あらすじ
若き本草学者の不思議に満ちた生きものとの出会い――心震わせる時代幻想譚。
美(う)っつい奇のくには、どこからか草木の「声」が聴こえてくる。
みずみずしい読後感につつまれた。
―――――中江有里さん(俳優・小説家・歌手)
心震わせる生きもの賛歌。
美(う)っついのう。
紀州藩士の息子・十兵衛(後の本草学者・畔田翠山(くろだすいざん))は、
幼いころから草花とは自在に語らうことができるのに、人と接するとうまく言葉を交わすことができずに育った。
ある日、草花の採取に出かけた山中で天狗(てんぎゃん)と出会ってから、面妖な出来事が身の回りで次々と起こり……。
若き本草学者の、生き物や家族、恩師との温かな交感と成長を描く、感動の時代幻想譚。
〈目次〉
天狗 てんぎゃん
卯木 うつぎ
蜜柑 みかん
雪の舌 ゆきのした
伊佐木 いさき
不知火 しらぬい
藤袴 ふじばかま
仙蓼 せんりょう
譲葉 ゆずりは
山桃 やまもも
白山人参 はくさんにんじん
黒百合 くろゆり
瑞菜 ずいな
稲穂 いなほ
蓮華 れんげ
装画 MAYA MAXX
本文画 畔田翠山
感情タグBEST3
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Posted by ブクログ
表紙からしてちょっと不思議風味
人と交わるのが苦手で、草木と語らう方が好きな十兵衛が
山で出会ったのは天狗だった。
畔田翠山という実在の人物を基にした物語
作中の画は実際彼の描いたもの
こーゆー丁寧にしっかり見て描けるっていいよなーーっと思う
亡くなった父が蔓をつたって降りてきて
語らったりとか、ちょっと梨木さんの掛け軸から現る友人とか思い出した。
こーゆーするりと現にそうじゃないものが入り込んでくるところめっっちゃ好きー
結構自己評価低めな割に結局一度も自分を曲げてない感のある十兵衛、いいわー
折々に、ちょっとずつ草木だけじゃなくていろんなものが見えてきてなんとゆーか心がレベルアップ?してく感じとかが
じんわりくる。
雨が地に染んで行くようなじわじわ沁みてゆくような
読み心地
これは、よい。
やっぱ木内さんは好きだなー
Posted by ブクログ
幾度も象徴的に出てくる言葉「美っついのう」。
まだ訪れたことのない土地(紀州)なのに、幻想的な美しい光景が目の前に現れてくる。
木内さんの文章の端々から、声を出さない草木たちの語り合う声が聴こえてくるようだった。
「この世に在ることは、もうそれだけで意味のあることなんや。大きな役目を負うておることなんや」
「草木には越えぬほうがよい境があるように思います。生育に合う合わんゆうだけでなしに、まわりの草木と話し合うて、そこにおろうと決めた種も、中にはあるんやと思うのです」
草木も花も魚も獣も鳥も、姿や暮らしぶりは異なっても互いに関わり合って生きているのだ、と改めて思う。
同じ土地に生きる人間は、それらの生き物と均衡を保てているだろうか。人間が踏み込みすぎていないだろうか。
江戸の世に出来ていたことが令和の今、崩れかけているように思えてならない。翠山が見たらどう思うだろうか。天狗は怒り狂うだろう。
大好きな梨木香歩さんの『家守綺譚』の世界観と、やっぱり大好きだった朝ドラ『らんまん』を思い出させてくれた。牧野富太郎先生も翠山のように各地の草木や花々に出逢う旅を重ねていたんだろうな。