【感想・ネタバレ】思い出トランプのレビュー

あらすじ

浮気の相手であった部下の結婚式に、妻と出席する男。おきゃんで、かわうそのような残忍さを持つ人妻。毒牙を心に抱くエリートサラリーマン。やむを得ない事故で、子どもの指を切ってしまった母親など――日常生活の中で、誰もがひとつやふたつは持っている弱さや、狡さ、後ろめたさを、人間の愛しさとして捉えた13編。直木賞受賞作「花の名前」「犬小屋」「かわうそ」を収録。

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

Audibleにて聴書。
朗読の意地の悪い感じの読み方が向田邦子の原作と合っていてとてもよかった。Audibleを聞いた中では一番よい。

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2025年08月27日

Posted by ブクログ

初、向田邦子さん
こんなにもグッと没入させてくれる文章は中々ない様な気がする。とにかく凄みえぐみ。
共感できる狂気さ、という独特な世界観
犬小屋という話が特に好き。

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2025年08月02日

Posted by ブクログ

ありふれた日常の中に現れる人間の「闇」の部分を描いた短編が13枚、シャッフルされて入っている。
向田邦子の文章は一行が短く簡潔。また、一見余分に思える文章が多々あるが、それらが静謐さに深みを与えていて非常に面白い。
何を食べたらこんな視点から人間関係を捉えられるようになるのか?読めば読むほど興味が湧くばかり。

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2025年04月27日

Posted by ブクログ

15ページほどの短編の中にここまで夫婦関係の微妙な闇が描き出せるものなのかと感心させられた。男の愚かさ、女の狡賢さ…みんな腹にイチモツを持っているものなのだ。
どの作品も秀逸。人間の奥底に秘めた闇をチラ見せしてくれる。自分の中にもあるような、わかる気がして、次の話はどんな人が出てくるんだろうかと読み進める手が止まらなかった。
昭和の時代を感じさせる素晴らしい短編集。向田邦子さんが長く生きてくださったら、もっとたくさんの素晴らしい作品に出会えたのに…と残念でならない。

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2024年10月13日

Posted by ブクログ

1遍目の「かわうそ」から掴まれた。他のどの作品もリアリティがすごい。読みやすかった。お気に入りの本になった。

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2024年08月24日

Posted by ブクログ

初の向田邦子作品
すごい、すごすぎる。数ページの短編の中で、人生の光の部分と仄暗い部分を描き出している
読み方によって、ユーモラスで人間味がある話とも、人間の闇がフォーカスされた不気味な話とも捉えられるのが面白い

説明的な表現は最低限に抑えられていて、日常の些細の描写から、過去の出来事や登場人物の性格や心情が炙り出されるのがすごい

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2023年07月04日

Posted by ブクログ

ここ最近、向田邦子さんに係る本を読み漁っているがハズレがなく、その全てを面白く感じている。

その印象は本書を読み終えた今も続いている。思い出トランプは短編集で、全部で13話収録されているが、その全てが個性的な魅力にあふれている。それも、これは明るい話あれは暗い話、と宝石のようにシンプルに形容しやすい魅力ではなく、見方によって暗くも明るくも、沈んでいるようにも輝いているようにも見える不思議な魅力。石は石でもパワーストーンのような感じで、向田さんの文章は自分にとって他の人とはどこか明確に違うと再確認した。

話は逸れるが、私は数ヶ月前に「あうん」で初めて向田邦子さんの小説を読んだ。その一冊の持つ衝撃は凄まじく、これを皮切りに、ネットで向田邦子作品を内容も見ずに片っ端から購入していった。そんな経緯もあって、今思えばこんな間抜けな話があるかとも思うが、本書の最初に収録されている「かわうそ」を読み終えるまで思い出トランプが短編集であることを知らなかった。

正確には次話の「だらだら坂」の途中で「短編集かよ!」と気付き、「かわうそ」の不穏な終わり方にドキドキしながら続きを知りたい思いでページをめくった私の期待と興奮は見事に打ち砕かれたのだが、読み終える頃にはテンポの良い多種多様な短編に満足し、そんなガッカリ感はどうでも良くなっていた。

