レイモンドチャンドラーのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
遅れて読んだ名作。
村上春樹訳が
ジワジワと染みわたる。
冒頭はこうだ。
「テリー・レノックスとの最初の出会いは、
〈ダンサーズ〉のテラスの外だった。
ロールズロイズ・シルバー・レイスの車中で、
彼は酔いつぶれていた。」
「人々に湯水のごとく金を使わせることを
唯一の目的として作られた」高級クラブ
での出来事だった。
男は女に車外に放り出され、
アスファルトに尻もちをついた。
そして、私は彼を助け起こした。
主人公のフィリップ・マーロウと
テリー・レノックスは
こうして出会った。
レノックスは衝撃的なことに
そのとき、投げ出された
大金持ちの娘と再婚していた。
レノックスとマーロウは
その後、たまに飲む間柄になる。
かすかな友好。
ある日、レノックスは
マーロウに助けを求める。
事件に巻き込まれたのだ。
マーロウは彼を国外逃亡のために
デイファナの空港まで送り届けた。
しかし、自宅に戻った
マーロウを警官が訪れた。
彼は刑務所に入れられることになった。
マーロウはその後、
保釈され、レノックスが
死んだことを知る。
マーロウはそこから動き出す。
レノックスの死の理由を知るために。
物語はさまざまな
紆余曲折を経て、
衝撃的な結末に辿り着く。
マーロウは言う。
「さよならを言うのは、
少しだけ死ぬことだ。」
そして。
印象的な言葉も。
「ギムレットを飲むには
少し早すぎるね。」
レイモンド・チャンドラーは
元石油会社役員であり、
大恐慌時に作家へと転身する。
ダシール・ハメットに続く
ハードボイルドの作家であり、
「ブラック・マスク」誌に書き始めた。
「大いなる眠り」で初登場した
探偵フィリップ・マーロウは、
強面のサム・スペードとは異なり、
アイロニイをたたえ、
ロマンチシズムを全身にまとう。
孤独であること。
別れを重ねていくこと。
そのなかで、
失われた世代の作家たちから受け継いだ
アメリカの虚無感や失意を描いていった。
村上春樹訳は抑制した筆致で、
適切に適切に紡いでいく。
村上春樹はあとがきで
チャンドラーについてこう書いている。
「文章的にはきわめて雄弁であるものの、
人の意識を描こうというつもりは
彼にはほとんどないようだ。」
チャンドラーが描こうとしているのは、
「語り手フィリップ・マーロウの目によって
切り取られていく世界の光景である。」
「彼(フィリップ・マーロウ)の所見なり
対応なりは、彼の自我意識の実相とは
必ずしも直結していないように
我々の目には映る。」
つまりは。
ハードボイルドという文学ジャンルの
象徴のように感じられるが。
事実のみを描きながら、
そこに極力感情を込めないことによって、
アメリカの近代社会が逆に露わになっていく。
そして。
探偵は感情を表現しないがゆえに、
読み手は最大限に感情を揺さぶられることになる。 -
Posted by ブクログ
きっかけは、あの名セリフ「強くなければ生きていけない、優しくなければ生きる資格がない」。元ネタを知りたくて手に取った一冊。
読んでみたら、目的以上に本編そのものが面白かった。マーロウと登場人物たちの気の利いた掛け合いが最高に小気味いい。真似したくなるけど、日常生活であんなキザなやり取りをする場面はどこにもない(笑)。
村上春樹作品でたまに出てくる、ちょっと変だけど洒落た言い回し——たとえば「赤坂でナッツでもつまもうか」的な、あの独特な日常描写も、たぶんチャンドラーの系譜にあるんだろうな、と勝手に納得。
ミステリーとしてのトリックや動機は正直ちょっと強引で、そこだけ見ると物足りない。でもそれでいい。この小説はマーロウたちの気持ちいいお喋り合戦のためにあるんだから。
そして終盤、あの名セリフが満を持して登場する。「この文脈があったから、あの一言だったのか」と痺れた。セリフそのものは真似できないけど、その裏にある価値観は大切にしまっておきたい。読む前より、読んだ後の方がこの本を好きになった一冊。 -
Posted by ブクログ
かなり分厚い小説なのに文章はすごく読みやすかった。元の文がいいのか翻訳が上手いのか。翻訳ものはこれくらいのレベルの日本語文章が欲しい。
あ、一つだけわからなかった単語が。「代理シェリフ」。調べたらシェリフは保安官という意味だった。何故そこを訳さなかったんだろうか。
内容は静かなハード・ボイルド。
そこに渋さを感じる人もいれば、何故この状況で突如キャラ同士が殴り合いや武器での格闘を始めるのかという不思議さを感じる人もいるだろう。私は後者。まあそういう系統の話なのだから必然なんだろう。
そして主人公マーロウが人たらしすぎる!何となく小説の雰囲気は村上春樹っぽさを感じながら、しかし次々とマーロウに、家まで送るだの、今から飲みに行こうだの、情報を与えようだの、周りの男が寄ってくる。女性ではないのだ。同性に対して人間として不思議な魅力があるのだろうなあというのが伝わる。(補足、もちろん女性も寄ってくるが男のほうが多い!)実際マーロウは直感でいいやつだと思った相手や、弱ってる人間を助けることに対しては見返りを求めずに献身的に尽くすタイプなのだ。とは言え自己犠牲ではなく、やりたいと思ったからやる、といった、感情を見せずに淡々とこなすクールさが魅力である男。
そういう出来事が延々とゆっくり時間をかけて描かれ、最後の方になって急にマーロウの推理が始まり、「!?これは推理小説だったのか!?」と驚いた。そう言えば始まりは殺人事件だったし、マーロウは私立探偵だったわ。
そしてぶっちゃけテリーって、そんなにマーロウの琴線に引っかかる男だったのかな?優男で常に逃避で泥酔してて危なっかしくて放っておけなかったのかな?…とここまで書いてて、優男で危なっかしくて放っておけないってマーロウ自身のことでもあるのでは?となった。でないとあんなに危ない目に遭ってまで見返りもなしにこの事件の首は突っ込まないでしょ。似た者同士として惹かれたのかもしれない。マーロウに男たちが寄って来るのも、マーロウが芯は優男で危なっかしくて放っておけないというのがあるのかもしれない。
推理小説というにはそんな難しいトリックも何もない。感情を見せないようで行間を読むことで誰よりも(読者に)心のうちを見せてくるマーロウと彼に引き寄せられる人間たちの模様を楽しむ作品。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ1953年刊行。2026-1953…73年前の作品ですね。
2018年の年末に1回読んでいることをすっかり忘れていました。感想もつけていないので当時はまったく刺さらなかったのでしょうか。2026年4月14日、再読でなんとか読み切りました。
親友になった人間が妻殺害の容疑をかけられ逃亡しメキシコで死んで、なぜか色んな人間に絡まれてるうちに新しい依頼が舞い込んできて…。
探偵といっても推理はあまりなく、人間ドラマ。当時のイケてる、カッコいい、とされるハードボイルド、今読むと登場人物みんな喧嘩腰ではある。さらにマーロウはまぁまぁめんどくさい。
良作とは思うけれど、令和に読むと、長い!長すぎる!という気がしました。
「長いお別れ」には元ネタがある、ということを知りました。
"To say goodbye is to die a little."
清水俊二訳
さよならをいうのはわずかのあいだ死ぬことだ
村上春樹訳
さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ
フランスの詩人エドモン・アロクールの詩
"Partir, c'est mourir un peu"(去ることは、少し死ぬことだ)