Posted by ブクログ
2019年04月21日
目次
・霧笛
・歩行者
・四月の魔女
・荒野
・鉢の底の果物
・目に見えぬ少年
・空飛ぶ機械
・人殺し
・金の凧、銀の風
・二度とみえない
・ぬいとり
・黒白対抗戦
・サウンド・オブ・サンダー(雷のような音)
・山のあなたに
・発電所
・夜の出来事
・日と影
・草地
・ごみ屋
・大火事
・歓迎と別離...続きを読む
・太陽の黄金の林檎
レイ・ブラッドベリと言えば、SF作家でありながら抒情的、ノスタルジックでメランコリーな作風というのがイメージだったし、そういう作品が多いのはもちろんなんだけど、それだけではないことに気づく。
ただ後ろ向きのノスタルジーではない。
かなりはっきりと、行き過ぎた科学至上主義などを批判している。
”無線車で外出していると、連絡は、ひっきりなしです。ああ、連絡か!実に体裁のいい言葉じゃありませんか。連絡とはつまり、いつも摑まえられているってことです。抑えられていると言うべきかな。”(人殺し)
似たようなことは森博嗣も作品の中で「携帯電話は使われている人が持つものでしょう。私は持ちません」と西之園萌絵に言わせていたなあ。
主人公はラジオ、電話、しゃべる家電を壊して回り、刑務所の独房で静かに過ごす。
黒人対白人の野球の試合。
特に記述はないけれど、1960年代のアメリカ南部が舞台でしょうか。
日々体を使った生活をし身体能力の高い黒人と、普段体を動かすことのない白人の試合。
けれども大人はみんな、当然白人が勝つと思っている。
審判はアイルランド人。
案の定白人は審判にも食ってかかる。
試合は黒人が勝ち、観客はそそくさと家に帰る。
「お家に帰りましょう。黒人はカミソリを持ってるかもしれないわ!おお、こわい!」
元の皇帝は、空飛ぶ機械を発明した男を殺す。
その男に悪意がないことはわかっているが、いつか誰かがその機械を大量殺人のための兵器として悪用するかもしれないので、その芽を摘むために。
ごみ屋は仕事をやめようかと妻に相談する。
原爆が落ちたらごみ収集よりも死体の回収を優先するようにと市長に言われて、そんなことはできないと思った。
しかし妻は言う。「家族のこと、生活のことを考えて」と。
ただ時流に流されていけば、何も考えなければ、楽に生きられるのかもしれない。
けれども、その後に悪夢のような日々が来るかもしれないことを、そのツケを子孫に残していくことを想像できないのなら、人間という生き物は何なのだ?
そんなブラッドベリの怒りを過剰に感じてしまったのは、過日に観た映画『マイ・ブックショップ』の影響かもしれない。