【感想・ネタバレ】遭難者の夢―家族狩り 第二部―(新潮文庫)のレビュー

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自分の居場所が見つからないという意味で遭難者

登場人物一人一人が心に傷を持ち、それを隠すように感情を持たなかったり、いい子であろうとしたり、仕事に打ち込んだり・・・

その心の傷は、それぞれの家庭で出来たものというところが悲しい。

『憎む』という感情が家庭で生まれたのなら、それを打破できるのはまた家庭なのかもしれないと思いました。

不器用な生き方しか出来ない登場人物たちが、少しずつでも変わっていくことに期待して・・・

第3部の『贈られた手』につづく。。

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2014年08月17日

Posted by ブクログ

ネタバレ

読後の常として、わたしは受賞の際の選評を読む。
この作品は山本周五郎賞受賞で、著名人の鋭い指摘がずらりと並んでいる。
いつもながら、その選評には深くうなずいてしまう言葉あり、
また首をかしげてしまう言葉もあり・・・といった具合なのだが、
しだいに、選評にひどく興ざめしてきてしまった。

選定委員の姿勢が間違っているとは思わない。
ただ本来、小説とは、主観的な好みで判断するものであって、
公に評価を下すことに無理があるものである――百も承知のそのことを、強く静かに訴え続ける力が、この作品にはみなぎっているから。

神様や仏様を比べてみたり、
その長所と短所をまじめな顔して討論する会があったら馬鹿げている。
それと同じ感覚だ。
この作品の前には、選定委員会という存在が下劣にすら感じてきて、
長年かかえてきた「形のないものに優劣をつけることへのむなしさ」を改めて痛感した。

さて、ネタバレ。

冒頭から難しい問題提起。
「ぼくは、いい悪いなんて話してません。善し悪しは、どうでもいいんです。金儲けと、暴力をふるうことが、この社会のほとんどすべてだと理解できたということです。・・・中略・・・こんな社会に自分をあわせたくない。なのに、生きるためには、合わすしかない、それがつらいんです。生活すれば、結果的に、知らないうちに誰かを犠牲にしたり、地球を壊したり、世界の誰かが殺されることに自分の税金が使われたりします。それが耐えられないんです」

日々、漠然と抱えている葛藤が、とても正確に理論化されている。
真正面からこういった問題をぶつけられたら、わたしはなにも答えられない。
時間を使って考えても、せいぜいその問題から逃げる理屈を組み立てることしかできないだろう。

そして自分が情けなくなるような記述が続く。

「ニュースは先進国から配信されるんだよ、ママ。だから先進国の被害は、五人でも五千人でも、ぼくたちは知ることができる。同情し、怒って、報復は仕方がないと思える。でもねママ、貧しい国にはカメラはない。大きい国に都合の悪い映像もカットされる。だから・・・中略・・・十万人、百万人と死んでも、ぼくらは涙を流せない。だって、テレビに映らないからね。わかる、ママ? いまは、テレビに映らない死者は、はじめから生きている人としても、存在しない時代なんだ。すごいペテンだと思わない?」

最後の2行が、効く。頭から離れない。

でも、でもさ、しょうがないじゃん・・・と情けないわたしの感情をもまた、この作品は代弁してくれる。

【自分なんてろくなものじゃない。もしも紛争地域に生まれていたら、とても生き延びていられない。・・・中略・・・でも、もしもそうした国に生まれていたら、いまのこんな想いをしないですんだんだろうか・・・・・・。
こっちに生きてることは、わたしの責任?】

そしてこう続く。

【知ってるよ、そんな言い訳めいたことを考えても、頭の上から爆弾が落ちてくるわけじゃない】

思うに、この作品はものすごく読み手の心に沿ってくれるのだろう。
見事にわたしの心を投影したような流れで、登場人物の感情が変化してゆく。
だからこちらも精一杯、彼らの悩みに応えなければと思う。

