分は悔しいし悲しいし寂しいし、お世話になってるのに乳母に出てって欲しくなっちゃうなって思った。

    多分状況は違えど、人生で似たような疎外感を覚えることはあるんだろうね。
    その気持ちを読み手に感じさせるための文章力? 表現力?があるのかなと思った。

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    2025年12月07日
  • つまをめとらば

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    なんかモヤッとします
    でも良いモヤッとです

    はい、というわけで続けてみんみんおすすめの青山文平さん

    良いモヤッとって何よ!ってことですよね
    いや、あるのよ、あるある、良いモヤッと

    頑張ってもうちょっと言語化してみる

    なんか、こう、中途半端な終わり方って言うのかな〜
    でも、あれよ?良い中途半端よ?

    いやだから、良い中途半端ってなんやねん!

    だから〜〜、あるんだって
    良い中途半端

    エビデンス?

    あるよ!ある!

    青山文平さんの至極の短編集『つまをめとらば』です

    つまり読めば分かるってこと

    そう!嫁ば分かる(悪いモヤッと)

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    2025年10月08日
  • やっと訪れた春に

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    橋倉藩の近習目付を勤める長沢圭史と団藤匠はともに齡六十七歳。本来一人の役職に二人いるのは、本家と分家から交代で藩主を出す――藩主が二人いる橋倉藩特有の事情によるものだった。だが、次期藩主の急逝を機に、百十八年に亘りつづいた藩主交代が終わりを迎えることに。これを機に、長らく二つの派閥に割れていた藩がひとつになり、橋倉藩にもようやく平和が訪れようとしていた。加齢による身体の衰えを感じていた圭史は「今なら、近習目付は一人でもなんとかなる」と、致仕願を出す。その矢先、藩の重鎮が暗殺される。いったいなぜ――隠居した身でありながらも、圭史は独自に探索をはじめるが……。


    今作も面白かった〜♪
    加齢による…とか本筋じゃないとこでちょっと笑わされて、二人の阿吽の仲が心地よい。
    もちろん暗殺者を探索する部分は謎解きも面白いし
    この二人が背負ってきた宿命なんかも明かされつつ武士の生き様や家を繋いでいく重圧、葛藤なんかも伝わってくる。
    とにかく主人公のキャラが良いから、内容が読みやすく入ってきやすい。


    二人が仲良く梅干しを食べるところが見たかった…
    ラストは切なかったなあ。゚(゚´Д`゚)゚。

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    2025年07月11日
  • 本売る日々

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    ネタバレ

    目次
    ・本売る日々
    ・鬼に喰われた女(ひと)
    ・淇一(きいつ)先生

    主人公の松月平助(しょうげつへいすけ)は、本屋である。
    江戸時代、本屋というのは二種類あって、一つは読本や浮世絵を売る地本屋、つまり今年の大河ドラマの主人公である蔦谷重三郎がやっているようなものと、もうひとつはこの主人公のような物之本屋である。
    物之本の本とは、「根本」の本であり、「本来」の本であり、物事の本質を意味する。
    だから扱うのは、仏書、漢籍、歌学書、儒学書、国学書、医書などである。

    現代で言うと本屋というより古本屋の方が、その在り方に近いかもしれない。
    自分の目で売る本を選び、店に置く。
    店主が目利きであれば、それなりに安定した暮らしはできる。

    しかし平助は焦っていた。
    自分の店からも、本を出版したいと思っていた。
    もっとじっくり準備するはずだったのに、隣村のぽっと出の本屋が、粗雑な作りとは言え自分の名前で本を出版したのだ。
    なら、自分だって、と焦った結果が騙されて、借金を背負うことになった。
    なので、月に一度、近在の村の寺や家を回り、注文を取ったり、気に入りそうな本を紹介したりしていた。
    それは借金返済のための苦肉の策ではあったが、一人の本好きとして本好きたちの家を回るのは楽しいことでもあった。

    で、短編が3作。
    江戸時代の出版文化や、本という貴重品についてとともに語られる平助の話は、不可解な出来事であり、ちょっとしたミステリになっている。

    江戸時代の医学について知ることができるのが『淇一先生』だ。
    村医者でありながら、数多くの医学書をもち、よく読み、実践している名医である淇一先生は、医師を志すものを弟子として育てることも多い。
    先生のところには医書のほかに口訣(くけつ)集という、実際の治療についての細かな記録や考察を書いた本があった。

