天童荒太のレビュー一覧
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ネタバレ東日本大震災から4年半、海底に沈んだままの遺留品を回収するために夜の海に潜る舟作が、遺族の一人、透子と出会い、彼女の元夫の結婚指輪を探そうとする。
海水の放射能汚染のリスクや、夜の海に潜ることのリスク、さらには見つかったら罰せられるかもしれないリスクがあるなか、ダイバーとして協力する舟作も、会費を払ってでもこの取組を進めたいと考える遺族たちも、津波の被害者である。それだけでも理不尽なのに、それぞれが、遺品が見つかってほしい気持ちと、見つかるとその持ち主の死を認めざるを得ないから、出てきてほしくないと思う気持ちの間で揺れている様子には、心を揺さぶられた。
そして、物語自体もよかったが、文庫版あとがきに代えて著者自身が書いている"失われた命への誠実な祈り"を読んだときが一番泣けた。
大切な人が亡くなったり行方不明だったりすると、自分だけが幸せになっていいのかと、自責の念に駆られる人がいるが、「生きている人たちは幸せになっていいし、むしろ、幸せになることこそが、失われた命に向けての、誠実な祈りになる、と思っている」という著者のメッセージに、どれだけの人が救われただろう。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ上巻は悼む描写が多く、なんだか読んでて暗い気持ちになったが下巻は暗いながらも光がさしてきた感じで引き込まれた。
ゆきよの肩の亡霊を通して、気持ちがよくわからなかった静人の本音も聞けてスッキリした。
「自殺をする代わりに、他人の死を悼むようになったのかもしれないなって」言葉が印象的。
生きる為にそれをするしかなかったんだと思うと気持ちはわからないが納得できた。
生と死、愛は何かとか一生のテーマで難しいけど、考えさせられる物語で一読の価値あり。
いつかはみんなも自分も死ぬわけだし。
最後の巡子が見たシーンの描写は美しく、死ぬ時に見えるのがそういう光景なら死も悪くないと思う。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ初めて読む作者。短編小説のようにストーリーの積み重ねから構成されている。唐突に話が変わっていくが、最後には繋がる。構成が上手いと思う。下巻まで読み進めるか迷ったが、後から思えばこの構成の所以かもと思った。
主人公は医学的には先天的な病なのだろう。病を克服するためか、或いはアイデンティティのためか医者になり、無痛症の患者を探し、探究していく。精神ではなく肉体的な痛みを感じない人との共通性、親和性を。主人公の万浬の探究に答えは見つかるのか、見つからないような気がする。万浬は生まれながら心の痛みを持たない。理性的であり、冷静である一方で冷淡な人。人間は痛みを感じれるからこそ生きていけるし、人への愛(自己愛も含め)が生まれる。一方で、戦争や争い、殺人、暴力は精神的な痛みがあるから起こると万浬は語る。
痛みを欲望に置き換えると納得感がある。人間が生まれながらに持った欲望が人を動かす。欲望=痛みがなくなった人は進化した人類であると万浬は考えているが、欲望と言葉を変えてしまうとそうなのかもしれないと思った。しかし人から欲望がなくなるとは到底思えない。 -
Posted by ブクログ
明記はされていませんが、3.11から4年半後の福島を描いた作品です。
そろそろ震災から10年を経ようとしています。この間、震災をテーマにした沢山の物語を出版されましたが、これまで積極的に手を出しませんでした。そんな本は多くないと思いますが「ブームだから」とか「売れるから」なんて思いで書かれた本だとすれば辛いだけですから。
この本はテーマを知らずに借りたのですが、10年を経て生き残った本なら今後は読んで行こうかと思います。
サバイバーズ・ギルト(生存者の罪悪感)がメインテーマです。ただそれをシンプル・ストレートに表すのでは無く、罪悪感と違和感の中間の様な、普段は表面に出ないのだけどある瞬間に急に湧き出す様な、そういう微妙さを上手く表現し、ありふれたテーマかもしれませんがリアリティーを感じます。
「悼む人」のイメージからもう少しスピリチュアルな方向の話かと思いましたが、そうでも無く。
最後は再生に向かう一歩で終わる、きっちりと震災の一面を描いた作品でした。 -
Posted by ブクログ
途中苦しくて、ページをめくる手が進みませんでした。
「喪失」とか「死」とか、物理的な苦しさじゃない。ただ起こったことのあまりの大きさに、自分がこれからどう生きればいいのか、その出来事にどう接すればいいのかわからない。今こうして存在していることすらも、わからなくなってくる。
それが、8年前のあの日以降、東北の人々が背負った苦しみだったのではないか。あるいは、災害、テロ… 大切なものを突然失った人が負う苦しみなのではないか。この本を読んで自分なりにそんなことを考えました。
でも、荒れる海がいつかは凪ぐように、悲しみにも明ける日が来ます。忘れるんじゃなくて、風化じゃなくて、起きてしまったことを受け止めて、自分の身体の一部として、先へ進む。生きる。生かされている。
「失われた命への誠実な祈り」まで読んでほしい。この後書きをもって、物語は完結します。