あらすじ
若き本草学者の不思議に満ちた生きものとの出会い――心震わせる時代幻想譚。
美(う)っつい奇のくには、どこからか草木の「声」が聴こえてくる。
みずみずしい読後感につつまれた。
―――――中江有里さん(俳優・小説家・歌手)
心震わせる生きもの賛歌。
美(う)っついのう。
紀州藩士の息子・十兵衛(後の本草学者・畔田翠山(くろだすいざん))は、
幼いころから草花とは自在に語らうことができるのに、人と接するとうまく言葉を交わすことができずに育った。
ある日、草花の採取に出かけた山中で天狗(てんぎゃん)と出会ってから、面妖な出来事が身の回りで次々と起こり……。
若き本草学者の、生き物や家族、恩師との温かな交感と成長を描く、感動の時代幻想譚。
〈目次〉
天狗 てんぎゃん
卯木 うつぎ
蜜柑 みかん
雪の舌 ゆきのした
伊佐木 いさき
不知火 しらぬい
藤袴 ふじばかま
仙蓼 せんりょう
譲葉 ゆずりは
山桃 やまもも
白山人参 はくさんにんじん
黒百合 くろゆり
瑞菜 ずいな
稲穂 いなほ
蓮華 れんげ
装画 MAYA MAXX
本文画 畔田翠山
感情タグBEST3
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本草家畔田翠山、幼名十兵衛。小原桃洞を師に仰ぐ。本草学好きの紀州10代藩主徳川治宝にお目見えし、本薬園の手入れを任される。
ある日岩橋のお山に行き、天狗に会う。その時持ち帰った定家葛を家に植えておいたところ、さわさわと葛を下って亡くなった父が降りてきて、まるで生きている時のように話をすることができた。それ以降、いろいろな不思議と出会うようになった。
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主人公は、和歌山の本草学者、畔田翠山。
植物だけでなく、自然の姿そのものに惹かれ、研究する、博物学者といったほうがいいかもしれない。人付き合いが苦手であったと伝わる。そこで、人ではないものと通じる、という設定になっている。中島京子さんの『かたづの』はカモシカと言葉を交わす設定であったが、これも大好物な世界観だった。
舞台は紀ノ國。赴くのは白山や高野山、師である小原桃洞や、京都の本草家山本亡洋は実在の人物だし、植物採集に赴く地も現実である。
そこで交わす植物や、自然の象徴でもある天狗との交流が、翠山の研究理念に関わる、重要な部分を担っている。
百姓娘、お妙との交流も切ない。
ここに出てくる植物は全て当時の呼び名と漢字で表現されており、現在では見分けにくいものもある。挿絵は翠山の手によるもの。現在では園芸種も増えているため、一番素朴な姿を思い浮かべるといいと思う。
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読み始めて、大好きな「家守奇譚」を思い出しました。ただひたむきに植物に向ける愛情に、不思議な現象もなんだか不自然ではなく、すーっと受け入れられて清浄な気持ちになりました。
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表紙からしてちょっと不思議風味
人と交わるのが苦手で、草木と語らう方が好きな十兵衛が
山で出会ったのは天狗だった。
畔田翠山という実在の人物を基にした物語
作中の画は実際彼の描いたもの
こーゆー丁寧にしっかり見て描けるっていいよなーーっと思う
亡くなった父が蔓をつたって降りてきて
語らったりとか、ちょっと梨木さんの掛け軸から現る友人とか思い出した。
こーゆーするりと現にそうじゃないものが入り込んでくるところめっっちゃ好きー
結構自己評価低めな割に結局一度も自分を曲げてない感のある十兵衛、いいわー
折々に、ちょっとずつ草木だけじゃなくていろんなものが見えてきてなんとゆーか心がレベルアップ?してく感じとかが
じんわりくる。
雨が地に染んで行くようなじわじわ沁みてゆくような
読み心地
これは、よい。
やっぱ木内さんは好きだなー
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今の自分にとても響く ことばがたくさんあって 嬉しくて ありがたい時間でした。
物語もとても楽しかった!
「まことの望みというのは、どういうものか、己の奥底に潜んでなかなか顔を見せてくれんのや。うまいもんが食いたい、喉が渇いたから水を飲みたい、そういった刹那の望みはいくらでも鮮やかに浮かぶんやがな。そこが人の、厄介なところや」
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実際の畔田翠山の人生が天狗などの不思議と交わり本草の面白さと共に珠玉の作品となっている.挿画の確かさは言うに及ばず表紙の絵も素晴らしい.
