【感想・ネタバレ】おとうと(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

高名な作家で、自分の仕事に没頭している父、悪意はないが冷たい継母、夫婦仲もよくはなく、経済状態もよくない。そんな家庭の中で十七歳のげんは三つ違いの弟に、母親のようないたわりをしめしているが、弟はまもなくくずれた毎日をおくるようになり、結核にかかってしまう。事実をふまえて、不良少年とよばれ若くして亡くなった弟への深い愛惜の情をこめた看病と終焉の記録。(解説・篠田一士)

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ネタバレ

読みおえたばかりで、もう悲しさにじわじわと打ちのめされてます。人は皆いつか死ぬもので、家族とも永遠に別れる日が来るなんてことは、頭では納得していても、実際に迎えるそれは果てしなくしんどいものだというのを強制擬似体験させられてしまったような気分です。文章の密度が尋常じゃないレベルです。幸田文おそるべし

『みそっかす』ではシモヤケとおねしょでベソをかいていた碧郎さん(一郎ちゃん)がこんなふうに青春を生きて、いっぱしの口を聞いて、ボートやビリヤードなんか嗜んだりして、若いまま最後を迎えたんだろうかと思うと、なおさらしみじみ悲しくなります。

『みそっかす』には登場する長女も子供のうちに亡くなったのを考えると、これも持って生まれた虚弱体質と巡り合わせの結果だとは思うのですが、やはり、継子ゆえの不幸という気がどうしてもしてしまいます。

いくらリューマチ病みの晩婚後妻だったとしても、義母は家庭を放置しすぎです。せっかくの信仰も現実逃避の手段にしかなってないし、長女に家事だけでなく弟の世話まで丸投げとは何なんですか。主人公げんは今で言うヤングケアラーじゃないですか。この奥様の大人としての責任はどこに行ったんでしょうか。

そもそも父親も父親です。息子が結核で倒れてからは湯水のごとくお金を投入してましたけど、その前に女中さんを雇うなり何なりできなかったのか、本気出すのが遅すぎると、他人の家なのに不思議なほど文句が出てきます。

ただ、碧郎本人は、悪戯っ子精神のままに人生を冒険し、楽しんでもいたように読めました。たくさんの人たちと交流して、最後の最後まで人に囲まれ、美味いものを食べ、家庭は機能不全だったとしても、皆から愛情こめて面倒を見てもらえて、一度も他人からこき使われる事もなく好きな事を好きなだけやれた人生だから、ぜんぜん不幸ではないと思います。どこまでがフィクションで、どこまでが思い出なのかは不明ですが、きっと幸田文さんが書くように精いっぱい生きた人だったんでしょう。

変な男につきまとわれていた姉を、弟がご近所パワーでもって守ろうとするあたりがとても微笑ましかったなぁ。ほろり。

今もまだ、げんと共に、真っ赤な扇子を握りしめたまま呆然と立ちすくんでるような気分です。

なんというか、あまりにも描写力が高すぎるせいで、読み手を客観的なスタンスではいられなくさせられるくらいすごい作家なんだと改めて思いましたし、結核は本当にヤバかったんだなと実感を持てました。ちょっと無理な姿勢をしたり、笛をふくだけで肺が崩れるなど、想像するだけで気分が悪くなりそうです。

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2022年07月30日

Posted by ブクログ

他の作品にも言えることだが、女主人公はいつも大人である。家庭の不和の中でも自分の役割を全うしようとするが、年幾ばくも無いため至らぬ点にしばし気づかされるものの、そこで拗ねたり開き直るのではなく、ただただかくあろうとする姿勢で困難に立ち向かっていく。病気を理由に家事をしない義母の代わりをし、自分が弟より重要視されていないと理解しながらも、父や弟に誠実に接しようとする姿は、現代に生きる自分自身の子供っぽさとは対極だった。拗ねて、怠けがちで、他人のせいについしてしまう自分。
気が利きすぎる主人公は心休まる時は少なかったかもしれないが、人間の尊厳・美しさを見せてくれた。

