1.著者;五木氏は小説家・随筆家。少年時代は、父親から古典の素読や詩吟を教えられました。小説を読む事を禁じられたので、坪田譲治や江戸川乱歩を隠れて愛読。中学以降は、ドフトエフスキー・ゴーリキー等を読み漁る。「さらばモスクワ愚連隊」で作家デビュー。「蒼ざめた馬を見よ」で直木賞、「青春の門」で吉川英治文学賞など、多数受賞。「大河の一滴」他、仏教に関する著作も多い。
2.本書;五木氏が1999年に書いたエッセイ。構成は5章建て47項目。第一章;人はみな大河の一滴(なぜかふと心が萎える日に他) 第二章;滄浪の水が濁る時(この世に真実はないのか他) 第三章;反常識のすすめ(他人とは違うただ一人の自己他) 第四章;ラジオ深夜一夜物語 第五章;応仁の乱からのメッセージ。あとがきより「私は著しく自分の人間性を歪めてきた・・・。多くの心優しい人達の犠牲の上に、強引に生き延びて母国へ帰ってきたいかさま野郎がこの自分」と。苦労人ならではの言葉、「人間の一生は苦しみと絶望の連続。そう覚悟する事から道は開ける」と。
3.個別感想(心に残った記述を3点に絞り込み、感想と共に記述);
(1)『第四章;ラジオ深夜一夜物語』より、「他の人間と比べて、自分の人生にコンプレックスを持ったり、優越感を持ったりする事は、全く意味のない事ではないでしょうか。・・・普通の人以上のエネルギーや幸運を与えられた(人はその)事をむしろ謙虚に感謝すべきである。そして、僕達はその人達を羨む必要もない。人間は一生、何もせずに、ぼんやり生きただけでも、ぼんやり生きたと見えるだけでも実は大変な闘いをしながら生き続けてきたのだ、というふうに、僕は考えます」
●感想⇒❝262法則(優秀な人=2割 普通=6割 優秀でない=2割)❞は全ての集団に適用するそうです。だとすれば、コンプレックスを持つ人が優越感を持つ人と同程度いるという事です。私はコンプレックスを持って良いと考えます。生きていく上で、人間関係は避けれません。他人より劣っていても良いではありませんか。それをバネにして自分らしい目標を決めて、努力すれば良いのです。目標を達成出来なくても、自分を褒めてあげましょう。そのプロセスに意義があり、きっと人生の肥しになります。過日、新聞である女性の投稿記事を読みました。「中学の時、療養で高校進学を諦めたが、独学で高校と大学を卒業・・・」とありました。そして、「重ねた努力はその後の人生の糧になる。自分の生き様を誇れる人でありたい」と。辛い事を乗越えて、努力する人への応援歌ですね。感動 ❢
(2)『第四章;ラジオ深夜一夜物語』より、「健全なる精神は、健全なる身体に宿る。・・・きちんと朝起きると顔を洗って髭を剃り、一応、服装を整えて髪もなでつけ、顔をあわせると❝おはよう❞と挨拶し、ものを食べる時には❝頂きます❞という人もいる。こういう社会的なマナーを身に着けた人が意外にしぶとく強く、(南極という)厳しい生活環境の中で最後まで弱音を吐かなかった。・・・人間は健康とか体力だけで厳しい条件に耐えられるものでは無い」
●感想⇒「健全なる精神は、健全なる身体に宿る」。その通りだと思います。健全な精神の基本は、❝清潔な身なりを保つ(不快感を与えない)、人に会ったら挨拶する、社会のルールを守る、どんな時でも感謝の気持ちを忘れない・・・❞等を自然体で出来るという事です。常に意識する態度が必要です。「他人に学ぶ、勉強する・・・」気持ちを忘れず、精神面を充実したいものです。健全な身体は、健康に留意して病気にならない。食事に留意し、適度の運動に心掛けましょう。それでも病気を患ったら、滅入ることなく養生しましょう。聞いた話です。近所に大企業の幹部がいるそうですが、「その家族は、町内会の行事に参加せず、道で会っても挨拶しない」。企業の地位が世間にも通用するという思い込み、残念です。マナーは社会人の基本。「他人のふり見て我がふり直せ」ですね。
(3)『応仁の乱からのメッセージ』より、「人間の傷を癒す言葉には二つあります。ひとつは❝励まし❞であり、ひとつは❝慰め❞です。人間はまだ立ち上がれる余力と気力がある時に励まされると、再び強く立ち上がる事が出来る。ところが、もう立ち上がれない、自分ではもう駄目だと覚悟してしまった人間には、励ましの言葉など上滑りしていくだけです。・・・頑張れと言われれば言われる程辛くなる状況もある。その時に大事な事は何か。それは❝励まし❞ではなく、❝慰め❞である」
●感想⇒本で学んだり、人生の先輩から教えられました。「精神的に落ち込んでいる人には、励ましの言葉は禁句、聞き役に徹する事」「相談相手は親族よりも、親しい友人が良い」と。五木氏は「自分ではもう駄目だと覚悟してしまった人間には励ましの言葉など上滑り、❝慰め❞だ」と言います。私は、可能であれば、何でも聞いてあげ、それについては意見を言わず、ましてや❝頑張れ❞と言わない事だと考えます。自分が落ち込んで人と話したくない時に思いました。そっとしておいて欲しいと。相手の状況判断がポイントですね。素人判断せずに専門家に頼るのも良いかも。
4.まとめ;本書はバブル経済の崩壊により、厳しい不況が続いた時に出版。2020年の某社調査で、文庫部門の週刊ベストセラーに輝きました。コロナの蔓延で、社会に暗雲が垂れ込める中、ベストセラー「大河の一滴」が人々に注目された、と言えます。「市場原理と自己責任という美しい幻想に飾られた今日の世界は、ひと皮むけば人間の草刈り場に過ぎない。私達は最悪の時代を迎えようとしているのだ」は現代でも通用します。私達はウクライナ問題を始め、人類の危機に立たされています。疑似平和を謳歌するだけでなく、政治に関心を持ち、将来を考える事も必要です。解説の言葉です。「本書は、不安だったり、自信喪失に陥ったりしている人には効き目のある、人生座右の書」。(以上)