幸田文のレビュー一覧

  • 包む 現代日本のエッセイ

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    著者のエッセイをまとめた本です。

    本書の表題になっている「包む」という文章では、かつてお菓子屋に務めていたひとが著者のもとをおとずれ、菓子折りを包装紙で包む手順などが昔のままであることを見て、包を受け取ったとたんに心のなかのわだかまりが解けていくのを感じたと語ったことが記されています。そのひとの心のきわめて具体的な動きをつづっている文章ですが、そこに人間の心についての普遍的な理解へと通じる光が差し込まれているように感じられて、どことなく『徒然草』の名人譚を連想させられます。

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    2020年09月05日
  • 父・こんなこと(新潮文庫)

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    父の病臥、逝去の前後とその後。
    娘・幸田文による幸田露伴の記録と想い出の記。
    ・父ーその死ー
        菅野の記 葬送の記  あとがき
    ・こんなこと
        あとみよそわか このよがくもん ずぼんぼ 著物
        正月記 そつ(口偏に卒)啄 おもいで二ツ  あとがき
    巻末の解説は塩谷 賛。文中に登場する露伴の助手、土橋さん。
    「父ーその死ー」では、病で死への道を辿る父と
    それを目の当たりにする娘。死、そして葬送、火葬、葬儀。
    愚痴、怒り、悲しみ、戸惑い、後悔、迷い等々、
    愛憎入り混じった想いが赤裸々に綴られています。
    「こんなこと」では父との思い出。
    14~17,8歳の頃に家事一般を露伴から習う

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    2020年05月25日
  • 季節のかたみ

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    細やかな感受性に引っかかる生活の事柄。この人の手にかかると練り直され、新しい味付けをされ読者に提示される。ゆったりとした気分でないと自分には堪能できないことがわかった。

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    2018年11月16日
  • 流れる(新潮文庫)

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    住み込みの女中である梨花の目を通して描かれる芸者たちの世界。はかなく浮き沈みの激しいその人生を、ぞんざいで愛情ある口調で語りながら、いつのまにか梨花自身の生き様が見え隠れします。

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    2021年06月22日
  • さざなみの日記

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    昨夜は、『さざなみの日記』を読みながら寝落ちした。まあ「落ちる」というよりは「ふんわり着地」したかのような寝つきだったのだけれど。あれが、幸田文の文章のなせる技なのだろう。急かされることのない文章で、それはそれでありがたい。文庫本も十数冊入手済みで、死ぬまで「寝落ち本」を任せられる量だと思う。著者である幸田文は既に鬼籍に入っている人であり、その人の文章に手を引かれて緩慢に死んで行くのだ。「行く」のだから後ろ向きな気持ちは全くなく、焦る道行きでもないので穏やかだ。

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    2018年05月27日
  • 流れる(新潮文庫)

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    芸者の置屋に女中に出た人の話。
    ところどころにでてくる、女のこけかた?や起き方が男に見せる美しさっていうのが、女子会みたいですごくおもしろい。
    主人のおねえさんが姿がよくて所作もきれい、三味線も上手で一世を風靡した芸者さん。その周りにいる芸者たちもみんななんだかんだでかっこいい。花柳界はその狭さがすくえそうな狭さっていうのがおもしろかった。
    あと、みんな誰かをあてにして生きていて、それを歯がゆく主人公は思っているけど、いちばんちゃんとしている蔦次だって、主人公だって、結局流れてしか生きていけないんだなと思う。この時代の女だからっていうのではなくて、人は目の前にあるものでどうにか生きていくんだろ

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    2018年01月04日
  • おとうと(新潮文庫)

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    平松洋子さんが幸田文のことを書かれていた。それで家事や着物について書かれたエッセイを手にしてみたのだが、歯が立たなかった。少し古い言葉が判らなかったのか、僕はこういう凛とした文が駄目なのか、敗北感が残った。