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2017年01月27日

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姉とおとうと、おとうとと義母、姉と娘、父と娘、ひとつひとつの関係性がとてももどかしい。
この物語には器用な人間は登場しない。全ての人間が不器用で、意地悪で、悩んでいる。が、そこに僕はこの小説の愛嬌を感じる。
読み進めながら途中、読むのを辞めたくなる。あまりにも日本文学的な、べったりとした描写、物語。半分くらい読んだところでそれらを全部ペリペリと剥がしたくなってしまうのだ。
だがこの本を読み終えたとき、その煩わしかったもどかしい登場人物やうざったい物語を、抱きしめたくなる。
あまりにも鮮やかで、読者にありありとした風景を想起させる描写は、この小説のあり方をも示しているのかもしれない。

幸田文は、日本文學を語るうえで若干軽視されてる感が否めない。
しかしこの小説を読み終えたとき、僕らは彼女を、芥川や太宰、川端などと並ぶ文豪てあると評価せざるを得ないだろう。

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2015年04月22日

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美しい日本語の中に、力強さがある。

どんな不良になっても、弟はやはり弟である。

おとうとを愛するが故にとってしまう行動、そして生まれる哀しみを身にしみて感じた。

ひとはあたたかい。

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2011年12月24日

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姉の気苦労が絶えなかった。
家族はバラバラ。無関心な父、キリスト教徒の継母、結核にかかる弟。
そして私がなんとかしなければと必死に家族を思っている主人公の姉。
悲劇的物語と感じる程ではなく、それぞれの関係性、状況が物語の進行と共に良くも悪くも変化します。

作者の幸田文は、文章が流麗で読みやすいものが多いので他の作品などもおすすめです。

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2025年05月17日

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関東大震災(1923年9月1日)前後の東京を舞台に姉と弟の日常が描かれています。女流作家・幸田文はその時代の空気を丁寧にすくい上げています。

昭和のはじまりを知ることができる名著として、また産業革命と共に広まった結核の猛威を垣間見れる作品としてもオススメ。

初出は1956年1月から九ヶ月間に連載された「おとうと」。私が手にした文集は1959年の活字印刷。旧仮名使いが続出するのでGoogle検索を多用しました。それでも読みやすく、さすがの文学家系でした。

印象に残るのは、主人公の姉は結核を患う弟と喫茶店でアイスクリームを注文する場面です。その直後に写真館で肖像を残そうと姉に提案する罹患者の孤立は、2020年のコロナにも重なる日常でした。

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2025年04月08日

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昭和でも大正の香りがする風景のお話。やんちゃな弟に手を焼きながらも愛情を注ぐ姉。継母と姉弟の描写が切なくて時代かなと思いを馳せる。
弟の奔放さにこのお話の展開が…と思っているとこの時代の大病に臥せて終焉。

檸檬に似た感覚を覚えた本で、続けて幸田文を読みたいと思う。

追記
解説は篠田一士
この解説で幸田文が幸田露伴の息女と知った。
成る程、文章を読むごとに景色が広がるはずだ。
益々気に入った。

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2025年02月13日

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某所読書会課題図書:碧郎を姉のげんが見守る物語だが、少しやんちゃな弟を病気で活動があまりできない母の代わりをしている感じだ.いろいろな事件が起こるが、男の子がよくやるかっぱらいを契機に不良仲間と付き合う碧郎.げん自身が疑われた万引き事件での彼女の警官に対する態度は素晴らしいと感じた.碧郎がキリスト教系の学校を退学処分になり仏教系の学校に入り、大人らしくなりつつある弟を冷静に見つめるげん.ほどなく弟が結核にかかっていることが分かり、母に代わって看病をするげん.当時満足な治療方法が無かった病気だったので、医師も時間を引き延ばして、何とか生かしておくことしかできず、次第に衰弱していく碧郎.げんの看病で碧郎は満足して旅立ったと感じた.げんの強さが根底に流れるストーリーだと思う.