【祈るしかない。
・・・中略・・・
誰にも、苦しんでいる誰かを、一時的以上に救うことはできない】

多くの自己啓発タイプの小説は、傲慢さが鼻につくことがある。
その説が正しいことは分かるし、今後はその言葉を座右の銘にしたいかも、と思ったとしても、
どこか上から目線だったり、
逆に謙虚さを説く内容だとしつこいほどに、へりくだっていたりもする。

でもこの小説は、すべてにおいて押しつけがましくない。
これが天童荒太氏の訴えなんだ、という主張はよく伝わってくるが、
それを自分にどのくらし活かすかは、読み手に委ねられている。
そこがわたしは憧れてしまう。

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2011年10月03日

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「家族狩り」5部作中の第2部。
ここではさまざまな家族が登場し、それぞれが問題を抱えていることが表出してくる。
この作品はあくまでもフィクションなのだが、家族の問題一つ一つが、現実に起こった問題とシンクロしているため、まるで実際の事件を追っているかのような錯覚に陥ってしまう。
我々が目にするそれらの多くの事件は、報道を通じてのものにしか過ぎない。
しかし報道されない真実も必ずあるはずだ。
そして問題をはらんだ家族は、何も特別な家族ではなく、どんな家族にだって潜在的にあるのだと、改めて思わされる。

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2013年09月22日

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登場人物の一人一人がそれぞれ問題を抱えている。
それらが、微妙に絡み合ってる。
おもしろいぞ。

重いけどね。

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2023年05月01日

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かなりの長編だけど、一気に読むことが出来た。
サイコな描写はあまり気にならず。人間の深い部分がよく描かれている。

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2021年02月24日

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ネタバレ

評価は4.

内容(BOOKデーターベース)
あの日の光景をふり払おうと酒に溺れていた浚介は、さらなる痛みを味わう。游子は少女をめぐり、その父親と衝突する。亜衣は心の拠り所を失い、摂食障害から抜け出せずにいる。平穏な日々は既に終わりを告げていた。そして、麻生家の事件を捜査していた馬見原は、男がふたたび野に放たれたことを知る。自らの手で家庭を破壊した油井善博が―。過去と現在が火花を散らす第二部。

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2017年12月08日

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徐々に壊れていく家族や個人。
電話相談に寄せられる叫びは、ときに切羽詰った状況で相談員にはどうすることもできない。
子どもが両親と祖父を殺害し自殺した・・・と思われている事件では、事前に電話がかけられていたにもかかわらず、誰もその重要性には気づかない。
異様な現場を見たために精神の安定を欠いてしまった美術教師。
彼はその後、あらたな事件に巻き込まれ内なる恐怖を抱えながら生活することになる。
児童相談員は、保護してきた少女の父親とのトラブルに悩んでいる。
どうしたら少女のためには一番いいのか、いまできることを考えながらも、ずっと保護し続けることなど出来ない現実も理解している。
一家4人が死亡した事件の捜査を諦めきれない刑事は、かつて自分が逮捕した男が出所したことを知る。
実の子どもを虐待し収監された男は、刑事の家や子どもの学校にも姿を現すようになった。
復讐、そして元妻を取り戻すこと。
それが男の狙いだった。
生まれたときから人は一個の個人として尊重されるべきものかもしれない。
でも、実際には親の加護がなければ一日だって生きていくことはできない。
その過程で、まるで所有物のように錯覚してしまうこともあるだろう。
子どもは子どもなりに考えている。
何も考えていないわけではない。十分に考え、そして感じているのだ。
親子の関係は身近すぎて他者からは本当の関係性などみえないと思う。
どんなに幸せそうに見えても、どんなに不幸そうに見えても、当事者が何を感じているのかなんてわからないはずだ。
児童相談員の虐待児童への過剰な対応。
刑事の子どもが絡む事件への異常な執着。
美術教師の家族への本能的な嫌悪感。
第3部ではどんな展開が待っているのか。
出来るならば救いのある結末であってほしい。

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2017年03月14日

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このサイコパスは誰だ…それぞれが悩みや壁にぶつかりながらもがく二巻目。事件は刻々と進んでいく。天童荒太、人を引き込む魅力はどこにあるんだ…?

