小野不由美のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
建物にまつわる怪異を扱う営繕屋・尾端。彼はそれらを“祓う”のではなく、そこに宿る人の記憶や想いに寄り添い、少し手を加えて“繕う”ことで静かに解きほぐしていく。六つの短編を通して、家と人、そして土地に積み重なった時間の気配が描かれる物語集。
1.待ち伏せの岩渓谷で起きた水難事故。崖上の洋館から手招きする女と、窓の外に現れる人影。場所に残る気配が奇妙に交錯する。
2.火焔亡くなった姑の声が、今もなお響く。介護の記憶とともに残る気配は、やがて現実へと滲み出してくる。
3.歪む家理想の家族をドールハウスで再現する女性。作り込まれた“家”の歪みが、現実の空間にも影響を及ぼし始める。
4.誰が袖新しい家で始まる穏やかな生活。ふとした記憶が呼び起こす過去の気配が、今の暮らしに重なっていく。
5.骸の浜海辺の町に流れ着くもの。霧の夜に訪れる不可解な出来事は、土地と水に結びついた記憶を感じさせる。
6.茨姫積み重なった時間と人の想い。絡み合った記憶がほどけていくとき、怪異の奥にあるものが静かに浮かび上がる。
シリーズ三作目となる本作も、やはりこの静かで沁みるような空気感が印象的だった。怪異は確かにそこにあるのに、それだけでは終わらず、その奥にある人の想いや事情が浮かび上がってくる。
特に印象に残ったのは「歪む家」「火焔」「待ち伏せの岩」。不気味さが際立つ話から、人の感情に深く触れるもの、そしてこのシリーズらしい“場所の怪異”まで、それぞれ違った余韻があった。
読み終えて感じるのは、「怖い」というよりも、どこか切なくて、そして優しい余韻。怪異とは、人の記憶のかたちなのかもしれない――そんなことを思わせてくれる一冊だった。
派手な展開はないけれど、だからこそ一つ一つの物語が静かに心に残る。家という場所に積み重なる時間や気配を、これほど丁寧に描く物語はやはり特別だと感じる。
今回もまた、恐怖ではなく、人と場所をつなぐ記憶の物語。静かで、やわらかく、そしてどこか物悲しい。やっぱりこのシリーズの空気感が好きだと改めて感じた。 -
Posted by ブクログ
怪談と言えば小野不由美。
薄気味悪い話と言えば小野不由美。
小野不由美が集めた99の怪談。
ちょっとリアルで気持ちの悪いことを聞いたので手に取った。
ぞおっとして「うわ!さぶいぼ出た!」という話もあれば、「ほうほう・・・」ぐらいの話もあり。
私が好きだったのは「密閉」。
本当に恐いのは生きた人間、ブチ切れ女子よね。きっと霊も「え?え?あー・・・・(今回相手が悪かったね)」ってなったはず。思わず笑ってしまった。
巻末の解説が稲川淳二で、そこにも稲川淳二の怪談があったりして、お腹いっぱい怪談が楽しめる。
この本には99話の怪談が載っていて、百物語には1話足りない。残りの1話は別に出版された「残穢 ー住んではいけない部屋ー」なのだそう。
こちらも読んで百物語を完結させねば。 -
Posted by ブクログ
【短評】
情緒的な筆致で怪異を描いた小野不由美によるホラー短編集の第二弾。
ホラーと言えば厭な気持ちになるのが常だが、本作で語られる六つの「怪異譚」は時に幽美で、時に静謐で、そして時に暖かい。今や遠い記憶の彼方にしか存在しない旧来の町並みに浸りながら、ただひとり静かに読み耽るのが心地良かった。
前作は極端に完成度の高い一作(『檻の外』)が強く印象に残ったが、今作は全体的に秀作揃いで、各話異なる味があり、飽きることが無かった。怪異と相対する人間の内面が緻密に描写されており、種々の怪異と「波長が合う」に足る説得力があったように感じる。単純な「恐怖感」であれば、他作品に軍配が上がるかも知れないが、得も言われぬ読後感は本シリーズ唯一無二のものだと思う。