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2024年06月14日

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弟を中心として家族4人の関係を描く。家族とは良いとか悪いとかではなく、とにかくそこにいるもの

はじめは少しくどい心理描写に退屈するかとも思ったが、文章自体の歯切れが良いのにも救われ、読むにつれ引きこまれた。ストレートで胸に迫る

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2024年05月11日

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中学校の国語の授業で一部分だけ、読んだ記憶があります。その時は、若くして病死する弟という、現代では稀有なストーリーで昔話としてしか捉えていませんでした。
アラフィフになった現在。私にも弟がいます。二人姉弟です。今は、各々の人生を生きる立派なオッサンとオバチャンです。
そんなオッサンの弟がもし亡くなったら、やっぱり考えられません。親を亡くすのとは、違うだろうな、中学生の頃とは、全く違う読後感に襲われてました。

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2024年03月25日

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ネタバレ

主人公げんの責任感の強さと愛情深さ、人それぞれがおかれた立場を汲み取る理解力に感心させられる。小説執筆に没頭し、常日頃家族を親身に顧みない父、形ばかりで母親らしい愛情を注げない継母、そして自分の居場所を探し、自由奔放に振る舞うおとうと。げんは、若さゆえになぜ自分を二の次におかねばならぬのか、不満に思いながらも、父、継母、おとうとのおかれた立場や性格を思い、自分しかいないと奮起し、家事や継母の使い、おとうとの面倒を見続ける。読んでいるこちらが焦ったくなるほどの責任感だ。なかでもときに本音を唯一ぶつけられる3つ違いのおとうと・碧郎の不安定さを危惧し、目をかける。碧郎の危なっかしさに、冒頭から不穏な気配を感じざるを得ない。主人公はげんだが、ときに碧郎目線で語られることで、碧郎の危なっかしさが引き立つ。そんな人間模様が展開される景色の描写は、どこか世の厳しさや物悲しさを感じさせる。しかし、これだけの悲壮感を漂わせる要素がありながら、なぜかその先に希望があるのではないかと思わせてくれるから不思議だ。読んでいても悲劇物語だとは思わない。そこには、げんの強さ、さらなる成長、碧郎の持ち合わせた楽観さ、さらには充分な愛着をそそげていないように見える父や継母なりの愛情や気持ちを、げんが汲み取れていることにある。それが滅入るような話に落ち込まないよう、思いやりと強さに引っ張られているからなのだと気づく。その心情をみごとなまでに言語化していて、共感したり、そういう考え方があるのかと教えられたりした。

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2024年03月25日

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久方ぶりに手に取りました。
実話をベースにした話のようですが、家族間の言ってみれば甘えを責めるわけでもなく、ただ淡淡と描き切ってます。いやぁ、文章が上手いことも相まってかもですが、じわじわと真綿で締めてくる感じ。
この間観た映画でもっと評価されるべき作家とのセリフがありましたが、当方ごときも本当にそう思います。

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2024年02月25日

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高校生の頃ぶりに読み返した。

冒頭の雨の描写から、なんとなくこの姉弟の今後には、暗い影が差し掛かるのでは、と察しがつく。
でもその中で弟の碧郎は、冒頭で見せる姉を思いやる心を終始持ち続ける。

ひとつの映画を見ているように、華美なところのない、写実的な文章だと思う。

げんが両親や弟に対してやるせない気持ちを持ったり、次の瞬間には同情していたり、家族というのはそうやって互いにいろんな感情を持ち続けるのだろうな。

高校生の頃、たしか長期休みの課題図書のうちの一冊だった。
なんとなしに読んでぼろぼろ泣いて、その勢いのまま感想文を書き、国語の担当教師から「そんなふうに心を動かされる本に出会ってもらえてうれしい」とコメント返しがあったのをよく覚えている。
二度目に読んでも碧郎の最期は悲しくて、ベローチェで目をうるうるさせながら、後半は一気に読み終えた。