向田さんの持つ文章の上手さ、楽しさは個人的に他のレビューで散々書いてしまったので、もう語ることも今更ないけれど、その上手さはこの本でも健在で、本書では特に「かわうそ」「三枚肉」「りんごの皮」「酸っぱい家族」がお気に入り。

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2023年08月09日

Posted by ブクログ

向田邦子といえば、ワタシにとっては、やっぱり「寺内貫太郎一家」

幸か不幸か、リアルタイムで観てる。水曜劇場。
まあ、懐かしい。面白かったね。

ジュリー〜〜!

樹木希林、もとい当時は悠木千帆さん。これが受けた受けた。
あと、なぜか横尾(忠則)さんなんかも出てる。

久世(光彦)さんと組んで、思い切ったことをやられたのでしょうね。

貫太郎一家のあとは、ほとんど観ていない。
名作の誉高い「阿修羅のごとく」とかも拝見していない。

でも、向田さんの飛行機事故のニュースはよく覚えている。

その向田邦子が直木賞を受賞したのが、この思い出トランプ

((作品紹介))
日常生活の中で、誰もがひとつやふたつは持っている弱さや、狡さ、後ろめたさを、人間の愛しさとして捉えた13編。直木賞受賞作「花の名前」「犬小屋」「かわうそ」を収録

びっくり。思い出トランプなんて題名だから、もうちっとホンワカムードもある短篇集かと思ってた。
全く、あにはからんや、違ってた。

全編シニカルな筆致。登場人物たちは、皆こころの空漠を抱えたひとたちばかり。
そのひとたちが、各々苦い思い出を回想していく...

なんとも、現在の自分にも、登場人物たちの心象が突き刺さる。

冒頭の短篇「かわうそ」

脳卒中で倒れ、身体の自由が効かない中年の男。その男が、九つ年下の妻厚子への想いを綴っている。

〜「なんじゃ」
わざと時代劇のことば使いで、ひょいとおどけて振り向いた厚子を見て、宅次は、あ、と声を立てそうになった。
 なにかに似ていると思ったのは、かわうそだった。〜

これ、なんじゃ、なんておどけて返してくれる女性なんか、ワタシは可愛いらしいと思う。
が、それを"かわうそ"と形容するとは....

この男にしかわからない、妻に対する複雑な、愛憎が内まぜになった感情。そのこころの吐露が、このかわうそに表れているんだろうな。

いきなり、この一篇で、読者のこころ鷲掴み。

あとは、もう読み進めること、あっという間。

どれも心に残る短篇ばかり。
向田さんの描写が、また結構辛辣

「三枚肉」における"安いお雛様"とか、
「男眉」の"男眉に生まれついた人間は、(中略)女は亭主運のよくない相"とか。。。

また、書かれている言い回しで、もう私達にはわからないものが多い。

"お前は曲(きょく)がない"
"時分どき"
"御座(おざ)に出せない"
"節約(しまつ)なたちで"
"葬壇の前で夜伽(よとぎ)をしながら" etc

とにかく、小説の面白味が満載。

キョンキョンの帯が欲しい、という邪な気持ちから買い求めた、思い出トランプ。

結果、向田さんの小説の虜になった。
他の作品も読みたくなった。

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2025年10月15日

Posted by ブクログ

短編小説枠として読んだことがなかったのでチョイス。日常に潜む知り得ない世界や営みにこれほどのものがあるのかと、なんだかリアルでありつつも怖さやブラックさとはまた違う世界観のある一冊だった。

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2025年10月07日

Posted by ブクログ

読んでるとこの人は家族とか夫婦とかの関係を信用してないんだなあと思う半面、どこか自分にも当てはまる感情というのもあって納得もさせられる。文章の上手さもあるがどの話もとにかく構成と最後のまとめかたが上手い。

