レイ・ブラッドベリのレビュー一覧
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華氏451度、摂氏にすると約233度。紙が自然発火して燃える温度である。
本作で描かれる近未来のアメリカでは、本は自然発火することはないが人為的に燃やされている。なぜ本の所有が禁止され、見つかると燃やされるのか、本を燃やすことを職分とする「昇火士(fireman)」たちもすでに把握していない。けれど、物事に両面があること、人間の野蛮さや孤独さを知らせるようなもの、平和で幸福であるべき世界を乱す不幸や悲しみや恐怖をもたらす情報を排除するべく、スピーディーで刺激的な没入型の娯楽番組を発展させる一方で本が排除されたのだということが、次第に明らかになる。
舞台となっている都市では戦争が間近に迫っているが、市民たちは誰もそれを真剣に受け止めていない。思い悩まず、想像せず、情報を組み立てず、ただスピードと刺激の中で生きている。生きている、単に時間を、日々を、人生を空虚に燃やしている。
昇火士のモンターグは、隣家の不思議な少女と出会ったことで、己の置かれている環境について意識を向けるようになる。少女が語る自然や言い伝え、彼女が口にする「なぜ」の言葉に知らぬ間に目が開かれ、忘れていた、あるいは目を背けていた現実世界の手触りと再び出会い直すモンターグだが、少女が不意に消えたことで、迷いを深くする。その結果、彼自身も思いもよらなかった方向へと人生が変わっていくのだが―――
本とは何か。なぜ我々は、私は、本に惹きつけられるのか。燃やされる本たちの姿を思うと胸が痛み、所有者たちの辛さを他人事でなく受け止めてしまう私だが、本作で描かれるディストピアは、違う形で現実のものとなり始めている気もしてゾッとする。
本作が書かれたのは1950年代始めで、核爆弾をもって戦争を終わらせたアメリカが、冷戦下の緊張の裏で進む経済的繁栄のなかにあった時期である。作品のベースには核による世界滅亡の危機や思想弾圧への危惧があったのだろう。けれど、読書においても「タイパ」が求められ、動画やゲームは楽しんでも本は読まないという人が増えている現代、どんどんスピードが上がる刺激的娯楽、考えない、考えさせない社会の構造は実現しつつあるのではないか。そして、そんな社会を築く原動力となっているのは、独裁政権でもなければ軍事権力でもない、何よりも「幸せな気持ちでいたい、心痛めるものは見たくない」という我々自身の弱さ、インスタントな快楽で時間を埋めて思考することのしんどさから逃げようとしている反射的逃避なのではないか。
本は私の心を癒し、非日常の世界に逃避することでリフレッシュさせてくれる。だがそれだけのために本を開くのでは、インスタントな快楽を追う本作の登場人物たちと同じことだ。本が与えてくれるもの、見せてくれる世界は、癒しやリフレッシュだけではない。本の世界で知る痛みや苦悩をまっすぐに受け止め、この世の汚泥と矛盾、悲哀と敗北を見つめてこそ、本という形ではるか昔から人間たちが積み上げてきた知を人生の糧とすることができるのではないだろうか。非日常の世界で時間を燃やし消費するだけではない、血肉となる読書を続けていきたい。 -
Posted by ブクログ
ネタバレラストのあっけなさを含めてディストピアだ……。
火を燃やすことに愉悦を感じていたはずのモンターグが、クラリスとの出会いをきっかけに昇火することから背を向けるまでの過程にゆっくり首を絞められているような閉塞感があった。
マクレラン一家のような、創造的でいろんなことを気にするひとたちは管理社会にとって都合が悪いんだなあ。
キーマンなのにクラリスの退場が早すぎてびっくりした……。
「ぼくらは、しあわせになるために必要なものはぜんぶ持っているのに、しあわせではない」の言葉が好き。
モンターグが都市から逃げ出した後、放浪者たちのひとりが言っていること(価値があるとわかっていたらどんなに繰り返してもつらくはない)がニーチェっぽいなと思った。
一瞬で都市は壊滅したけど、現実に本気で兵器を持ち出した戦争をしたらこんな感じで本当に一瞬で終わるんだろうなあ……。 -
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★3と悩むが。
まるで今の日本のようだ。
もちろんここまで過激ではないが、思想統制が敷かれ、戦争間際という点は、正にこれからの日本が進む先のようで、心が暗澹とする。
数あるディストピアの中でも比較的救いがあるのは、
プロパガンダに抵抗する人たちがある程度互いに信じ合えており、生き残る術を発見している点だろうか。
