【感想・ネタバレ】流れる(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

梨花は寮母、掃除婦、犬屋の女中まで経験してきた四十すぎの未亡人だが、教養もあり、気性もしっかりしている。没落しかかった芸者置屋に女中として住みこんだ彼女は、花柳界の風習や芸者たちの生態を台所の裏側からこまかく観察し、そこに起る事件に驚きの目を見張る……。華やかな生活の裏に流れる哀しさやはかなさ、浮き沈みの激しさを、繊細な感覚でとらえ、詩情豊かに描く。(解説・高橋義孝)

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Posted by ブクログ

ミーハー極まり無いけど『PERFECT DAYS』で作家に興味がわいて。

登場人物たちの日常の、流れるように移ろい行く様を利発な女中の主人公の視点で柔らかく描く。
舞台となる芸者置屋のちょうど転換期を描いてはいるけど、派手な事件が起きるでも無く、淡々と日常が過ぎていく。

芸妓の着物や持ち物や化粧の艶やかさ、表情や声色や仕草から溢れる心情、花街の情景が主人公の目を通して鮮烈に綴られて読み手を本の世界へ引き込む。

主人公の過去は細やかに仄めかす程度で、読み手に想像させる余白のバランスも良い。

読み進める内に構造や雰囲気に映画と共通するものが見つかり実に興味深いと感じた。

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2024年03月27日

Posted by ブクログ

芸者置屋で働くことになった梨花という女性のお話です。華々しい世界の裏側の描写も面白かったし、梨花の心理描写も小気味良いテンポで描かれていて、読んでいて飽きなかったです。筆者の流れるような美しい文章に圧倒されました。とにかく物語の世界に没入できましたし、読んだあとの余韻が凄くて中々現実世界に帰って来れなかったです(笑)

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2024年01月08日

Posted by ブクログ

めっちゃ面白い。
それからすごく不思議。
1955年に書かれた小説なのに、すごく今風っていうか、
なんかね、すんごい面白いお姉さんのツイッター見てる感じ。
何十年も昔の小説だなんて思えない。

……って考えてたら、高橋義孝先生の巻末の解説でちゃんとした文章で説明されてた笑
「文字によって構成される文章というもののロジックではなしに、話される生きたことばのロジックに従って文章となったというのが幸田さんの文章である。」
それそれ!!!

多分ね、生のことばで書いてあるから、古い感じがしないの。
すっごく新しいの。
今も昔も、人間の思考回路なんてそう変わんないんだなって感じする。

しろうとの主人公の目で語られる花柳界の雰囲気がすごくリアルで面白い。
私は冒頭の「猫だわよ!」と、
駐在さんに出す志那そばをとんでもないところから手渡しするシーンが好き。
声上げて笑っちゃった。

作者の分析的な視点も効いてる。
ま~~~~~芸者衆の性格が良かったり悪かったりするんだけど、
そのキャラクターデザインが優れてて、
「確かにそういう人生を歩んでたらこういう性格になって、こういうことも言うだろうな」
って納得しちゃう。

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2022年01月15日

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凋落していく置屋で、くろうとを眺めるしろうと主人公の視点が巧み。芸妓たちの時に激する直接的な台詞よりも、交わされる無言の視線が彼女たちの関係性、そして内面感情をはっきりと指し示している。間と目線を行間にありありと浮かび上がらせる幸田文の表現に敬服。

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2020年08月08日

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零落してゆく置屋の景色と時間を、女中 梨花の視点で華麗に切り取った小説。書かれたのは1956年だが、すでに古典と呼んでも違和感のない風雅さがあり(恥ずかしながら、幸田文はもっと前の時代の作家だと思い込んでいたこともあり…)、現代エンタメ小説が失なってしまった純朴な読書の時間を与えてくれる佳品。

げな記憶に「おとうと」を読んだことがある気がするほかは、幸田文はほとんど読んだことがないので、ちくま日本文学ででも読んでみるかな。

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2018年09月26日

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名作だった。名作ゆえに、読み終わった途端、もう一度じっくり読んでしまった。私の思う名作とは、味わいのある言葉遣いがあること、何度も読み返したくなること、人にすすめたくなること。美味しくて、足繁く通い、友達にも教えたくなる、名店と一緒だ。

物語も、女中が見た没落しかかった芸者置き場という、下世話ながら惹かれる内容だ。そこには上流へ流れる者、下流へ流れる者、それぞれのストーリーがある。

最後の著者の言葉、「水は流れるし、橋は通じるし、『流れる』とは題したけれど、橋手前のあの、ふとためらう心には強く惹かれている。」という文章に、この物語の全てが凝縮されているように感じた。ふとためらう繊細な心を細やかに描写している。

