H・P・ラヴクラフトのレビュー一覧
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『ラヴクラフト全集』2巻目です。『全集1』とは訳者が違いますが,相変わらずの重厚な文体で,読むのがちょっと疲れます。
『全集2』には,いよいよ「クトゥルフの呼び声」が収録され,「クトゥルフ神話」の核心により一歩近づきます。ですが私のおすすめは,長編「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」です。
チャールズ・ウォードという青年の身に起こった事件の記録なのですが,チャールズの事件は彼の先祖のジョゼフ・カーウィンという男と深いつながりがあり,100年前のジョゼフの身に起こった事件が断片的な資料から徐々に明らかになっていきます。そしてチャールズの事件も,断片的な資料や証言から徐々に真相が明らかになっていき,最後はちゃんとすっきり決着がつきます。「すっきり決着がつく」というところがラヴクラフトにしては珍しいんじゃないかと思います(といっても彼の作品は7編しか読んでいないので,傾向を云々する資格はありませんが)。 -
Posted by ブクログ
先に読んだ『ラヴクラフト全集2』から,少し間が空いてしまいました。時間がかかったのは,このところ仕事が忙しくて読むヒマがなかったせいもありますが,難解な文章があって同じ場所を何度も読み返していたせいでもあります。例えば「時間からの影」最初の一文は,「ある種の印象は神話に源を発しているのだと,そうむりやり納得する以外救いようのない,悪夢と恐怖に満ちた二十二年間の歳月を思えば,わたしは,一九三五年七月十七日から十八日にかけての夜,オーストラリア西部で発見したと思うものが,事実であると断言したい気持にはなれない。」──何を言おうとしてるの?と初手から引っかかってしまいました。
文が難しくてなかなかスラスラとは読めませんでしたが,なかでも怖かったのは「潜み棲む恐怖」。雷の轟く嵐の夜に限って村々を襲う謎の化物と,丘の上に建つ不気味な館の廃墟のお話です。かつてその館に住み,村々とは交流もなく,いつの間にかどこかへ消えたマーテンス家の人々は,実は……ということが全て明らかになる結末部分で鳥肌が立ちました。
読みごたえのある分量と内容なのが「時間からの影」。この本の3分の1がこの作品で占められています。5年にわたって記憶喪失となった後もとに戻った大学教授の物語です。記憶がない5年間,奇妙に人格の変わった教授は何をしていたのか,また元々の教授の人格はどこで何をしていたのかが,徐々に明らかになっていくのですが,この感じは怪奇小説というよりSFっぽい感じがしました。結末も,これは気が狂った教授の妄想ではないということが明らかになる証拠がバーンと提示されて終わり,その時に受ける印象は,怖いというよりも面白いというか不思議というか,センス・オブ・ワンダーを感じました。その辺もSFっぽい印象です。
最後に「履歴書」と題して,ラヴクラフトが自分の生い立ちや性質を書いた書簡が収められていますが,これが意外に面白いです。「絵が描けない」と書いているすぐそばにラヴクラフトのかなり残念な自画像が掲載されていて,小説の作風とはあまりにもイメージの違うタッチが笑いを誘います。海産物が大嫌いなのは小説を読めば何となく想像ができますが,チョコレートとアイスクリームが大好物だというのは意外でした。
ほかに,同時代のヒトラーとムッソリーニについて書いている部分と,それに関連して彼が人種と国家をどう考えていたかがわかる部分があって,興味深いです。ラヴクラフトがムッソリーニを「敬服している」と評価しているのは,恐らく彼の大好きな古代ローマの伝統をムッソリーニが復活させようとしていたことと関係があるのでしょうが,一方でヒトラーに対しては「(ムッソリーニの)きわめて劣悪なコピー」と厳しい評価。この辺,両大戦間期の人々がムッソリーニとヒトラーをどう受け止めていたのか知る上でのヒントがあります。「ヒットラーの人種的優越感に基づく政策は莫迦げたグロテスクなものです」と書く一方で,「生物学的に劣っていると考えるのは,黒人とアウストラロイドだけです」と,思いっきり差別的な人種観をさも当然のようにさらっと吐露しています。当時の知識人が人種差別ということに関してどういう考えを持っていたのか,興味をひかれる書簡でした。本題とは離れますけど。 -
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隕石が落ちた農場でじわじわと広がっていく恐ろしい変化を描いた「宇宙からの色」や,いつも部屋を閉め切って強力な冷房をかけている風変わりな医師の正体を描いた「冷気」,そしてラヴクラフト最大の長編作「狂気の山脈にて」などが収められています。ラヴクラフトの怪奇小説は,幽霊や妖怪が出てくるような類のものではなくて,むしろ科学的なアプローチから描かれたSFっぽい感じの作品が多いなと感じていましたが,この『全集4』はまさにSFそのもの。と思ったら訳者あとがきに「科学に比重の置かれた作品を中心に構成した」と書かれていたので,あえて全集の中でも特にSFっぽい巻にしたようです。