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2023年09月18日

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実話をもとにしたお話。

父親、クリスチャンの継母、3歳下の弟の面倒を見る姉。
継母は、弟に興味がないのか?ってかくらい冷たい。

弟が不良と呼ばれるようになったりしたものの姉と弟の関係は微笑ましい。
継母はリューマチで家事ができず、17歳の娘に家事をさせる。
姉と言うより母親だ。
姉が弟の面倒を見るが最後は結核に侵され看病し、看取る。
弟は姉が結核患者を看病しているから嫁に行けないのでは?とか心配する優しい。
継母は不器用な人間であったが冷たすぎる。

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2022年06月24日

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 これは、幸田文さんご自身とご家族のことを小説化したと思われる。
 生母が早く亡くなり、文豪の父親(幸田露伴がモデル)と継母とげん(文さんがモデル)と弟の碧朗の四人家族。父と継母の仲は上手くいっておらず、継母と子供たちも折り合いが悪い。継母は何とか母の役目を果たそうと努力はするが、げんと碧朗のことをどうしても好きになれないのを隠せない。その上リューマチで家事が出来ない継母に代わってげんが女学生の頃から家事を任されている。
 碧朗は中学生になり、不良仲間に入れられ、どんどんグレていくのだが、げんはそれを一番近くで見て知っていても、父と継母には気を遣い相談することが出来ない。碧朗は万引きをして警察沙汰になり、退学して別の学校に転学後、どんどん遊び人になっていくのだが、父親はどうすることも出来ず、碧朗に言われるままに金を出してやる。幸田露伴は文さんには厳しく家事を仕込んだらしいが、息子には弱かったらしい。げんは碧朗が荒れていくのを悲しい思いで見つめながら、親が何も出来ないのを歯がゆい思いでみている。
 そんな家庭だから碧朗の体調が悪くなっているのを家族たちは気づかず、医者に行ったときには、相当進行した結核だった。
 不和な家庭の中で三つ違いの弟に母のような気持ちで寄り添い、それを疎ましがられながらも、最後には自分の縁談を諦めてまで結核の弟の看病をし続けた、げん。家事も弟の看病もげんに任せきりの父親。リューマチと二人の子供への心の距離から碧朗にもげんにも寄り添えない継母。げんはその真ん中に立って、娘として姉として実質主婦として必死で家族を支えていた。
 幸田文さん、厳しい娘時代を送られていたのだなあ。不和な家庭の中での唯一人の姉と弟の絆。微妙な年頃で不良化し、姉から離れていく弟をときには取っ組み合いのケンカもしながら見守り、病気になられれば疎ましがられながら面倒を見、最後には甘えられて、信頼されて看取った。
 どんなフィクションよりも文さんの実話を元にしたこの小説を文さんの素晴らしい筆致で書かれると、心にずっしりきた。
 幸田文さんの文章はパリっと糊の効いた浴衣のように清潔感があり、美しく、凛として、そして江戸っ子気っ風のようなものを感じるが、それはお父様から譲り受けた文才だけではなく、この小説のなかの“げん”と同じ芯の強さと厳しかった家庭環境と、それでもやはり良家の人が持つ美意識から育てられた文才なのだなと思う。

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2022年04月29日

Posted by ブクログ

平松洋子さんが幸田文のことを書かれていた。それで家事や着物について書かれたエッセイを手にしてみたのだが、歯が立たなかった。少し古い言葉が判らなかったのか、僕はこういう凛とした文が駄目なのか、敗北感が残った。

立ち寄った本屋で見つけた本書。
何事も蔑ろにしない文章。冒頭の向島の大川の土手の風景。風の感触、姉の自分の感情、弟の心情を慮る内容にすっと引き込まれる。
作家の父、継母、長女の自分、弟の碧郎の物語。継母の立場や言い分も理解しつつ、納得できない自分の心根を語る。弟や父に対しても、同様。

