あらすじ
あの日の光景をふり払おうと酒に溺れていた浚介は、さらなる痛みを味わう。游子は少女をめぐり、その父親と衝突する。亜衣は心の拠り所を失い、摂食障害から抜け出せずにいる。平穏な日々は既に終わりを告げていた。そして、麻生家の事件を捜査していた馬見原は、男がふたたび野に放たれたことを知る。自らの手で家庭を破壊した油井善博が――。過去と現在が火花を散らす第二部。
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Posted by ブクログ
読後の常として、わたしは受賞の際の選評を読む。
この作品は山本周五郎賞受賞で、著名人の鋭い指摘がずらりと並んでいる。
いつもながら、その選評には深くうなずいてしまう言葉あり、
また首をかしげてしまう言葉もあり・・・といった具合なのだが、
しだいに、選評にひどく興ざめしてきてしまった。
選定委員の姿勢が間違っているとは思わない。
ただ本来、小説とは、主観的な好みで判断するものであって、
公に評価を下すことに無理があるものである――百も承知のそのことを、強く静かに訴え続ける力が、この作品にはみなぎっているから。
神様や仏様を比べてみたり、
その長所と短所をまじめな顔して討論する会があったら馬鹿げている。
それと同じ感覚だ。
この作品の前には、選定委員会という存在が下劣にすら感じてきて、
長年かかえてきた「形のないものに優劣をつけることへのむなしさ」を改めて痛感した。
さて、ネタバレ。
冒頭から難しい問題提起。
「ぼくは、いい悪いなんて話してません。善し悪しは、どうでもいいんです。金儲けと、暴力をふるうことが、この社会のほとんどすべてだと理解できたということです。・・・中略・・・こんな社会に自分をあわせたくない。なのに、生きるためには、合わすしかない、それがつらいんです。生活すれば、結果的に、知らないうちに誰かを犠牲にしたり、地球を壊したり、世界の誰かが殺されることに自分の税金が使われたりします。それが耐えられないんです」
日々、漠然と抱えている葛藤が、とても正確に理論化されている。
真正面からこういった問題をぶつけられたら、わたしはなにも答えられない。
時間を使って考えても、せいぜいその問題から逃げる理屈を組み立てることしかできないだろう。
そして自分が情けなくなるような記述が続く。
「ニュースは先進国から配信されるんだよ、ママ。だから先進国の被害は、五人でも五千人でも、ぼくたちは知ることができる。同情し、怒って、報復は仕方がないと思える。でもねママ、貧しい国にはカメラはない。大きい国に都合の悪い映像もカットされる。だから・・・中略・・・十万人、百万人と死んでも、ぼくらは涙を流せない。だって、テレビに映らないからね。わかる、ママ? いまは、テレビに映らない死者は、はじめから生きている人としても、存在しない時代なんだ。すごいペテンだと思わない?」
最後の2行が、効く。頭から離れない。
でも、でもさ、しょうがないじゃん・・・と情けないわたしの感情をもまた、この作品は代弁してくれる。
【自分なんてろくなものじゃない。もしも紛争地域に生まれていたら、とても生き延びていられない。・・・中略・・・でも、もしもそうした国に生まれていたら、いまのこんな想いをしないですんだんだろうか・・・・・・。
こっちに生きてることは、わたしの責任?】
そしてこう続く。
【知ってるよ、そんな言い訳めいたことを考えても、頭の上から爆弾が落ちてくるわけじゃない】
思うに、この作品はものすごく読み手の心に沿ってくれるのだろう。
見事にわたしの心を投影したような流れで、登場人物の感情が変化してゆく。
だからこちらも精一杯、彼らの悩みに応えなければと思う。
【祈るしかない。
・・・中略・・・
誰にも、苦しんでいる誰かを、一時的以上に救うことはできない】
多くの自己啓発タイプの小説は、傲慢さが鼻につくことがある。
その説が正しいことは分かるし、今後はその言葉を座右の銘にしたいかも、と思ったとしても、
どこか上から目線だったり、
逆に謙虚さを説く内容だとしつこいほどに、へりくだっていたりもする。
でもこの小説は、すべてにおいて押しつけがましくない。
これが天童荒太氏の訴えなんだ、という主張はよく伝わってくるが、
それを自分にどのくらし活かすかは、読み手に委ねられている。
そこがわたしは憧れてしまう。
Posted by ブクログ
登場人物の多くは、第一部からほとんど進展がない。
ただ、高校の美術教師をしている浚介は、第一部でほとんど接点のなかった教え子に冤罪を着せられ、殺人事件の発見者となったあと、酒に酔って家に帰る途中若者たちに暴行を加えられ、心に大きな傷を負うことになる。
高校教師が若者集団恐怖症というのはもちろん仕事に支障をきたすだろうし、通勤電車に乗るのも怖いとなると、これは相当なトラウマといえる。
私は刑事の馬見原の、家族に対する不誠実な態度が好きになれないのだけだけれど、あとがきで作者が、幼い頃宮崎県の馬見原という地名に救われたと書いていたので、どこかで家族を救うことになるのだろうか。
自分の都合のいい家族の姿を押し付けた結果、妻は心を病み、自慢の息子は自殺ともとれるような事故で亡くなり、娘は家を出て馬見原との縁を切った。
病人である妻を放り出すことはできない、と思っているのだろうけれど、ここまでの段階では放り出した方がお互いによいと思う。
今のままではだれも幸せではない。
そして、最後にまた陰惨な事件の描写。
こんなに、こんなに、閉塞感で窒息しそうな時代だったろうか。
それとも私が感じていないだけで、それはいまも続いていることなのだろうか。
Posted by ブクログ
評価は4.
内容(BOOKデーターベース)
あの日の光景をふり払おうと酒に溺れていた浚介は、さらなる痛みを味わう。游子は少女をめぐり、その父親と衝突する。亜衣は心の拠り所を失い、摂食障害から抜け出せずにいる。平穏な日々は既に終わりを告げていた。そして、麻生家の事件を捜査していた馬見原は、男がふたたび野に放たれたことを知る。自らの手で家庭を破壊した油井善博が―。過去と現在が火花を散らす第二部。