翻訳は相変わらず重厚で,私のように軽く本を読みたいと思う者には大きな壁にぶちあたったように感じられます。しかし苦闘した甲斐はあったように思いました。特に「狂気の山脈にて」は,南極探検の話から数千万年前の文明の話になり,しかもそれを築いた種族が宇宙からやってきたということで時間的にも空間的にもものすごい広がりを持った物語になります。怖いというよりSFとして面白いと思いました。
今回の全集にもラヴクラフトの書簡が収められていて,これがまた興味深いです。ラヴクラフトは,怪奇小説を書く時は「最大の力点は微妙な暗示に置かれるべきです」と書いていて,なるほどなと思わせます。彼の作品はどれも,恐怖の実体がなかなか姿を現さず,結局最後まで何だったのかわからないこともしばしばで,作品の語り手となる登場人物も「言葉に言い表せない」とか「口にする気も起きない」とか言ってはっきりとは語ってくれないことが多いです。それまでに明らかにされた様々なヒントから,想像力をたくましくしないと何が怖いのかわからないという仕組みで,彼の怪奇小説を読むには彼の説明していることを十分に理解する言語能力と,それを組み立てて空白を補う理性的な想像力が不可欠になります。
「SFとして面白い」とか言ってる私は,想像力が足りないのかもしれません。 -
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1巻目を読んだのは、大学時代に郵便局でアルバイトしていたときという記憶があるので、少なくとも15年以上はたっているということです。
その間に、クトゥルー神話も、だいぶんメジャーな存在になってきたなぁと、ちょっと感慨深いです。
さて、恐怖ものというか、コズミックホラーから読み出したラブクラフトですが、実は、わたしが1番、性にあったというかしっくりきたのは、実は、夢の国の物語群でした。
この7巻は、その夢の国の物語や、ホラーの習作という感じの作品が集まっています。
有名どころは訳し終わっていて、小粒な作品です。
ただ、夢の国の物語とホラーとを繋ぐような作品も、けっこう収録されていて、それなりに楽しめました。 -
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「インスマスの影」「壁の中の鼠」「闇にうごめくもの」
このあたりが読みごたえがあった。が、昔の和訳文なので、だいぶ読みづらい。初心者にはあまりおすすめ出来ないかも。そして自分は初心者であった。このジャンルは初めて読んだが、基本的に謎を畳みかけていって、やがて登場人物のほとんどが精神不安定になり、真実は闇の中に消える。のパターン。カタルシスではなく、得体の知れない不安感と、ほんの少しの好奇心がずーっと続くのが好きな人におすすめ。自分は好きだ。ただ、話の本質であるその「不安感」「好奇心」を惹きつける文体自体が、これがなかなかに読みづらいので、ちゃんと楽しめているのかそれがある意味不安になる。用語や情景描写、人物、モノ、動物のイメージもだいぶ難しい。
のらりくらりと話の本質がつかみにくい文章が、それが結果的にクトルゥフの世界観の魅力を引き立てているとはいえ、流石にもうちょい整理された情報で、最初は楽しんだ方が良いと思った。想像力を掻き立てるのが読書の利点だが、これはレベルが高くなってからまた読んだ方が良い。解説本とかといっしょに読むと面白いかも。 -
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クトゥルー神話の醍醐味は、言葉では表現できない人智を超えた存在を言葉で表現しようとするところ。読んだのは3作品目だが、その意味では一番彼らの存在を感じることができた作品であった。
一番気に入った作品は「ダンウィッチの怪」。ダンウィッチと呼ばれる街に住む一家は、ほかの住民とは隔絶した生活を過ごしていた。そこで生まれた男の子は、異常なほど成長が早く、また、家で謎の作業を過ごしていた。普通ならこの子が異形の子と言うだけで終わるが、宇宙や古典をも巻き込んだクトゥルーの世界観はもっと大きな形でこの街に恐怖を与えていく。要所要所で現れる臭いに関する描写が頭のなかのイメージにとてもリアリティを与えてくる。
クトゥルー神話を読むならこの作品からがいいのではないだろうか。 -
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TRPGはやったことないけど、クトゥルー(クトゥルフ)神話には興味があったので、初めてラヴクラフト作品に手を出した。
