結城さやかが通う百花演劇学校は、演劇のプロを育てる名門校。それだけに生徒のレベルも高く、なかでも設楽了は神と崇められるほどの天才劇作家だった。そのおかげで、おなじく劇作家を目指すさやかは万年2位に甘んじていた。
さやかが2年生のとき、公演中に了が奈落へ転落するという死亡事故が起きてしまう。そのときは事故として処理されたが、翌年、了の死の真相を調べに来たという新入生が現れたことで、事件は再び動きだす。
果たしてそれは事故だったのか、自殺だったのか、それとも……。
という話。もうね、めちゃくちゃおもしろかった!
読みやすい文章と、真相がわかるまでのプロセスがきれいで、展開が滞りなく進むから中ダレすることもなくスイスイ読めちゃう。
登場人物たちの心理描写もすごく自然で、登場するのは才能あふれる子たちばかりで自分とはほど遠い存在なのに、それでも容易に彼女たちの気持ちが想像できる。「俺TUEEE!!」じゃなくて、なにかの才能に特筆していたり、なんでもそつなくこなす能力を持っている「だけ」のただの女の子だから。人間味あふれるキャラ像が親しみと共感をもてて良かった。
とくに主人公のさやかは真面目すぎるほど真面目で、おまけに超不器用。プライドは高く、驚くほど鈍感。だけどその実直さに嫌味がなく好感をもてる。凡人なりに天才に真っ向勝負するひたむきさとか、脅迫されながらもコンペに参加する芯の強さなど、魅力あふれるキャラだ。
かたや神と崇められる設楽了。彼女が書く脚本は誰もが心奪われるほどの作品で、演出をすれば絶対に良い舞台ができる。舞台以外のことは考えない完璧な劇作家だから、暴言を吐いても暴力を振るっても誰も文句を言わずに受け入れている。はじめは才能を盾にしたいけ好かないキャラだったが、のちに人並みに悩んだり悔やんだり、死を恐れたりしている「ふつうの」女の子であることがわかると、一気に親しみが沸いてくる。
どの生徒にも共感できるから没入感の高い作品となっているのだと思う。
いっぽうで登場する大人たちには腹の立つことばかりだった。氷菜の父親もそうだが、なにより教師陣よ。いままで生徒をちゃんと見てきたのかって、怒りを通り越して呆れた。プロとして活動している大人でも崇拝してしまうほどの魅力が、了の作品にはあったってことなんだろうけど。そこは切り分けて考えるべきことなのに……。
物語を作るのは生徒だけど、悪役は大人たちにもっていかせる。そこもまた上手いなぁと思った。
なにかひとつ文句をつけるとしたら、犯人(便宜上そう呼ぶ)に意外性がなかったことかな。王道ミステリの犯人像そのままの人物が犯人だったから驚けなかった。