湊かなえのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
中学時代、駅伝に打ち込んでいた町田圭佑は、高校受験の合格と同時に起きた交通事故によって競技人生を断念してしまう。
虚な表情で高校の新入生オリエンテーションを眺めていた圭佑が出会ったのは、脚本家を目指している同級生・宮本正也。正也に声の良さを買われてスカウトされた圭佑は、彼と共に全国大会に9年連続で出場している青海学院高等学校の放送部の扉を叩くことになる。
名門校の陸上部で親友と走るという夢を絶たれてしまった圭佑だが、皮肉なことにそのきっかけとなった交通事故がなければ、彼は自分の声の良さに気づかなかっただろうし、放送部の活動とも縁がなかっただろう。
陸上を愛していた圭介をプロローグから緻密に描くことで、事故にあってからの陰鬱とした日々と、その転換点に出会ってからの彼の成長をより感じることができる。放送部のことを「所詮、文化部」と無意識に蔑んでいた圭佑が、脚本家志望の正也や声優を愛する同級生の久米と出会ったことで起きていく心境の変化は、涙無しには語れない。
災転じて福となす。私たちは自身に不幸が起きると、すべてがどうでもよくなってしまうことがあるが、視点を変えて見ることで新しい体験のきっかけとなったり、思わぬ発見があったりするだろう。失敗してもやり直せる、ではなく、失敗したことで新たな気づきを得るケースもあることを教えてくれた作品だった。
イヤミスの女王と名高い湊かなえ氏だが、綺麗な文体はそのままに、さまざまなジャンルを書くことができる作家先生なのだと知ることができた。今後より一層、彼女の作品にハマっていく自分が想像できる。
次回作である『ドキュメント』も楽しみなので、いずれ読んだ後はこうして感想を綴りたいものである。 -
Posted by ブクログ
映画「朽ちない桜」つながりで、この作品に。
短編集の中で、気に入ったのはふたつ。
・泣く猫 柚月裕子
17年音信不通であった母が死んで、真紀は母の住処に訪れる。母の同僚サオリが弔問に訪れる。
母が大切にしていた猫・マキは母のために泣いたという。
P.76
(中略) あっけらかんとした人生じゃなかったと思うよい サオリは俯いたまま、自分のことのように語る。
「男に夢中になると、ほかが見えなくなっちゃう。男と別れたあと、自分がしでかしたことを後悔する。そんときは、もう男なんかいらないって思うけど、好きなやつができ ると、また突っ走る。そして別れて悔いての繰り返し、心底、自分で自分がいやになる。 だから、悪い酒を呑む。そりゃあ身体もダメになるよね」 サオリは顔をあげると、真紀を見た。
「別にあんたに、母親を許せ、なんて 言ってるんじゃないよ。ただ、猫が泣くんだから、あんたが泣いてもおかしくないって言いたいだけ」 じゃあ、そう言って、サオリは部屋を出て行った。
真紀はしばらく、その場から動けずにいた。 やり場のない怒りと、悔しさが胸に渦巻いている。それはサオリに向けられたものではない。自分に対してだった。
テーブルの下で泣く猫を怒鳴った理由は、自分でもわかっていた。あんな母親のため に、泣きたい自分がいることに、気づきたくなかったからだ。 耳の奥で、忘れかけていた母の声がした。ひとつの布団に一緒に入り、後ろから抱き しめられたときの声だ。
「お前は優しいね。ほんとにいい子。」
その声を吹っ切るように頭を振ると、部屋に戻って窓を開けた。忍っぱい風が、頬にあたる。
下を見ると、空き地にマキがいた。前で顔を洗っている。真紀の視線に気づくと、 二階の窓を見上げながら、ひと声ないた。 マキが、ビルの隙間に姿を消す。
真紀は猫が消えた先を、見つめた。 マキが本当に泣いたのかはわからない。だが、真記の頬は濡れていた。
(後略)
猫は人の感情がわかるという。犬もそうだと思うが( 私は今は、とりあえず 犬派)。
・「黒い白猫」 東山彰良
異世界の話のようだ。強烈。 -
Posted by ブクログ
「タイムカプセルの八年」辻村深月
ひるま先生なぁー、、、こんな先生、小学生には人気だけど大人になってから考えるとこんな人無理、、ていうタイプの先生いるよね。熱血、金八先生の真似事、、
ただそれだけじゃない、これは浮世離れした大学教授の父親と小学校教師を目指す息子の話。
「トシ&シュン」万城目学
芥川龍之介の杜子春が関係あるかと思ったらたぶんないのかな?それとももう少し深読みすれば関係してるのかな?と。神様の目線の話は畠中恵さんを思い出した。
「下津山縁起」米澤穂信
なんとスケールのでかい!!米澤穂信さんがやってくれたなぁって思った。現実を追い越したタイミングあたりでゾクゾクしてきた。
「長井優介へ」湊かなえ
イヤミスの女王が書く救いのある話。
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Posted by ブクログ
ネタバレ『告白』に代表される、なんともいえないとろりとした重苦しさに胸がつまる感覚を勝手に期待していたので、正直読後感は湊かなえっぽくないなと思ってしまった。制限の多いテレビドラマありきで描かれた作品のせいだろうか。
それでも、限られた登場人物と極めて狭い空間設定にも関わらず、「こうだろうな」という予想をさらにひとひねりで超えていくストーリー性は流石だ。
新聞記者の晴美はひとつひつ証拠を積み重ねて安易に判断しない慎重さがあるのに、ずいぶんと見通しの甘い計画を立てたものだなと思う。扱いやすい子供だったと自負しているが、陽子に気づいてほしいと願う姿は、まるで構ってほしいと問題行動を起こす子供のようだ。緻密さがないのは、動機が心底の悪意とは程遠いからだろうか。誰もがその境遇なりに大切に思い守りたいものがある。ただそれだけ。
陽子にりぼんを結びながらかけた台詞とは裏腹に、境遇にずっと囚われていた晴美。陽子はまさに"茶色坊や"なのだろう。でもその陽子も、親友である晴美が結んでくれたりぼんを、まさにダンボのカラスの羽のようにして新しい境遇へと飛んだのだ。
絆だなんだと語るのは苦手だ。
それでもとろりとした重苦しさのかわりに、風に揺れるりぼんにふわりと頬を撫でられたような、そんな心地も悪くない。
遥かモロッコの土地で、「また戻ってこられるお守りがわりだよ」と手首に巻かれた毛糸の紐を思い出した。