不良の仲間に引き入られたり、玉突きやボート等に遊び惚ける弟。何者にもなりたくない人間だったんだろう。平凡や平和がうっすらと哀しくてやりきれないという。そして姉のげんは自分にも通じるものがあると理解する。

文さんは露伴から厳しく家事全般を仕込まれたと聞いていたが、本書の父はそんな厳格さはない。弟が遊ぶ金をこっそり渡しているし、学問をするでなし仕事に就くでないフーテンを許している。碧郎の発病でも医者の元に自分は足を運べない。子供に対する愛情が感情がカラ滑りしているよう。足が地に着かない息子の気持ちが判るし、しっかり者の長女に頼ってしまうのも納得してしまった。

強くグイグイと押してくる文章だった。するするっとは読めなかったが、名文家だと思う。
読み切れなかったエッセイや露伴の本も挑戦しようかな。

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2017年12月01日

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ネタバレ

姉は弟を想い、弟は姉を想う。
それは偏った愛情ではなく、読んでいてとても美しいと思えるものでした。
学生時代のやんちゃな弟は、迷惑ばかりかけては姉や親を困らせているけれど、どこか憎めない青年。
姉は家族を支える縁の下の力持ち。縁の下というより、一家が生きていくためになくてはならない存在。
弟が結核を患い、姉は身を粉にして看病をする。その献身も虚しく、弟の病状は一進一退を繰り返しつつも悪化していく。ゆっくりとだが確実に最期へと近づいていくある日、弟が姉の島田髷を見てみたいと言い出す。島田髷は当時花嫁がするもの。結核の弟をもち、嫁に行きそびれつつある姉がそれをするのは勇気のいることだけれど、弟のために晴れ姿を見せてあげる描写に心打たれました。ねえさんと、鍋焼きうどんをつつきたいとか、十二時にちゃんと起きれるように手首にピンクのリボンで結んで繋いでおくとか、これほど以上に率直で深い愛などあるのでしょうか。
愛には色んな形があると言いますが、夫婦愛でさえも、到達しがたい域ではないかと思いました。
最期のことばは、ねえさんがいる。ずっと見守ってくれたねえさんに見守られながら、眠っていった物語の中の弟は、きっと天国へ行けたと思います。
題名の「おとうと」。おなじ言葉でもひらがなで記すと、より温かみのある言葉になりますね、日本語って不思議です。

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2017年10月19日

Posted by ブクログ

私自身弟を思うとその身勝手さに苛立ちを覚え、同時に切なさと愛くるしさとがない交ぜになって泣く一歩手前のような気持ちになる。
兄には抱かない特別な感情。
ここまで的確に表現されている作品に初めて出会った。

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2016年08月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

姉と名のつくものは共感して止まない話ではないだろうか。しかも、ちょっと生きるのが下手な弟を持つ身には特に。冒頭の、雨の中傘をささずにぐんぐん歩いて行ってしまう弟の描写からもう引き込まれていった。
ゲンが碧郎を思うときの、可哀想と可愛いが絡み合って、胸がぐっとつまる感じ。いたたまれない。
可哀想に思ってしまうことをどうにかしたくて、母にも父にも友達にもなってやりたいと頑張ってしまう。姉にしかなれないことに結局は気づくのだけれど…。ゲンはよく頑張っていた。懸命な姿にもぐっと来てしまった。
碧郎のした丘の話が印象的だった。身に染みついてしまったうっすらとした哀しみを、拭わないまま死んでしまうことを思うとたまらない気持ちになる。

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2016年04月21日

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文さんの文筆デビューは43歳と比較的遅い。
おそらく当時の読者は文さんに、父・露伴を描いた作品を過度に期待したはず。彼女も当初は随筆で、亡父の面影を公けにしていたが、この小説で“満を持して”自分の家族について世に出した観がある。しかし、世間の期待をわざと少しはぐらかすかのように、主人公は父ではなく、弟である。