    普通ならそれは門外不出にすべき大切な記録であるのに、淇一先生はそれを誰もが読んで広めることを許している。
    平助は「苦心を重ねて辿り着いた成果でしょう。真似されないように、盗まれないように、堅固な壁を張り巡らせるのが常道ではないでしょうか」と淇一先生に問うが、先生は「それをしたら医は進歩しません。患者は救われません」と答える。
    「医は一人では前へ進めません。みんなが技を高めて、全体の水準が上がって、初めて、その先へ踏み出す者が出るのです」と。

    なぜ先生は平助に口訣集の話をしたのか。
    「それはもちろん、あなたが本屋だからですよ。(中略)朝鮮や越南(ベトナム)のように、直に唐の名医の指導を受けられない日本では、医書こそが教師でした。(中略)私たちとあなた方は、一体なのですよ」

    物乃本屋としての目利きであるためには、ものすごく本の、本の内容の、勉強をしなければならない。
    時短などという概念のない時代、ただひたすら勉強して努力して、江戸時代の人たちは自分の仕事を自分のものにして行ったのだ。
    もちろんただ何となく仕事をしている人も多くいただろうけれど。

    読んでいるうちに、自分の心の中で何かがきれいに洗われていく気がした。
    そして、物語の最後に書かれたことは、平助の本屋としての大きな一歩であったと言える。
    続編出ないのかなあ。

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    2025年06月18日
  • 本売る日々

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    とにかく良い  崇高な俗世間
    暗唱したくなる文の言葉の選び方
    文楽の舞台にかけたら、見事な一幕となりそう

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    2025年06月10日
  • つまをめとらば

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    2015年(下期)直木賞受賞作
    江戸時代中期の下級武士の世界を描く
    6話からなる短編小説
    ①ひともうらやむ
    ②つゆかせぎ
    ③乳付
    ④ひと夏
    ⑤逢対
    ⑥つまをめとらば

    男より女の方が逞しく、活発。男は一歩引いた落ち着きを感じる。

    好きなのは⑤逢対かな

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    2025年04月25日
  • 下垣内教授の江戸

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    青山文平の描く武士の姿に、武士とは何かを考えさせられる。武士個人の哲学や生き方を描いているようでも、時代の掟にがんじがらめになっている、と思えてならない。

    豪農で武士の資格をとった下垣内家の家長昌邦は、自分は武士に向いていない、俳句を嗜んで人生を送りたいと思っていても、忠実に武士であろうとする。
    突然の出来事により、弟邦雄は兄の仕事を受け継ぐのだが・・・。
    兄からは前を向け、と言われたにも関わらず、邦雄は後ろを向いて、武士であろうとすることを選んだ。兄の思いを知るために。

    ある新聞記者の取材のもとに、美術の目利きとして明治時代に活躍した下垣内邦雄の、幕末の意外な姿が描かれる。

    知識がすごい人なので、まずその蘊蓄にとっつきにくい入りかもしれないが、頑張って読み進むと、ひらけた展開と、意外性のある物語が待っている。最後までとても面白かった!

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    2025年02月05日
  • 底惚れ

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    良い終わり方です❣️人情噺のサゲのように。ほぼ1人語りなのが他人によって合わない人が居そうな感じ。その合わない感じがサゲ間際に一気に会話で終わりになるのが素晴らしい❣️ぜひぜひ一度お読みください。

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    2024年07月23日
  • 鬼はもとより

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    ネタバレ

    とてつもなく貧困な北国の小さな藩が、藩札(藩内で通じる紙幣)を通じて経済再生を図る物語。

    江戸中期の地方経済なんて全く未知の世界で、せいぜい年貢とか冷害とかそんな言葉を知っている程度だったが、船舶すぎる知識でも十分に楽しめた。

    まず登場人物たちの設定や背景や描写が良い。主人公なんて女たらしの修行をしている剣術免許皆伝の男。さらには脱藩してその藩をつぶすきっかけすら作っている過去があるという、情報が多すぎて混乱する設定。それなのに小説の中ではすんなり分かりやすく入ってくる。勿論、主人公以外の登場人物たちも生き生きと働き、いきいきと命を落とす。

    そう、この小説では命の落とし方もまた大切な描写の一つであり、そもそも「命を落とす」ことができるのが武士の強みと言い切ってはばからない。
    鬼となって命を張るのはまずスタートライン、その上で同命がけで動くのか…つまりタイトルの「鬼はもとより」なのである。

    命を軽んじる傾向は良くないと思うし、今に当てはめることにも違和感はあるが、それにしても現代政治家どもの覚悟のなさを嘆かずにいられなくなる。
    そして、命を懸けずとも、もっともっと真剣にやれることはあるだろうと、自分を叱咤激励できる、そんな良い小説だった。

