幸田文のレビュー一覧

  • 流れる(新潮文庫)

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    幸田文の当時の復帰作小説です。
    内容としては大戦後のお茶屋の一室から始まるてんやわんや含むその前後の物語です。
    特に大きな事件が連続勃発というわけではありませんが奉公先がたまたまお茶屋だったために発見される視点が中心になっています。
    文章の一つ一つ、言葉の選び方、そこをえがく目と耳がどれもみずみずしく生きた文章になっています。
    生々しいとも違う細かな表現が目に浮かぶような美しさがありました。

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    2024年10月05日
  • 木(新潮文庫)

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    いやこの表紙じゃないんだけどね、わたしの持ってるのは。。
    『PERFECT DAYS』で平山さんが求めてたのと同じやつ(わたしも彼と同じく古本屋で100円で購入)。その表紙のほうが全然かっこいい。

    その昔、幸田文を見つけては買っていた時期があり、買ったものの読んでいなかった作品。上記映画に出てきてびっくりして読んでみた。

    いや面白い。幸田文さんは率直だ。素直だ。そのような姿勢で、感じたことをそのままあぶり出すかのような文章が素晴らしく魅力的だと思う。

    たとえば、「杉」のこんな文章。
    「本当のことを打明ければ、私はおびえていた。おびえているから考えることもなみを外れるし、並外れを考えるから

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    2024年04月20日
  • 木(新潮文庫)

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    人生を共にしたい本
    木の話なんだけど、確実に人間が生きる上で大切なことが書いてある
    「人にも木のように年輪があって…」とかどっかで聞いたような生半可な教えではなかった。若いわたしにはまだまだ分からないような核心があった。時が経ったら読み返して、どんな気持ちになるのか知りたい。

    文字量は多くないが、その分無駄が一切ない。
    こんなに美しい文を久しぶりに読んだ。なんとも言葉では言い表しにくい感覚。
    著者の人格、今まで積み重ねてきた人生を読んでいるような気持ちにさせられる。「尊敬」としか形容できない…
    書末の解説を読んだら十数年かけられて出来上がった作品とのこと。丁寧にひとつひとつ書かれたものなんだ

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    2024年04月02日
  • 流れる(新潮文庫)

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    ミーハー極まり無いけど『PERFECT DAYS』で作家に興味がわいて。

    登場人物たちの日常の、流れるように移ろい行く様を利発な女中の主人公の視点で柔らかく描く。
    舞台となる芸者置屋のちょうど転換期を描いてはいるけど、派手な事件が起きるでも無く、淡々と日常が過ぎていく。

    芸妓の着物や持ち物や化粧の艶やかさ、表情や声色や仕草から溢れる心情、花街の情景が主人公の目を通して鮮烈に綴られて読み手を本の世界へ引き込む。

    主人公の過去は細やかに仄めかす程度で、読み手に想像させる余白のバランスも良い。

    読み進める内に構造や雰囲気に映画と共通するものが見つかり実に興味深いと感じた。

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    2024年03月27日
  • 台所のおと 新装版

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    短いストーリーの中に、人生の機微や細やかな感情の動き、五感を研ぎ澄ませなくては味わえないような描写がたっぷりと詰っていて、読み終わるたびに余韻が残ります。しゃきっと背筋がのびるような文体も美しい。20代の頃に読みかけたままおいてあったのですが、40代の半ばになって改めて読むことができてよかったです。たぶん歳を重ねてからのほうが良さがわかります。

    映画「PERFECT DAYS」で主人公が幸田文を読んでなかったら忘れたままになってたかもしれません。良い御縁でした。

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    2024年01月19日
  • 流れる(新潮文庫)

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    芸者置屋で働くことになった梨花という女性のお話です。華々しい世界の裏側の描写も面白かったし、梨花の心理描写も小気味良いテンポで描かれていて、読んでいて飽きなかったです。筆者の流れるような美しい文章に圧倒されました。とにかく物語の世界に没入できましたし、読んだあとの余韻が凄くて中々現実世界に帰って来れなかったです(笑)

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    2024年01月08日
  • 台所のおと 新装版

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    1960年代に発表された10作品を収録した短編集。
    「台所のおと」「濃紺」「祝辞」「おきみやげ」という4作品が、特に良かった。
    「草履」は、幸田文の作品には珍しく、ですます調で語られる一人称小説。物語の展開も探偵小説っぽく感じた。
    〈食べ物〉と〈病〉に関する物語が多かった。


