幸田文のレビュー一覧
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日記作品。明治を代表する人物「幸田露伴」、その寂しい晩年をみまもる娘の日記。だけどとてもみずみずしい。 「みずみずしい」なんて表現はきらいだけど、この文章には「みずみずしい」ってことばがとても似合っている。どの辺りがみずみずしいかって、作者のきもちがころころ変わっていくところ。たとえば死にゆく父を介護していても作者のきもちはゆれうごく。泣いたかと思ったら、次の瞬間には笑ってる。一日の気持ちの移り変わりをそのまま文にしている。 こういうのって、なかなかできない。だいたい「死」を前にすると、たいていの作家はなにか重苦しいテーマを書いてしまう。だけどこの作者はそんなの書いてない。じゃあ何を書いてる
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幸田文の小説。
以下ネタバレ
ストーリー的には、ひどい話。
お父さん、作家、大黒柱、あまり収入はよくない、家事は全くやらない、家政婦を雇う余裕もなし。
お母さん 子供たちの実母の死去後、再婚で入った継母。クリスチャン、プライド高い、リュウマチが痛くて家事ができない。 母親の自覚あまりなし。
長女(主人公)高校生。家事のできない継母に代わり、炊事洗濯、衣類の世話、買い物、父母のお使いまでこなす。弟が発病後は弟の付き添い婦として病院に寝泊まり。
弟 中学を友人トラブル、万引きで退学になる。別の学校に転校するも自主退学、ビリヤードや乗馬、モーターボートなど娯楽にうつつを抜かし、19歳 -
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2冊目の幸田文作品。「父・こんなこと」よりも読みやすい。立木をじっくり観察するなんてことしばらくしてないな。でも小さい頃は木に登ったり、木に触れたりするのが好きだったよなと読みながらぼんやり考えた。
p49 すべての年齢層がそろっていて、一斉に元気であることが、即ち将来性のある繁栄なのだ、というのである。
→木の話なんだけどついつい職場を連想してしまった。人も木も同じかも?
p53 外へ外へと新生するから、傷も、傷に連鎖して生じた狂いも、年月とともに内へ内へとくるむのだろう。くるむ、とはやさしい情をふくむことである。中身を労り、庇い、外からの災いの防ぎ役もかねるのが、くるむということ。生き -
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昭和30年代〜40年代に発表された10編からなる短編集。
いつの時代も生きていればいい時も悪い時もあり、日常においても心にさざ波が立つこともしばしばある。
そんな昭和の日常が作家の視線を通して繊細に描かれている。
個人的には表題にもなっている「台所のおと」がよかった。
病んで寝付いてしまった料理人が障子一枚を隔てた台所で女房がたてる作業の音から様々なことを感じとるという話。
的外れな感想になってしまうけれど子供の頃風邪をひいて寝ていた時 母が台所で作業する音が聞こえてきてなんとなく安心して眠ったことを思い出した。
料理人の佐吉は女房のあきがたてる音を聞きながら昔縁のあった女達がたてた音 -
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女性作家の作品はあまり読まず、読んでも面白いと思えるものがなかったが(アイン・ランドは極端で、ジェーン・オースティンは退屈だ)、
この『きもの』は一気に読めてしまった。
昔の東京の日常を描く細やかな描写は永井荷風を思わせるが、そこに女性独特の目線が新鮮だ。
「きもの」を軸に繰り広げられる、家族の物語と人間模様。
姉妹間での親からの扱いの違い、一緒に育ったのに全く異なる人間性、姉と妹の役割、など鋭い描写が興味深かった。
主人公の三女・るつ子は、着物の見た目よりも着ごこちにこだわる。
見栄を張る長女や流行を追いかける次女の承認欲求に比較して、自分の価値観を確立したるつ子の感覚は、一歩も二歩も進