この作品で「姉」は、女学生としての弱い姿のみでなく、病気がちで精神的にも不安定な継母に代わり、炊事などの家事をこなし、家族の生活を守る強い姿も描かれている。実際にも、文さんは他人よりも多くの苦労を、持ち前の気丈さで乗り切ったのだろう。だからなのか(意識的か無意識的か)時間を経るうちに心のフィルターで自分の少女時代を“純化”し、過去から守っているように思える。

例えば、弟が中学校で、ちょっとしたアクシデントで同級生にけがを負わせてしまう。弟は故意ではないと主張したが、周りは弟がわざとやったと思い込み、弟は孤立する。姉は、元々明るく屈託のなかった弟を信じるが、弟自身には、姉の純化された記憶とはまったく違った心の動きがあったはず。

確かに純化した自分自身と、自分を軸とした家族との位置関係はよく描けている。だが弟の心理描写は「女性視点」から見た男子の姿、すなわち文さんの心に映った“鏡像”の描写にとどまり、弟の精神的成長の動機を含んだ描写に、今ひとつ踏み込めていないのでは、と感じた。
男子の思春期にみられる精神的成長は、女性が想像できない複雑な過程をたどるもの。それがこの作品では「姉から視点」が勝ちすぎていて、不十分に感じる。私は男だから、そういう偏った女性視点に対しては、厳しい言い方をしてしまう。

「三つ違いの姉になど母親の愛はもてないものだ、と言われたのを痛く想いかえす。」のような、弟に対する自分自身の心象表現は、すごく光ってるのに…

だから、家族の絆が描かれた“仲良し”小説が好きならば本作品は気に入るだろう。でもドストエフスキーのような、一般的な家族像を超越した人間存在そのものを深く描く小説が好きならば、ちょっと食い足りないかもしれない。
(2010/6/9)

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2019年01月07日

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「洗いざらい云いつくさせてあげて、そのかたからいやなことばを抜いて、お見送りするんです」姉さんへ語る看護婦の言葉。心しておきます。「持っているだけの悪たいをつかしておあげするのがこの職業」とも。心にささります。脳梗塞で倒れ入院しました。自暴自棄で家族に辛く当たったことがあります。心で詫びながら口からは暴言・・・みんなが辛いのです

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2015年11月04日

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主人公である「げん」と、弟の碧郎、父親、継母の、四人の家族の物語だが、それよりも「げん」の姉としてもあり方、母の代理としての在り方、若い娘としての在り方など、とかく「女」を感じさせる作品だった。
だからか、どんどん「げん」に感情移入していった。感情的になっているかと思えば、ふと冷静になる「げん」の思考の揺れも面白かった。

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2013年03月13日

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弟に世話を焼く姉がいじらしかった。弟がグレてしまう理由が書かれていたが、大抵の不良はこういう理由でグレてるのではないかと感じた。(勝手な思い込み)
泣けると聞いていたが、じんわり程度であった。
評判通り、文章はとても綺麗だった。

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2013年01月28日

Posted by ブクログ

文士の父、継母、不良の弟。そんな家庭の中で、病がちの継母に代わって家事を切り盛りし、弟の世話をするげん。女性のもつ真の強さとやさしさで、彼女にかなう人はいるのでしょうか。弟を看取った彼女に、彼女自身を守ってくれる男性があらわれますように。

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2021年06月22日

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幸田文の小説。

以下ネタバレ



ストーリー的には、ひどい話。

お父さん、作家、大黒柱、あまり収入はよくない、家事は全くやらない、家政婦を雇う余裕もなし。

お母さん 子供たちの実母の死去後、再婚で入った継母。クリスチャン、プライド高い、リュウマチが痛くて家事ができない。 母親の自覚あまりなし

長女(主人公)高校生。家事のできない継母に代わり、炊事洗濯、衣類の世話、買い物、父母のお使いまでこなす。弟が発病後は弟の付き添い婦として病院に寝泊まり。

弟 中学を友人トラブル、万引きで退学になる。別の学校に転校するも自主退学、ビリヤードや乗馬、モーターボートなど娯楽にうつつを抜かし、19歳で結核を発症、寝たきりとなり1年余り後、死亡。