    立ち寄った本屋で見つけた本書。
    何事も蔑ろにしない文章。冒頭の向島の大川の土手の風景。風の感触、姉の自分の感情、弟の心情を慮る内容にすっと引き込まれる。
    作家の父、継母、長女の自分、弟の碧郎の物語。継母の立場や言い分も理解しつつ、納得できない自分の心根を語る。弟や父に対しても、同様。

    不良の仲間に引き入られたり、玉突きやボート等に遊び惚ける弟。何者にもなりたくない人間だったんだろう。平

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    2017年12月01日
  • 崩れ

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    幸田文と言えば、露伴とか着物とかしつけとかのイメージなんであるが、老境になってどういうわけか崩れに惹かれて訪ねて行く。
    今読むと、その格好でいいの?!というような装備で心配にもなるが、崩れの様を表現する目は真摯で細かい。あばれ川や山崩れ、地滑りが、温度のある生き物のように表現される。
    なんだか妙な魅力を持つエッセイ。

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    2017年10月24日
  • おとうと(新潮文庫)

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    ネタバレ

    姉は弟を想い、弟は姉を想う。
    それは偏った愛情ではなく、読んでいてとても美しいと思えるものでした。
    学生時代のやんちゃな弟は、迷惑ばかりかけては姉や親を困らせているけれど、どこか憎めない青年。
    姉は家族を支える縁の下の力持ち。縁の下というより、一家が生きていくためになくてはならない存在。
    弟が結核を患い、姉は身を粉にして看病をする。その献身も虚しく、弟の病状は一進一退を繰り返しつつも悪化していく。ゆっくりとだが確実に最期へと近づいていくある日、弟が姉の島田髷を見てみたいと言い出す。島田髷は当時花嫁がするもの。結核の弟をもち、嫁に行きそびれつつある姉がそれをするのは勇気のいることだけれど、弟のた

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    2017年10月19日
  • きもの(新潮文庫)

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    読み進みながら主人公るつ子は幸田文と重なって思えました。女学校から結婚までの子供から大人になるまで、姉の結婚、母の死、震災を経て少しずつ変わってゆく、るつ子が幸田文の文章で生き生きと描かれていました。
    るつ子は、新しい木綿をきりりと着た。無骨な木綿が身を包むと、それでやっと、いくぶん誇りと自身がもてる。

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    2017年09月17日
  • 流れる(新潮文庫)

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    幸田文『流れる』新潮文庫。

    林芙美子の『放浪記』と河上肇の『貧乏物語』を足したような、日本がまだ繁栄を見せぬ、経済的に未完成の頃を舞台にした女の物語。暗く、じめりとした閉塞感の中に描かれる人間模様は余り好みではない。

    四十過ぎの未亡人・梨花は没落しかかった芸者置屋に住み込みとして女中を始める。花柳界の風習や芸者たちの生態に戸惑いながらも、梨花はそこに起きる事件を極めて冷静な目で観察していく。

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    2017年09月03日
  • おとうと(新潮文庫)

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    私自身弟を思うとその身勝手さに苛立ちを覚え、同時に切なさと愛くるしさとがない交ぜになって泣く一歩手前のような気持ちになる。
    兄には抱かない特別な感情。
    ここまで的確に表現されている作品に初めて出会った。

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    2016年08月21日
  • 崩れ

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    ネタバレ

    崩れを大地の暴力のように感じていた筆者が、「崩れとは地質的に弱いことだ」と言われて衝撃を受ける場面は印象的だった。日本は古来、災害を克服しようとし、災害と共に生きてきた国なのだと実感。
    崩れの痕跡を求めて日本各地をゆくエッセイだと思っていたけど、痕跡ではなくいまなお崩れが続いており、しかもそんな崩れの地は日本各地にたくさんあると知って驚いた。

    崩れなどという行くのに体力もいるような(そりゃ山崩れが起きるような場所ですから…)ものに、年老い体の自由も利かなくなった今になって興味を芽吹かせてしまった因果を嘆く筆者だが、老いてもなお好奇心に満ち満ちている文さんがかわいくもあります。

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    2016年05月08日
  • おとうと(新潮文庫)