比喩が巧い。田園にひっそりと佇むアパートを吹き抜ける風を『緑の風』と表現するのには舌を巻いた。情感を引き立てる素敵な言葉に溢れており「嗚呼、綺麗な文章を読んだなぁ」と嘆息する。各話の冒頭と結びの文もきりっと効いており、物語の予感と余韻を素敵に演出している。小説が上手いのよ、この人は。
①芙蓉忌 ★★★★★
壁の隙間から垣間見える芸姑。三味線を爪弾き、髪を梳かし、涙に袖を濡らす。
幽玄な雰囲気が大変に好みだった。「お、これまでと違う趣向だ」と即座に感づく。
個人的には一番怖かった。目が、あの目が凄く印象に残っている。差し出された紐の怖さと美しさったらない。「魔に魅入られる」をあの短さで表現できるのは見事の一言。結びも大変好みである。偶にはこういうテイストも良い。
②関守 ★★★★☆
「通りゃんせ」って怖い。神隠しや異界めいた解釈を挟むと途端に怪談だ。横断歩道のアレが厭という気持ちも良く分かる。子供の頃に立ち返り、何故か怖かったあの帰り道を思い出した。得も言われぬ恐怖と少々のノスタルジィが実に唆る。オチが凄く好きな作品。「怪異」と「良いお話」が共存する展開って大好物だ。
③まつとし聞かば ★★★☆☆
人間ドラマとしては一番好きかな。子供に「死」を伝えられないお父さんのお話。
怪異が結構謎な存在だったのが少々気になった。荒ぶっておられる。それにしても子猫は可哀想である。
④魂やどりて ★★★☆☆
ある種の教訓話。まぁ、そりゃあ懲らしめられるわな。主人公が抱える歪みが良く描けていたと思うが、構成としては日本昔ばなし的なアレである。
⑤水の声 ★★★☆☆
ほんのりミステリィな味付け。弘也の独白が真に迫っていて非常に読み応えがあった。繰り返しになってしまうが、罪の意識をあの短さで纏めることが出来る技巧に感銘を受けた。ミステリィとしては割と古めの型であり、真相にドカンとびっくりする類の話ではないため、するりと終わってしまったのが少々残念だった。
⑥まさくに ★★★☆☆
因果関係が明示されているという意味において、ミステリィとしてはこっちのほうが好み。「成程」となった。頑張ってんな、まさくに。最後の展開が非常に好みで、ちょっと微笑ましい感じが大変に良い。小さくなんのか、まさくに。
突出した作品は無かったが、平均点が高い印象。一方で、個人的には好みの作品が前半に集中していた感があり、もう一作品くらい嗜好のど真ん中を射抜いて欲しかった気もする。
今後とも、緩やかに読み進めていきたいシリーズである。 -
Posted by ブクログ
尾端さんの居る安心感すごい。
出てくるなりホッとする…
すーっと読めて、時折知らなかった言い回しがあって、言葉の美しさ、表現の多彩さを感じながら読み進め、ああやっぱり小野不由美さんの端正な文章は心地よいと思う。ずっと読んでいたい。
すーっと読めるのは、引っ掛かりがなく流して読めるという意味ではなく、文体でつまづかないんだ。起こる出来事に集中させてくれる。
今回ずしっと胸にきたのは、惹句にある尾端さんの言葉だった。
「家に興味がない、ということは、自分を守ってくれる場所に興味がない、必要ない、ということと同義です。実はとても無防備なことなんですよ」 -
Posted by ブクログ
小野不由美のホラーの魅力は、怪異そのものにある。
怪奇現象が起きて「なぜ?」「どうすれば?」から解決に向かうストーリーではなく、怪異そのものに対しての畏れや思念の行方を、怪異に出会った側から見ているに過ぎない。
また、「家に興味がない、ということは、自分を守ってくれる場所に興味がない、必要ないと、ということと同義です。実はとても無防備なことなんですよ」「藁人形を打ち付けた者は、藁人形を人に知られた事を恥辱と思っている」など、怪異に対しての尾端の営繕屋としての見立ては、ホラー好き読者としてはホラーに対する新たな向き合い方を提示してくれる。
怪異が解決される所謂結末はないし、主人公?とされる尾端する端役に過ぎない。ドキドキしながら頁をめくり、「え!ここで終わり?」と肩透かしを食らうことも多い。
だからこそ怪異譚であり、やっぱり小野不由美は面白い。