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2025年09月22日

Posted by ブクログ

細かい情景や心情の、描写と表現が美しい。
人の光が当たる部分を描くのは簡単そうに思えるが、人の影の部分を簡素でいて鮮やかに描く事が出来るのは、やはり向田邦子しかいないのではないかと思う。

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2025年04月16日

Posted by ブクログ

多分ずっと以前、10代の頃に読んだ気がする。その時は特に何も思うことはなかったんだと思う。自分が歳を重ねて、いろんな人を見ていろんな経験をして、変わったんだなと読みながら実感した。
それにしてもわかりやすく美しい文章。登場人物の暗さや嫌らしさを悪いモノにはしてしまわない。こういうことも若いときには考えなかったな。

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2025年02月11日

Posted by ブクログ

いわば向田さんにしか撮影できない独自のフレームに収められた家族写真を眺めた気分。一見普通の家族の裏に、ゆっくり静かに流れ込む暗の部分を、決して大袈裟ではなく独特の比喩表現で描く天才だとおもう。エッセイからも分かるが日常生活で見たり感じたりする視点が違う方だったんだろうなと。世界観に浸りたい短編集だった。

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2024年12月15日

Posted by ブクログ

以前から名前は知っていたが初めて読む作家さん。昭和の世界観ですが、落ち着いた、大人の短編集でした。昔の方達はいい文章を描きます。

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2024年11月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

短編集、どれもはっきりした結末はない。
他の方のレビュー通り、とてつもない昭和感、こんな時代もあったな…今はハラスメントを恐れるあまり何も口に出せなくなってることを感じた。
どれも展開が読めず最初のかわうそ、ユーモアがありかわいい妻は、脳卒中で不自由になってきた夫の知らないところで何を企んでいるのか、そんなことを考え中、妻が外から戻り同時に
『写真器のシャッターが下りるように庭が急に闇になった』これを51歳で亡くなるまでの間に執筆したとは驚く。
りんごの皮の入場券の話、全く分からず調べた。

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2024年11月01日

Posted by ブクログ

あなたは、ある女性のことをこんな風に紹介されたとしたらどう思うでしょうか?

 『ポパイの恋人で手足が針金細工のようにひょろひょろ長いオリーブ・オイルという女の子がいるが、あれを二廻り小型にしたようであった』。

『オリーブ・オイル』?、『ポパイ』?カタカナで綴られた人の名前のような単語が二つ飛び出しました。このレビューを読んでくださっている方の年齢はマチマチです。『ポパイ』は『ポパイ』でしょう、という方から『ポパイ』って誰?と首をかしげる方もいらっしゃるかもしれません。

『ポパイ』とは米国の漫画家エルジー・クリスラー・シーガーが生み出した漫画のキャラクターであり、1960〜70年代にテレビアニメとして人気を博しました。ほうれん草パワーの下に大活躍をする『ポパイ』の物語。とは言え、上記したような説明が今の世でなされることはないと思います。

さてここに、『ポパイ』、『あけ方テレビのザアザアいう音』、そして『紙袋を抱えて国電に乗り込んだ』というような言葉で彩られた1980年の世に生み出された物語があります。直木賞受賞作を含むこの作品。そんな物語の中に人のさまざまな思いを見るこの作品。そしてそれは、累計200万部を売り上げた向田邦子さんの代表作な物語です。

