【感想・ネタバレ】夢幻諸島からのレビュー

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Posted by ブクログ

北と南に大きな大陸があり、その中間に広がる無数の島々から成る夢幻諸島。そのガイドブックという形を取った連作短篇集でありながら、長篇としての作品。半分は夢幻諸島に点在する島々の紹介であるが、それがこの作品の下地となって物語を引き立たせる。6~7人くらいの主要な人物が、時折挟まれる中編の物語に登場し、互いにリンクし影響を与え合いこの夢幻諸島に様々な痕跡を残す。超凶悪昆虫スライムとカムストン&カウラー、そして最後のヨーとオイの物語が強く印象に残った。

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2019年10月18日

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 待望の夢幻諸島(ドリーム・アーキペラゴ)のガイドブックであり、アーキペラゴのいくつかの魅力的な、あるいは特徴的な島が紹介されている。『限りなき夏』で訪れたことのある旅行者も、これから夢幻諸島を旅行しようと考えている人にも歓迎される一書であろう。
 だが、この手の本にはお定まりの地図というものが本書にはまったく欠けている。周知の通り、時間歪曲のため、夢幻諸島ではたとえ航空写真を撮っても、正確な地図を描くことができないのだ。この点については、リーヴァー島の項を参照されたい。ディデラー・エイレットの調査の概要が説明されているからである。1日2回、ふたつの時間歪曲の渦が世界を回っているのである。それゆえ夢幻諸島はまったく全体像を描けず、人が住む島だけでもいったいどれだけあるのかさえわからない。もっとも、ある島からある島へ行く手がかりは明らかである。細部はまったく明晰なのに全体像を描出できない。人間存在そのもののようではないか、この島々は。

 そのようなありさまなので各島の情報も調査員が赴いて取材したものの他に、当該の島に生まれ育った人物、あるいはそこに滞在した人物の手記で代用されているものがいくつもあり、特にこの諸島を旅行しようというつもりのない読者にとっても、物珍しい読み物として読むことができる。かくいう評者も特に旅行の予定はないのだが、あたかも凝った長編小説を読むかのように楽しんだ。

 まずは、オーブラック群島の、猛毒を持つとともにヒトに寄生し感染する恐ろしい昆虫スライムの記述に読者は震え上がるだろうが、そんな恐ろしいものがいても日常生活が営まれていく人間の性に妙に納得するだろう。また、ファイアンドランドとグロウンドの戦争に関して、アーキペラゴは中立地帯ではあるが、戦争の影響が随所にみられることにも思いを新たにするであろう。

 編者は芸術に関心が高いらしく、夢幻諸島の高名な芸術家たちへの言及は随所にある。高名な画家ドリッド・バーサーストの奇矯な行状があちこちの島の紹介の中に登場し、その作品がどこで見られるかが紹介されている。この画家の熱心なファンにはありがたいことである。また土木インスタレーション・アーティストのジョーデン・ヨーのインスタレーション、要するにトンネルだが、それがどの島で見られるかも、旅行者の参考となるだろう。高名な作家チェスター・カムストンへと送られた無名時代の作家モイリータ・ケインの書簡が、彼女の出身地フェレディ環礁の紹介となっているのも両者のファンにとって興味深かろう。

 特に舞台芸術に関心のない読者でも、パントマイム・アーティスト、コミスが辺境の島オムフーヴで殺害され、ケリス・シントンなる犯人が死刑となった事件について多少なりともお聞き及びだろう。それが冤罪だとして社会改革主義者カウラーによって厳しく糾弾されたこともご存じかも知れない。本書ではいくつかの島の紹介の中で、関係者の証言が引用されているが、それによってこの事件の詳細がいくつもの視点から照らし出され、真相と思われる全体像を照射していることに、読者は驚かれることだろう。さらにこれらの手記からカムストンとカウラーの秘められた関係やカウラーの死の真相など、様々な結びつきが示されることとなり、図らずも、個々の「島」がつながって、アーキペラゴの全体像をぼんやりと映し出すというアナロジーが生じているところが、評者が上に、あたかも凝った長編小説のようだと述べた要点である。というわけで旅行には興味はないが、ちょっとかわったものを読んでみたいという読者にも大いにお勧めである。

 本書は「エズラに」捧げられているが、エズラ・カウラーでなければ、どのエズラに、なのであろうか。最後はヨー(Yo)ともうひとりのインスタレーション・アーティスト、オイ(Oy)の破壊的で情熱的な共同作業の逸話で閉じられるのも心憎い。

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2016年02月12日

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SFじゃなくてファンタジー、いや神話かな。特に最終章は原始的で野蛮な男女が創造神のようだった。そんな2人がインスタレーションアーティストというのも。それと時間の縛りがない自由さも素晴らしい。重層的で、つながっているようできちんとは解になっていないもどかしさというかあいまいさ。これ英語で読むとどんな感じなんだろう。プリーストは双生児が面白かったけど、こちらのほうがMYベストです。