とても好きです。
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紀伊国(きのくに)の本草学者・畔田翠山(くろだ すいざん)を初めて知った。
「研究する人」の集中力には、本当に尊敬しかない。
翠山の幼名は十兵衛。
人と話すことが苦手で、小さな頃から野山を駆け巡り、草や木を愛でてきた。
小原桃洞(おはら とうどう)は紀州の藩医。藩の本草局(ほんぞうきょく)に籍を置き、自宅の離れでも塾を開いて本草学を教えている。十兵衛も塾生の一人となり、生涯の師と仰いだ。
元服の前の年、岩橋(いわせ)の里山にこっそり入って天狗に遭って以来、十兵衛の周りでは不思議なことばかり起きるようになる。
いや、それはいつでもどこにでも、大昔から普通に存在しているものなのだけれど、十兵衛の目が「見える」ようになっただけなのかもしれない。
真剣に心を研ぎ澄ませたなら、凡人でも植物や、虫とも会話できるのだろうか?会話してみたい。
ぷっくりと豊かに膨らんだ紀伊半島の山中には、確かに神々しく不思議なものが宿っている気がする。
あやかしも人も、植物も動物も、同じ地にあっては仲良く同居せざるをえない。
翠山はやがて、桃洞の孫の小原良直(よしなお)と交流を深め、この、利発で小生意気な年下のおかげで人間的にも成長していく。
人とは違ったことわりの中に生きるあやかしたちも、時に疑問を投げかけてきたり、啓示を与えたり、手を貸してくれたりする。
南方熊楠。牧野富太郎。そして畔田翠山。
花や草たちは、認められ、名付けられ、分類される。そして薬草として採取され、人々を救う。
ありがたいのう。
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遠野物語、
忘れられた日本人、
北国雪譜、
牧野富太郎さんの植物図譜、
世阿弥さんのお能の作品、
そんなこんなを
手元に引き寄せて
一編の物語に昇華すると
このようになるのでしょうね
まことに 絶品です。
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幾度も象徴的に出てくる言葉「美っついのう」。
まだ訪れたことのない土地(紀州)なのに、幻想的な美しい光景が目の前に現れてくる。
木内さんの文章の端々から、声を出さない草木たちの語り合う声が聴こえてくるようだった。
「この世に在ることは、もうそれだけで意味のあることなんや。大きな役目を負うておることなんや」
「草木には越えぬほうがよい境があるように思います。生育に合う合わんゆうだけでなしに、まわりの草木と話し合うて、そこにおろうと決めた種も、中にはあるんやと思うのです」
草木も花も魚も獣も鳥も、姿や暮らしぶりは異なっても互いに関わり合って生きているのだ、と改めて思う。
同じ土地に生きる人間は、それらの生き物と均衡を保てているだろうか。人間が踏み込みすぎていないだろうか。
江戸の世に出来ていたことが令和の今、崩れかけているように思えてならない。翠山が見たらどう思うだろうか。天狗は怒り狂うだろう。
大好きな梨木香歩さんの『家守綺譚』の世界観と、やっぱり大好きだった朝ドラ『らんまん』を思い出させてくれた。牧野富太郎先生も翠山のように各地の草木や花々に出逢う旅を重ねていたんだろうな。
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なんとまあ!清々しく静謐で気持ちのよい本だった。自然のマイナスイオンで浄化された気持ち。江戸時代の和歌山で植物を研究する学者のお話。梨木香歩さんの『家守綺譚』と少し似た味わいもあり、こういう世界が好きな私の心にしっくり馴染んだ。
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尽きせぬ想像力、感性が漲っている。人物造形が素晴らしく、一人ひとり(草木や天狗らも)丁寧に活写。奇のくに(紀伊国)の方言もまた純朴で心地良い。十兵衛の成長が感慨深く、彼が描いたとされる挿絵に思わず見入った。
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読み進めていくにしたがって敬虔な心持ちになり、自然の神秘につつまれていく感覚を覚え、生きとし生けるものの心が目に見えるようでした。そして、現実と幻想の世界を行き来する小説の構成に引き込まれました。登場する植物の描写もこれまた美しく、木内昇さんの力量に圧倒されました。
本草学(薬用とする植物などを研究する学問)を志す畔田十兵衛(学者名、翠山)が主人公。草木と語らうことができても、人付き合いを苦手とする青年です。本草学の師である小原桃洞やその孫、良直たちとの関わりの中で、十兵衛の心は少しずつ雪解けしていきます。
心でものを観ることができる桃洞先生と十兵衛の発する言葉は、人生の真理をついており、忘れず心に留めました。
人間は傲慢になることなく、自然を尊重して生きる姿勢を忘れてはいけないと、改めて思いました。多くの共感と共に、深い感動を得ることができました。私にとって☆5以上です。
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紀伊国を治める徳川治宝公 自然に対する理解が深く使える者達は思う存分探究を深めていく
人ととの関わりが苦手な十兵衛は一人山に入り天狗に出会い世界が少しずつ広がっていく 師である桃洞はいつでも十兵衛の良き理解者であり続ける
挿絵は全て十兵衛改 翠山の画だった
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泉鏡花文学賞
泉鏡花文学賞授賞式にて、木内昇さんのスピーチを拝聴。
生木内昇さんはやはり素敵だった。
