木内昇のレビュー一覧

  • 漂砂のうたう

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    「さあ、徳川の時代は終わった。みんな自由だ」
    自由ってなんだ?何をしろと云うんだ。
    明治の新しい世に放り出された元武家の定九郎。
    焦燥感と諦めを抱えてもがく姿がよく描かれている。
    怪談調に導くポン太と凛とした小野菊とキャラクターも抜群に効いていて、直木賞受賞作品では久しぶりに夢中で読み耽った。読後感も爽やかでまさしく傑作である。

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    2021年03月17日
  • みちくさ道中

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    エッセイ。すごくまともな、というか、落ち着いた、真面目なエッセイだった。おそらく、彼女の生活自体も、落ち着いた慎ましいものなのだろう。

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    2021年02月05日
  • 櫛挽道守

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    「くしひきちもり」そうそう、これがあった!
    いいに決まっているので、とっておいたのです。と思って読んだのがもう2年前。
    今さらですが~おすすめなので、ご紹介しましょう。

    幕末の中山道、宿場町。
    木曽山中で、一心に櫛を作る名人の父親を手伝う娘の登勢。
    父の腕に憧れ、あとを継ぎたいと願いますが、娘には他所へ嫁ぐ縁談が来るだけ。
    外の世界へ出るのが夢の妹、周りを気にする母親、才能ある優しい弟。
    やがて訪れる、いくつかの別れ。
    弟の友人は、幕末の空気を吸って、村を出ていきます。
    父の腕を慕って弟子入りしてきた男とは、登勢は気が合わないが…?

    神業と言われる父親の仕事ぶり、一生懸命ついて行こうとする

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    2020年09月27日
  • 新選組 幕末の青嵐

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    貧しい百姓に生まれ、長男でもなかったので実家も継げず、自分探しに明け暮れていた若者たち。が、時代は幕末だった。幕府に代わって朝廷が支配する世の中が来るかもしれない。何でもアリの動乱の時代。ひょっとしたら武士になれるかもしれない。自分で自分の生き方を決めることができるかもしれない。若者たちはわずかに見える希望の光を頼りに、幕末の嵐の中へ飛び込んだ。

    近藤勇、土方歳三、沖田総司など新選組の主要メンバーを主人公とした短編作品をつなぎながら、新選組の存在価値を追求していく連作小説。

    新選組とは不思議な集団だ。個性の強すぎるメンツが思うままに行動し、入隊と脱退を繰り返し、組織内での抗争もあった。頼り

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    2020年08月09日
  • 櫛挽道守

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    時代は幕末、女性の櫛挽職人である登瀬の物語。
    時代物で櫛を題材にしている地味な内容かなと思って読み始めたけど、いい意味で期待を裏切られました!心に響く傑作。読み応えがあり、展開も面白く引き込まれ、色んな意味で深い物語でした。
    江戸時代の木曽山中、中山道沿いの宿場町藪原に伝わる梳櫛「お六櫛」。父吾助は神業を持つ職人。その父を尊敬し、技を継承したいと願う登瀬。でも女は嫁いで子をなすことが当たり前とされていた時代に、女が職人になりたいと思ったところで道は険しい。登瀬の櫛作りにかけた一途な半生。そして家族の物語でもある。弟が急逝したことでバランスが崩れた一家の母や妹の思い。それでも登瀬には常に櫛に対す

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    2020年08月08日
  • 万波を翔る

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    ネタバレ

    待ちに待った、木内昇の長編歴史ドラマ。
    幕末といえば勤皇だ攘夷だと表舞台にたつ人物のものが多いが、さすが木内昇は違う。今でいう「官僚」幕臣の立場からみた歴史だ。それを、幕臣の次男という立場だが、傑出した才能で城勤に抜擢された、田辺太一に語らせた。

    幕府は長崎海軍伝習所に直参の次男、三男から優れたものを送り込んでいた。そこには薩摩や長州からも優秀な人材が集められており、勝海舟も咸臨丸で教えていた。ここで太一が日本中の優れた若者と対峙したが、攘夷思想に染まることはなかった。江戸に戻ると、新たに設けられた「外国方」として幕臣になる。亜國、英国、仏国などが日本に押し寄せようとしていた・・・。

    上司

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    2020年07月12日
  • 球道恋々(新潮文庫)

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    野球が好きだ!
    好きで好きでたまらない!

