北原亞以子のレビュー一覧
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慶次郎縁側日記シリーズ第三作。再読
『仏の慶次郎』という同心時代の異名がクローズアップされる話が多かった。
『仏の何のと言われたって、たまたま手前の目についた者を助けてやるだけじゃないか。仏だというなら、小伝馬町の奴らを全部、助けてやれってんだ』
「からっぽ」より
『ちょっと厄介な女だが、ここでひきとっておけば、また仏の慶次郎の名が上がるってもんだ、そう考えてるよ』
「おひで」より
『仏の慶次郎という同心時代の異名も、悪人を捕まえるというお役目にどこか中途半端なところがあったがゆえに、つけられたのではないか』
「あと一歩」より
『人に罪を犯させまい』と奔走した慶次郎の三十年。だがそ -
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女一人で生きていくのは、今でもなかなか大変だけど、この時代にそうするのは、想像がつかないほど大変だったでしょう。選択肢も二つ三つで、そのどれかに自分を当てはめて生きていかなきゃならなかった。今、選択肢が増えて、自由度は上がっているけれど、さて、みんな自由にのびのび暮らしているかというとそうでもないように思う。
私は女で生まれて不満なく過ごしているので、それ以外の人の気持ちはなかなか分からないけれど、大変なのは女だけでもないでしょう。
江戸時代と比べて、私たちの生き方は楽になっているでしょうか。いろんな登場人物の心情に身につまされるのは、似たような経験があるからではないかしら。自分の心に勝手に枷 -
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深川澪通り木戸番小屋で17回泉鏡花文学賞受賞作品のシリーズ。江戸で五指に入る狂歌師となった、孤児の政吉。子供の頃は庇護者もなくかっぱらいで口をしのいだ。塩売りになり、客と喧嘩になった折に間に立って知り合いになった木戸番小屋の夫婦、お捨てと笑兵衛に文字を教えてもらうことに。それから作り出した狂歌で気持ちを歌にする喜びを得る。恋女房と所帯を持ち狂歌も腕を上げて本に。
すれ違いから夫婦の気持ちは離れ、いつしか後戻りできない事態に。不幸が繰り返されるが、いつも笑顔で迎えてくれる木戸番小屋の夫婦が最後の砦。いつも暖かい気持ち良い場所に、期せずして足が自然に。。。このシリーズは群像劇。木戸番小屋の夫婦は常 -
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ネタバレ深川澪通りシリーズの3作目。
町に住む人々の悩みを、笑次郎・お捨夫婦は、温かく聴き、見守り、時には喜怒哀楽を共にしてくれるが、二人がするのはただそれだけ。一緒に解決してくれるとか、謎を解いてくれるとか犯人探しとか、そういうミステリー的な要素が前の作品に比べて減っている。
それが味わいになっていていいんだよなぁ。お手軽にハッピーエンドにしないことで、なんとも深い味わいの余韻が沸く。生きてきたら穴に落ちたことも壁に当たったこともあるだろう。そういう経験があれば、見守ってくれるだけ、飯を食わせてくれるだけの木戸番夫婦のありがたみが、読んでるだけでジワーっと心に沁みる。
これからは、弱ってる人、困 -
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ネタバレ宇江佐作品を読み終わってしまった後、市井人情ものロスになる前に、エエの探しとことと思い、評判の高いこのシリーズを手に取った。
正解!
木戸番笑兵衛と、小間物屋を営むその妻お捨。彼ら夫婦と交わる江戸の人々にはそれぞれ生活者としての悩みがある。
それを大上段に解決するのではなく、等身大で受けて時間とともにゆんわりじんわり解決していく。
そうそう、こういう人情話を時々継続して読みたくなるのである。心が風呂に使ったようなじんわり溶きほぐれる感じを、たまに味わっておくのは、気持ちいいし必要なこと。
葉室作品では道徳部分が強すぎるし、伊藤潤では志が高すぎる…。いいシリーズに巡り合えた。非常に残念な