木内昇のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
紀州藩士の息子・十兵衛は、本草家・小原桃洞に習う。
地道に研究を重ね、後に翠山と呼ばれるようになる。
P118
〈抱え切れんほど大きな希求が溢れる。
その溢れたものが、こうして勝手に動き回るんや。
当人のあずかり知らんところでな〉
鬼籍に入った父の言葉。
葛をするすると伝い、天から降りてきた父親と十兵衛の会話に癒される。
人との関わりを苦手とした十兵衛が
草木を通じ人として一回りも二回りも大きくなっていく。
読んでいても安心と楽しさがある。
このように、努力を惜しまず書き(描き)残す事で
時代を超えて私たちの元へ届けられた。
木内昇さんのおかげで、今回も魅力的な人物を知ることができた。 -
Posted by ブクログ
本草学者・畔田翠山の幼少期(十兵衛)からの半生に付き添っているかのような読書体験だった。
植物にひたむきで学問に才能があるものの、人と話すことが苦手な十兵衛。ほかの塾生には色々言われ思われながらも、理解のある師・桃洞に助けられつついろんな人に関わりながら少しずつ成長してゆく。
その中で、薬になる植物のことはもちろん、果物やはたまた魚類(書中では水族と呼ぶ)などなど多岐な自然をテーマしていますのでそういうものに興味のある方にもいいかも。
また、天狗が出てきたり、意思を持ったような葛が天まで伸びたり、その蔓から亡き父が降りてきて語り合ったりと、霊的な出来事も起こります。ちらっと梨木香歩の『家守奇譚』を思い出した。
好きこそものの上手なれを体現した翠山に心を打たれるところも良し、一貫して翠山の人柄が出ているような静かな物語が良きでした。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ木内さんの本ーっと思って手にとる
北国に住む商人が江戸の人たちのあまりの北国の知識のなさに地元の風俗、説話などをまとめた本を作ることを夢見る話
山東京伝、十辺舎一九、滝沢馬琴、など聞いたことのある戯作者が出てくる
え?え?というほどに話が進まない
進んだと思ったら頓挫
江戸と越後の距離が今感じるよりもっと遠いのだろう
どうなってますか、と手紙を出すと、その人はもう死にましたという答えが剣もほろろに帰ってくる
かわいそすぎるーーーー
なんとびっくりそれで40ねん
おいおい、である。
大変である。
そして馬琴がめっちゃやなやつなのである。
ちょい前に八犬伝の映画で役所さんの馬琴を観てたので
そのギャップを自分の中で埋めるのがちょっと大変だった
越後の物書きと江戸の物書きとの心温まる交流になって
いくかと思いきや、何度も何度も話が頓挫するので
なんとゆーか、立場が違うもの達がわかりあうって難しいんだろうなーっと
物書きたちのいろんな悩みとか葛藤とかそーゆーのてんこ盛り
京伝の弟を想う気持ちが百合には一切通じてないのが悲しい
まあ、同じ人を大事に思ったとして、あくまでそれは自分にとっての相手だからなーー
子を生めなかった女の鬱屈が悪い方に向かっちゃったなーー
まあ、わからんでもないけど、親戚の子を可愛がる方に行けば自分を幸せにできたのになあーー
結局自分を不幸にするのは自分かもね
私はできれば無理やりにでも自分を幸せにしたいけどなーー
最後の最後、ようやく京山さんと書き者同士の心の交流が
できて牧之さん、良かったね
これはフィクションだけど鈴木牧之さんは記念館もあるほどの方で北越雪譜と言うのも本当に出版されたもののようなのでそこをもとに作られた物語なのだろう
そこからこんないろんな人を描き出してくる木内さんは
やっぱすごいよなーーー -
Posted by ブクログ
ネタバレHKさんのおすすめ。
下手人をあげることよりも、手柄を立てる事よりも、
自分がひっかかった何かを追い続ける同心惣十郎。
薬問屋での火事で死んだ二人のうち、
番頭は火事の前に殺されており、主人は別人の疑いがあり、
挙動のおかしい手代に目をつける。
怖がりで人を疑うことを知らない小者と、
元巾着切りで人を見る目のある岡っ引きの二人を使って、
ひとつづつ謎を解いていく。
惣十郎の妻が病死したことは、
あくまでも主人公のサイドストーリーであり、
本筋の薬問屋の殺しや種痘に関わってくるとは思っていなかったので、
もっと面白いと思ってもよいはずなのだがどうもすっきりしない。
それは登場人物の輪郭線がちょっとぼんやりしているせいかとも思ったが、
老いが進んでいく惣十郎の母、
惣十郎にひそかに思いを寄せている出戻りの下女、
家族をみな流行り病で亡くした蘭方医、
惣十郎の義理の父親、そして惣十郎自身と
登場人物が誰も幸せになっていないからだと思う。
能天気なハッピーエンドを望んでいるわけではないが、
誰かは幸せになってほしかった。
浮世とはそういうものだと言われてしまえばそれまでなのだが。 -
Posted by ブクログ
▼木内昇さんが「捕物帳」を書いたらしい、ということで店頭で衝動買い。木内さんらしい捕物帳。地味と言えば地味。でも大いに楽しみました。
▼相当に江戸時代の警察組織については木内さんなりに調べはったんだろうなあ、という内容で、原則的には、お仕事リアリズムに基づいて書かれています。主人公の惣十郎さんは、内勤の書類仕事も多いし、いつでもなんでも浪人に変装して単身現場に乗り込むような長谷川平蔵現象は起こさないし、そもそも毎度毎度白刃を振り回して生死の境をくぐるような生活ではありません。捜査実際のほとんどは、部下のいわゆる「目明し」、十手持ちがきちんと上意下達で行います。(「密偵」ではありません)
▼エンタメ読み物としては、そういうリアリズムを愉しんでね、という一方で、以下の持ち味かと。
・惣十郎さんが、安楽椅子探偵的に「想像」と「人間観察」に長けた名探偵である。
・なんだけど「字が下手」。これは今で言うと「パソコンがからきしである」くらいのハンデで、書類仕事が下手なので出世からは遠い。
・惣十郎さんは、男やもめである。一度結婚したが子をなす前に奥さんが若死した。そのことを引きずりながら生きている。惣十郎に恋慕する女性がいる。
▼全体に連作短編のようでいて、はじめに起こった事件がずっと解決しきらぬまま尾を引いて、最終回で真犯人が分かる。世界観としては池波正太郎的な、「善人と悪人は紙一重、人間みんな業がある」みたいな感触です。
▼何より池波正太郎さんと違うのは、女性の描き方ですね。池波さんの女性観は今で言うと耐え難いまでに女性嫌悪、女性蔑視そのものなんですが(笑)、そこは木内さんは全く違います。このあたりが、設定が時代劇で女性の活躍幅は広くないので、言えば「何が起こっているか」はほぼ変わらないのだけど、筆致が変わればこうも味わいが変わるかな、という印象でした。