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2014年05月29日

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ネタバレ

ファンにはおなじみドリーム・アーキペラゴの連作短編集。「限りなき夏」(国書刊行会)に収録された同シリーズの強烈な4編もいっしょにおすすめ。パラレルワールドとも云い難い謎の群島を舞台に、謎設定と謎人物たちが、謎の時間軸で交錯する。「限りなき夏」の4編ではそんな印象なかったけど、こちらの短編集を通読すると、ドリーム・アーキペラゴのメイン・テーマってひょっとしてプリーストによるアート論な気がしてきた。キャラやストーリーだけじゃなくて、その世界観と謎設定も含めてぜんぶが。ドリーム・アーキペラゴって、もうその語感だけで、何杯でもおかわりできます。

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2014年01月11日

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プリーストの「奇術師」を以前に読んだときには,その反則気味の種明かしに「そりゃないぜ」と思ったものだが,本書には参りました.負けました.
架空の「夢幻諸島」の島々のガイドブック,ということだが,島の紹介もあれば,単にその島にまつわる誰かの出来事を綴った完全な小説もあり,しかも謎解き風のものもあれば,幻想小説もあり.
また,本書にクラクラするのは,何人かの人物は超有名人という設定で,幾つかの島の物語に繰返し出てきたり.全短編を通して読めば,そういった人達の姿が徐々に浮かび上がってきたり.
もう一度読み返せば,また別の面が浮き上がってきそうだ.プリースト,他のも読んでみようかな.

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2013年11月27日

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最初は掴みどころが少なく読み進めるのに苦労。途中から何度か登場する人達の人物像や各々の相関関係が見えてきたり、諸島にまつわる謎や出来事が繋がり始めたりして、驚かされたり更なる謎が浮かんだりして、俄然猛烈に面白くなった。全ての謎が最後に収束するわけではないが、だからこそ読後にフワフワ&クラクラした心地良い余韻が残り、かつ何度も読み返したくなった。

例えば今度読む時は、繰り返し登場する人物がどの島の話の時に登場するのか対応表を作り、各人物毎に登場箇所だけを一気読みしてみると、最初読んだ時とは違ったその人物に関する何かが見えて面白いかもと妄想している。
または、不明な個所も多いけど、島ごとの気候や位置、産業、脱走兵や難民の扱い、通貨等を一覧表にまとめて、「何か発見できるかなあ」とニヤニヤしながら眺めたり、それをもとに地図をでっち上げる遊びなんかも出来そう。
まあ、表を作ったからといって謎が消えることは無いけど、自分なりに整理したくなる魅力がこの小説にはある。色んな読み方楽しみ方が出来る小説だと思う。

後、繰り返し登場する人物はみんな相当クセがある。その中でもトンネル堀りアーティストのヨーや画家のバーサーストは、人騒がせな芸術家だけどどこか憎めない魅力があり、名前が出てくる度に「今度は何をやらかしたのだろう」とニヤニヤしながら先を読んだ。

夢幻諸島物の『The Adjacent』も是非是非翻訳して欲しい!

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2013年10月10日

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夢幻諸島の島々をめぐるガイドブックという体裁をとった連作短篇集。時に結びつき時に矛盾するエピソード、双生児やガラスといったモチーフ、信頼できない語り手に翻弄されるうちに浮かび上がる歪な騙し絵に幻惑される。いやー、面白かった !!

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2013年08月30日

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 ここ(ドリーム・アーキペラゴ)ではどんなことも起こり得る―

 時間勾配の歪みにより地図の作成が不可能とされている架空の世界。そこに点在する無数の島からなる通称夢幻諸島(ドリーム・アーキペラゴ)が舞台の物語。英国作家の”信頼できない語り手”ことプリーストが書き記した、死と狂気に彩られた島々に纏わる35の記録譚。

 『グールン』~大提督劇場~

 商業演劇の演出家を目指し、とある劇場に勤め始めた青年。出演者の一人、謎の王”ロード”を名乗る奇術師との出逢いを発端に様々な出来事が巻き起こる。やがて、執拗に主人公を付け回す不審な小男や奈落での亡霊騒ぎがひとつに繋がっていく。

 『チェーナー』~雨の影~

 人民裁判所に残されたある殺人事件容疑者の取調べ調書。正常なように見えながら節々に僅かに滲み渡る奇妙な印象を抱かせる自供文。繰り返される肯定と否定。果たして彼は本当に真犯人なのか。

 『ミークァ/トレム』~足の速い放浪者~

 夢幻諸島の地図を作るため島々の情報を集め飛びまわる無人飛行機ドローン。地図製作チームの一人ローナは、軍の占拠下にある立入制限区域に姿を消した恋人の行方を探ろうとドローンを利用することを思いつくが。異色の恋愛もの。

