芦辺拓のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
中絶作『悪霊』を読むと確かに『孤島の鬼』級の畢生の大作になりそうな雰囲気がありますね。当時の読者が完結を待ち望んでいたことが容易に想像できます。
序盤の密室殺人、異様な猟奇殺人、奇妙な暗号、乞食の謎、記述の不可解さなど広げすぎた風呂敷のほぼ全てに辻褄を合わせるだけでなく、乱歩の嗜好を真相の核に持ち込み、尚且つ『悪霊』の真の中断動機を荒唐無稽ながら提示しています。半端なデキでは許されなかっただろうし、恐ろしく高かったハードルを芦辺先生は見事に飛び越えたのではないかと率直に思います。
大作家の中絶作に90年の時を経て挑むという偉業と偉大なる大作家へのリスペクト精神に星4 -
Posted by ブクログ
文庫の表からも(=通常の縦書き)裏からも(=横書き)読めて、真相編はその2作品の間に挟まれてるっていう、最高にチャレンジング&店頭で出会ったら購入必至な試みの本作。
こういう作品に出会う為にミステリスキーの末席にひっそりと居座ってますハイ…最高です…。
「いや、章を分けて普通に収録しても別に問題なくない?」
って思ったそこのアナタ。
私も最初ちょっと思ったよ←
いやでも、裏面から読める作品の方は「ネット上にアップされたブログ」っていう設定になってるから、本作に関してはこの仕掛けが実は大成功なんですね。
この仕掛けをせずに通常の体裁を取っちゃうと、この作品の魅力が半減するし、エピロ -
Posted by ブクログ
少し前にブックレビューをたくさん見かけた推理小説で、気になっていた。終戦間際の大阪船場の衰退しゆく商家が舞台。それだけで読んでいて楽しい。一家のメンバーが奇っ怪な殺され方を次々にしていくのだが、和風レトロな時代が合う。御寮人さん、いとさん、こいさん、丁稚、手代、番頭、の世界。赤紙招集、復員兵、憲兵…そこにキャラ濃いめの探偵も現れるんだけど、いまいちなキャラだなと思っていたら…なるほどね。
他の人のレビューを見ていると、探偵役の登場が唐突だとか、ほかのシリーズのキャラクターが出てきてその本を読んでないといまいち共感できないとかあったけど、そんなことはないと思う、単体で十分楽しめた。犯人は何とな -
Posted by ブクログ
時代は昭和の戦時下、舞台は大阪商人文化の中心地・船場。一癖も二癖もある者達が揃った大鞠家の長男に嫁いだ陸軍少将の娘・中久世美禰子。夫が軍医として出征した後、大鞠家に単身残された美禰子の前で繰り広げられる惨劇。
船場商人の気位の高さやお家の跡取り問題を巧みに取り入れながら、緻密に張られた伏線は本格推理小説としての読み応えも抜群。
丁稚、番頭、女子衆、御寮人などにノスタルジーを感じ、独特の船場言葉にどっぷり浸っての謎解き。そこにクリスティやヴァンダインといった外国のミステリも絡めていく展開はミステリ好きにはたまらない。
肝心の殺人のトリックはうまくいき過ぎの感はあるものの、小さな謎のピースが全 -
Posted by ブクログ
明治21年の質屋六人惨殺、しかも密室殺人事件の、法廷ミステリです。この時期の裁判は、未だ被告人を「弁護」することさえ発想の外だった時期でした。筋書きは出来てるので、刑事裁判事件はよほどの重大事案でも1日で結審するのが通常。裁判長が「弁護人、質問をさし許すぞ」とか「黙りおろう!」とか言って、江戸時代のお白洲習慣が引き継いでいた頃です。主人公2人の弁護と探訪記者は困難を極めます。
ただ、如何せん、わたくしが本書を紐解いた訳はミステリ謎解きにはありません。単(ひとえ)に明治20年代初めの大日本帝国憲法発布前夜の日本の姿に個人的に大いに興味を持ったからに他ありません。
市井の趣味人たる私の今の「専