あらすじ
南極大陸の奥深く、ヒマラヤすら圧する未知の大山脈が連なる禁断の地に、ミスカトニック大学探検隊が発見したもの、それは地球が誕生してまもないころ他の惑星より飛来し、地上に生命をもたらした〈旧支配者〉の化石と、超太古の記憶を秘めた遺跡の数々だった! やがて一行を狂気と破滅の影が覆ってゆく……。「時間からの影」とならぶラヴクラフト宇宙観の総決算「狂気の山脈にて」をはじめ、中期の傑作「宇宙からの色」「ピックマンのモデル」や、初期の作品「眠りの壁の彼方」など傑作全7編を収録。【収録作】「宇宙からの色」「眠りの壁の彼方」「故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実」「冷気」「彼方より」「ピックマンのモデル」「狂気の山脈にて」「資料:怪奇小説の執筆について」「作品解題/大瀧啓裕」
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Posted by ブクログ
久しぶりにラブクラフト全集の続き。これは当たりの巻。
訳者による解説にも書かれているが、「ピックマンのモデル」以外は、科学的な話というか、分析がキーとなる話になっており、出てくる物質の名前が古いのを除いて、全く現代でも通用するような話ばかりだ。
名作「インスマウスの影」を彷彿とさせつつ、得体のしれない謎の物質(生物?)の恐怖「宇宙からの色」、何故か体を冷やし続けないといけない「冷気」と、南極に氷漬けになっていた宇宙からの生物をめぐる「狂気の山脈にて」そして超名作で怪談風の「ピックマンのモデル」など、硬い文章ながら、読書なれしていない人でもゆっくり読めば映画のように脳内で映像化されてくるはず。
3巻が地味な印象だっただけに、この4巻はさらに素晴らしく感じる。ホラーというよりも、SFとして読んでも面白い。
なお、ラブクラフトの作品は、書き出しは訳がわからないことが多いので、最初の3~4ページは2回位読むのがコツ。本書に収められた作品も例にもれない。
Posted by ブクログ
ラヴクラフト全集1巻を読み終わった時、ラヴクラフト氏の作品は、情景を推理小説が如く性格に描いているにもかかわらず、肝心な恐怖をもたらすそのものについては曖昧にしか書かれていないという話の構成であると感じた。つまり、都市伝説のように嘘にきまっているが、もしかして・・・と思わせる一人称的恐怖感があった。
現在のところ3巻とこの4巻を読み終わったが、その認識を変える必要がある。3巻もそうだが特にこの4巻では、もう個人の幻覚や幻聴として片付けられないほどに、異型の者達を描写しているのである。科学的に判別不能な物質が出てきたり、公式な記録として異世界人らしきものが見つかったと記録されていたりである。
私の中で、ラヴクラフト氏の作品が、自分の身に振りかかるかもしれない怖い話から、SFホラー小説にシフトしてしまった。拍子抜けした部分もあったが、そもそも1巻から架空の都市が出てきたり、後にクトゥルー神話としてまとめられるということを考えると私の第一印象が間違っていただけのことではある。
さて、いざ異型の者達を描写するとなるとそのディテールの細かさは驚かされるばかりで、想像力をフル動員して読み進める必要がある。「見たことのないような」とか、「この世のものをは思えない」という表現に逃げること無く書ききっているラヴクラフト氏の表現力は尊敬するしかない。しかも随所に上記の「この世のものと思えないような」と言った様な表現をここぞというところで使うことにより、物語の語り手が人間の手にあまる自体に遭遇しているという事がひしひしと伝わってくる。
100%フィクションであるとわかりながらも、実際に起こったことのように読みながら感じる。レビューに拍子抜けしたと書いたが、今現在はよりラヴクラフト氏の作品に引き込まれるようになったと思う。
Posted by ブクログ
[宇宙からの色]
今考えると、これってラヴォスかな。「インスマウスの影」なんかと比べるとあまり恐いという気はしない(実体が出てこないからか? 挿し絵は恐いものなあ)。ラヴクラフトの宇宙的恐怖というやつは、恐さという面では実は大したことないのかもしれない。
[眠りの壁の彼方]
これはホラーなのかなあ。どちらかというとファンタジーじゃないかという気がする。恐くはないけど、眠っていたときに見たことを、現実では新聞で超新星の爆発として確認するというラストは結構いい。
[故アーサ・ジャーミンとその家系に関する事実]
これもあまり恐くはない。まあ最後にちゃんと落としてくれるから、そこのところは安心して読めるけど。それにしてもラヴクラフトの差別意識って強烈だよなあ。
[冷気]
ラヴクラフトにしては普通ぽい。でもほかの作家の恐怖小説なんてせいぜいここまでが限度だもんなあ。
[彼方より]
映画の方を先に見ていたから、あまり驚きはしなかった。
[ピックマンのモデル]
名前は前から知っていた作品。やっと読めたという感じ。ラヴクラフトにしては珍しく一人称。残念ながら期待を越えるものではなかった。
[狂気の山脈にて]
これは大作。ラスト近くのショゴスに追いかけられるイメージというのは結構強烈。現在のホラーでこのショゴスからイメージをパクったものって結構多いと思う。レン高原とかもっとほかの作品を読んでいれば、他にも興味深い部分があるんだろうなという気がする。
執拗に描写される古代都市のイメージを、鬱陶しいと思っちゃうとダメなんですね。
ふと思ったけど、「トゥームレイダース」のシステムで、この都市を探検するゲームを作ったらすごいことになりそう。
Posted by ブクログ
媒介、夢に。身近な場所や未知の地にも現れる恐怖の存在。
宇宙からの色・・・始まりは隕石。妖しい色彩に浸食されたモノたち。
眠りの壁の彼方・・・眠りの中に現れる壮絶な風景は記憶か?
