古沢嘉通のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ上巻で積み上げられた「翻訳の魔法」という独創的な舞台装置は、下巻に入ると一転して、救いのない破滅へと突き進む。
全編を通して流れるのは、あまりにもダークで閉塞感に満ちた空気だ。最終的にロビンたちが選ぶ「自決」という結末にはほとんど希望が残されず、読み進めるのはなかなかに苦しい体験だった。
読後、強く感じたのはこの物語が持つ重層的な「政治性」だ。
銀のパワーで世界を牛耳るイギリスに対する「翻訳者たちの人生を賭けた儚い反乱」という構図。それは単なる歴史ファンタジーの枠を超え、現代における「アメリカ・英語・テクノロジー」という覇権に対する強烈なアンチテーゼのように映る。著者のルーツを思えば、効果的な翻訳対として中国語が選ばれていることも偶然ではないだろう。
ただ、設定については好みが分かれるところかもしれない。
「銀に刻まれた言葉の差異がエネルギーを生む」というアイディアは面白いが、それが国家インフラを支える絶対的な力であるという設定は、歴史の重みに比して少々ファンタジーに過ぎる、浮いた印象も受けた。私が歴史的な事実に惹かれる性質だからかもしれないが、地に足のついた説得力という点では一歩譲る感がある。
また、本作を取り巻く「大人版ハリー・ポッター」という宣伝文句やTikTok(BookTok)での熱狂的な支持は、興味深い現象だ。これだけ「痛みを伴う読書体験」が熱狂的に受け入れられる背景には、読者側の切実な感情的ニーズがあるのかもしれない。ただ、マーケティングと作品の評価が不可分に結びつく現代の受容環境において、その熱量がどこまで純粋に文学的共鳴によるものかは、一読者として素直に判断しかねる部分もある。
唯一、わずかな希望として残されたヴィクトワールの存在が印象深い。彼女の母語が、支配者の言葉と現地の言葉が混ざり合った「クレオール」であるという点。それは純粋な革命や魔法のシステムからは弾かれるものの、泥臭く生き延び、世界を形作っていく人間の逞しさと諦念を象徴しているようで、著者の文学的な意図を最も強く感じた部分だった。
「読む価値があったか」と問われれば、正直なところ判断に迷う。しかし、今この時代にどのような「怒り」や「物語」が世界で求められ、消費されているのか。それを知るための非常に現代的な資料として、興味深い読書体験であったことは間違いない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「翻訳で失われる意味」を魔法のエネルギーにするというのは独創的な設定ですね。
上巻の半ばまでは、正直なところ物語の運びが少し回りくどいと感じる部分もありました。著者自身のオックスフォードに対する強い思い入れや、アジア系学生としての複雑な視点が色濃く反映されているせいか、必ずしもストーリーに直結しない衒学的な描写も多く、もっと軽快なエンターテインメントを期待していた身としては、少し足踏みをしているような感覚があったのも事実です。
しかし、主人公たちがイギリスを離れ、広東へと渡るあたりから物語の相貌が一変します。
それまで「知識」としてしか知らなかった植民地主義やアヘン貿易の残酷な実態を、彼らが最前線で「現実」として突きつけられる。その圧倒的な不条理を経験した結果として、ロビンが実の父であり支配者でもあるラヴェル教授を殺害するという凄絶な決断を下す流れには、強い説得力がありました。
そこでようやく、本作が単なる魔法学園ものではなく、差別への抗議や、不実な支配体系への反乱を描く「切実な物語」であることが明確になった気がします。
林則徐が登場し、アヘン戦争という実在の歴史のうねりに物語が飲み込まれ始めてからは、一気に引き込まれました。著者が自身の経験を通して抱いてきたであろう「怒り」の熱量が、ここからどう爆発していくのか。期待を持って下巻を手に取りたいと思います。 -
Posted by ブクログ
架空の星にあるドリーム・アーキペラゴ諸島の観光ガイド、物語で紹介する連作短編集
実は購入してから3回目の挑戦で、ついに読み終えた。毎度眠くなるのだ
実に半年程、3回目の挑戦でやっと読み方、付き合い方がわかった
時間勾配の歪みのため正確な地図が作れない
この設定部分を勘違いして読んでいた為何が何だかわからず毎度眠くなってしまっていた
島々の逸話集とてっきり思っていた為、例えば何度も出てくるパントマイマー殺人事件
別の島の話になってもその事件が語られ始め時間と土地の認識が自分の中で整理することが出来ず理解しようとゆっくり読んでいたらいつの間にか寝ていた
はっきりとSF設定のある架空のガイド本ではなく幻想ミステリー(?)と思い向き合ったらようやく夢幻諸島という枠組みが腑に落ち、島々で語られるエピソードの断片が結びつきパッチワークのような構造の物語だったのかとわかった