『マンションなんか建てたら、おれは働かないよ』と『いつになく尖った声で』妻に言い返したのは夫の宅次。『二百坪ばかりの庭にマンションを建てる建てないで、夫婦は意見がわかれていた』という中に『いつもは二言三言で引き下がる』妻の厚子は『この日は妙にしつこ』く食い下がります。その時、宅次の『指先に挟んだ煙草が落ち』ました。『風があるのかな』と訊く宅次に『風なんかありませんよ』と『九つ年下の厚子』は返します。『子供のいないせいもあるのだろう。年に似合わぬいたずらっぽいしぐさをすることがある』と厚子を見る宅次は、一方で『中年。手足のしびれ感。何という薬の広告だったか、こんな文句があったと思いながら』『煙草を拾』います。『手袋をはめたまま物を摑むような厚ぼったい感じがすこし気になった』と思う宅次は、『あとから考えれば、これが最初の前触れだった』と振り返ります。そして、『この何日あとだったか、仕事中不意に目の前にいる次長の名前が思い出せなくな』り、『その日だったか次の日か、つきあいで酒を飲み、送りのタクシーで帰ったとき、車から降りたとたんに』『地面に坐り込んでしま』います。『運転手に助け起こされてすぐに直った』ものの、『あれも前兆だった』と振り返る宅次。それから一週間後、『朝刊を取りにゆき、茶の間へもどったところで、障子の桟につかまりながら、わからなくなった』宅次。それは、『脳卒中の発作』でした。そして、『倒れてからひと月になるが』『頭の中』、『ちょうど首のうしろあたりで、じじ、じじ、と』『地虫が鳴いている』という日々を送る宅次。『意識が薄れたのは、ほんの一時間ほどだったが、それでも右半身に軽い麻痺が残』りました。『杖にすがればどうにか歩けるが、右手はまだ箸が覚束な』いという宅次。そんな中、『宅次が倒れてから』『よく鼻唄を歌うようになった』という厚子は、『宅次が会社を休職して、寝たり起きたりになると』『前にも増して、よく体を動か』すようになります。ある日、『玄関に人の来た気配がする。車のセールスマンらしい』と耳をすます宅次。『主人が倒れたので車どころじゃないのよ、と言うかなと』思うも『ごめんなさいね。うちの主人、車のほうなの』と『歌うような厚子の声』を聞いた宅次は、『そうだ。厚子はいつもこのやりかただった』と思います。『化粧品のセールスだと、主人は化粧品関係になったし、百科事典がくると出版関係になった』と厚子のことを思う宅次は、『新婚の頃、毛布を売りにきた押し売りを、「うちの主人、繊維関係なのよ」』と『歌うような口振りで追い払い、奥にいた宅次を振り返って、目玉だけで笑ってみせた』ことを思い出します。『面白い女と一緒になった、一生退屈しないだろうと宅次は思』いますが、『その通り』でした。そんな時、『顔の幅だけ襖があいて、厚子が顔を出し』ます。『二十年前と同じ笑い顔だった』と厚子のことを見る宅次。そんな宅次と厚子のそれからの暮らしが描かれていきます…という最初の短編〈かわうそ〉。宅次と厚子という夫婦の心情を少ない言葉の中に巧みに浮かび上がらせる好編でした。

“日常生活の中で、誰もがひとつやふたつは持っている弱さや、狡さ、後ろめたさを、人間の愛しさとして捉えた13編”と内容紹介にうたわれるこの作品。収録された〈花の名前〉、〈かわうそ〉、〈犬小屋〉が1980年の第83回直木賞を受賞している向田邦子さんの代表作です。その受賞は元々「小説新潮」に連載が継続していた中だったようです。そんな背景事情もあり、〈解説〉の水上勉さんはこんなことを書かれています。

 “連作短編のようだから、完結をみてからでもと(直木賞の)授賞を見送ろうとする委員もあったにかかわらず、山口瞳、阿川弘之両氏と私の三人が強力にねばった日のことがわすれられない”

向田さんは、その年の翌年8月22日に取材旅行中の台湾で航空機墜落事故によりお亡くなりになられていらっしゃいます。”人生無常の思いが、いっそうつよくな”ったとおっしゃる水上さん。人の世というもののはかなさを感じもします。

さて、この作品に収録された13編は、「小説新潮」五十五年二月号から五十六年二月号にかけて連載されていたものです。私は女性作家さんの小説を全て読むことを目標に読書を続けていますが、今まで読んだいちばん過去の現代小説は1981年発表の氷室冴子さん「恋する女たち」です。この作品はそれとほぼ同年代の作品となり、今から実に40年以上も前の作品ということになります。オギャーと生まれた赤ちゃんが40歳を超える年齢になった期間と同じわけですから、その表現には時代感が自然と浮かび上がってきます。まずは、この点を抜き出してみましょう。

