わたしは、いつの頃からか乗り物に乗るのが大好きで、とりわけ列車については、ローカル線に乗ること、雰囲気のある、どちらかというと古ぼけた駅舎に出くわすと嬉しくなり、ご当地の駅弁や駅そばは無理してでも食べたいし、駅スタンプは専用のスタンプ帖に集めているし、乗った切符は「無効印」を押してもらって大切に持ち帰るし、時刻表を意味なく「読む」のも好き。あ、もちろん「撮る」ことも。(線路には入りませんよ!)
しかし、企画モノの特別列車とか、線路の走行サウンド録音とか、最新鋭の車体というメカニック方面にはあまり興味がないのです。
いわゆる普通の生活の中にあるローカル線と、それにまつわる情景が好きな、雑食系のテツだと思います。無理やりどれかに分類するぞ!と言われたら、乗りテツになるのかなぁ・・・
今回、この「有栖川有栖の鉄道ミステリー旅」が文庫で出るまで、先生が鉄道がお好きだとは知りませんでした。有栖川先生の作品は、読書家の友人のおすすめ図書だったので、「おっ、鉄道だ」と気楽に手に取り読み始めました。
しかし数ページ読み進めるうちに、「この人たぶん同類項のテツだぁ~!」といてもたってもいられなくなり、電車の中で読んでいたのですが、興奮のあまり、あやうく乗り過ごすところでした。
読み始めたその時、まさに阪急電車の中にいたのですが、阪急電車の梅田駅から十三駅の情景の素晴らしさについて語られていて、「そう、そうなんですよね!!!」と身震いし、いったいこの感動を誰に伝えたらいいのかっ、と表情は涼しさを保つのに精いっぱいで、心はもう燃え盛っていたのでした。もうよっぽど、周りの乗客や車掌さん(←乗務中だってば)に「ちょっと、ここ読んでくださいよ!!」と伝えまわりたくなりそうでした。
本の内容としては、とにかく「乗ってその空気を味わう」ことに素晴らしさを感じておられるのであろう有栖川先生が、車窓からの高さと幅の視点で
紹介してくださる沿線の観どころ、車内の情景、降車駅でのちょっとした散策といったところがいくつかの路線ごとにまとめられているというもの。それから、とても嬉しかったのは「この鉄ミスがすごい!」として、数多ある鉄道ミステリー作品の中から選りすぐった先生おすすめの鉄道ミステリーがテーマごとに紹介されていること。読書時のポイントなども紹介されていて、これは、リストから数冊携えて、みかん剥きながら寝台列車に揺られて読みふけりたいぞ。(寝台も2012年3月でまた減ってしまうけど・・・JRさん、わたしは寂しいよ。)
有栖川先生がテツ旅に惹かれるのは、地方の、あえてローカル線に乗ることでしか隣あわせる事のできない地元の人たちの生活や会話、駅でのひとこまを愛しておられるからだと思う。わたしも、最新鋭の電車や新幹線でびゅんっと駆け抜けるよりも、めんどくさいローカル線にわさわざ揺られてどんぶらこと行くのが好きだから、仲間が見つかったようで嬉しかったのと、普段の生活で毎日乗る電車やいつもの風景に対して、ここまで温かで細やかなまなざしを向けることができるんだということを教わった気がしました。