実際にある島の設定なんじゃと思ってしまうほど設定が細かく、プリーストの想像力、何よりこんな入り組んだ構造を構築出来る頭に眠くなってしまっていた自分が情けない
心に刺さるか刺さらないかだけですごい本
プリーストは小説が上手い
悪い意味で上手過ぎる、とも感じるが
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Posted by ブクログ
19世紀円半のロンドン、オックスフォード大学が主な舞台。中国、インド、ハイチなど、当時の大英帝国の支配下にあった国々から集められた言語能力に優れた子供達。オックスフォード大学の翻訳研究センター、通称バベルの塔で翻訳と銀を使った不思議な銀器を取り扱う。銀の力と言葉の力で魔法を起こすものだが、その力でイギリスは産業革命を成し遂げ、植民地支配を広げているというもの。アヘン戦争前後の下りは史実と一緒だが、一種のパラレルワールドになっている。主人公を含む4人の学生の友情や葛藤、愛国心、人種差別、奴隷制度、植民地制度をめぐる相剋が描かれている。オックスフォードという世界最高の学びやで、奨学金や生活費を支給され、何不自由なく過ごすことができる一方、それぞれの出自は消せない。この安定と不安定が同居する状況はなんとなく理解できる。
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Posted by ブクログ
魔法!ファンタジー!わくわく!と思って読み始めたらめちゃめちゃダークファンタジーで、 苦しい…悲しい…と思う場面が多くありました。けれど学生らしいふふっとするようなシーンもあり、読んでいてほんとうに色々な感情が芽生えました。 言葉を訳すことによって生み出される魔法の力。たくさんの言葉の意味が作中に登場して、それがどのような効果を生み出すのか、読んでいてとても面白かったです。しかし後半に行くにつれて、その力は正しく使われているのか。 そう疑問に思う主人公たち。その結末はとても胸が苦しくなりました。 ラヴェル教授が序章では想像もつかないくらいひどい(グリフィンとロビンをバベルに連れてくるための経緯)人物だ…と気づいたり、グリフィンとロビンの切ない関係性だったり、 物語だけではなく、人間関係も細やかに描写されていて本当に読み応えがある作品でした。 ヴィクトワールとレティはその後どうなったのか、あれこれ考えてしまいます。 とても面白い作品を読ませていただいて、ありがとうございました!
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Posted by ブクログ
ネタバレ謎の船の上で意識を取り戻した、7人の男女。彼らは全員、自分の名前も過去も忘れていたが、過去に職業上獲得したと思しき専門技術は身につけていた。赤い霧に包まれた川を遡上しながら、携帯電話から一方的に指示されるまま使命を遂行している彼らが見たのは、異形と化した世界の姿だった・・・
【以下、激しくネタバレ注意!】
めっちゃ面白いです。まるで生きるか死ぬかのアクションゲームの世界を進んでいるかのようで、ページを繰る手が止まりません。ある大富豪が不死を目指して開発させた細菌?が人体を怪物化させるウィルスと化し、感染者がカニのような姿に、あるいは虫のような姿に変異して共食いし崩壊していく人間社会の描写も、気持ち悪くなるぐらい細かく描かれています。
立ち向かう7人は、当初から使い捨ての「人間爆弾」として生体改造されており、ストーリーが進むにつれてその事実を知り、絶望していく様が、とめどない悲哀を感じさせます。
・・・ただ、ですね。
滅びゆく人類社会と、それを救うべく決死の覚悟で立ち向かう少数の生存者の闘い、というストーリーの大枠を理解すると、ちょっと古い日本人SF者としては、どうしても想起してしまう作品があるわけですよ。
あの小松左京の大傑作、「復活の日」を。
「復活の日」においては、
人類社会が崩壊する原因となったのは、「国家間の競争によって生み出された致死性100%のインフルエンザ」(このリアリティ!)。
インフルエンザが世界に蔓延し、南極に滞在する越冬隊以外の人類がまさに滅ぼうとする時、科学者が人類への反省を促すメッセージを録音してラジオで流し続ける(この哲学性!)。
寒さゆえに生き残った南極越冬隊に所属する米国とソ連の原子力潜水艦が、新たな危機たる核ミサイル発射を阻止すべく、国家の壁を超えて手を組み、北米大陸への片道航海を決行する(この政治性!)。
それに乗り込み、ミサイル発射阻止の使命を受けて行動するのは、当時まだ新興の民主主義国家に過ぎなかった日本出身の吉住(この悲壮性!)。
結果的にウィルスの弱体化に成功し、北米から南米大陸の南端まで徒歩で(!)戻ってきた吉住、既に精神を病んでいる彼を暖かく迎え入れる、南極越冬隊のメンバー(この抒情性!)。
SFってのはね!こういう美学が必要なんですっ!!