 『宅次は停年になってからでいいじゃないかと言っていた。停年にはまだ三年あった』。

冒頭の短編〈かわうそ〉に登場する一文ですが、『停年』という二文字に違和感を覚えます。”定年”の間違いでは?と思いましたが、戦前には『停年』、”定年”のいずれの表記も普通に使われていたのが、1954年の法令用語統一を受けて”定年”が主流になっていったという歴史があるようです。ただ、向田さんがこの作品を執筆されたのはそれから四半世紀先の時代のことです。何かこだわりをお持ちだったのでしょうか?

 『算盤が出来るのと字が上手なので面接まで残ったのだが、結果は一番先に落されたのがトミ子だった』。

〈だらだら坂〉に登場する一節ですが、採用において『算盤』と『字が上手』という二点で『面接まで残』れるという表現が違和感なく使われるところに時代を感じます。このあと、それは『パソコン』になり、『語学力』になり、と変化していったのだと思いますが、こういったところに時代が色濃く見えてくるように思います。

 『この日は歩くことにして、通りがかりのゴミ箱にでも、と軽く考えて、うちを出たのが間違いだった。第一、ゴミ箱というのがもう世の中から姿を消しているのである』。

〈酸っぱい家族〉から抜き出してみましたが、個人的にいちばん引っかかりを感じた箇所かもしれません。『ゴミ箱というのがもう世の中から姿を消している』と当たり前に記された一文。昨今、”テロ防止”などの理由をこじつけて街中からあっという間に『ゴミ箱』がなくなりました。結局は、コスト削減という本音を隠す日本人らしい対応の典型だと思いますが、ここ数年以前は街中に『ゴミ箱』というものは普通にあったと思います。1980年という時代にこの表現が登場すること自体に違和感を感じます。それともこれ以前の日本は街中に『ゴミ箱』がそこかしこに置かれていた時代があったのでしょうか?どなたかご存知の方がいらっしゃいましたら是非教えてください!お待ちしております m(_ _)m

また、この作品には直木賞を受賞した三つの短編が含まれているわけですが、その一編〈かわうそ〉に素敵な表現が登場します。この表現だけが受賞理由ではもちろんないと思いますが、文章としての美しさを感じさせるものです。こちらも抜き出しておきます。

 『暦をめくるように、季節で貌を変える庭木や下草、ひっそりと立つ小さな五輪の石塔が、薄墨に溶け夜の闇に消えてゆくのを見ていると、一時間半の通勤も苦に思えなかった。文書課長という、出世コースからはずれた椅子も腹が立たなかった。おれの本当の椅子は、この縁側だという気がしていた』。

『植木道楽だった父親の遺した』『庭』を大切に思う宅次。『勤めが終わると真直ぐうちへ帰り、縁側に坐って一服やりながら庭を眺めるのが毎日のきまりになっていた』という宅次の心持ちが上手く表現されていると思います。物語は、そんな『庭』に『マンションを建てる建てないで』意見のわかれる夫婦の暮らしを描いていきますが、この表現の奥深さを感じる中には『建てない』派の宅次の応援もしたくなってきます。この作品の中でいちばん気に入った箇所です。

では、13の短編をもう少し詳しく見てみましょう。3つの短編について触れてみたいと思います。

 ・〈三枚肉〉: 『問題は披露宴の会場へ入るときだな』と『会場の入口で花嫁に挨拶するとき、こいつがピクピクしなければいいのだ』と『鏡にうつる自分の顔』を見て『左頬を押』さえるのは半沢。『内心の動揺を覚られまいと振舞うとき』『左頬は主人を裏切ってピクピクと痙攣する。幹子がそれを見逃すはずはない』と思う半沢は『五年間半沢の秘書だった』『花嫁の大町波津子』のことを振り返ります。『取り立てて気が利く』わけではないものの『仕事は正確なほう』という波津子が『目立って仕事を間違えるようにな』ります。『退社後、夕食をおごり』『近くのパブで酒を飲み、あとは魔がさしたとしか…』という先に『浮気は今までにも覚えがあるが、部下とこうなったのは始めてで』という展開。そして…。