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2018年08月20日

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やっと手に取った幸田文。期待を裏切らない面白い作品だった。漢字変換されてない言葉が多々あるので慣れるまで少し読みにくかった。意地があって口が達者な女しかいない置屋の内情。主人公:梨花が素人で所謂普通の感覚を持っている人、という設定が読む側が素人であるだけにスッと話に入っていきやすかった。会話の箇所を読むと往年の女優が喋っているのが容易に想像できる。この頃の人はみんなこんな早口でスパッと話したもんなんだなぁ。裏の中華料理店と五目そばの受け渡しをするシーン、可笑しくて可笑しくて声たてて笑ってしまった。途中、同映画も観てみたが、そのシーンがちゃんと入っていてムフフとなる。映画も素晴らしかったけれど原作の方が梨花の黒い部分も出てて好きかな。他の幸田作品も楽しみ。

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2015年11月22日

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初めて読んだのは中学の時です。難しい話ではないけれど、古い言い回しや物の名前等、分からない部分も結構ありました。
でも時にたゆたい、時に蕩々と流れる文章のリズムが心地よくて。
何度も読み返し、少しずつ腑に落ちて、そのたび味わいが増すように思います。

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2018年05月24日

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濃い、でも読める、これが上手い文章というべきか。
それがないと、いやそれがあるからか、人間の生態というか嫌らしさが抉り取られて読者の真正面に据え置かれる感じで読み進めたいけど重いというか。
今はもうないだろう古き歓楽の世界も垣間見えて、風俗史としても楽しめる一面があります。
巻末の解説も女性らしさを前面に押し出した解説で時代を感じさせてくれます。ただ、女性にしか分からない感覚はどうしたってあるはずですが、それを万民に肌感で読ませるのもこの作家の力量かと。

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2024年06月01日

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ネタバレ

主人公の梨花が、傾きかけた芸者の置屋に住込みの女中として働き始めるところから話は始まる。
「くろうと」の世界に初めて入った「しろうと」なのに、右も左もろくすっぽ説明されないうちにこき使われる。
なんと初日は晩ご飯を用意されていなかったのだ。住込みなのに!

梨花は目端が利いて、気働きができるので、次第に主人一家からも通いの芸者たちからも信頼されてくる。
梨花の賢いところは大事なことを見逃さず、出過ぎた振る舞いをしないこと。
誰に対しても公平であること。

彼女の半生については多くを語られないので、戦前は女中を持つ側の奥さんであったこと、家族とは死別したことくらいしかわからない。
多分戦後のどさくさで財産を失くしたうえに、家族の病気治療などで没落していったのかなと想像できる。
先日読んだ『小さいおうち』の時子がもし戦後生き抜いていたら、このような境遇にならなかったとも限らない。

置屋の主人とその娘、姪とその娘という女所帯のうえ、通いの芸者が3人。
元は7人いた芸者が3人に減っているのだけれど、その減らし方もよろしくない。
どうにもお金のやりくりが苦しくて、あちらにもこちらにも不義理を働いている様子である。
けれども「しろうと」の梨花はこの世界に身を置こうと思い決めている。

タイトルは『流れる』。
流されるではなく流れるなのだから、彼女たちの生き様を非難しているわけではない。
ただどうしようもなく時代は流れていき、人は低い方に流れるものなのだ。

物語の最後、女たちはそれぞれに身の振り方を考えていく。
そして梨花にもそれなりの話が来るところで終わる。
いちおうはハッピーエンドなのかもしれないけれど、梨花のこれからがハッピーである保証はない。

タイトルは『流れる』だけれど、流されていくのでも、流されまいと気張るのでもなく、流れを見据えながらそこに根を張ろうとする梨花が主人公というところに納得した。

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2022年10月30日

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主人公 梨花を通して描かれる置屋の芸者たちの生活。

梨花の鋭い観察眼と何重にも機転を利かせる様子がリアルに描写されています。

ここまで読むか、ここまで考えるか、とハラハラしながら読みました。

気働きとはこういうことを言うのかな、と思わせられました。

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2021年09月20日

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本当は「木」の前に読んだ本。
この「流れる」を読んで、もっと彼女の本を読んでみようと思った。

どんな場所に身を置いても、彼女の描く人間の様子、とりわけ女の描写に、背筋を伸ばさずにはいられなくなる。


こんな人が周りにいたら、わたしは何を学ぶことができただろうか、わたしは、何を学ばずに今まで生きてきたのか、ということに思いを巡らし、時の流れを憂う。懐古趣味なんて言われたくないけれど、背筋を伸ばして生きることのすがすがしさを、人の生きざまから学ぶ経験を、もう少し多くの人から学びたかったなと思い、これから学んでいこうと、思う。