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2017年02月02日

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どこか問題を抱えた家族を、複数のパターンで描きながら、それぞれが微妙に絡まりあって、影響し合って、進んでいく物語。今のところ、殺人現場の残虐さにはゾッとさせられるものの、それ以外の展開がそれほど斬新なものではないせいもあり、そこそこの印象。犯人像が浮かび上がってくるにつれ、興味深い展開になってくることを期待。

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2017年01月10日

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生きるということ、何をもって幸せと呼ぶのか。
紛争地とこの国を比べ、それに対してどうしたらいいのか誰も教えてくれないと苛立つ少女。
不登校や家庭内暴力に走る、心に闇を持つ子供たち。
親と子供の関係の危うさや脆さを感じずにはいられない。

2015.2.23

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2015年02月23日

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恐ろしい終わり方で第三部に続くことになる。ドラマ版との設定違いが引き続いてる。言いたいことは同じなのかどうか気になるのでドラマも最後まで観たい。

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2014年07月21日

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現代日本の問題と世界の問題とをリンクさせながらというのが私にとっては無理があるように感じられるが、それでも、どんどん読み深めていくことができる作品に仕上がっている。

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2014年07月14日

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ドラマ化を知り、関心を持って手に取った第一部。
この先どう展開するのか見届けたいと第二部に読み進みました。
登場人物達が自問する問は、私自身、十代の時に頭の中にあって、けれど答えが出る訳でもなく、長年考えることを放棄してきましたが、そのことも本作に惹き付けられる理由なのかもしれません。
第三部は一息ついてから、読み始めたいと思います。

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2014年06月29日

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あの日の光景をふり払おうと酒に溺れていた浚介は、さらなる痛みを味わう。游子は少女をめぐり、その父親と衝突する。亜衣は心の拠り所を失い、摂食障害から抜け出せずにいる。平穏な日々は既に終わりを告げていた。そして、麻生家の事件を捜査していた馬見原は、男がふたたび野に放たれたことを知る。自らの手で家庭を崩壊した油井善博が。

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2013年12月26日

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家族狩りの第2部
浚介のキャラクターイメージが変わってきた
事件後に若者たちに襲われてから人間味が出てきた
新たな事件の気配を匂わせて終わってるため、早く三部を読みたくなるね

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2013年12月06日

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最後のシーンにどきどきして、早く次を読みたくなりました。

登場人物の児童相談センターで働く女性、芯が強くて、いつも正しい行動を勇気をもって推し進める素敵な彼女でさえも、時として、自分のエゴに流されて行動してしまう場面があり、とても人間味を感じられました。

色々な登場人物の人間臭さが、よりこの話を面白くさせています。

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2011年11月08日

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二次元だからこそ、三次元に楔を打つことができる。それを改めて感じた。普段、考えているようで考えきれていないこと、見ているようで目をそらしていることが、これでもかというくらいに顕されている。この世界は家族の集合体なのだ、と感じた。

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2013年03月01日

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 このような作品を読んでいると、人間の心の危うさ、脆さを実感してしまう。多分、どの人も皆生きづらいのだと思う。確かに現代日本は紛争もなく、平和と言えば平和なのかもしれない。しかし、それは人々の鬱屈した気持ち(言いたいことを言えない、誰もわかってくれないなど)の上に成り立っているものであって、かなりの危うさを秘めている。それが少し噴出したものがSNSでの誹謗中傷などなのかもしれない。
 誰かが誰かを傷つけ、その傷つけられた人がまた他の誰かを傷つけ、それが永遠と繰り返されているように感じてならない。我々の心は一体何を求め、どこに向かっているのかと、ふと思う。

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2022年01月04日

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新たな事件と同時に主な登場人物の物語をさらに掘り下げた2部。ミステリー要素が強くなり退屈しないでスラスラ読めた。
当初全く繋がりのなかった赤の他人が運命のいたずらで交じり合い、関係を持つ過程が面白い。