 ・〈マンハッタン〉: 『パンは三日で固くなる』、『牛乳は冷蔵庫へ仕舞っておいても、一週間でアブなくなる』と、『女房が出ていってから』『いろいろなことを覚えた』のは睦男。『居間のソファで眠ってしまい、あけ方テレビのザアザアいう音で目を覚ま』した睦男は『十一時になると起き出して顔を洗』います。『三十八歳の職のない男のむくんだ顔がうつっている。空気が澱み、時間まで腐ってしまいそうだ』と自分の顔を見る睦男。そんな睦男は『十一時半になるのを待って』、『近所の陽来軒へ行き、固い焼きそばを注文』します。『たまには別のものを』と思うも『席につくと、固い焼きそばといっていた』睦男は『焼きそばを食べているときだけ生きていて、あとは死骸みたいなものだ』と思います。

 ・〈酸っぱい家族〉: 『またやったのか、お前は』と『居間の食卓の下にころが』る『緑色の鳥』の横で『飼猫が毛づくろいをしている』のを見るのは九鬼本。『もともと鳥を獲るのが得手な猫で、今までにも雀や尾長を見せに来たことはあるが、こんな大物ははじめてだった』という『鸚鵡』を見る九鬼本は、『どこかの家で飼っていたものであろう』と思います。『どうするの、パパ』と訊く女房に『そのへんに埋めるんだな』と返す九鬼本ですが『うちの庭は嫌ですよ』と言われてしまいます。『それじゃビニールにくるんで、ポリバケツにでも』と言い終わらないうちに『女房と娘が一斉に非難の声をあげ』ます。やむなく『紙袋に入れた鸚鵡を持って家を出る羽目になってしまった九鬼本は…。

3つの短編を取り上げました。13の短編にはさまざまな情景が描かれていきますが、上記でも触れたように1980年という時代の空気感が絶妙に醸し出される中に物語は展開していきます。全体としての印象でもあるのですが、〈三枚肉〉に描かれているような浮気の情景が今の作品には見られない温度感で描かれていくのが印象的です。この時代、亭主が浮気をするという感覚は今の世以上にポピュラーだったのでしょうか?また、妻が出て行った先の侘しい日々を送る亭主という情景も今の小説で見ることはないように思います。一方で、『飼猫』が捕えてきた『鸚鵡』の処理に困惑する一人の男性を描く〈酸っぱい家族〉はなかなかにコミカルな情景を見せてもくれます。そして、これらの作品に共通すること、それこそが短編にも関わらず、登場人物の心の内が活き活きと描かれていくところです。内容紹介に触れられる通り、そこに描かれていくのは”誰もがひとつやふたつは持っている弱さや、狡さ、後ろめたさ”の感情です。それらは時代が変わったとしてもなくなることのないものです。私たちが日々を生きていくということは、そういった感情と共存することでもあるのだと思います。13の短編に描かれていく主人公たちの物語。そこには、いつの世も変わらぬ人の普遍的な感情を綴る物語が描かれていたのだと思いました。

 『浮気は今までにも覚えがあるが、部下とこうなったのは始めてである』。

1980年に第83回直木賞を受賞した3編を含む13の短編が収録されたこの作品。そこには、1980年という時代の空気感が自然と醸し出される物語の姿がありました。さまざまな場面設定の物語に人の息吹を感じるこの作品。そんな登場人物たちの思いが今の世を生きる我々と変わらないことに気づくこの作品。

累計200万部を売り上げた物語の中に、40年前にこの作品を手にした人たちの思いを感じる、そんな作品でした。

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2024年09月30日

Posted by ブクログ

初 向田邦子。落ち着いた文章で頭にスッと入ってきた。
数年前に弟からもらった本。

人の裏側、黒さ、性など、人間らしさがとても良かった。

『かわうそ』がお気に入り。

向田邦子ワールドが好きだなぁ!

