北原亞以子のレビュー一覧
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慶次郎シリーズとしては13冊目にして、初の長編。
長く続いてきたシリーズの中で構築されてきた、人間関係や空気感などを踏まえた上で、
ようやく今回、改めて初篇である「その夜の雪」に立ち返るような物語でした。
幼少時に目の前で父を殺された息子・弥吉が江戸に戻ってきた事をきっかけに、
一時は止まったはずの歯車が噛み合わないままぎしぎしと回り出し、再び悲しい連鎖を呼び起こしていく。
特別、誰が悪い訳じゃない。
この物語に心底からの悪人は誰ひとりとしておらず、
ただ巡り合わせが悪く、時折ふと魔が差した事がそれぞれにあっただけだ。
もう少し我慢が利いたなら、
もう少し勇気があったなら、
もう少し人の気持ちまで考えられたなら…
それらは、ほんの小さな迷いや欲。
普段なら何の事もないはずなのに、運悪く重なって転がって、
気が付いた時には手が付けられなくなっていた。
…時代小説として江戸を舞台に描かれているが、
この物語の持つテーマそのものは、現代にもひしひしと訴えかけるものがある。
"みんな一生月明かりの中にいて、夜目遠目でごまかされていりゃ幸せなんだよ。"
それでも人は夜の中、ひとりではいられない。
誰かの姿が見えたなら、駆け寄って近くで見て触れたいと願う。
たとえ裏切られ落胆し、傷ついたとしても、人はまた手を伸ばさずにはいられない。
だから、いつまでも幸せを探し続けている…
久しぶりの慶次郎シリーズでしたが、
胸の奥にじわじわと染み込んでいく筆致は相変わらず素晴らしいものでした。
激しさがなく淡々としている分、読後の反芻がいつまでも続きます。
人であることの切なさに満ちた一冊です。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ北原亞以子、6冊目は「深川澪通り木戸番小屋」の続編。とはいえ、メインの主人公は木戸番夫婦ではない。彼らは、難破船に対する灯台のあかり、若しくは最後に頼るラスボス的役回り。どうしようもなくなった人間が、最後の砦とする希望の光。
裏切られ、捨てられ、騙され、なけなしの見栄を張り、そんなにっちもさっちも行かなくなった人間の孤独が、夫婦の人となりや笑顔で癒やされる、という趣向。
小説の登場人物たちを自在に操り、まるで本当に実在するのかと錯覚させる様な名人芸が味わえます。
きっと貴方も、登場人物の誰かの行動と自分を重ね合わせて読んでいることでしょう、しらんけど。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ遅まきながら初 北原亞以子。
【北原 亞以子(本名:高野美枝、1938年1月20日 - 2013年3月12日)は、東京・新橋の祖父の代からの椅子専門の洋家具職人の家に生まれる。4歳で父が南方戦地で戦死し、6歳の1944年(昭和19年)11月30日に空襲で生家が焼失し、7歳で終戦を迎える。千葉県立千葉第二高等学校卒業。高校のころから小説家を志望し、石油会社でOLをしながら書き続ける。
28歳の時に同人誌「文藝首都」の同人への推薦人のつてが無く購読と批評提出のできる会員となり、処女作を提出するが出した原稿が訂正の赤入れだらけで真っ赤になるほど酷評され、ショックを受けて会員をやめる。1968年、同人誌「文学地帯」の同人となる。翌1969年、同誌に発表した『ママは知らなかったのよ』で第1回新潮新人賞を受賞。同作は、人気作家の処女作でありながら唯一の現代小説ということもあり、死後の2016年まで単行本収録されなかった。同年、『粉雪舞う』が司馬遼太郎に賞され、第12回小説現代新人賞佳作を受賞。
以後は、勤務先を変えつつ、年1、2回「小説現代」や「小説新潮」に短篇を発表するが、書いても書いても多くはボツになり、まったく評価されないどん底を味わう。
しかし、写真スタジオに事務員として勤務していた40歳のとき誘われ、もう一つの憧れだったコピーライターとして広告制作会社に入社して、生活が安定してから、時代小説に本格的に分野を移し、作家として再デビューして、1988年単行本『小説春日局』、『歳三からの伝言』を初めて出版する。この時は、新人賞から、ほぼ20年たっていた。その後すぐ『歳三からの伝言』出版記念パーティで機会を得て「小説新潮」で断続的に連作掲載されていた『深川澪通り木戸番小屋』が1989年講談社より刊行され、注目を集め出世作となり、シリーズ化される。それから5年後1993年に『恋忘れ草』で第109回直木三十五賞を受賞する。1997年から始まった『慶次郎縁側日記』は人気シリーズとなり、NHKで高橋英樹主演で断続的にドラマ化された。
2011年心臓病の悪化で入院、手術後の復帰インタビューで余命が少ないことを述べていた。2013年3月12日、東京都内の病院で心筋梗塞のため死去。75歳没。】
シリーズ化された本作は、奉行所同心のご隠居、森口慶次郎の活躍と哀しみを描いた人情時代劇小説。
シリーズのっけからレイプされた嫁入り前の娘の自殺というショッキングな話から始まる。本書には11の短編から構成されているが、藤沢周平作品の様な感動的な展開は少ない。本書では特に「早春の歌」「饅頭の皮」が面白かったが、暇を持て余したご隠居がお節介をやくという展開がテンプレの様。
北上次郎の解説にもあるが、各短編で起きる(小さな)事件に首を突っ込みながら「問題は何一つ解決しない」結末を、リアリティ重視と見るか、消化不良と見るかでこの作者の好き嫌いが別れそう。
登場人物をあえてキャラ立ちさせていない様なので、名前だけで何をしている人物かを覚えるのに難儀した。とはいえ、本書1冊のみでの作者評価は控えたいので、後数冊はきちんと読んでみたい。 -
購入済み
う〜ん、これはちょっと…。
2023年11月読了。
「その夜の雪」の直後の物語として、連載当時執筆されており単行本化もされたのだが、著者自身から「もう少し手直ししたい…」的な言葉が有った為に、今まで文庫化されてこなかったのだそう。
かなりの意気込みで読み始めたのだが、ちょっと登場人物が多過ぎると言うか、人間関係が入り組んでいるので、感情移入がしにくかった点、人が増えた分「キャラクターの設定や書き込み」が足りなく感じられる点、慶次郎さんの物分りがやけに良過ぎて、その後の短編で見せる「若くして失った娘への想い」と、ちょっと繋がり難く感じられる点などが有り、著者自身が「手直ししたい」と感じていたのが理解できる、とっても残念な仕上がりだった。
もちろん、そこいら辺の《巻数だけを延ばすことだけが命みたいな》「ラノベみたいに薄〜い中身の時代小説」等から見れば、非常に完成度は高いと思うが、このシリーズ全体のレベルがもっと高いので、その分だけ損をしている感じだった。
それから「連作短編集」と「長編」は似て非なるものであって、途中で若干間延びしている印象に成っているのもマイナスポイントか・・・。
何れにしろ、「慶次郎…」シリーズを読んでいて、これだけは未読という方々にはお奨めするので、是非読んで確かめていただきたい作品。