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2021年04月16日

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女の話。
女が女を見る目は鋭い。見逃さない。

夫を亡くして自分の食い扶持を自分で稼がなければならなくなった時、今までの生活とは全く重ならない芸者の置屋での女中を選ぶとは、それまでの人生、いったいなにがあったのか?と気を揉ませる主人公の来し方。

足元すくわれないよう、でも出過ぎぬよう、能ある鷹は爪隠すのスタンスで新しい生活の場でうまくやっていく。
作者は本当に芸者置屋の女中をやったことがあるということだから、内容もリアル。

それにしても女主人が床に倒される場面(熱のある子供がぐずって抱きついてきて)の丁寧な、そして悪意のある、一コマ一コマを切り取るような説明。

また別の女主人の床から起き上がる仕草にも、皮肉でクールな目は一切を隠さず、説明の手を緩めない。

こんな女がそばにいたら、味方につければいいけれど、決して敵には回したくないね。

最後、才覚が見込まれ、新しい職場で、さぁてどう生き凌いでいくか、乞うご期待といったところか。

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2021年04月05日

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卒論のテーマにさせていただきました。

「しろうと」と「くろうと」の世界の違いがはっきり現れる瞬間がいくつかあるのが印象的。

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2021年03月13日

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花街のあるひとつの経営の傾いたお屋敷の話。
主人公は女中の視点から人や金が出たり入ったりする様を一番冷静に見ている。
主人とあまりこころの通じていない場合の「小さなおうち」という感じかな。
このくらいの年代の小説は、人の虚勢や格好のつかなさダブルスタンダードなどを詳細に書き、その上で「まあこのくらいのことは可愛げがありますよね」と好感を持った描写がなされることが多くて、わたしにはあまり馴染まないなと思う。
しかしこの一言では言い切れない複雑な心情はよく捉えられていて、幸田文さんに相対してしまったらわたしは一体何重の心の扉を見透かされてしまうのか…と恐ろしい気持ちになった。


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なな子達→雪丸
「静かなのは陰気、ことばのいいのがお高くとまっている、利口なのが腹のなかのわからない、実行力のあるのがずうずうしい、美貌がいやみ、」

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2021年01月28日

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住み込みの女中である梨花の目を通して描かれる芸者たちの世界。はかなく浮き沈みの激しいその人生を、ぞんざいで愛情ある口調で語りながら、いつのまにか梨花自身の生き様が見え隠れします。

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2021年06月22日

Posted by ブクログ

芸者の置屋に女中に出た人の話。
ところどころにでてくる、女のこけかた?や起き方が男に見せる美しさっていうのが、女子会みたいですごくおもしろい。
主人のおねえさんが姿がよくて所作もきれい、三味線も上手で一世を風靡した芸者さん。その周りにいる芸者たちもみんななんだかんだでかっこいい。花柳界はその狭さがすくえそうな狭さっていうのがおもしろかった。
あと、みんな誰かをあてにして生きていて、それを歯がゆく主人公は思っているけど、いちばんちゃんとしている蔦次だって、主人公だって、結局流れてしか生きていけないんだなと思う。この時代の女だからっていうのではなくて、人は目の前にあるものでどうにか生きていくんだろう。

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2018年01月04日

Posted by ブクログ

幸田文『流れる』新潮文庫。

林芙美子の『放浪記』と河上肇の『貧乏物語』を足したような、日本がまだ繁栄を見せぬ、経済的に未完成の頃を舞台にした女の物語。暗く、じめりとした閉塞感の中に描かれる人間模様は余り好みではない。

四十過ぎの未亡人・梨花は没落しかかった芸者置屋に住み込みとして女中を始める。花柳界の風習や芸者たちの生態に戸惑いながらも、梨花はそこに起きる事件を極めて冷静な目で観察していく。

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2017年09月03日

Posted by ブクログ

なんだか現代にも通ずるものがあって良かった。
ただ、この作品の深いところまでは分からなかった気がする。

いつかもう1度読みたい

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2014年09月30日

Posted by ブクログ

芸者置屋で働く女中の話。
白粉とアンモニアの匂いが同時に香ってきそうな女の意地と見栄だらけの世界と、
主人公・梨花の凛とした佇まいの対比が印象的だった。

面倒事にはあくまでしろうと女中として一線を引き、
情を動かされた事には素直に感動する。
舞台も時代も違うが、梨花の姿勢はそのまま現代の
働く女性の処世術として参考にできそう。