故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実・・・祖先の秘密。
冷気・・・冷気を求めるあの男の正体は?そして、その死。
彼方より・・・機械に触発された未知の感覚器官で観た無限の果て。
ピックマンのモデル・・・画家が描いた醜悪な生き物は実在するのか?
狂気の山脈にて・・・南極探検隊が到達した未知の山脈で見たモノ。
資料:怪奇小説の執筆について・・・ラブクラフト自身の考察。
不可解な存在、憑かれた人々、そして異形の存在。
観てはいけない。出会ってはいけない。
でも好奇心に導かれ、行き着く先にあるのは、悍ましい恐怖。
ホラーに宇宙の未知なる存在を加味した効果が効いた作品、多し。
「狂気の山脈にて」は長編でラブクラフトらしさ炸裂の作品。
執筆の1931年頃は飛行機による探検や南極大陸の調査が盛んに
行われるようになった時期でもあり、まだ未知な場所であったのも
事実。当時としての情報から、創造豊かに南極探検を描き、
飛行機や無線をうまく利用して物語を進行しています。
じわじわと正体を現してくる恐怖感。驚愕の古代建築物への侵入。
そして、ネクロノミコン!
冒険&SF&ファンタジー、ホラーが混在しています。
それにしても、目の無いペンギンは怖いなぁ。
Posted by ブクログ
隕石が落ちた農場でじわじわと広がっていく恐ろしい変化を描いた「宇宙からの色」や,いつも部屋を閉め切って強力な冷房をかけている風変わりな医師の正体を描いた「冷気」,そしてラヴクラフト最大の長編作「狂気の山脈にて」などが収められています。ラヴクラフトの怪奇小説は,幽霊や妖怪が出てくるような類のものではなくて,むしろ科学的なアプローチから描かれたSFっぽい感じの作品が多いなと感じていましたが,この『全集4』はまさにSFそのもの。と思ったら訳者あとがきに「科学に比重の置かれた作品を中心に構成した」と書かれていたので,あえて全集の中でも特にSFっぽい巻にしたようです。
翻訳は相変わらず重厚で,私のように軽く本を読みたいと思う者には大きな壁にぶちあたったように感じられます。しかし苦闘した甲斐はあったように思いました。特に「狂気の山脈にて」は,南極探検の話から数千万年前の文明の話になり,しかもそれを築いた種族が宇宙からやってきたということで時間的にも空間的にもものすごい広がりを持った物語になります。怖いというよりSFとして面白いと思いました。
今回の全集にもラヴクラフトの書簡が収められていて,これがまた興味深いです。ラヴクラフトは,怪奇小説を書く時は「最大の力点は微妙な暗示に置かれるべきです」と書いていて,なるほどなと思わせます。彼の作品はどれも,恐怖の実体がなかなか姿を現さず,結局最後まで何だったのかわからないこともしばしばで,作品の語り手となる登場人物も「言葉に言い表せない」とか「口にする気も起きない」とか言ってはっきりとは語ってくれないことが多いです。それまでに明らかにされた様々なヒントから,想像力をたくましくしないと何が怖いのかわからないという仕組みで,彼の怪奇小説を読むには彼の説明していることを十分に理解する言語能力と,それを組み立てて空白を補う理性的な想像力が不可欠になります。
「SFとして面白い」とか言ってる私は,想像力が足りないのかもしれません。
Posted by ブクログ
ラヴクラフト全集の中でもクトゥルフ入門者必読の作品が多い。特に「狂気の山脈にて」は旧支配者、ショゴスなどの基本的な設定が示されているので他の作品の理解にも役立つでしょう。
個人的には「宇宙からの色」が臨場感のある語り口でもっとも恐怖を覚えました。今まで読んだ中ではラヴクラフト作品の中でもかなり上位に位置される作品です。
Posted by ブクログ
「狂気の山脈」のみ長編で後は短編ばかり。この長編、南極が舞台ですがラヴクラフトの世界がギュッと詰め込まれたようなお話でした。最後は怒涛の勢いで終わったけど。
「宇宙からの色」もジワジワと迫ってくる恐怖があって面白かった。
Posted by ブクログ