    まだプロ野球も夏の甲子園もなかった頃。
    どんなに一生懸命野球をやっていても、将来役に立つわけでも、もちろんお金になるわけでもなかった。
    それでも若い情熱も若くない情熱も野球に込める。
    そんな登場人物たちの物語は、野球が好きすぎるあまりニヤニヤが止まらない。

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    2020年06月06日
  • よこまち余話

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    長屋のある路地で繰り返される、日々の営み、季節のめぐり、育ってゆく若者といった現実の中で、ふと現れるふしぎな出来事。"ふしぎさ"が最初は見間違いかとも思える丸窓や薪能などちょっとしたことだったのに、次第に"あきらかに現実的でない"度合いを増していくのがドキドキ、ぞくぞくする。ゆっくりと心臓の鼓動が早くなってくる感じ。「?」という思いから、「何なのだろう、なぜなのだろう」と考えだす静かな加速感がとても心地よい読書体験。いつのまにか浩三や浩一と一緒に、トメさんや齣江の少ない言葉や一瞬の表情から答えを探そうとしていた。
    遠野さんが現れてから加速感は増して、齣江

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    2020年05月07日
  • 櫛挽道守

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    ネタバレ

    初めて読む作家さん
    てっきり名前から男性だと思ってました。女性だと知って女心というか、まだこの時代、女性は子を産み家を守るのが当たり前の時代に頑なに自分の志を曲げない登瀬の心理描写が丁寧で、女性作家さんならではと感服。
    他の作品も必ず読みます

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    2020年02月16日
  • 万波を翔る

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    歴史は人の営みが重なり合って築かれるもの。物理法則のように因果律がしかと定まっている訳ではない。もちろん、負けに不思議の負け無し、などと言うように定石めいたものはあるのだろう。天の時、地の利をよくよく図り戦えば勝つ確率は高くなるのかも知れない。しかし一方で、勝ちに不思議の勝ちあり、とも言う。孫子の説く五道を見誤っても尚勝敗の行方は思わぬ方へ転がってゆく。その裏で動いているのは、役目の定まった将棋の駒でも白黒旗幟鮮明な碁石でもなく、泣いたり嗤ったりする人だろう。木内昇の小説はいつもそれがよく描かれている。

    例えば、本書は幕末の話であるのに例の有名人が出てこない。徳川方の幕臣が主人公なので敢えて

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    2020年02月10日
  • よこまち余話

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    ネタバレ

    年末年始のお供にTぬオススメのこの本。穏やかに静かに浸れそうだと手にとったが大正解。何とも沁みる。
    最初のほうは中学に行きたいのに言い出せない浩三や、気づいているおかみさん、心優しい浩一などにじんわり。
    特に月に一度の和菓子や、朝、桶に張った氷を楽しみにしている浩一がとても良い。
    そのうち、少し不思議な感覚を覚えて、時間のつながりにはてとなり、なるほど過去と未來が入り交じっているのかと気づく。
    トメさんと齣さんの人生がせつなく、でもただ悲しいということでもない、とにかく、沁みる。
    何とも言えない余韻が残るお話。

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    2020年01月07日
  • 光炎の人 下

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    そうか。最終的な着地点は、何と張作霖爆殺事件なんだ。途中からそんな気がしてきて、浅田次郎の件の作品が物凄く好きな自分としては、そういう点でも、本作がだんだんと面白く読めるようになってきた。主人公のキャラは、結局最後まで好きになれないものだったけど、だからこそこんなクライマックスが成り立つってもの。触るものみな傷つけて、ありとあらゆる人間関係を拒否してきたもんな~、って感慨もひとしお。手放しで好き!って感じでもないんだけど、小難しい機械の話とかも頻繁に出てきながらも、それでも頁を繰る手が止まらなかったのは、物語に引きつけられたからに違いない。力作。

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    2019年12月16日
  • 万波を翔る

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    木内昇の小説の主人公はいつも内側に熱い情熱を抱え純粋ゆえに不器用にもがき、そしてそのもがきの中で自分の使命を理解していく、という表舞台には決して登場しない市井の人々が多いと思います。そこが彼女の作品に惹かれる理由かも。日経新聞連載時から本作の主人公が江戸から明治への過渡期の外交という舞台で切歯扼腕している様子は感じていました。今回、したたかな欧米列強に対し、初心な江戸幕府が翻弄される細かい交渉を積み重ねて「太平の眠りを覚ます…」って歴史が生まれたことを単行本として一気に読んだことで理解しました。でも、この本、「歴史小説」というより「仕事小説」としての共感が高いです。偏屈な上司との付き合い方、自