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2023年10月21日

Posted by ブクログ

ウン十年ぶりの再読です。ちょうど私が学生の頃、直木賞をとった作品として話題になり手に取ったのでした。そして、ウン十年後の今、読み返してみるとどう感じるのか?試してみたくなったのです。13作品の短編集です。

当時の日本の一般的な家庭の風景。ごく普通に流れていく家族の生活。夫婦、親子を通した日常。一見何もおかしな所はないのだけれど、その中の個々人の心の中には様々な思い、記憶、経験。嬉しいこと悲しいこと、憎らしいこと。様々な思い、感情が表面には出てこないけれど内面に渦巻いている。そういった内面を掴み取り、暴き出して端正な言葉と文章で鋭く描写している。

私は向田さんの家族愛に基づいたキレキレの描写が好きなのだけれど、人間の心の闇に切り込んでくるところも流石だな!と思ってしまいます。

例えば今回再読していて、「獺祭」という言葉の意味を改めて認識しました。今の私には「美味しい日本酒」というイメージしか頭の中になかったのだけれど、「かわうそ」という作品の中で、妻である一人の女性のシタタカな一面を見せつけられた様な気がしました。「獺祭」という言葉を通じて、、、少し怖かった。

やはり、家族や人の心象が向田さん独自の多彩な輪郭で描かれている。場面展開の素早さも心地いい。途中で止められなくなります。

ウン十年前に読んだ時は「何だか不気味な作品集」というイメージを持っていたのだけれど、今回再読して過去とは異なる印象を持つことができました。

もちろん背景はウン十年前の昭和の情景です。しかし、人の心の有り様というのは変わらないものですね。

向田さんの作品は歳をとりません。

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2023年10月12日

Posted by ブクログ

人間の生活の中の嫌な部分を巧みな文章で拾う向田邦子の表現力が素晴らしすぎる。
どの話も嫌な余韻を引き摺るのにどんどん読み進めてしまう。
でも考えてみたら小学生?の時に初めて読んだ「字のないはがき」もなんか嫌な気持ちになったのを思い出した。

私は一番最初の「かわうそ」が面白怖すぎて電車の中で悲鳴を上げそうでした。
この話だけは未だに思い出してしまう。
でもどの話も漏れなく嫌な気持ちになるので梅雨時期に読んでたら気が滅入り過ぎて倒れただろうな。

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2023年07月09日

Posted by ブクログ

直木賞受賞作ってことで入手したんだったか、どこかの書評で気になったんだったか、そのあたり。各方面で言及されることの多い作家さんで、ブックガイドでも色んな作品が取り上げられているのをちょいちょい見るんだけど、がっつり読むのは多分初めて。ちょっと不穏な気配が漂う日常についての短編集。なるほど、こういう感じでしたか。自分的には、是非とも他作品をどんどん読みたい、っていう風ではなかったかな。

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2025年10月30日

Posted by ブクログ

向田邦子サン祭りの2冊目。

うーーーん。短編がやっぱり苦手なせいなのか
私には読みにくいと言うか、ちょっと口では
表せない薄気味悪さ(良い意味で。だと思う)
を感じてしまった.
向田さんの文章って、日常のヒトコマなんだけど
誰も気づかないような視点を捉えて
向田節と言うか掘り下げるのが巧みだと
っているのだけど、なんだろう。
不気味さが感じられたり、心の奥底の本心を
ありありと描かれ過ぎてて
『あ、そこまで言っちゃう?』的な。