1985年以降購入して読んだが、詳細は覚えていない。
これまで聞いたことがないような擬音のカタカナ、”ほのめかす”という普段使わない訳、不気味な話には惹きつけられた。
また読みたい。(2021.9.7)
※売却済み
Posted by ブクログ
①宇宙からの色
荒地を見張る老人が語った、かつてそこに住んでいた家族に起きた悲劇とは――
非知的生命体による侵略物。映画で例えると『遊星からの物体X』とか『ブロブ』とか。こういう恐怖は時代を問わず通じる。
②眠りの壁の彼方
精神病院に強制入院させられた、殺人を犯した男。二重人格を思わせる発作を起こす男にわたしは興味をひかれ、ある試みを実行すると――
ラヴクラフトが初めて宇宙的恐怖をテーマにした作品で、確かに、後に生まれる神話に連なる作品の「原型」と思わせる内容。
③故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実
突如、焼身自殺を遂げた学者、アーサー・ジャーミン。彼がそのような暴挙に走った原因とは――
遺伝をテーマにしたゴシックホラー。ラヴクラフトの当時の状況を踏まえると、こういう作品を書いたのもさもありなん、と言ったところか。
④冷気
どうしてわたしが冷気をそんなにも恐れているのか、って? あんなことを体験すれば、誰だってこうなるさ――
マッド・サイエンティストによる生きている死者の話。設定を少しいじれば、現代を舞台にしたホラーでも通用しそう。
⑤彼方より
二ヶ月半の時を経て再会した友人は、別人のように醜く痩せさらばえていた。友人が言う「彼方」より来たる存在とは――
これも「異界への干渉」という点で、後に生まれる神話に連なる作品の「原型」を思わせる内容。
⑥ピックマンのモデル
なぜわたしがピックマンと絶交したのかって? それはな――
体験者の話を直に聴かされているような会話体の体裁。虚実の境が曖昧にさせるような展開は実話系怪談にも通じる。
⑦狂気の山脈にて
次の南極探検計画を中止させたいために、前責任者が語った、南極での忌まわしい体験とは――
美しいグロテスクと言うのか、単純なホラーではない所がこの物語の面白さ。ギレルモ・デル・トロ監督が映像化を目指すのもわかる。旧支配者を、未来で冷凍睡眠から目覚めた我々に置き換えれば、その恐怖や悲哀に共感できるだろうか。
『アウトサイダー』もそうだが、知性ある怪物をただのモンスターとして描写しないのは、ラヴクラフトが最期まで抱いていた「孤独」に由来するものだろうか。
Posted by ブクログ
"きみはこの惑星でのわたしの唯一の友だったーーこの寝椅子に横たわる忌わしいもののなかに、わたしを感じとって見つけだしてくれた唯一の魂だった。また会うことがあるだろうーーおそらくオリオン座の三つ星の輝く霧のなかか、先史時代のアジアの荒涼とした大地か、記憶にのこらない今晩の夢か、太陽系が消滅している遥かな未来の他の実体で。"[p.71_眠りの壁の彼方]
「宇宙からの色」
「眠りの壁の彼方」
「故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実」
「冷気」
「彼方より」
「ピックマンのモデル」
「狂気の山脈にて」
「資料:怪奇小説の執筆について」
「作品解題」大瀧啓裕
Posted by ブクログ
「故アーサー・ジャーミンとその系譜」が印象的。主人公が自分の系譜を調べていくと実は……な展開を持つラヴクラフト作品は複数あるが、これもその例の一つ。
「狂気の山脈にて」は冒険風味を味わえる作品。「ピックマンのモデル」は描写が要を得ていて面白く、「宇宙からの色」は科学的な(?)律儀さが現れていて楽しい。個人的に比較的好みが多い巻か。
Posted by ブクログ
巻頭「宇宙からの色」がよかった。
怪異が続発し、原因は多分アレだ!
と察しがつくんだけど、
気づいたときには手遅れ……ってヤツで。
あらゆるものが少しずつ汚染され、
なす術のない人の心も蝕まれてゆく、と。
「狂気の山脈にて」は、
E.A.ポオ「アーサー・ゴードン・ピム」へのオマージュ的作品。