H・P・ラヴクラフトのレビュー一覧
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ネタバレクトゥルー神話は作家が創造した架空の神話ということを初めて知ったので相当驚いた。それだけ広くさまざまな創作の元になっている存在。
SFホラーといった内容だった。
この中では表題作が1番読みやすかった。旅行で訪れた先で恐ろしい体験をして逃走劇が繰り広げられるシーンも良かったが、更に自分との血の繋がりに話が発展していくのが良かった。伏線の回収もあり、面白く読んだ。
「あの深きものらの棲処で奇蹟と栄光に囲まれ、とこしえに暮らすであろう」こんなラスト想像していなかった。あれほど忌み嫌った存在そのものになることをもう受け入れていてゾクゾクする。 -
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この巻にはクトゥルー神話の「体系」が形成される以前の、萌芽のような作品が集められるということらしい。
相変わらず会話文がほとんど無い上に地の文も妙に読みづらいラヴクラフトの書法だが、印象的な作品が2つはあった。
「死体蘇生者ハーバート・ウエスト」(1922)は、確かに以前スカパーで見た映画の原作だ。何という映画だったかは忘れた。ホラー小説として優れたストーリーではあるが、雑誌連載であったためか、後続の章でまえの章の内容がくどく反復される箇所が沢山あって少々呆れてしまった。これが無ければ傑出した短編と思う。
「ダニッチの怪」(1929)は新潮文庫版の「新訳」アンソロジーにも収められており、記憶によく残っている印象の濃い優れたホラー。
本書を通して例の架空の本、アブドゥル・アルハザード著『ネクロノミコン』が何度も言及される。ラヴクラフトはよほどこれが気に入っていたらしい。このような複数作品を渡り歩く要素は体系というより執着的なライトモティーフのように思える。手塚治虫のマンガで同一の人物(ヒゲオヤジ、ロック等)がたびたび起用される俳優であるかのように、異なる作品で再登場してくるシステムにも似ている。
そのように反復された執着が積もりに積もって、ラヴクラフトは晩年に至ってクトゥルー神話と呼ばれる「体系」に近いようなものを記述するのだが、私はその「体系」の内容には興味は無いものの、強迫的に反復されるイメージへの固執が循環し続ける、心的システムのありようには惹き付けられるものがある。 -
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クトゥルー神話(クトゥルフ、ク・リトル・リトルなどの表記もあり)で知られるH.P.ラヴクラフト(1890-1937)作品の新訳版。
「神話」を象徴する7篇(「異次元の色彩」、「ダンウィッチの怪」、「クトゥルーの呼び声」、「ニャルラトホテプ」、「闇にささやくもの」、「暗闇の出没者」、「インスマスの影」)を収める。
生前は不遇であり、存命中に出た単行本はわずかに1冊。
だが、彼の描く独特の怪奇世界は、死後、徐々に受け入れられ、多くの作家にも影響を与えた。クトゥルーの名はゲームやアニメなどにも取り入れられ、予想外の広がりを持つことになった。
普通の町、普通の村に、不吉と捉えられる場所がある。そこに近づいてはならない。そこは危険だ。けれども必ず、誰かが近寄ってしまう。
不吉な影の気配は次第に濃くなり、やがて闇は姿を現す。
黒々とした奇怪な形。蠢く多数の脚。ぬめぬめとしたゼリー状の肉。「千の墓をあばいた」ような悪臭。
それは時に空から、時に地中から来る。
太古の邪悪なもの。禁断の書から呼び出されたもの。宇宙から召喚されたもの。
邪悪なものが現れた恐怖の極限で、物語はぷつりと終わる。
こんなものが現れたら世界は終わるだろう。その恐怖の崖っぷちで、作品世界はぴたりと止まる。だからこの恐怖はある意味、永遠に続く。
邪悪なものは、クトゥルー(Cthuluh)、ニャルラトホテプ(Nyarlathotep)、ヨグ・ソトホート(Yog-Sothoth)などと呼ばれる。どう読むのかには諸説あるのだが、巻末解説によると、そもそもラヴクラフトは、これらの名前を「人間には発音できない、音声かどうかさえ定かでないものを便宜的に表記しているだけ」なのだという。
真の闇の中、人は叫ぶ。
怪物の、ごつごつとした、読めない名を呼ぶ。
深く黒い闇はその声も飲み込んでしまう。
闇はどこから来るのか。闇に飲まれた世界はどうなるのか。 -
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完結巻だからなのか、既刊からこぼれたものを拾い集めて編集した感はある。しかし、決して駄作凡作ばかりというわけではない。
小説の原型となった、夢の内容を書き起こした手紙を収録した『夢書簡』は、夢の描写が緻密でなかなか面白かった。物書きの練習に夢日記をつけるのも良いのかもしれない。
最後に収録された『断片』。要は序章のみ存在する未完作品なのだが、実は完成していたが本編を何者かに奪われて、後年に原稿がオークションに出されて、落札された原稿を巡って――という物語またはTRPGシナリオが既にありそうだ。特に『Azathoth』。
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『サルナスの滅亡』(ドリーム・サイクル)
かつて、ムナールという地があった。そこに遊牧民がやって来て、トゥラー、イラーネク、カダテロン、そしてサルナスという都市を建設した、そのサルナスから遠くないところには以前よりイブという都市があり、そこには面妖にして醜悪な存在が住んでいた――。