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2016年12月04日

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ネタバレ

事件現場を見てしまった巣藤は、その光景を忘れようとお酒に溺れる。
遊子は、虐待されていた少女とその父親に悩まされていた。父親とは衝突し、憎まれることになる。
亜衣は、摂食障害から抜け出せず、心が不安定な生活を送る。
馬見原は、綾女の夫が出所し、追っていることを知る。
色々な問題がからむ第二部。

ろころ場面が変わりながら、進んでいく。はやく先が読みたい。

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2015年12月26日

Posted by ブクログ

冒頭のお悩み相談室の会話がフォーマットなのかと気づかされた第2部。
各々の悩みも解決するどころかもつれているように思われる。そして更なる凶行が…

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2014年08月16日

Posted by ブクログ

だんだん物語が進み始めた。。
やはり拷問(?)シーンはきっつい・・・。
勘弁して・・・と思いつつ読み進める・・・。

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2014年08月12日

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再読
浚介が ある事がきっかけで 変わりつつある。
馬見原が もどかしい
ちゃんと しっかり 佐和子を見てと思う。
でも、冬島親子も心配…

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2014年05月19日

Posted by ブクログ

「ニュースは先進国から配信されるんだよ、ママ。だから先進国の被害は、五人でも五千人でも、ぼくたちは知ることができる。同情し、怒って、報復は仕方ないと思える。でもねママ、貧しい国にはカメラはない。大きい国に都合の悪い映像もカットされる。だから、貧しい地域で殺された子どもや、誤爆で吹き飛ばされた花嫁や、飢えや疫病で死んだ家族の姿は、ニュースには流れないんだ。十万人、百万人と死んでも、ぼくらは涙は流せない。だってテレビに映らないからね。わかる、ママ?いまは、テレビに映らない死者は、はじめから生きている人としても、存在していない時代なんだ。すごいペテンだと思わない?」


全然物語の潮流のセリフなんだけど
切り貼りされた世界を
見せられているとどっかで思いながらどっかで権力者視点で見ている自分に自戒を込めて。

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2013年11月02日

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まだまだ序盤。登場人物たちがどこでどうつながるのかがまだ見えてこない。。。。

馬見原の思いの「楽しいことは裏切られたら悲しみが倍増する」という気遣いの言葉が今の私にはピッタリくるかなと。
もっとドライに裏切る人はそういう人なんだと割り切ることができればいいんでしょうけど。。。。
できないからしんどいんかな。。。
でもできないものはできないよな。。。

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2013年08月23日

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巣藤が「家族をつくること」をおそれる理由が見えてきたところ。隣家の惨状を見てしまい茫然自失の巣藤は少年たちによる大人狩りに遭い、まさに泣きっ面に蜂。恋人との関係もこじれにこじれ、ようやく自分にも何か少しは出来ることがあるかもしれない、というところまでいきつく。

馬見原は退院して人が変わったように明るくなった妻の変貌についていけず、ますます事件の真相究明にのめり込む。
警察は【麻生家の事件】は達也の無理心中説で送検しようとするが不審な電話を彼は無視できない。そんな折、彼に家族を奪われたと恨みをもつ油井も周囲をうろつきだし、、

犯人の異常性が明らかになるとともに、家族の在り方や現代社会における問題点…さまざまな角度から疑問が投げかけられ答えも出せず重苦しくなってくる。

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2012年08月28日

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第二巻。やはり冒頭はお悩み相談室の会話から。そこから玲子の夢へ。少年が語る話は胸にくる。小さきは忙殺され、身の回りで精一杯。そうだろうと割り切ってしまうことは逃避になるのだろうか…難しい。どんな正義も悪も主観であると改めて気づく。でも、登場人物すべて闇を抱えすぎ感はあるなあ。

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2012年04月06日

Posted by ブクログ

全5巻中2巻目!
第2の事件が起きたが、いまだ犯人の姿が見えてこない・・・
ただのサイコなのか、明確な目的のある計画的犯行なのか・・・
それにしても重い。久しぶりに重い。未だ幸せな人が出てこないという意味でも。

家族愛など繋がりの無い他人にどうやって説明できようか。

ましてや証明などできるわけないだろう。犯人の目的が気になる・・・

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2012年01月13日

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登場人物も暗いのに、さらに重い問題を抱えてることが判明。
寝たきりの親とか同情ゆえの不倫とか・・・捨てるに捨てきれんだろ。
なんか自分のキャパ以上に抱え込んじゃってる感じ。バカじゃねーの!