    幸田文の短編を読むと、村上春樹の「牡蠣フライ理論」のことを思い出す。

    「あなたが牡蠣フライについて書くことで、そこにはあなたと牡蠣フライとのあいだの相関関係や距離感が、自動的に表現されることになります。それは
    すなわち、突き詰めていけば、あなた自身について書くことでもあります。」(『村上春樹 雑文集』)

    幸田文の書

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    2023年09月07日
  • 木(新潮文庫)

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    「幸田文 木」この字面だけでもう、手に取らずにはいられませんでした。

    幸田文さんの名前は知っていても、著書を読んだことはありませんでした。ある時ふとこの本を見かけ、この潔いタイトルだけで引き込まれてしまったのです。
    「幸田文 木」。なんとも気持ちがいいこの字面。シンプルで強くはあるけれど、どこかあっけらかんとした軽妙さもある。これが「高橋和巳 石」とかだったらもう、たとえ文庫本でも函入のハードカバー本のような重厚さがあるでしょう(何を言っているんだ?)

    様々な木との触れ合いを書き、木のあるがままの尊さや、木のある暮らしへの感動を書いたエッセイです。著者の、木への人並みならない想いが伝わりま

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    2023年09月08日
  • 男

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    ネタバレ

     北の国はあらゆることに強さを要求している。覚悟のないものには辛い土地。知床半島、羅臼町。胸もズボンもずぶ濡れ、海の男。すなどりびと。獲る業は荒くとも獲る心は優しい。鮭は4年で産卵に戻る。遡上する鮭の夫妻。その努力と産卵後の結末があまりにいじらしくて正視できないほど。すっかりみじめになり、最後の努力を尽くす。産卵する妻を見守る夫。精根尽きる。死を待つ鮭を「ほっちゃれ」と呼ぶ。幸田文「男」、2020.7発行、20編のエッセイ。1959年「婦人公論」等に連載。冒頭を飾るのが「濡れた男」。漁師の男と牡鮭の話。

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    2023年06月02日
  • 台所のおと 新装版

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    ネタバレ

    幸田文さんの本を読むと、小説家ってすごいんだなと心から思わされる。全話良くて、特に『台所のおと』は自分が間近で夫婦のやり取りを見ているかのようだった。文章としては『食欲』のこの部分が刺さった。

    ネタバレ



    ・光るなんてことは自分一人が光っても、肝腎の自分には明るさを見て楽しむこともできはしない、光は自分から外へ出て行ってるんだもの。みんながいっしょに光ってこそ、こっちから人の明るさを見ることができて楽しいだのに、光るべきはずの一緒にいた人がみんな光らなくされて自分ひとり光らされていれば、光の楽しさはなくて、光らされているだけに身動きもままならないつまらなさ、てれくささ。見当違いに褒められ

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    2023年04月26日
  • きもの(新潮文庫)

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    感傷的なところが全くなく、現実的な考えで成長していく主人公の感度の高さが勉強になる。

    きものは日本人に取ってただの服とは違うんだな、と思う。

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    2023年04月13日
  • 木(新潮文庫)

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    もっとも好きな本の一つ。木の命が、存在が、迫ってくる。これほどつぶさに描ける感受性、表現力、追い求めて全国へ木を見に行く情熱。何年かけても表現する胆力。心から尊敬しあこがれる。

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    2022年10月29日
  • 幸田文 老いの身じたく

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    幸田文...明治生まれの随筆家
    その孫が編纂している...本書

    『しつけ帖』でその文体に惹かれてまた手に取る。

    いい文体です。そしてやっぱり心のひだに入り込み琴線に触れます。
    書かれた当時は現代と違い「老い」を意識する年齢が今よりずっと早い(若い)のもそれぞれのエッセイ一編の最後に書かれた時の年齢が載せてあるのも興味深かった。

    なんていうのかなぁ〜
    心に秘めた、何かいい意味での塊がちゃんとあって、それを通して見聞きして感じたもの、自らの体験をこれまたしみる文章で書かれていて...なんだかとっても「人」なんだよなぁ〜と感じてしまう。
    もしかして、これてファンなのかなって...思ってしまう(

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    2022年09月01日
  • おとうと(新潮文庫)