    やっぱ青山文平は面白い

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    2024年07月12日
  • 白樫の樹の下で

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    江戸の、時代の過渡期で武士という立場に悩み翻弄される「佐和山道場」の村上登、青木昇平、仁志兵輔の三人の武士たち。
    その一人、本作の主人公である村上登がある商人から名刀を預けられるところから物語が動き出す。

    昇平が小普請を抜け出世し、出世は二の次とした剣に生きる風の登。間に挟まれた兵輔。そんな中、町で無惨な辻斬りが頻発する。

    それを打ち取り出世を目指す兵輔が動きだし、三人の人生の歯車が少しずつ違えていくさまは本当に切なかった。

    時代を扱うものなので読みにくい字もあれど文章が読みやすくページ数もちょうどよいと感じた。

    様々な背景を読みときながら楽しめますし、誰が辻斬りだのを推測しながらも読めたりして、懐の広い作品に感じました。

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    2024年06月05日
  • 底惚れ

    H

    購入済み

    「俺」の一人称で最後まで続きます。
    芳と俺との行き違いで、事件が起こり芳が行方不明となり、その後、俺の自省を中心とした心理描写、銀次の心理描写、信の心理描写が抜群です。江戸時代の時代小説ですが、いつの時代でも通用するのではと思います。
    一読に値する小説です。

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    2024年05月21日
  • 跳ぶ男

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    学生時代に縁があり能に多少関わって、沢山の舞台や演者の方を観させて頂いた事を思い出しました。江戸時代の「能」を通して、見事過ぎる武士の生き方を描いた傑作と思います。小説の筋とは関係ないですが、能には色々なものがあり、例えば佐渡ヶ島には沢山の能舞台が残っているのですが、そんな農村で演じられたお能なども、機会あれば観てみたいなどと思いました。

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    2024年04月04日
  • 父がしたこと

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    一気読み。参勤交代で痔になる大名。初耳。大変だ。エコノミークラス症候群も多発していただろうな。「父のしたこと」まったく肯定できないが、それが忠臣という時代…。それにしても、あまりに実直…。教科書でしか知らない江戸時代の蘭方医が、生きた“お医者さん”として目の前に。資料探しも大変だったろうな青山さん。次も楽しみ。「守旧のためなら捏造でも誣告でもなんでもする妖怪・鳥居耀蔵」「人はいったん相手を敵と識別すると、とことん残酷になれるものらしい。己の酷さに昂るらしい。それが武勇伝にさえなるようだ」「藩士に動き癖をつけてはならぬ。動けば出世できるのが前例になれば、次の藩政の曲がり角でも必ず動くものが出てくる。あるいは、次の曲がり角を待ち切れずにみずから曲がり角をこしらえようとする者も出て来る」

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    2024年02月23日
  • 半席(新潮文庫)

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    ☆4.5

    御家人から旗本への出世を目指し、徒目付の仕事に真面目に取り組んでいる片岡直人は、徒目付組頭の内藤雅之に外部からの頼まれ御用を度々任されてしまう。
    出世に関わりない仕事であるのに、その面白さとやりがいに、自らの狭い視界を広げさせてゆく。
    六編収録の連作短編集。
    事件が起きても、犯人の自白とその処罰が決まってしまえば、それ以上の捜査は行われない。
    しかし人情としては「何故」がわからなければ先に進めない人もいる。徒目付組頭の内藤はその「何故」を頼まれ御用として片岡に託す。
    この内藤がとても魅力的な人間で、片岡と共にこちらも絆されてしまう。
    そして「何故」を追うたびに、その事件の奥にある人の心、人の思いに切実さを感じる。
    自らもまた別のものの見方や心の奥深さを知り、この御用のやりがいの沼に落ちてゆく片岡の姿に、笑いつつ武士としての正しさは何だろうと思う。
    読後感の爽やかさまで含めてとても好きな作品。

    「半席」
    片岡直人は組頭の内藤雅之に、矢野作左衛門が筏の上で鱮釣りをしていて足を滑らせ水死した事件を調べ直してほしい、と頼まれた。
    勘定方への出世の足がかりになるとも言われ引き受ける。
    作左衛門は八十九歳でありながら家督も譲らず元気であり、息子の信二郎との釣りを趣味としていた。
    水死した時も直前まで信二郎もその場にいたという。
    作左衛門は筏の上をひどく焦って走っていたとの目撃者の証言もあり、片岡は再度話を聞くためその目撃者の元を訪れた……

    「真桑瓜」
    八十歳以上で御役目につき働く者たちの集いの会「白傘会」で起きた事件の調べを任された片岡。
    ずっと和気藹々と開かれていた宴席で、最後の水菓子が出された後それは起きた。
    山脇藤九郎が岩谷庄右衛門に脇差で斬り掛かったのだ。
    二人は長い付き合いで、会の中でも仲の良さで知られていた。
    庄右衛門の傷は浅くはないが深くもなく、穏便にすませたいと言うものの、当の藤九郎が何故斬り掛かったかを黙して語らないため、そのままでもいられなくなっている。
    片岡はその動機を探るため、事件のあった会に参加していた者に話を聞きに行く……