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2014年09月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

今時人の所作にどきりとしたり、見惚れたりってないもんなあとしみじみ。
全てが素敵で憧れるわけではないけれど、全てが眉を顰めることばかりではない。
主人公が妙にその世界に惹かれてしまう気持ちがわかるかも。

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2025年05月28日

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文章が独特で、調子が悪い時は頭に入って来ず苦労した。でも、面白い部分は面白かったし、今の職場に似ている場面がたくさんあった。女が集まるとどこもこうなるのかな。仕事のできる梨花さんかっこいい。

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2023年11月01日

Posted by ブクログ

 1956(昭和31)年作。
 住み込みの女中となった女性の視点から、落ち目の芸者家の様子を描いた小説。
 文章がとても良い。ちょっとした言葉の選出などにいちいち味があり、絶えず気を配った彫琢された文体である。これに浸っているだけで充実感がある。
 一方物語内容や構成などにはさして出色のものはないと感じたが、どうだろうか。が、平凡な日常を細やかに描出した小説世界は、それはそれで価値を持つのかもしれない。

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2022年06月08日

Posted by ブクログ

言葉はきれいだけど、話はよくわからなかった
久しぶりに眠い話だった
自分には合わない作風なのかな
でも、言葉の表現はきれいなので、他の作品を読んでみようと思った

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2022年04月06日

Posted by ブクログ

男の自分にとっては、すごく女性の視点が新鮮に感じた。

男とは体の作りとか、体力とか、その前に備わってるもんが全然ちゃうということがよくわかる。
それは、生物学的とか、社会的とかをやかましく言わんでもあるもの。

話は戦後の花柳界へ女中にいった主人公の話。

どこにでもある、人間芝居を色鮮やかというか、立体的というかとにかくリアル、主人公の目線としてりある。


大河に身を任せて、ひとは生きるもの

突っ張るのも悪くないが、まわりに押されゆらりと流れてゆく

芯があればこその人生、しかししゃれこうべになるまでの舞台

立ち居振る舞いは人それぞれ
2021/10/19





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2021年10月19日

Posted by ブクログ

掃除婦や犬の食事係といった様々な仕事を勤めた未亡人・梨花が、芸者置屋の女中として住み込んで花柳界の舞台裏を経験する物語。
慣れぬことに苦労しつつ働くのでなく、ひたすら強い女性として仕事を淡々とこなす梨花には感情移入しにくかったものの、芯のしっかりした優しさがあり、その強さのために加速度的に没落していく置屋の誰にでも心を添わせることができるんだろうな、ということに気付くと俄然彼女が魅力的に映るように。
華やかな表舞台は描かれず、暗い裏事情ばかりが書かれているのに、陰惨な感じはあまりない。というのも女主人のしなやかさや、時に触れて現れるいやらしさのない美質が、文面からふんだんに伝わってくるためなのだろうと思う。
現実感がある文面で、もしや著者の自伝的作品なのでは、という気もする。読友さん本

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2021年04月07日

Posted by ブクログ

和三盆のような一冊。出来事ひとつひとつの背景にある女性特有の繊細な心理描写が丁寧に細かく散りばめられている。4,5人以上の個性ある女性が思い思いにとる行動と心理を余すところなく的確に写し撮りつつ、キャラを埋没させずにストーリーを進めていく技術ってとても難しい芸当だと思うんだけど、女中でありながら大変に有能な梨花を一段上の視座に立たせて解説を入れることによって、その手ブレを補正してるんだろう。

満員電車でなくカフェでゆっくり読んだ方がいいなと感じた。これは二度味わうべき本だ。もったいない読み方をしたな。

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2018年06月22日

Posted by ブクログ

文章に独特のセンスが光るが、女性視点の置屋の内実が赤裸々に語られ、なにか夢が削がれる感じがして読み投げにしてしまった。

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2018年04月28日

Posted by ブクログ

物凄く文章が読みづらいなぁと思って読んでいたら、昭和32年の発行だったとは。幸田露伴の娘だったとは。驚いた。
文章は、思考の流れのように行ったり来たり、頁にぎっしりと詰まっておりなかなか骨が折れる。しかし、なんやかんやでさくさくと最後まで読んでしまった。出てくる女性たちが皆弱くて逞しい。

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2015年12月24日

Posted by ブクログ

ゆるやかな話し言葉のように紡ぎ出される美しい日本語。彼女たちのようなおんなが、確かが存在していたことを強く感じる。着物、化粧道具、台所の描写、女性にしか書けない小説である。

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2014年08月28日

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