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    ネタバレ

    読みおえたばかりで、もう悲しさにじわじわと打ちのめされてます。人は皆いつか死ぬもので、家族とも永遠に別れる日が来るなんてことは、頭では納得していても、実際に迎えるそれは果てしなくしんどいものだというのを強制擬似体験させられてしまったような気分です。文章の密度が尋常じゃないレベルです。幸田文おそるべし。

    『みそっかす』ではシモヤケとおねしょでベソをかいていた碧郎さん(一郎ちゃん)がこんなふうに青春を生きて、いっぱしの口を聞いて、ボートやビリヤードなんか嗜んだりして、若いまま最後を迎えたんだろうかと思うと、なおさらしみじみ悲しくなります。

    『みそっかす』には登場する長女も子供のうちに亡くなった

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    2022年07月30日
  • 台所のおと 新装版

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    日本での婦人参政権が得られたのは戦後の1945年、GHQの指示のもとに叶えられた。
    戦後、夫人にも参政権が与えられたからといって、ガラリと社会状況が変わるでもなく、多くの女性は家庭内にとどまるのが常だった。
    今の時代、女性の社会進出は目覚ましいものがあるのだが、果たして女性の役割分担は昔に比して軽減されたのか、甚だ怪しい様相が伺える。
    反面的に子供側から考えると、私の幼少の頃の方が母親との接点は明らかに多かったように思えるのだ。
    この一冊を読むと、否応なく昭和の文化感、生活が想い出されてしまったのだ。

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    2022年07月07日
  • 流れる(新潮文庫)

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    めっちゃ面白い。
    それからすごく不思議。
    1955年に書かれた小説なのに、すごく今風っていうか、
    なんかね、すんごい面白いお姉さんのツイッター見てる感じ。
    何十年も昔の小説だなんて思えない。

    ……って考えてたら、高橋義孝先生の巻末の解説でちゃんとした文章で説明されてた笑
    「文字によって構成される文章というもののロジックではなしに、話される生きたことばのロジックに従って文章となったというのが幸田さんの文章である。」
    それそれ!!!

    多分ね、生のことばで書いてあるから、古い感じがしないの。
    すっごく新しいの。
    今も昔も、人間の思考回路なんてそう変わんないんだなって感じする。

    しろうとの主人公

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    2022年01月15日
  • きもの(新潮文庫)

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    ルツ子の気の強さや負けん気な子ども時代から姉の行動をみて繊細な心も持ち合わせている。
    近所の人からは不幸な子と思われていたみたいだが本人はそうとらえてはいないところからも負けん気があふれている。それを祖母はルツ子の性格から先回りして助言、手助けしてたしなみを教えていた。祖母の言葉は今の自分にも当てはめれて、重さを感じる。
    他の作家の暗さがない自伝でこの人のを集めればよかった。
    と思うのはまだ一冊しか読んでないからかも知れないが。。

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    2021年10月03日
  • 台所のおと 新装版

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    21.09.16~09.27
    やっぱり、日本語の使い方が美しい。
    こんなに素敵に日本語を使えたら、世界が変わるだろうな。

    心がすっとして、すがすがしくなる。しばらくの間は、きれいに言葉を使おうと思う。

    すぐに雑な表現になってしまうけど。

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    2021年10月01日
  • 月の塵

    購入済み

    想いは月にまで

    筆者の小説・エッセイでは、身近でありふれた題材を繊細で新鮮な視点で垣間見ることができるので楽しい。遠い宇宙空間でさえも筆者の世界に取り込まれてしまうのが、筆力のなせる技なのだと思う。

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    2021年08月21日
  • 父・こんなこと(新潮文庫)

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     幸田文さんの父、幸田露伴氏は戦中の大空襲以来、寝たきりになってしまわれた。寝たきりでもそれ以前の規則正しい生活は変わらず、毎朝同じ時間に目覚められて、すぐに文さんと娘の玉子さんが、洗面の用意をし、煙草、ほうじ茶、朝食、搾りたての牛乳、新聞を決まった順番に用意するなど、厳しいお父上の看護はなかなか大変だった。
     いよいよ重篤になられたのは、戦後二年目の昭和22年の夏だった。ある朝血を吐かれ、それを見て文さんは、いよいよお父様に死が迫ってきたと確信した。
     急いで親しい人や、医者に知らせなければとあたふたとする。今のように携帯どころか、固定電話もないので、電車に乗って呼びに行く。猛暑の夏でただで

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    2021年02月17日