小谷野敦のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
東西の古典文学の「だいたいは読み終えた」という著者が、おもしろかおもしろくないかを大胆に判定を下した読書案内です。
本書は作品自体のおもしろさを中心に評価しているのですが、それ以外にもたとえば白樺派の作家たちがトルストイをどのように受け入れたのかといった、受容史的な観点からのおもしろさというものもあるはずで、本書にも随所にそうした薀蓄が示されているのですが、あまりアカデミックな文学研究に立ち入らないようにしているのか、そうした側面はほとんど切り捨てられているように思います。
たとえば、本書で著者が「好きではない」と述べている推理小説などの場合には、先行作品をどのように消化しているのかといっ -
Posted by ブクログ
世界史の大まかな流れを、分かりやすく解説した本です。かつて林健太郎の『世界の歴史』上・下(岩波新書)などの新書本が、大学受験世界史の副読本としての役割を果たしていましたが、本書もそうした使い方に適しているように思います。
歴史に関して、英雄史観や西洋中心史観に対するイデオロギー的な批判が盛んにおこなわれている一方で、日本人の多くが歴史そのものに関心を抱くことがなくなっていることに、著者は危機感を募らせています。本書は、そうしたイデオロギー的な歴史批判をひとまず置いて、世界史についての「だいたい」の知識を示した本です。
本文中に数多くの本があげられていて、読書案内としての役割も果たしています -
Posted by ブクログ
タイトルといい、主に学者の誤用例を実名であげていることといい、挑発的な一冊。当たり障りのないバカ丁寧な物言いが世にあふれているなかで、あえてこういう書き方をするのが著者のスタイルなのだろう。
明らかな誤用から、なんだかイヤだと思うものまでたくさんの言葉があげられているが、それほど新味はないし、掘り下げてあるわけでもないのが物足りない。
その中で、そうなの!と思ったのが、サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」について。すごく好きな日本語タイトルなんだけど、「キャッチャー」なんだから(わざとだろうけど)誤訳だと思ってきたが、これは「捕手」って意味じゃなく、動詞に「er」をつけて名詞化する用法だ -
Posted by ブクログ
「入門」なんて書いてありますが、あんまり実用的な役には立ちません。つーか、小谷野敦ですから。まともに「どうやったら評論家になれますか」なんてこと書いてあると期待するほうが間違いでしょ。『もてない男』のあふれるルサンチマンがここでもちゃんと炸裂してるので、あの鬱屈芸が楽しめる人にとっては買い。
評論家というのは、どうにもあんまりおいしい仕事じゃないらしい、ってことはわかります。「清貧でもいいからもの書きになりたい人に」とか「儲からなくても、論争で神経が参っても、『書いて生きていきたい』人へ!」とか、本書の帯にもエクスキューズがいっぱいです。それは小谷野さん、あなたのことですね、とズバリ指摘して -
Posted by ブクログ
恋愛にまつわるさまざまな言葉の歴史をたどることで、性と愛に関する人びとの意識の変遷を浮き彫りにする試みです。というと、言説史のような手法を連想するかもしれませんが、著者の立場は構築主義的というよりはむしろ実証主義的と言っていいように思います。とくに、第5節「愛の告白」は、著者の抑制的なスタンスに、ちょっと歯がゆさを感じてしまいました。もっとも、こうした地道な研究こそが大切だということはわかるのですが。
主として、日本の近現代の大衆文学、ときにはマンガもとりあげて、人びとの平均的な性愛観を追及しています。博覧強記というか、ここまでくわしく調べあげる執念に驚きました。 -
Posted by ブクログ
評論家になるためのマニュアル本というスタイルで、著者の評論理解が語られています。
歴史的実証的なアカデミズムの手法によるところが8割、そこからはみ出したひらめきによる部分が2割というバランスが、評論のあるべき姿だと著者は考えています。つまり、学術論文としては実証性や厳密性に欠けるところがあるけれども、著者の洞察によって論理的に展開される書き方がなされており、学問的・実証的に明らかに間違っているような議論を排除していればよいとのことです。
そのほか、有名評論家の本の採点をおこなったり、柄谷行人の代表作である『日本近代文学の起源』の評論としての出来映えを著者自身の基準によって検証したり、また評 -
Posted by ブクログ
『もてない男』(ちくま新書)の続編。前著は、文学作品の中から題材を引っ張ってきて議論を組み立てるという方法で書かれていましたが、今度はより直截に著者自身の考えが語られています。同時に、前著に対して寄せられた批判への応答もなされています。
そのほか、かつてテレクラに電話を掛けたエピソードを告白したり、出会い系サイトや結婚紹介所に出かけたりといった、おもしろいエピソードもあります。前著のような文学談義を求める読者には、不必要なエピソードで水増ししただけに思えるかもしれませんが、個人的には、著者の「完全に分かった上でやってる」のに、あえて呆けて見せるスタイルが楽しめました。 -
Posted by ブクログ
西欧文学や近代日本文学に関する薀蓄を傾けながら、モテない男の立場から、恋愛するのが当たり前のような風潮の現代を生きる苦しさを論じた本です。
各章の末尾に詳しいブックガイドが付されていますが、基本的にはエッセイであり、著者自身が述べているように「義憤」ではなく「私怨」で書かれた本です。「そりゃ、大学教師で本を出してればそれなりに「ファン」はいる。しかし、そういう付加価値がなくて一番切実に異性に飢えていた学生時代にはほんとうにもてなかったのである。その怨恨だけは忘れられないし、これからだってどうなるかわかりはしない」なんて、何だか分かりませんがカッコいいセリフのような気がしてしまいます。
本書