まだまだ向田作品を理解するには
読みまくるしかない気がします。

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2025年10月08日

Posted by ブクログ

ひと昔ふた昔前の空気を感じる作品だなと思い、巻末で確認したら昭和58年発行の本だと知り納得した。

ただどの時代の話であろうと、人の心の闇、他人の目には見えづらい影の部分、最も人間らしいドロドロとしたものが存在することには変わりはない。

そんな普段は心の底深くに沈んで目にする事のない、どす黒い澱のようなものをまざまざと見せつけられるので、読後感は決してよくない。卵の殻の混じったオムレツを食べたような不快感を覚えた。

しかし、裏側からみた人間像が時として、普段の目にする表側よりも何倍も鮮やかにはっきりとその人間を浮き上がらせる。

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2025年09月19日

Posted by ブクログ

向田邦子さんの作品は初めて。
時代のせいか、昭和の香りと表現力が現代にない懐かしさとハラスメントでは?と感じる場面もちらほら。
短編それぞれが日常の夫婦間における些細な事件に笑えたりゾッとしたりホッとしたり。
目まぐるしい人間らしさと狡賢さ腹黒さがこれでもかと凝縮された短編でした。

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2025年01月07日

Posted by ブクログ

タイトルの理由は、13個の短編から成り立つ物語だから。
愛する人の裏切りに関する話が中心で、そのほかもどことなく陰のあるエピソードが多かった。一つ一つはとても短いが、どれも濃密に登場人物の心情が描かれている。まるで実在する人物の、とある生活の一瞬を切り抜いたかのように、描かれたその先の余韻を感じさせた。また、日常の匂いに関する表現がどても具体的であり、それも自らが話の中に存在しているかのような錯覚を感じさせた。

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2024年09月29日

Posted by ブクログ

短編集で読みやすい
直木賞受賞作品も挿入されている
つわ子のくだりがとても面白かった。
石蕗が由来なのかとあの人も言ったでしょ?いえ、つわりがひどかった時の子なのかいと言いました。
知識をつけたと思いきや根底はやはり変わらず、ただ背中では男の成長を感じる。
犬小屋もセンセーショナルな内容で、しかも本人がトラウマになっていない不思議さ。
カワウソ、もゾワっと虫唾が走る話。妻の曲がった性格が垣間見れる。

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2024年09月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

旅先で手に取って読み始めた本。向田邦子の作品は初めて読みました。
家族、夫婦、身近な人の人間性や感情の機微が繊細に描かれていると感じました。「大根の月」が、自分の中では一番忘れられない作品です。健太を怪我させてしまう場面は、情景が生々しく伝わってきて、心が苦しくなりました。冒頭の指の文字を英子が追ってしまうところは、辛く忘れられない出来事やトラウマに対して、人がどうなるのか、どう向き合っているのかを的確に描いていると思いました。
直木賞を受賞した「かわうそ」、「犬小屋」など、ホラーや怪談、ミステリーでは味わえない独特の怖さを感じて、背筋がぞっとしました。

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2024年07月21日

Posted by ブクログ

2024.01.27
なかなか難しい一冊。1970年生まれの私にはピンとくるも若い世代には伝わらない要素も多いかなあと思う。

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2024年01月27日

Posted by ブクログ

どんなに優しくほがらかであっても、どんなに「出来た人」と呼ばれるエリートであっても、人は誰でも少なからず暗い部分をもっている。
女のずるがしこさをぞっと思う反面で、私にも同じような面があるのかもしれないと思ったり思わなかったり。

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2023年08月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「思い出トランプ 向田邦子さん」昭和のエッセンスてんこ盛りの珠玉エッセイ集。男と女、親と子…今も昔も変わらぬ人間模様を凝縮。天性の天然ボケで夫を翻弄する妻。母親の浮気性の隔世遺伝を心配する父親。不注意で息子の指に一生モノの怪我を負わせた母親…結末には泣けた!

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2023年07月25日

Posted by ブクログ

それぞれの題名がどう関わってくるんだろう、そんなことを思いながら読むのが楽しかった。日常の少し憂鬱な感情が記されていてどこか共感できる話が多かった。
短編だから電車で読みやすいのもよかった。

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2023年06月20日

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