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    ネタバレ

    姉と名のつくものは共感して止まない話ではないだろうか。しかも、ちょっと生きるのが下手な弟を持つ身には特に。冒頭の、雨の中傘をささずにぐんぐん歩いて行ってしまう弟の描写からもう引き込まれていった。
    ゲンが碧郎を思うときの、可哀想と可愛いが絡み合って、胸がぐっとつまる感じ。いたたまれない。
    可哀想に思ってしまうことをどうにかしたくて、母にも父にも友達にもなってやりたいと頑張ってしまう。姉にしかなれないことに結局は気づくのだけれど…。ゲンはよく頑張っていた。懸命な姿にもぐっと来てしまった。
    碧郎のした丘の話が印象的だった。身に染みついてしまったうっすらとした哀しみを、拭わないまま死んでしまうことを思

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    2016年04月21日
  • きもの(新潮文庫)

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    最後がなんだか急いだ感じだったけど…
    着物欲がふつふつと。でも洋服も着物も元をたどれば同じだなあと。

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    2015年12月19日
  • きもの(新潮文庫)

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    2015.11.9
    昔の女の人の物語が読みたかった。
    着物に関する用語がわからないから、調べながら読んだ。その当時は誰でも知ってるような当たり前のことが、わからない。当たり前は移り変わっていく。その当時の生活のこまごまに対する考え方や心遣い、今より丁寧な印象を受けた。丁寧だけど、ちょっと面倒くさいかなとも。女の人の生き方の当たり前も本当に変わってきたのだのと思った。

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    2015年11月08日
  • おとうと(新潮文庫)

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    文さんの文筆デビューは43歳と比較的遅い。
    おそらく当時の読者は文さんに、父・露伴を描いた作品を過度に期待したはず。彼女も当初は随筆で、亡父の面影を公けにしていたが、この小説で“満を持して”自分の家族について世に出した観がある。しかし、世間の期待をわざと少しはぐらかすかのように、主人公は父ではなく、弟である。

    この作品で「姉」は、女学生としての弱い姿のみでなく、病気がちで精神的にも不安定な継母に代わり、炊事などの家事をこなし、家族の生活を守る強い姿も描かれている。実際にも、文さんは他人よりも多くの苦労を、持ち前の気丈さで乗り切ったのだろう。だからなのか(意識的か無意識的か)時間を経るうちに心

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    2019年01月07日
  • おとうと(新潮文庫)

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    「洗いざらい云いつくさせてあげて、そのかたからいやなことばを抜いて、お見送りするんです」姉さんへ語る看護婦の言葉。心しておきます。「持っているだけの悪たいをつかしておあげするのがこの職業」とも。心にささります。脳梗塞で倒れ入院しました。自暴自棄で家族に辛く当たったことがあります。心で詫びながら口からは暴言・・・みんなが辛いのです

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    2015年11月04日
  • きもの(新潮文庫)

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    るつ子、みつ子、朝霞ゆう子など、名前がかわいいというか、名前からキャラクターがにじみ出てる。例えば和子とゆう子の名前がもし逆だったなら、なんだか違和感。べつに和子をバカにしてるわけではない、たぶん。

    あとお気に入りの古風な?表現
    ・ふっくら人間が炊き上がる
    ・ねっちりと腹を立てる
    ・大福はわずかに白い取粉を落として…貧しさがちんまりと手のひらに落ち着いていた

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    2015年08月13日
  • 父・こんなこと(新潮文庫)

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    NHK番組「グレーテルのかまど」で紹介されていた幸田露伴と幸田文の関係を見て興味を持ち読みました。

    露伴が亡くなった時の話から始まり、思い出を回想する形式なので、本全体を通してお父様を懐かしむような寂しさと愛おしさが感じられました。丁度自分の父親の病気が発覚したタイミングで読み進めたため、より一層その雰囲気が身に迫る思いでした。

    文豪の父親、というと恐ろしく近寄りがたい人物というイメージがありましたが、この本を読む限り、厳しくはあるものの怖いということはなく、シングルファザーとして子どもと上手に接していたのだなと思います。文豪は世間離れしているという勝手なイメージもありましたが、実学をしっ

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    2015年04月22日