あらすじ
江戸に生きる人々が織りなす鮮やかな人生。
“青山流時代小説”の真骨頂!
旗本の次男坊で部屋住みの俺は、武家であらねばならぬ、などとは思っていない。
堅物の兄が下女に好意を寄せているのを見て取って、
わざと下女にちょっかいを出そうとするが、気づくと女は身籠っていた。
しかも父親は、隠居の祖父だという。
六十九歳の老人に女で負けた俺がとった行動は――。
直木賞受賞作『つまをめとらば』に連なる傑作短編集。
史実から生まれた圧巻の7編。
※この電子書籍は2020年11月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
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Posted by ブクログ
「本売る日々」が面白くて続けて手に取った青山文平の短編集。
砂原浩太朗の作品を読んだばかりだったからか、同じ江戸の時代物でも文章の硬さにサラリとは読めなかった。
作者あとがきに「常温の日常をリアルに描く小説を書きたい」とあるように短編それぞれの主人公は華々しい活躍をするわけでもない。むしろ、扶持の少ない武家の厄介叔父であったり、部屋住みの武士であったり、今後をどう生きていけばいいのかと思い煩う武士の姿がリアルに描かれる。
どの時代にあっても人はその生まれる境遇を選べず、その環境も平等ではあり得ない。それでも、定められた環境で迷いながら、悩みながら歩みを進めていくのだということ。それが命を賭けた斬り合いであったり、学問であったり、剣の腕を活かす道であったりするが、それぞれの進む道を考え抜いて選んでいく姿が清々しかった。
武士には武士の、商人には商人の、百姓には百姓の日常があり、華々しい出来事がなくてもそれが人生であり、そこにこそ人生の醍醐味があるのだと思わせてくれる物語でした。