モンターグはこれまでの自分の常識に疑問をもち、分かりやすく動揺する。この動揺が、少しもどかしいと言うかやや浅薄で(ファーバーも言っているが)、事の重大さをわかっていないのか、ペイティーが言うように自分は大丈夫と信じていたのか、読んでいる身としてはイライラしてしまう。こういう演出要らないんだよ、とまで思う(すみません)。
主人公の妻ミルドレッドは大衆の象徴で、モンターグの努力空しく最後まで理解をしようとしない。それでもモンターグにとっては最後まで大切な妻だったのが少し意外だったが、それもまた悲しさの象徴だったのかもしれない。
わかりやすい人物が多い中、一人、ペイティーはなんだったんだろうな。多くの本を読んでいるようで、それは一瞬味方かもとモンターグが考えるほどだった。そしてどうやら死にたがっていた。間違っていると知っていながら、流れに抵抗できなかった人なのかもしれない。
そう考えると彼もなかなかに悲しい人だ。
予言的とも思える本書だが、考えると権威主義はいつも同じ方法を取るのだった。
まずは国民の思考を止める。自分たちの頭で考える知識階級の弾圧から始まり、国民にプロパガンダを染み込ませる。
次に刑罰による恐怖を植え付け、互いに監視させ、不信感を植え付ける。ミルドレッドが夫を密告するように。
国は誤った方向に進み得るのだという警告として、本作品は意味があると思う。 -
Posted by ブクログ
ブラッドベリは若い頃に手に取った記憶はあるものの、多分挫折したのだろう。
こんなに詩的な文章を書く人だとは知らなかった。
冒頭のクラリスとの対峙シーンは映画のようで、またファンタジーな空気も感じて驚いた。
それだけに、進むにつれて空気がだんだん変わっていき、クライマックスでは突拍子もなく感じて呆然とした。
一度読んだだけでは理解できないので、感想を言える状況ではない。
ただ、確かに色々考えさせられる作品だった。
ブラッドベリはSF作家と呼ばれるのを嫌っていたようだけど、SFではなく別の何かに感じた。
(敢えて例えない)
SF的要素はガジェットや機械犬くらいだろうか。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ本の所有を禁止された世界で、本を燃やす昇火士であるモンターグは、本と共に燃える家に残った老女を見て、本に興味を持ちだす。
社会派SFの傑作。1953年に作られた本だが、現代に片鱗が見えつつあるディストピアを怖いほどに言い当てている。冒頭に登場してすぐに消えてしまったクラリスという少女。この少女がモンターグに投げかける言葉がものすごく大きな意味を持っている。
「昔はファイアマンは火を消す仕事だったんだよ」
「叔父がハイウェイをゆっくり走ったら留置された」
「あなた幸福?」
この世界では、テレビは人々が見たくないものを映さないつるんとしたもの(毛穴がない)になっていて、一方的にテレビから話しかけられるだけのものになっている。これによって、人々は自分で考えたり、昔のことを調べたりといったことをしなくなってしまっている。現代でも、メディアは表現規制が進み、人々はテレビ、動画、ラジオを聴き続ける。まるで未来のディストピアを予見しているような世界。
またこの世界では、過去の消防士のことが一般に知られていなさそうだ。おそらく不要な歴史は忘れ去られているが、それが愚かなことであることが不死鳥を例にして述べられている。人類の歴史は繰り返している。もし歴史を知っていればこの不毛なサイクルから抜け出すことができるのに。
最後には戦争に気付かずにテレビを見続けて、爆弾に呑まれる人々と、人類を再スタートさせようとするモンターグたちという構図で終わる。この本を読んで感じたことを胸に今後生きていく読者たちを表しているようだった。 -
Posted by ブクログ
比喩が抽象的、主語がない、そもそもディストピア世界の話で小さな設定理解難しかったが、話の大筋は至ってシンプル
華氏451で書物が引火し燃え始める
書物は所詮媒体、媒体をいくら燃やそうと、どれだけ世界で多数派の波が大きかろうと、世の中にシラフの人間が存在する限り思想は紡がれる、的な
なんか人間の強さもちゃんと提示されてる読後感スッキリ系のディストピアだった
巻末の訳者解説がありがてえ。時代背景知れるのまじで解像度上がるから良い。
文学系のディストピアSF基本読みづらいんだけど、読み終わると読んで良かったっていつもなるからもっと読みたい
でも大変読みづらくて特に前半、イライラして『訳者xx 意味不明』とかググっちゃった。ヒット件数0。私の読解力の問題説あり