(イブの住人にサルナスが滅ぼされる話かと思いきや、その通りなのだがその前に――。)
『月の湿原』
友人のバリィが買い戻した古城。そこに近い湿原には、手を付けたり干拓を試みようとしたりすると呪いが降りかかるという伝承があった。もちろんバリィもわたしも意に介さず、干拓作業は予定通りに始められたのだが――。
(神話生物か、神話生物かと思わせる存在は出てこないが、その結末に、そこがかつてサルナスもしくはイブだったのではないか、と勘ぐってしまった。)
『忌み嫌われる家』
かつて商人一家が、不可解で異常な衰弱で全滅したという、いびつな植物が蔓延る朽ちた家。好奇心と迷信を払拭したいという思いから、許可を得て一晩その家に泊まり込むことにしたわたしと伯父が体験した恐怖とは――。
(明言はされていないが、『宇宙からの色』の前身みたいな内容だった。) -
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6巻は、後に「ドリーム・サイクル」と呼ばれる世界観に統合されるものを舞台やネタにした作品を収録。
そして、クトゥルフ神話とドリーム・サイクルの世界観を統合した、前期ラヴクラフト神話の集大成とも言うべきファンタジー大作『未知なるカダスを夢に求めて』。夢の世界で苦しみながらも自由に大冒険を繰り広げるというヤングアダルト的なその内容は、ラヴクラフトの当時の状況を知ると、以前の苦境から解放されたであろう彼の心境を表していると、どうしても勘ぐってしまう。
【アザトース、異形の神の幼生、下級の異形の神たち(蕃神)、バステト、ノーデンス、ニャルラトホテプ(暗黒のファラオ)、ロビグス】
《ズーグ族、ノフ=ケー(グノフケー)、夜鬼(ナイトゴーント)、食屍鬼(グール)、ドール、ガグ、ガスト、月棲獣(ムーン=ビースト)(蟇じみた月の生物)、シャンタク鳥、飛行するポリプ、レンの男、レンのクモ》
(収録されている一編、邦題の『蕃神』は端的に言うと「渡来神」。原題の『The Other Gods』を直訳すると「(他の、もう一つの、向こう側の、過去の、)神々」。素直に受け取るなら外なる神、または旧支配者を指すと思われるが、正体はやはり這い寄る混沌とその下につく存在なのか。) -
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①宇宙からの色
荒地を見張る老人が語った、かつてそこに住んでいた家族に起きた悲劇とは――
非知的生命体による侵略物。映画で例えると『遊星からの物体X』とか『ブロブ』とか。こういう恐怖は時代を問わず通じる。
②眠りの壁の彼方
精神病院に強制入院させられた、殺人を犯した男。二重人格を思わせる発作を起こす男にわたしは興味をひかれ、ある試みを実行すると――
ラヴクラフトが初めて宇宙的恐怖をテーマにした作品で、確かに、後に生まれる神話に連なる作品の「原型」と思わせる内容。
③故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実
突如、焼身自殺を遂げた学者、アーサー・ジャーミン。彼がそのような暴挙に走った原因とは――
遺伝をテーマにしたゴシックホラー。ラヴクラフトの当時の状況を踏まえると、こういう作品を書いたのもさもありなん、と言ったところか。
④冷気
どうしてわたしが冷気をそんなにも恐れているのか、って? あんなことを体験すれば、誰だってこうなるさ――
マッド・サイエンティストによる生きている死者の話。設定を少しいじれば、現代を舞台にしたホラーでも通用しそう。
⑤彼方より
二ヶ月半の時を経て再会した友人は、別人のように醜く痩せさらばえていた。友人が言う「彼方」より来たる存在とは――
これも「異界への干渉」という点で、後に生まれる神話に連なる作品の「原型」を思わせる内容。
⑥ピックマンのモデル
なぜわたしがピックマンと絶交したのかって? それはな――
体験者の話を直に聴かされているような会話体の体裁。虚実の境が曖昧にさせるような展開は実話系怪談にも通じる。
⑦狂気の山脈にて
次の南極探検計画を中止させたいために、前責任者が語った、南極での忌まわしい体験とは――
美しいグロテスクと言うのか、単純なホラーではない所がこの物語の面白さ。ギレルモ・デル・トロ監督が映像化を目指すのもわかる。旧支配者を、未来で冷凍睡眠から目覚めた我々に置き換えれば、その恐怖や悲哀に共感できるだろうか。
『アウトサイダー』もそうだが、知性ある怪物をただのモンスターとして描写しないのは、ラヴクラフトが最期まで抱いていた「孤独」に由来するものだろうか。 -
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①ダゴン
船乗りのわたしは運悪くドイツ軍に拿捕された後、すきを見て逃げ出す。漂流の後に小島に漂着したわたしは、丘の頂上を目指すことにしたのだが――。
●「窓に!窓に!」で有名な、クトゥルフ神話の原型とも指摘されている短編。
②家の中の絵
道中で雨宿りのために家屋に入ったわたしは、そこでテーブルに置かれた古書に目を奪われて――。
●夢幻的なホラー。そこにいたのははたして死者だったのか生者だったのか。
現場がアーカムの近くなので、食屍鬼をゲストにした物語やTRPGシナリオがありそう。
③無名都市
アラビアの砂漠で伝説の古代都市を見つけたわたし。探究心から内部に侵入したわたしが目にしたものは――。
●初めて"アブドル・アルハズラット""アブドゥル・アルハザード"の名が出た作品かな?