父は人格的には立派であり家族への愛もあるが、子供の世話や家計、家政については全く疎い。結果、長女がヤングケアラーとして犠牲になっている。

再婚の妻が家事に全く貢献できず、子育てにも向いていない女性だったのが決定的にアウト。こんな後妻、返品すれば良いのに。具合が悪くて寝てばかりで、娘にも息子にも愚痴や文句ばかり。全くこの家族の疫病神としか思えない。
しかしもしも、継母が体が丈夫で優しくて、家事をバリバリこなす人だったなら…弟もちゃんと傘さして学校に行けて,お弁当もちゃんとしたものを作ってもらって,学校トラブルがあっても乗り越えて…この小説多分書けなかっただろう。

長女…学業と家事と奮闘し,結核感染の恐れがあるのに弟の病院に寝泊まりさせられ、この子の父母は本当に情けというものがない。すべて彼女が犠牲になっている。
縁談も断り,おそらく学校も中退ではないか。あたかも彼女のことを美談のように扱っているが,今なら人権問題。

弟。 なんか一家の一番弱いところを代表するような人生。学校でも問題児にされてしまうところに運のなさを感じる。母親にも早く死なれ,家族の幸にも薄く,何もいいことない人生。





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2025年11月16日

Posted by ブクログ

肩身の狭さ。
家族のあれこれによる肩身の狭さと、理不尽さが、げんを押し潰し続ける前半だった。うってかわって後半は、献身的に弟を看護するげん。そのコントラストが、げんの姿をいきいきと見せてくれた気がした。

*言い掛かり、赤い花、縁談、結核

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2012年10月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

最初は独特な文体に戸惑ったものの、すいすい読み進めることができ、すぐに読み終わった。ただ、ところどころに日本語の破綻がみられる上に、最後の締め方がやや強引だったので素直に素晴らしいとは言い難い。しかし文章はきれいだし、女性らしい細やかな感性が感じられてよかった。主人公のげんは作者と重ね合わせて描かれているようだが、自伝的小説というにはうまくいきすぎている部分が多い気がする。物語の大きな転換点は碧郎が童貞を喪失するところだが、そこからいきなり2年とんだのには驚いた。遊びがなくなって性欲が抑制できなくなったのだと思う。それについてはちょこっと本文で触れられていた。それからの2年間は書くにも値しないということだろうか。平凡な2年間が過ぎた後にいきなり碧郎が結核になっているのだから読者は驚いてしまう。また、父親(幸田露伴)の影の薄さも印象に残った。
だらだら書いたけれど、全体としてこの本は面白かったと思う。

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2012年04月29日

Posted by ブクログ

私、この方が書く本が大好きです。

家族同士の距離って、やっぱり近い様で遠いし
遠い様で近いなぁ。

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2012年01月16日

Posted by ブクログ

冒頭の文章がすごくきれいで
一気に引き込まれた.
著者の実体験を基にした内容だが,
いろいろな描写がリアルで当時の生活を
感じることができた.

最後に弟は結核で亡くなってしまうが
最後まであたたかい目で弟を看病し続け―自分も感染するかもしれないのに

ただの兄弟愛ではないと思った.

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2011年11月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

間近に同じ年頃(中学生)の男の子を見ているもので、次第に「不良」になっていく碧郎の姿に、切ないものを感じた。現代でもそうかもしれないが、そういう道に追い込まれてしまうのは、少なからず周りにいる大人たちに責任がある気がした。
にしても、わずか3つ上なのに、母親のように弟を見守る(後半では、看守るといえる)姉のいじらしさ、けなげさ。だからといって決してきれいごとだけではなく、複雑な胸の思いが綴られていて、胸に迫るものがあった。

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2013年04月16日

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