向田邦子のレビュー一覧
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口下手で怒りっぽく、涙もろい。
そんな古き良き日本のお父さん・寺内貫太郎と、家族の日常を描いた物語です。
時代を超えても物語が面白く新鮮に感じられるのは、登場人物の一人一人に魅力があるからだと思います。
例えば、思いやりに溢れて時にはきちんと叱ってくれるお父さんは、読者に「こんなお父さんがいるといいなあ」という憧れの気持ちを持たせます。
同時に「うちのお父さんとも似たところがあるなあ」という共通点や親しみやすさを抱かせます。
憧れと共通点を兼ね備えてこそ、人間味があり、魅力的な登場人物が出来上がるのです。
向田邦子は、作中の人物にそのような魅力を持たせることがとても上手だと思います。 -
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喧嘩早くて涙もろい、石屋の親方貫太郎を柱に、くせのある家族のてんやわんやを人情味豊かに描くホームドラマ。貫太郎一家の日常が展開されていくんだけれど、その日常がとにかく騒々しい。口より先に手が出るタチの父、貫太郎は、ことある毎に家族を張り倒す。妻、息子娘はもちろん、お手伝いの少女や他人の子供ですらちぎっては投げの奮闘振り。殴られた方も食って掛かるので、家族の団欒、夕食の席は決まって乱闘騒ぎである。しかし父の鉄拳は、家族への隅まで行き届いた心遣いから出るもの。「貫太郎は好きな人間しか殴らない」とは彼の母の言葉。家族ひとりひとりが抱える悩みを、不器用ながらも体当たりで向かっていく貫太郎の温かさ、大きさに魅入られてしまった。一話完結の短編が十数編、話の数だけ泣けたね。古きよき日本の家族、だなんていいたかないけれど、今では見られない家族の形なんだろうね。
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小林亜星が主演でテレビドラマ化されているが、このキャストについて拒否していたと聞く。モデルである自分の父親とイメージが違いすぎるためだと思う。考えてみれば著書の父親の年代は明治生まれで頑固で時には暴力を振うのは珍しく無い。彼女がそう言う時代に生きてきた事を再認識した。
でもそんな時勢の中、彼女の感性が古びていない事に改めて畏敬の念を禁じ得ない。
今で言えばDVと片付けられるが暴力自体が愛情の裏返しだったりしていて家族と言うものの厚みを感じた。
寺内貫太郎とは大正時代の首相寺内正毅と終戦時の首相鈴木貫太郎から来ている事を知って興味深かった。 -
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若い頃にNHKでやっていたドラマ「阿修羅のごとく」や「あ.うん」ちょっと理解出来ない辛辣な物語でよく母が見ていたと記憶している。TBS系で1974年頃から配信されたドラマ「寺内貫太郎一家」はまさか向田邦子さんが著者だとは思いもよらなかったです。
人間の残忍さや日常生活で誰もが持っている後ろめたさや弱さ。その一つ一つが13編の中に散りばめられていて読み終わった後向田さんがまだ生きていたこんな時代にどんな作品を産み落としてくれたのだろうかとちょっとぞーっとしたのは私だけではないだろう。
私が好きな一編は『大根の月』
英子が別れた夫と一緒に昼の月を見たのは指輪を誂えに出掛けた帰りである。母親の手一つで大きくなったひとりっ子の夫。健太が生まれ6年間は大過なく過ぎる。しかしお中元にもらったハムを切っている時健太の人差し指はまな板の端に転がりもとには戻らなかった。これが原因で英子は流産。姑も夫もそして健太ももういい。一番大切なものも、一番おぞましいものもあるあの場所に英子は戻るのか?
その次に好きな一編は『はめ殺し窓』
言われてみれば何故はめ殺しと言うのだろうか?物騒なネーミングではあるが巧妙に語ることで人々の心に残る事では納得である。両親の婚礼写真にしても翌朝の味噌汁に使う浅蜊が桶の中で鳴いていた。布団から出ていたタカの足はあれににていた。何気ない人間の闇を覗かせる向田さん。脱帽である…短編小説にしてはどれも向田さん独特の世界観がたっぷりと詰め込まれたものとなっている。 -
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作品は全体的に文体が明るく、ユーモアを交えて書かれているが、読んでいるとどこか影のようなものも感じられた。私は向田邦子さんをよく知らない世代だが、この作品には向田邦子という人自身の人柄が表れているように思えた。
向田さんの父は、昭和時代の厳格な人物として描かれており、家族を振り回す自分中心なところもあるが、どこか憎みきれない存在でもある。勘が鋭く、どこか子どもらしくない主人公は父に似ている部分があるがゆえに、しばしば父と衝突する。
転勤の多い生活や戦争による空襲、食べ物への不安、子どものころに危ない目に遭った話などから、当時の幼少期の厳しさも伝わってきた。読んでいて複雑な気持ちになるエピソードもあったが、そのことがかえって当時の現実の生活の重さを感じさせた。
あとがきでは、向田さんが大きな病気を経験されたことにも触れられていた。文章は明るいが、その背景にはさまざまな経験や苦労があり、それが文章の中の影につながっているのではないかと思った。 -
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私にとっての初・向田作品です
恥ずかしながら「名前は知ってるけれど読んだことない有名作家」の一人だった向田邦子さん
脚本家としても活躍されていて、この『霊長類ヒト科動物図鑑』にも黒柳徹子さんなど芸能人の名前やテレビ関係者とのお話がたびたび出てきます。
1981年に飛行機事故で亡くなられた方で、この本は亡くなった後に出版された作品なのですね。
自分が生まれる前のエッセイなのに、人間の根本はそうそう変わらないよね、と教えてくれるお話が多数。(もちろん戦前生まれの著者ならでは感性やお父さんとのお話など、令和の時代では大炎上必至のエピソードもありますが、それはそれで興味深かったりします)
「女性が地図を書けないということは、女は戦争が出来ないということである。(中略)そのへんが平和のもとだと思っていたのだが、地図の描ける女が増えてくると安心していられないのである」女性は地図を読むのが苦手、というのはよく言われることだけれど、それを戦争と結び付けたことはなかったので、この視点は新鮮だった。実際にそれを体験した人にしか持てない視点というのは確かにあって、それはいくら本を読もうが勉強しようが、そっくりそのまま同じものをインストールできるわけではないのだな、と改めて思わされた。
向田さんは自分は器用貧乏で融通が利く方だから割とどんな職業でもできると自負しているが、どうしても無理だと思う仕事が2つあるそう。それは釦屋さんとスパイ。理由は整理整頓が壊滅的にできないから、そして虫がどーしても苦手だから。なぜその理由でこの2つの職業ができないのか。
考え方、お話の作り方がすごく面白いなと思ったエピソード。
また、昔話に出てくるのがなぜじーさんばーさんの夫婦ばかりで、若いカップルや壮年の男女はいないのか、という疑問に対する向田さんの毒のある考え方も良い。昔、子供の世話は老人の役目で、孫に自分たち老人が主人公のお話を聞かせてやっていた。話の中でイキイキと主人公として演じている。あれらは老人の夢や希望を込めたお話達なのではないか、というのです。うーむ