物語に登場する未知なる物の姿形は詳細に描写されるものの、頭の中で全体像がうまく思い描けない。これがつまり「名状しがたい」ということなのだろうが、このことが得体の知れない物への恐怖感を煽る。
かつて宇宙からやってきた、人類よりも高度な文明を持つ存在。そして彼らが築いた古代都市。恐るべき書物『ネクロノミコン』。こういった世界観は確かに魅力的だし、もっとクトゥルー神話体系について知りたいと思うのはとてもよくわかる。
ただ、「世界の謎と不思議に挑戦するスーパーミステリー・マガジン」のタイトルロゴがチラつくんだよな… -
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ネタバレ初クトゥルー神話。独特の雰囲気で、唯一無二の気味悪い世界観を丁寧に構築している。
個人的にベストは「闇にささやくもの」と「インスマスの影」。
○異次元の色彩
隕石の落下によって変質していく郊外の土地と、そこで暮らす一家の悲劇を描いた物語。主人公である測量士の語りによって、農家の井戸の近くに落下した隕石から放たれる「異次元の色彩」が、土地と生物、そして人間をも侵食し、徐々に正気を奪い、破滅へと導く様子が描かれる。
○ダンウィッチの怪
マサチューセッツ州のダンウィッチ村で、妖術を操る一家の血を引くウィルバーという少年が、人間離れした成長と行動を見せる怪奇譚。ウィルバーは人智を越えた怪物を呼び出すための鍵となる≪ネクロノミコン≫を閲覧しようとし、最終的に、父である異次元の魔神の力によって生み出された巨大な怪物が出現し、村は壊滅の危機に瀕するが、アーミテッジ博士らの活躍により退けられるという物語。
○クトゥルーの呼び声
主人公が亡き大叔父の遺品から発見した粘土板やメモから、かつて宇宙から飛来した邪神クトゥルーとその教団の存在を知り、深淵なる「宇宙的恐怖」に触れていく物語。世界中で同時多発的に夢を見る人々や、海底都市の浮上、謎の怪物の出現といった不穏な現象と連動し、最終的に主人公は人類の存在が取るに足りないものであるという真実を悟る。
○ニャルラトホテプ
エジプトから来た高貴な姿の人物が、人々を奇妙な現象の渦中に引きずり込み、最終的に宇宙的な恐怖へと導く物語。主人公は友人とともに講義を見学し、そこでニャルラトホテプを侮辱したことで追い出され、その後、人々は次々と不可解な現象に見舞われ、最終的に主人公だけが宇宙の彼方の恐怖を目にする結末を迎える。
○闇にささやくもの
民俗学者のウィルマートが、洪水の後に河原で発見された蟹に似た奇妙な死体の調査を始める。調査を進めるうちに、彼は「ミ=ゴ」と呼ばれる異星生物の存在と、その生物が人間から脳を摘出し、宇宙旅行を可能にする手術を行っていることを知る。最終的に、ウィルマートはエイクリーという人物がミ=ゴと和解したことを信じ、彼の家を訪れるが、そこで恐ろしい真実を目の当たりにして逃亡する。
文通でストーリーが進んでいく過程がとても楽しめた。
○暗闇の出没者
若い怪奇作家ロバート・ブレイクが、プロビデンスの廃教会堂で宗教団体「星の知恵」の秘密に触れ、古代の存在を知る中で、やがて自身も「闇」に囚われ怪死を遂げるという物語。
○インスマスの影
語り手が旅の途中で立ち寄った、住民の奇妙な容貌と町全体に漂う不穏な雰囲気で知られる港町インスマスを舞台にした物語。語り手がインスマスを調査するうちに、この町に隠された、人間ではないものとの血縁に由来する忌まわしい過去と秘密に触れることになり、最終的には自分自身もその影に蝕まれていく恐怖を描いている。
ホテルから脱出後、町全体で執拗に追いかけられる描写が怖すぎた。 -
Posted by ブクログ
新潮文庫の傑作選、3冊とも購入したものの、読む順を盛大に間違えました(これが3冊目)が、短編なので問題なしということにしましょう。
同じ作者の作品なのに、一気読みしてしまうようなものと、なかなか読み進めるのが困難なものとが混在している短編集。
「アウトサイダー」や「忌まれた家」、雰囲気変わって「セレファイス」が好きかな。
相対しているものの性質上、致し方ないのかも知れませんが、オチが似ているように感じてしまいました。
話の雰囲気は違っても、結局人は何の抵抗も出来ず、怪しい家は崩壊して主人公は死ぬか気が狂うかして終わるという。
だからこそこの世界観が広がった面はあるだろうし、サイコロというどうにもならないものによって運命が変わるTRPGとして人気が出るのも納得なのですが、一方でクトゥルフモチーフのゲームがクソゲー化しやすいのも納得。
思ったより個々のストーリーにはインパクトを感じませんでしたが、クトゥルフ神話というもののイメージは脳裏にしっかりと刻まれた、そんな一冊でした。