    「六代目中村庄蔵」
    小伝馬町牢屋敷に入牢している一季奉公の茂平は、主殺しをしてしまい鋸挽の刑に処されることになっている。
    茂平が主を突き飛ばし、倒れた時の打ち所が悪く亡くなってしまったという事故に近いものではあったが、主殺しには違いなく、茂平はすでに処刑を待つ身である。
    茂平は奉公先の高山家では重宝されており、一年毎に雇い直され二十年以上勤め上げていた。
    どんなことも真摯に勤め、忠義に厚かったはずの茂平がなぜそんなことをしたのか。
    牢内での安全も無く調べが急がれる中、片岡は茂平に会うべく牢屋敷へと向かう……

    「蓼を喰う」
    御目見以下から御役目を勤め上げ旗本にまでなり、御役目柄、後のことにも不安がない生活のはずの古坂信右衛門は、何故か突然辻番所組合の仲間に斬り掛かった。
    しかもその相手は調べてみると、近所ではあるが関わりを特には持ったことのない池沢征次郎だった。
    信右衛門の屋敷の塀沿いに立っていた征次郎に言葉もなく歩み寄り、いきなり抜刀したらしい。
    信右衛門は征次郎とわかって斬り掛かったとは答えるが、その理由を問われても黙して答えなかった。
    片岡はこの理由についての思考の手がかりを求める……

    「見抜く者」
    徒目付の仕事の一つに人物調べがある。
    重職を得る場に立つまでの関門を通るたびに、この人物調べは行われる。
    そのため徒目付は、関門を突破できなかった者の恨みを買うことがある。
    危険の伴う役職でもあるのだ。
    この時も番入りを終え、その恨みが膨れ上がる時期が来ようとしていた。
    片岡の上司に、加番に在職しながら道場主を務める芳賀源一郎がいる。
    元々道場内でも屈指の腕前を誇り、高弟一同から道場主に推挙されたほど。
    世にその腕を知られた芳賀が襲撃にあった。
    しかも芳賀でさえ手こずるほどの強さを持つ襲撃者であったという。
    しかし七十四と高齢で、その動機がつかめない……

    「役替え」
    片岡は仕事での移動中、路上の真ん中で中間が仲間の一人を囲みいたぶっているのを目撃する。
    それを止めはしたが関わっていることはできないためそのまま立ち去ろうとしたところ、いたぶられていた男に覚えがあると気付いた。
    その男に自らの住処とそこを訪れるようにと伝えたが……

    アベレージ高い短編集。
    一番好きだったのは「六代目中村庄蔵」かな。
    あぁ、とやるせない息を吐いた。
    あと、作中出てくる食べ物が軒並み美味しそうで、すごく美味しい魚料理と少しの酒を嗜みたくなった。
    スズキの洗いの魅力に負けそう。

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    2024年02月11日
  • 父がしたこと

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    物語の前半はちょっと読みにくい、ちょっとこの世界に入りにくいところもあるが、中盤以降は青山文平ワールドに浸ることができた。青山氏の本は残らず読んでいるが、今回も期待に違わず最後まで一気読みしてしまった。
    隠居した父の年齢を超えているせいか、主人公よりも父に感情移入するところが多かった。
    願うしか救いようがない時に禁句はない。謀るのは好まぬが、謀なければならぬときには能く謀る。

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    2024年01月28日
  • 白樫の樹の下で

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    ネタバレ

    「やっと訪れた春に」がオモシロかった青山文平を追っかけてみようとデビュー作(別ペンネームでは既刊ありらしい)を読んでみた。

    リズムに乗らず若干読みづらさもあるが、物語の構成は天才的。無差別辻切りの犯人捜しミステリーとしても、剣豪小説としても、青春友情譚としても、十分に読ませて熱量もあって、良くこのページ数できっちり治めたものだと思う。

    登場人物の死亡フラグからの退場がとんでもない早さでとまどったが、なるほどジラさず進めることで物語のテンポを作る手法もあるんだなと。そのテンポは熱を帯びるし、解説曰くの「成長譚ではない」主人公の変化を読み取らせやすくしているんだなと、いやテクい上手い。

    ただ、友人彼女知り合いの多くが死んでいく主人公の境遇は、さすがに可哀そう度が高すぎて、小説とはいえもうちょっと手加減したってよ…とは思った。

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    2024年01月28日