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    2019年12月03日
  • 光炎の人 下

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    史実をもとにどこまでフィクションを盛り込むか、が作者の手腕が問われるところである。
    技術者が自分の夢をただ実現したいがために、実行したことが、戦争の中の事件に巻き込まれていく。
    冷静さを欠いた音三郎と冷静沈着に処断する利平の結末は、戦時中の狂気に誘われる人々を想像させる。

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    2019年10月24日
  • 万波を翔る

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    ネタバレ

    開国から4年、江戸幕府は異国との外交を担う外国局(外務省の先駆け)を新設する。
    一筋縄ではいかない異国との折衝に加え、幕府への不信とともに高まる攘夷熱。
    腕に覚えはないけれど、短気で鼻っ柱の強い江戸っ子・田辺太一の成長を通して、幕末における日本の行く末を追う。

    日本に乗り込み次々に無理難題を押し付ける異国や、そんな異国へ勝手に戦を仕掛けたり幕府を通さずに直接取引しようとする諸藩に、ひたすら攘夷を要求する天朝。
    そんな幾度も押し寄せる荒波に翻弄されながらも知恵を絞って果敢に立ち向かう太一。
    幕末から明治へ激動の時代を懸命に翔け抜ける太一の姿は生き生きとして実に清々しい。

    歴史上の事件名は知っ

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    2019年09月16日
  • 新選組 幕末の青嵐

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    新選組 隊士 一人一人を知る事が出来る構成。
    土方さんの、情の深さを読みながら感じると、泣けて来た。不器用故に生きづらさを抱えていたのだろうなと思いながら…。

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    2019年08月18日
  • 新選組 幕末の青嵐

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    色んな隊士の視点で書かれているが、とても読みやすいわ
    濃密。時代の変わり目。多くの人が死ぬ。
    なんとなく、良い印象がなかった人物が今回、意外と良い人だったのかもしれないと変化したり。
    解説にもあるが、見える部分だけ見ていてはいけないなと。
    それにしても土方は本当にかっこいいし、沖田はさっぱりしていて気持ちがいいし癒される。

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    2018年12月28日
  • 櫛挽道守

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    タイトル「櫛挽道守」と書いて「くしひきちもり」と読む本作。幕末を舞台に、櫛職人を父に持つ主人公登瀬が、限られた自由の中で懸命に自身の生き方を模索する姿を丁寧に描いた作品です。
    時代としてはペリーが浦賀に来航したあたりからになるので、日本史の一大転換期ともいえる頃にあたるのですが、源次を除いて登場人物の多くは不穏さを増す社会情勢から一歩引いたところで日々の生活を営んでおり、よくある波乱万丈の展開があるわけではないです。なので筋だけ読むと正直地味な小説の部類に含まれてしまうのですが、逆にそういった喧騒からの適度な距離感が、登瀬の素朴で純粋な姿を引き立たせているように感じられました。
    実は私、読んで

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    2018年04月30日
  • みちくさ道中

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    ネタバレ

    美しい日本語に感心したり、ぷぷっと噴き出したり。こんなに才能あるのに、まるで「櫛引道守」のヒロインのように物語を紡ぐことに謙虚にまっすぐに取り組んでおられる。地道にひたむきにがんばることの素晴らしさを学ぶ。

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    2018年03月23日
  • 新選組 幕末の青嵐

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    ネタバレ

    志を持った男達の生きざま!すっかり虜になってしまった。

    新選組のメンバーが順番に語り手となり、他のメンバーのことや時勢について語る。
    同じ時勢のことも語り手が変わると違った印象になるのも面白い。
    メンバーそれぞれの個性もよく分かりクスッとなったりニヤリとしたり、切なくなって泣けてきたり悔しくて憤ったり、と様々な感情が次々にわき上がる。
    幕末の時代の波に翻弄された若者達。
    初めは全員が揃って志を高く持ち、先へ、これよりももっと先へ…と突き進めると信じていたはず。
    けれど思惑は人それぞれで、不器用な若者達の野心が手探りで交錯し絡まっていく。

    「なにも持っていないということは、実に強い。こうした

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    2018年03月04日