恐怖よりも強く感じたのは偽史的な面白さ。
④潜み棲む恐怖
とある地方で起きた大量殺人。探究心からわたしは仲間とともに元凶と噂される館に乗り込むことに――。
●厳密には神話に属さないが、展開はホラーの王道で神話っぽさも感じられる。実は何度か映像化されているのだが、設定は大きく変えられているので、知らないとラヴクラフト原作とは気づかないだろう。
⑤アウトサイダー
遥かなる年月を闇の中で過ごしてきたわたし。日の目を求めて塔を登り、念願の外へ出たのだが――。
●結末にて、哀しみの中に混じる救いの描写は、ラヴクラフトが求めたものか。
⑥戸口にあらわれたもの
わたしは確かに親友を殺した。だが彼は親友ではない。親友であって親友でないのだ。なぜなら――。
●よくある結末にせず、あえて曖昧な結末にしたのが良い。
インスマスが深きもの"だけ"の街ではないことを伺わせる点で、クトゥルフ神話の深みをより強く感じさせてくれる作品でもある。
⑦闇をさまようもの
とある男性が自室で変死体で発見される。彼が遺した日記と客観的事実を元に表された、彼の最後の数日とは――。
●ラヴクラフトの遺作。神話作品では王道の、好奇心から身を滅ぼす話。
執筆年で見ると、晩年の作品は「乗っ取られる恐怖」というテーマが続いている。
⑧時間からの影
後を継ぐであろう息子のために書かれた日記。そこに記されていたのは、謎と恐怖と深秘に満ちた体験だった――。
●前半は5年半の空白を埋める内にじわじわと表れ出る未知の記憶に対する恐怖に侵されるが、後半は恐怖というよりも、偽史的な面白さに囚われる。
なにせ精神のみとは言え、古の先住種族から人類滅亡後に登場する種族まで、古今東西の種族が一堂に会するのだから! -
Posted by ブクログ
最近ではTRPGなどサブカル界隈でよく知られている〈クトゥルフ神話〉。ラヴクラフトの作品群は、その原典だ。あの奇怪な架空の神話体系は、ひとりの男のパラノイア的妄想に端を発しているのである。
…人類の誕生よりはるか昔、宇宙の彼方から地球に降り立った異形のモノたち。その存在は謎に包まれており、彼らの正体を暴こうとする者には死が待ち受けている。〈Cthulhu〉ーークトゥルフ或いはクトゥルーと仮称される、〈それ〉は人外の秘境に身をひそめ、復活の時を待っている。〈大いなるクトゥルー〉が目覚める時、地上には災いが満ち人類は滅亡するという…
…こう書くとB級SFホラー感満載だが、実際に読んでみるとSFというよりは、ポーやドイルの怪奇小説の雰囲気に近く、もっと言えば聖書に出てくる黙示録のようでもある。太古から存在する人智を超えた絶対者と、それに翻弄され滅ぼされる宿命の人類ーー。評論家の諏訪哲史先生が、書評集『偏愛蔵書室』の中で、CTHULHU(クトゥルフ)とYHWH(ヤハウェ)の類似性について言及していたのを思い出す。
舞台設定や登場人物は作品ごとに異なるが、全編を通して執拗に描かれるのは、未知なる絶対者への畏怖と、人間という存在の寄る辺なさだ。主人公は絶対者に抗うものの、最終的には抹殺されるか、彼らに取り込まれてしまう。この絶対的な無力感、〈存在すること〉に対する根源的な恐怖。或いはそれは、あらゆる神話や宗教に伏流する通奏低音であるのかもしれない。