コロナ禍で、いろいろなことがあったにもかかわらず、今まで邪魔で、いっそコンクリートで埋めようかと思っていたほどの庭の雑草が逞しく育っているのを見て、救われたとのこと。それもあって、この作品を書かれたらしい。
また、表紙の絵は、亡くなられた友人のMAYA MAXXさんの作品とのこと。
実は、こういったファンタジー要素のあるものは得意ではないのだが、二日ほどで読み終えた。
ファンタジー要素があるからこそ、幻想的な作品に与えられる泉鏡花文学賞なのだが。
また、白山が出てくるのも、石川県とゆかりがあったとおっしゃっていた。
不思議だが、爽やかな読後感だった。
また、直前に読んだ『僕には鳥の言葉がわかる』に通じるものもあると思った。ただし、鈴木先生はコミュ障じゃないけど。
この本も、鈴木先生のイラストのように、畔田翠山(くろだすいざん)の素晴らしい絵が挟まれている。
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紀州藩士の息子・十兵衛は、本草家・小原桃洞に習う。
地道に研究を重ね、後に翠山と呼ばれるようになる。
P118
〈抱え切れんほど大きな希求が溢れる。
その溢れたものが、こうして勝手に動き回るんや。
当人のあずかり知らんところでな〉
鬼籍に入った父の言葉。
葛をするすると伝い、天から降りてきた父親と十兵衛の会話に癒される。
人との関わりを苦手とした十兵衛が
草木を通じ人として一回りも二回りも大きくなっていく。
読んでいても安心と楽しさがある。
このように、努力を惜しまず書き(描き)残す事で
時代を超えて私たちの元へ届けられた。
木内昇さんのおかげで、今回も魅力的な人物を知ることができた。
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紀の国のてんぎゃんといえば…。熊楠の育ったお国の豊かさを垣間見れた。泉鏡花や梨木香歩みのあるファンタジー要素もあり、一人の本草学者の成長譚でもあった。草花だけではなく、生きとし生けるものへの眼差しが愛おしい。時に仄暗さを湛えながらも、明るいもので繋がっていこうとする意志が大切なんだなぁ。と。面白く読めて、温かい気持ちになって、なんだか学びがある良書であった。
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本草学者・畔田翠山の幼少期(十兵衛)からの半生に付き添っているかのような読書体験だった。
植物にひたむきで学問に才能があるものの、人と話すことが苦手な十兵衛。ほかの塾生には色々言われ思われながらも、理解のある師・桃洞に助けられつついろんな人に関わりながら少しずつ成長してゆく。
その中で、薬になる植物のことはもちろん、果物やはたまた魚類(書中では水族と呼ぶ)などなど多岐な自然をテーマしていますのでそういうものに興味のある方にもいいかも。
また、天狗が出てきたり、意思を持ったような葛が天まで伸びたり、その蔓から亡き父が降りてきて語り合ったりと、霊的な出来事も起こります。ちらっと梨木香歩の『家守奇譚』を思い出した。
好きこそものの上手なれを体現した翠山に心を打たれるところも良し、一貫して翠山の人柄が出ているような静かな物語が良きでした。
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身も心も癒され浄化されたような、さわやかな読後感。「人の生くるは好奇を満たすため」「草木はいずれも大事な役目を担っておる」みんな、繋がって、この星で生きていること自覚しないと。
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木内昇さんの小説は疲れた身体と精神には薬効があるような。
もちろんお会したことがないけれど、木内昇さんの人柄は私が保証します!といえるくらい笑
どの小説も木内さんの人間への信頼感が満ち満ちている。
これもまたしかり。
安心して読めるので、心が弱った時にオススメします。
人の善意を信じていいのだなと思う。
小説を読んでいる間中、清々しい山の空気を吸っているような気持ちになれる。
Posted by ブクログ
#奇のくに風土記
#木内昇
紀州藩に実在した本草学者・畔田翠山がモデル。周囲との関わりが苦手な少年・十兵衛は、生き物や恩師、友人、人ならざる不思議な存在との交流を経て少しずつ成長していく。じんわりと心のひだにしみ込んでくる、爽やかで温かな物語。
#読書好きな人と繋がりたい
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ダヴィンチ・プラチナ本から。”蟲師”とか梨木香歩とかが思い浮かんだ。突然の滝川一益登場とか、ちょっと面食らってしまい、いまひとつ焦点がぼやけてしまう印象あり。終始、夢うつつを往来する感のある作品だから、その一環と言われたらそれまでだけど、個人的にはちょっと。
Posted by ブクログ
紀伊の山々で草木を愛でるコミュ症な少年の成長譚。
天狗や時折、テイカカズラの蔦を伝って彼岸から此岸に降りてくる父上に見守られて本草学を志すファンタジーな展開に不思議を感じます。
また、白山や大峰山系に登る記述もありワクワクしました。白山へは美濃禅定道から登られたように感じますが私も何度も登っていてクロユリも見たことあるし、大峰山系も歩いたことあるしオオヤマレンゲも見たことあるので嬉しくなりました。人知れずひっそりと咲いている花たちはそこに自生しているからこそ美しく尊いものなんですよね。
Posted by ブクログ
現実の話と不思議な話が、上手く絡み合って物語を組み上げています。
先日、他の書籍で植物のコミュニケーションの話を読んだところなので、余計に植物に気持ちが動かされました。