 この他にもたくさんの物語が研究書・覚書き・独白・ガイドブックなど様々な形をとって表されています。それぞれの話がバラバラなようで実は繋がっているなどというところはまさしく群島のよう。詳細を穿って描かれた世界観はまるで本当に実在するかのような心地にしてくれます。夢幻諸島に秘められた物語たちはどこまでも尽きることを知りません。

 そんなお話。

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2016年02月17日

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不思議な世界観の中でふわふわとするための本。
文化レベルは、現代と同じ。
「夢幻」といっても、魔法やドラゴンが出てくるわけではない。
短いエピソードの連なりで、どんどん読めてしまうけれど、あまり急いで読むと見落としが出る。

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2015年01月12日

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ある世界に存在するたくさんの島についてのガイドブックの態をとってる短編連作。とはいっても少しずつ関連があって、同じ人も出てきたりするので長編とも言えるかもしれない。
構造がずるい、楽しい!
ただ、散らばってる情報を集めながら読む話なので、人は選ぶ気がする。
手紙とか雑誌記事とかそういう断片から情報を取り込みながら読む話がすごい好きなので個人的にはとても楽しかったです。

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2014年05月26日

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なかなか訳者あとがき定番の内容紹介に入ろうとしないのは、
作者の意向を汲んで、
読者になるべく目かくしした状態で本書を発見してもらうために、
訳者もくわしい内容紹介をされないそうだ。
あとがき定番の内容紹介がくわしいあらすじ紹介ならば、
言わずもがなのことだと思う。
同じく訳者の方は、イアン・マクドナルドの「火星夜想曲」
みたいな感じとおっしゃっているが、
私にはコードウェイナー・スミスの「人類補完機構シリーズ」風味も少し感じられた。

2012 年 英国 SF 協会賞長編部門受賞作品。
2012 年 ジョン・W・キャンベル記念賞受賞作品。

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2013年12月26日

Posted by ブクログ

時間勾配によって生じる歪みが原因で精密地図の作成が不可能な世界に点在する〈夢幻諸島〉のガイドブック。

難解。
ってか、よく咀嚼しないといけないのに掻き込んでしまった…。
作者の意図通り幻惑された。
それだけは間違ない。
もうすこし事象を整理しながら再読する予定。
しかし、ガイドブックならもっとそれらしくてもよかったんじゃね?と思わなくもない。

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2014年01月29日

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南北の大陸に挟まれたアーキペラゴ地帯。磁気による歪みのために正確な地図はつくれず、いったいいくつの島があるかも不明だ。島々は平和不可侵条約を締結しているものの、北の大陸で戦争をくりひろげる南大陸国家の戦略的利害のために、多くの島々には軍事基地がおかれ、脱走兵がやってきては連れ戻され、条約は有名無実化している。
まずはこの世界像にぞくぞくとする。こんな島嶼国がどこかに実在しているのをたしかに知っているという気がする。
このアーキペラゴには幾人かの伝説的な人物たちがいる。無類の美男で女好きの画家バーサースト、社会改革の提唱者カウラー、トンネル堀りアーティストのジョーデン・ヨー、自ら伝説化した故郷の島から一生出なかった作家チェスター・カムストン、謎の死を遂げたパフォーマンスアーティストのコミス。
島々のトラベルガイドという体裁をとった物語を通して、これらの人物たちの姿は意外な線でつながり、より明確な像を結ぼうとするが、まるで正確な地図作成を困難にする磁気の歪みのように、さまざまな人々が語る彼らの像はところどころに矛盾や歪みをはらんでいる。
ひとつひとつはささやかな<短編未満>のような作品集だが、心の中に鮮やかなイメージが残るような印象的シーンがある。たとえば、目の前に見えているのに存在しない島に近づこうとする「ミークァ/トレム」の主人公が見つめる、永遠に囚われて飛び続ける無人機。不気味な塔の放つ恐怖におびえながら塔に自ら囚われる「シーヴル」の青年。「リーヴァー」で観測されるという、頭上に停止したまま横滑りしていく飛行機の姿。
「幻想小説」にしてはなんだかリアルな、奇妙に歪んだ魅力のある短篇集だ。

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2013年12月16日

Posted by ブクログ

異世界の島々〈夢幻諸島〉のガイドブックという形をとった物語。
最初は異世界の描写が少々退屈で延々と各島の説明をしていくだけかと思ったが、読み進んでいくと何人かの芸術家や文化人が繰り返し登場し、同じ人物やエピソードが異なる角度から語られていたりして面白い。幻想的な世界に思いを馳せながらゆったりと一、二編ずつ読んだ方がよかったかも。

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2013年11月22日

Posted by ブクログ

最初はちょっと取っつきにくい。
でも多分、噛めば噛むほど味が出る、スルメのような小説。
もう一回読むか。

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2013年10月21日

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