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若き本草学者の不思議に満ちた生きものとの出会い――心震わせる時代幻想譚。
美(う)っつい奇のくには、どこからか草木の「声」が聴こえてくる。
みずみずしい読後感につつまれた。
―――――中江有里さん(俳優・小説家・歌手)
心震わせる生きもの賛歌。
美(う)っついのう。
紀州藩士の息子・十兵衛(後の本草学者・畔田翠山(くろだすいざん))は、
幼いころから草花とは自在に語らうことができるのに、人と接するとうまく言葉を交わすことができずに育った。
ある日、草花の採取に出かけた山中で天狗(てんぎゃん)と出会ってから、面妖な出来事が身の回りで次々と起こり……。
若き本草学者の、生き物や家族、恩師との温かな交感と成長を描く、感動の時代幻想譚。
〈目次〉
天狗 てんぎゃん
卯木 うつぎ
蜜柑 みかん
雪の舌 ゆきのした
伊佐木 いさき
不知火 しらぬい
藤袴 ふじばかま
仙蓼 せんりょう
譲葉 ゆずりは
山桃 やまもも
白山人参 はくさんにんじん
黒百合 くろゆり
瑞菜 ずいな
稲穂 いなほ
蓮華 れんげ
装画 MAYA MAXX
本文画 畔田翠山
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Posted by ブクログ
作品紹介・あらすじ
心震わせる生きもの賛歌。
美(う)っついのう。
紀州藩士の息子・十兵衛(後の本草学者・畔田翠山(くろだすいざん))は、幼いころから草花とは自在に語らうことができるのに、人と接するとうまく言葉を交わすことができずに育った。ある日、草花の採取に出かけた山中で天狗(てんぎゃん)と出会ってから、面妖な出来事が身の回りで次々と起こり……。若き本草学者の、生き物や家族、恩師との温かな交感と成長を描く、感動の時代幻想譚。
第53回泉鏡花文学賞受賞
*****
「梨木香歩の『家守綺譚』のような小説を教えて」とAIに尋ねたところ、「こんなのどうでしょう」と推薦されたのが本書。いまだにAIに対してはちょっと懐疑的なところがあるのだけれど(なにしろ時々知ったかぶりをするものだから)本書に関しては大正解だった。
他人と接することが苦手な少年十兵衛が、家族や恩師、そして自然の草花などと交流するうちに立派に成長していく成長譚でもあり、現実の世界と現実ならざる世界がごく当たり前に交わる話でもあり、十兵衛が成長していく過程での友人たちとの温かい交流が描かれた話でもある。一人前になったと認められた時に恩師から授かった名前が畔田翠山であり、物語の半分はこの翠山として話が進む。
彼岸と此岸を結ぶ定家葛の蔦をつたって亡き父が翠山に逢いにきたり、重要な局面で天狗(てんぎょん)が様々な姿で現れ助言を与えたり、紙に書かれた丸い池がポチャリと水しぶきをあげたり、雪の舌の化身が少女となって病気の友人を助けたりと、虚実が穏やかに入り混じる世界は読んでいてとても心地よく、平和な心境に導いてくれる。
ただし、黒百合の挿話に関してだけは、虚と実の塩梅が崩れて、虚が強く出すぎてしまったように感じた。実が遠く離れてしまったためにそれまでの平穏だった幻境の世界から突き放されたような心持ちが残った。そこがちょっと残念。
あとは余談かもしれないけれど、お妙という少女が登場するのだが、思いのほか出番が少なかった。とても愛嬌のある少女で、もっと出番が多ければとても魅力的な登場人物になれたに違いないと思う。その点もやや心残りだった。
ともあれ、読んでいてとても面白く、穏やかな気持ちになれた読書時間だった。こんな時間はかなり久しぶりだったように思う。
Posted by ブクログ
主人公は、和歌山の本草学者、畔田翠山。
植物だけでなく、自然の姿そのものに惹かれ、研究する、博物学者といったほうがいいかもしれない。人付き合いが苦手であったと伝わる。そこで、人ではないものと通じる、という設定になっている。中島京子さんの『かたづの』はカモシカと言葉を交わす設定であったが、これも大好物な世界観だった。
舞台は紀ノ國。赴くのは白山や高野山、師である小原桃洞や、京都の本草家山本亡洋は実在の人物だし、植物採集に赴く地も現実である。
そこで交わす植物や、自然の象徴でもある天狗との交流が、翠山の研究理念に関わる、重要な部分を担っている。
百姓娘、お妙との交流も切ない。
ここに出てくる植物は全て当時の呼び名と漢字で表現されており、現在では見分けにくいものもある。挿絵は翠山の手によるもの。現在では園芸種も増えているため、一番素朴な姿を思い浮かべるといいと思う。
Posted by ブクログ
紀伊国(きのくに)の本草学者・畔田翠山(くろだ すいざん)を初めて知った。
「研究する人」の集中力には、本当に尊敬しかない。
翠山の幼名は十兵衛。
人と話すことが苦手で、小さな頃から野山を駆け巡り、草や木を愛でてきた。
小原桃洞(おはら とうどう)は紀州の藩医。藩の本草局(ほんぞうきょく)に籍を置き、自宅の離れでも塾を開いて本草学を教えている。十兵衛も塾生の一人となり、生涯の師と仰いだ。
元服の前の年、岩橋(いわせ)の里山にこっそり入って天狗に遭って以来、十兵衛の周りでは不思議なことばかり起きるようになる。
いや、それはいつでもどこにでも、大昔から普通に存在しているものなのだけれど、十兵衛の目が「見える」ようになっただけなのかもしれない。
真剣に心を研ぎ澄ませたなら、凡人でも植物や、虫とも会話できるのだろうか?会話してみたい。
ぷっくりと豊かに膨らんだ紀伊半島の山中には、確かに神々しく不思議なものが宿っている気がする。
あやかしも人も、植物も動物も、同じ地にあっては仲良く同居せざるをえない。
翠山はやがて、桃洞の孫の小原良直(よしなお)と交流を深め、この、利発で小生意気な年下のおかげで人間的にも成長していく。
人とは違ったことわりの中に生きるあやかしたちも、時に疑問を投げかけてきたり、啓示を与えたり、手を貸してくれたりする。
南方熊楠。牧野富太郎。そして畔田翠山。
花や草たちは、認められ、名付けられ、分類される。そして薬草として採取され、人々を救う。
ありがたいのう。
Posted by ブクログ
読み進めていくにしたがって敬虔な心持ちになり、自然の神秘につつまれていく感覚を覚え、生きとし生けるものの心が目に見えるようでした。そして、現実と幻想の世界を行き来する小説の構成に引き込まれました。登場する植物の描写も、これまた美しく、木内昇さんの力量に圧倒されました。
本草学(薬用とする植物などを研究する学問)を志す畔田十兵衛(学者名、翠山)が主人公。草木と語らうことができても、人付き合いを苦手とする青年です。本草学の師である小原桃洞やその孫、良直たちとの関わりの中で、十兵衛の心は少しずつ雪解けしていきます。
心でものを観ることができる桃洞先生と十兵衛の発する言葉は、人生の真理をついており、忘れず心に留めました。
人間は傲慢になることなく、自然を尊重して生きる姿勢を忘れてはいけないと、改めて思いました。多くの共感と共に、深い感動を得ることができました。私にとって☆5以上です。
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