天童荒太のレビュー一覧
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ネタバレ昭和41年、新人女優・華井乃愛に殺害予告状が届いた。
警視庁所属・国生良夫が護衛のため、彼女の故郷・尽忠村へ赴く。同行するのは、従妹で巡査の泉沢香子と流しの私立探偵・鯨庭行也。村では次々と事件が起こり、遂には殺人事件まで起きてしまう。
文章の喉越しが良い。
対して咀嚼していないのに、つるっとしゅわっと落ちていく。時々挟まれる「これまでの状況整理」的な物も、中弛みを全く感じさせず、それでいて記憶の回帰もサポートしてくれて、心地良かった。最初から最後まで迷走することなく、どんな読者をも取りこぼすことなく、無事に解決というゴールまで運んでくれるだろう。
戦後の母親たちは、良かったね。
村の重鎮の奥方たちは、息子たちを尽忠村の名に恥じぬよう、大手を振って戦地へ送ってきた。村人たちの手本となるよう、率先して。そして村の若人たちの多くは、帰らぬ人となった。戦後、自責の念と悔恨の情で押しつぶされ、今回の事件に繋がるわけだが、その動機づけの発想が実に非凡。もはや狂気とは呼べぬ切なさとやりきれなさで、子供のいる私の心を刺しにきた。鯨庭がついた優しい嘘のシーンは、思わずじーんとしてしまった。
関係者たちの口も滑らか。
犯人も容疑者もおしなべて鯨庭や国生に協力的である。鯨庭が仮説さえ立てられれば、誰かの口を割らせて答え合わせをするのは容易だ。それ故に、難航する捜査パートのようなものはない。ミステリィとしての難易度は、比較的ライトだ。分かっちゃいるけど証拠に欠ける…ような困りごとはこの世界にはほぼ存在しない。それ故に、骨太な印象は薄いが、ストレスフリーな印象。瑕疵なく、綺麗に纏った良作であった。 -
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ネタバレ天童荒太作品の青嵐の旅人の続編。
相変わらず歴史に弱い自分は読むのに時間がかかり、登場人物の理解も難しかったのだが、前編に続いて、伊予松山の若者の救吉とヒスイ、辰之進の活躍には心躍るものがあった。
救吉とヒスイは医術を志し、人々が傷つけあう戦に心を痛め、何とかして人々が戦わずに生きられないものかと願っている。
そして今回も歴史上の有名な人物との関わりがあった。
前編で辰之進が討ち果たしたと思っていた鷹林は救吉とヒスイの手当で命を救われたが、記憶をなくしていた。
救吉、ヒスイ、辰之進はこの先どんな人生を生きていくのか、次作流星の旅人の上梓が待たれる。 -
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ネタバレビートルズが日本を訪れた昭和41年(1996年)、平和村と改名することになった中部地方の寒村“尽忠村”で起きた連続事件。村出身の若手女優「華井乃愛(滝山さおり)」に同行した流しのギター弾きの探偵「鯨庭行也<イサニワユキヤ>」が事件の謎を解く。その裏にはさおりの父親、敗戦の日本のetc.が関わる。 作者が昭和51年(1976年)16歳秋に感銘した映画『犬神家の一族』のような、怪しく残酷でありながら美しく流麗でどこか陽性な雰囲気をイメージして書いたとのこと…なんとなく頷ける。探偵の知人?となる警視庁広報部警部補「国生良夫」が過去を語るようにして書かれているのがワトソンぽい。謎解き感は微妙だけどレトロ感が心地良いかも。
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【短評】
不思議と目を惹かれる本というものがある。
「何を読もうか」と本屋を散策する素敵な時間に、何故か目が行く一冊である。
恥ずかしながら、天童荒太は未読だ。「永遠の仔」も「悼む人」も読んだことがない。初見ならば「カタイ」作品を選ぶべきだという天使の声に耳を塞いで、本には「縁」というものがあるんだという悪魔と握手してみた次第である。
結果は、そう悪いものではなかった。
「金田一耕助」リブートといった趣の作品。探偵あり。美女あり。見立て殺人あり。関係者が一堂に介しての推理あり。実に古式ゆかしい探偵小説である。
ちょっと前に読んだ『同志少女よ、敵を撃て』の解説において、小説の「同時代性」について触れられていたが、今作に散りばめられた趣向技巧に触れると「同時代性」を強く意識していることが良く分かった。
「金田一耕助」は当時のリアルを描写した作品であり、当時の読者は違和感無く作品世界に身を投じることが出来た筈だ。私が「金田一耕助」を初めて読んだのは大学時分であるが、矢っ張り違和感はあった。「古い」作品であることが強く印象に残った。昭和は遠くなりにけり、である。
ミステリィも歴史を積み重ねた結果、嘗ての名作たちは「同時代性」を失った訳だ。
さて。本作は昭和ど真ん中の1966年を舞台としている。
素直に描写すれば「古臭い」作品が再生産される訳だが、そこは歴戦の作者、技が効いている。「回顧録」という形式を取り、令和の今から昭和を見つめるのが上手い。時折Tipsめいた「昭和語り」が挿入され、世代ギャップを埋める試みも巧みだ。また、それ自体が読み物として面白く、また伏線として機能する構成も憎い。特異な構成に初めは面食らったが、「上手いなぁ」と感嘆した。天童荒太の非凡さは伝わった。
惜しむらくは「事件」の構造(トリック)まで古めかしいこと。何となく真相が読める。
新本格の勃興以来「どーーん!!」みたいな真相に慣れすぎているため、推理小説の「新しさ」に対する欲求を満たすことが出来なかった。
一方で「動機」の描き方は秀逸の一言。恨み憎しみを超えたレベルに肉薄しているのは、作者の筆力ゆえだろう。
【気に入った点】
●横溝正史とか江戸川乱歩の探偵小説を「今」から楽しむとしたらーーに全振りした構成。小説が上手過ぎて、唸らされた。古さが違和感無く現出する。
●昭和Tipsが段々癖になる。こっち方面の方が得意でしょ、とちょっと苦笑した。
●ラストシーンが好き。探偵物はこうじゃないとね!
【気になった点】
●事件構造の古臭さ。世界観の構築に成功しているには確かだが、謎/真相まで既視感があるのはやり過ぎだ。そこに「驚き」があったら、なかなか凄い作品になったと思うだけに実に惜しい。惜しいが、痛恨でもある。
●構成上やむを得ない部分があるが、説明的な描写が多く、少々目が滑った気もする。まぁ、こういうのは自身の精神状態とかにも左右されるので瑕疵とは言えない。
シリーズ化の意向ありとのこと。そうこなくちゃ!
本作で「型」は出来たと思う。期待を超える作品を待っております。 -
Posted by ブクログ
文久2(1862)年。舞台は、260年間続いた江戸幕府がいま、まさに消えようとする頃の伊予松山藩。
代々続くおへんろ宿「さぎのや」で育てられた娘ヒスイと弟の救吉は、危機一髪の場面を救われたことをきっかけに、年少の藩士、青海辰之進と知り合う。医術で人を救うべく精進する救吉に、ある日郷足軽隊の調練に医師見習いとして同行せよと命が下る。誰よりも戦を厭い、平和を願うヒスイは、やがて救吉が真の戦に送られることは必定とみて、男装して弟に同道することを決意する。
江戸末期といえば新選組が題材の作品は数多くあるけれど、松山藩を舞台に描かれるなんて珍しいのでは。民の平和を願いながらも否応なしに戦に巻き込まれていくヒスイと救吉。没入して読みました。