あらすじ
【各紙誌で話題を呼んだ哀しくも愛しい物語】
その人は、もういないかもしれない。
もういなくても――確かにここにいた。
お針子の齣江や向かいの老婆トメさんが、
いつ、どこから来て棲み始めたのか、
長屋の誰も知らない。
正体不明の男「雨降らし」が門口に立つとき、
そこには必ず不思議が起こる。
少しずつ姿を変える日々の営みの中に、
ふと立ち上る誰かの面影。
時を超え、降り積もる人々の思い。
路地にあやかしの鈴が響き、
彼女はふたたび彼と出会う――。
「いつかの人々」が囁きかけてくる感動長篇。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
江戸から明治くらいの時期、洋装と和装が混じるくらいの時代、とある長屋での物語。
あっちの世界とこっちの世界と、いろんな時代が入り乱れるなか、想いを残したひとたちと、それに触れる人々。あまりに余白が深い物語で幻想的で切なくて、久々に引きずっている。
もう1回読もうかな…
Posted by ブクログ
連作短編集。ふと曲がった路地で歪んだ時間軸に知らずに迷い込んでしまったような摩訶不思議な感覚 寂しさ 暖かさ 懐かしさ 読んだ後に色々な余韻を残してくれるしみじみ味わい深い作品でした 何度も読み返すと思います。
Posted by ブクログ
「違う世界へ出ちまうんじゃないか」と案ずる浩三少年。自らの影と会話できる彼だからこそ経験できた不思議な世界。時代は明治・大正だろうか。江戸言葉が残り、暗闇の中に異世界の入り口がぽっかり開いているような世界観が良かった。齣江やトメ婆さんは……逆神隠しと言えばよいだろうか? 全体的に美しい文体で、中でも「雨が、暮らしの音や生き物の気配を消していく」という表現が素晴らしいと思った。
Posted by ブクログ
「長年着てる紋紗さ。糊をきかせてもらったからそう見えるだけだろう。もうすぐ季節がいっちまうからね、夏のものをしゃんと着て見送らないと。
季節が移るときってのは大概、逝っちまう季節はくたびれきっているんだ。だからせめてあたしらがその季節の着物を粋に着て見送ってやらなきゃいけない。くたった単衣なんぞ着てちゃあ季節だって逝くに逝けないだろう。
…なんで夏は、見送らないといけないの?
だって、夏だけ引き取り手がないじゃない。春も秋も冬も次の季節がちゃんと引き取って移ろうのに、夏だけ『終わる』でしょ」
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長屋のある路地で繰り返される、日々の営み、季節のめぐり、育ってゆく若者といった現実の中で、ふと現れるふしぎな出来事。"ふしぎさ"が最初は見間違いかとも思える丸窓や薪能などちょっとしたことだったのに、次第に"あきらかに現実的でない"度合いを増していくのがドキドキ、ぞくぞくする。ゆっくりと心臓の鼓動が早くなってくる感じ。「?」という思いから、「何なのだろう、なぜなのだろう」と考えだす静かな加速感がとても心地よい読書体験。いつのまにか浩三や浩一と一緒に、トメさんや齣江の少ない言葉や一瞬の表情から答えを探そうとしていた。
遠野さんが現れてから加速感は増して、齣江がみせる"蒼く濡れた目"にこちらがほとんど泣きそうになった。会いたかった人、でももう時間軸がずれてしまって、会えば終わりが来てしまう人・・・。うう、せつない。
印象的なシーンや言葉はいくつもあった。
季節を見送るためにしゃんとしてその季節の着物を着るというトメさんの後ろ姿。
繊細に思い悩む浩三の気持ち。
「このところ、言葉や音が前にも増して複雑な意味を伴って聞こえる」
「誰かがなにかを信じて安心しきっている姿は尊いもののはずなのに、浩三はそこに緩慢な鈍さを感じてしまう。――みなの安息を支えているものが、そこまで強固には思えないのだった」
浩三の母親がみる天狗。
虫の標本が入っていた桐箱。
いろいろな人や物が現れたり消えたりする――自分の力では動かしようがなくても、手の届いたものひとつひとつをよく見て、愛おしみ大切にするという生き方を、齣江や浩三がみせてくれた。
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年末年始のお供にTぬオススメのこの本。穏やかに静かに浸れそうだと手にとったが大正解。何とも沁みる。
最初のほうは中学に行きたいのに言い出せない浩三や、気づいているおかみさん、心優しい浩一などにじんわり。
特に月に一度の和菓子や、朝、桶に張った氷を楽しみにしている浩一がとても良い。
そのうち、少し不思議な感覚を覚えて、時間のつながりにはてとなり、なるほど過去と未來が入り交じっているのかと気づく。
トメさんと齣さんの人生がせつなく、でもただ悲しいということでもない、とにかく、沁みる。
何とも言えない余韻が残るお話。
Posted by ブクログ
この前に読んでいた本(『失われたものたちの本』)とは全く違う世界。
とまどいながら読み始めたが、この余白の多い物語にぐっと引き込まれる。
語りすぎず、語らなさすぎず。
想像しながら読む楽しさ。
最後までおもしろく読んだ。
読み進めるうちに、全く違うと思っていた『失われたものたちの本』と通ずるものを勝手に感じる。
異世界はすぐ隣にある。その異世界は、現実と全く違う世界ということではなく、心の世界とでもいうような、人が持っている潜在的な思いや積み重なった経験が具現化する世界。それは、意識しているかしていないかに関わらず、だれもが抱えている世界。
(巻末の対談でも出てくるけれど)この本では、此岸と彼岸であり、なんだかお彼岸の近いこの時期に読んだのも、偶然とはいえ必然だったのかしら。
収録している堀江敏幸と作者木内昇との対談もおもしろかった。
Posted by ブクログ
味わい深い。
江戸を少し残したような時代の、うらぶれた長屋が舞台なのかな?
SFのような、怪談のような、ファンタジーのような。
淡々と日常の生活が活写されていくなかで、少しの不思議が混じっている感じ。
まだ闇が大きくて深かった時代の雰囲気が、とても味わい深かった。
テンポよく読める、先が気になるような内容ではなかった。日々少しずつゆっくり読むのが向いていると思う。