・・・いや、ゾンビを掃討して盛り上がる作品にそれを求めるのは筋違いだということは、鴨も十分わかっています。「レッドリバーセブン:ワン・ミッション」は、アクション・ホラー作品です。ハヤカワさん、コレなんでSFで出しちゃったかなー。NVの方が合ってたと思うんだけど。
繰り返しになりますが。めっちゃ面白いです。
ただし、後書きで古沢氏もお書きの通り、一回読んだらすっきりと忘れてかまわない類の娯楽作です。再読の必要はありません。
あ、でも、映像化したらワンチャン面白いかもなー。(強烈なB級作品になると思うけど(^_^; ) -
Posted by ブクログ
AIが普及した近未来にAIと人間の関係を考えさせる16編。海外の作家でケンリュウ以外知らない作家だが、面白かった作品も多い。日本のロボットはお友達SFに比べてダークなものが多かった。
エンドレス サード・Z・フセイン 個別のAIにも経済的な浮き沈みがある設定が楽しい
アイドル ケン・リュウ 自分とそっくりのAIをつくるということを三井住友中島社長は実現してる?
もっと大事なこと サラ・ピンスカ― AIによる殺人? よくある設定だが実際におこると怖い
人形芝居 アレステア・レナルズ 乗組員ほぼ全員死亡した宇宙船でAIが右往左往
翻訳者 アナリー・ニューイッツ AIの言葉を人間にわかるように翻訳する職業?は不滅です
赤字の明暗法 スザンヌ・パーマー ロボットのために貧乏オーナーが活躍するいい話。 -
Posted by ブクログ
早川書房 翻訳SFファンタジイ編集部のXタイムラインに流れているのを見て、面白そうだったので購入。(気になったらとりあえず買う!積む!)
霧に包まれた水上の小型船で目覚めた一人の男。自分の記憶がない、名前すらも分からない。頭部には手術痕。近くには銃で自殺したと思われる男の死体。小型船には彼ら以外に5名の男女(計7名)。皆同じく記憶喪失。残っているのは、警察、軍人、医師、科学者など、専門家として身体に染みついた行動パターン(=筋肉記憶)のみ。何も分からないまま小型船は進む。そして衛星電話が受信するは何者かからの指令。果たして彼らに与えられたミッションとは―――。
記憶喪失の男女が、それぞれの「筋肉記憶」だけを頼りに異常事態を生き抜く様を描く、SFサバイバルホラー。シチュエーションや真相自体は(悪く言えば)ありきたりだが、「記憶」の扱い方が個人的にはユニークだったと感じた。しかしながら、これが物語に深みを持たせているかと言われるとそうでもなく、物語を彩るシーズニング程度。
(あとがきでも書かれていたが、)本作はじっくり読み込む作品ではなく、一時だけを楽しむエンタテインメントタイプの作品という印象。テンポが良く、脳内で映像化もし易いので、活字でありながら一本の映画を観ているよう。個人的には「是非、映画化を!」と言いたいところだが・・・やっぱりありきたりなSFホラーにしかならなさそうだな(苦笑)。