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2011年11月16日

Posted by ブクログ

天童荒太氏の長編小説『家族狩り』の第二部。

『家族』とは、この世で最も頼れるコミュニティでありながら、この世で最も残酷な面を見せる時がある。『血』という、最も強固で、最も抗うことが出来ない繋がり。
社会の荒波に揉まれ、揉まれ続け、今にも自分の存在や存在価値すらも消え失せようとしている時でさえも、暖かく迎え、包み込んでくれるかのような優しさに満ち溢れた世界。それが『家族』。そのはずだった。
いつから、最も近い存在でありながら、最も分からない関係になってしまったのか。いや、分からないのではない、分かろうとしなかったのだ。そのツケは、やがて大きな心の闇と増長し、最も起きてはならない安らぎに満ちているはずの世界で、起こる。
しかし、その真相に潜む『何か』については、結局のところ、誰にもわからない。

そしてもう一つ。これは言葉では広く伝わっていることだが、本書でこそ生々しく感じること。それは、「大人は、子供が思っているほど大人ではない」「子供は、大人が思っているほど子供ではない」。
家族と親戚しか知らなかった子供が、学校に入り、勉強し、友達を作る。親が知っている範囲、知らない範囲にかかわらず、どんどん子供は子供なりの社会を築き上げ、そして学んでいく。いつしか、子供でしか分からない、共有できない悩みも増えていく。子供でしか共有できない、というのは、大人とは共有したくないか、大人と共有したところで何も解決してくれないから、なのが一番の理由なのだろう。だって、大人こそ、普段の生活や仕事の中でヒーコラして、ろくに子供の(つまり自分の)ことなんか、見てくれないから。「いつでもお前のことを見ているよ、信じているよ」なんて、形骸化した言葉に過ぎない。
子供は飢えている。でも、それは物質的なもので満たされるものではない。だから、いくら食べても、いくら飲んでも、決してその『飢え』は満たされない。さらに、子供はそれを言葉としてのSOSとしては発しない。普段の生活や仕事にいっぱいいっぱいの大人達は、いつしか子供のSOSには気づかなくなるか、見て見ぬふりをする。「稼ぐのは父親の役目、家庭を守るのは母親の役目」なんて、子供からすれば逃げ口上。それが、コミュニケーション不足のトリガーとなり、やがて適切な言葉を発することがなくなってしまう。

負の連鎖は、見えないところで、小さなところで、見落としがちなところで始まる。砂の楼閣が、音もなく崩れるように。
そして、いったん崩れてしまうと、その連鎖を止めることは容易なことではない。信じたいのに、やり直したいのに、心が動かない、体が動かない。そして、やはりどこかに逃げるか、弱い立場に自分の遣る瀬無い力の矛先としてぶつけるか、のいずれか。軒先で、動物の遺骸を捨て去る行為なんか、まさにそうではないか。


一方で、第二部から、登場人物の身の回りに起きる大小様々な事件が、止め処なく起こり始める。まるで堰を切ったかのように。弱い立場の人間が、さもレジスタンスの英雄であるかのように社会に対して行動を起こす(ほとんどが犯罪)様子は、模倣犯を生み出しがちであるが、あまりにも起き過ぎではないか、と思えるくらい、短時間で、集中的に、そう広くない範囲内で起きている。
関係ないように思えても、全く関係ないようにはなっていない。そんな風に読者を思わせる描写は、きっと、本書のテーマの根幹となる『何か』が潜んでいると、思わずにはいられない。

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2011年09月12日

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