北原亞以子のレビュー一覧
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慶次郎縁側日記シリーズ第四作。
表題作はシリーズでは珍しい中編。
薬売りとして初めて江戸に来た四方吉が、帰り道の碓氷峠で追剝に襲われ逆に谷底に突き落としてしまう。怖くなった四方吉は江戸に舞い戻り名前を変えて四年間暮らしたのだが、その名前を借りた男の妻が江戸にやってきて…というなんともハラハラドキドキのサスペンスタッチになっている。
しかしこの話のテーマはそこではない。前作に続き、この話でも『仏の慶次郎』の異名が独り歩きしている。
本来『仏の慶次郎』とは罪を犯させない、罪が起こる前にその種を摘み取る慶次郎の姿勢を指したものだったはず。
だがいつのまにか『仏の慶次郎』に頼めば罪を軽くしてくれる、運が良ければ罪をなかったことにしてくれるという、犯罪者にとっては都合のよい役人の意味にすり替わっている。
だから主人公おいとのように、どうして南町(現役当時慶次郎が所属)で出来ることが北町(慶次郎は手出しできない)で出来ないのか、慶次郎と吟味方与力が知り合いかどうかによって罪の重い軽いが変わるのかという理屈になり怒りを生んでいる。
更におつぎに至っては訴えを聞いてくれたのが唯一吉次だったがゆえに酷い目に遭い、その怒りと憎しみを四方吉とおいとに向けてしまう。
『責められるのは二人ではなく、二人があやまちを犯さねばならぬように仕組んだものではないか。二度とこんな真似はやめてくれと、慶次郎はその目に見えぬものに向かってわめきたくなった』
娘・三千代の悲劇のようにたまたま居合わせただけで起きてしまう事件があり、たまたま担当した同心が北町か南町かで変わってしまう裁きがあり、話を聞いてくれたのが慶次郎か吉次かで違う環境があり、罪を償ってもなお蝮の吉次に目を付けられるかどうかで変わっていくその後の人生がある。
事件は終わっても関わった者たちのその後がどうなるのか、なんとも苦い話だった。
その吉次、金が有り余っている人から強請るのならまだ良いが、やり過ぎてついに罪を擦り付けられるというピンチに。島中賢吾も吉次の十手を取り上げたいほどの怒りに駆られるが、吉次は北町同心が使っている岡っ引。手を出せないのがもどかしい。
だがこれで懲りることなくまたせっせと強請の種を探す吉次なのだろう。
晃之助は相変わらずモテている。モテすぎてストーカー事件まで発生。
やり過ぎた娘に追いつめられる晃之助。皆は狂言だろうと分かってくれたが、これがもし巧妙な計画を立てられていたらとゾッとする。
だが逆に『こんなきれいな男の人に嘘をついてもいいのだろうか』と後悔して罪を打ち明ける気になったという娘もいて、苦笑しつつも嬉しく感じる晃之助。
色男も大変だったり得をしたり。
後半は薄い話が多かった。慶次郎も名前だけの登場で勝手に解決していたり。
その分、同心・島中賢吾が十手を預ける太兵衛親分がよく出てきた。仕事になれば出来る人だし優しい、でも親としては心配性で慌てんぼうの父の顔があって人間っぽいのが良い。
辰吉が最近嵌まっているのが草双紙らしい。江戸では水滸伝が流行っているらしく、みな現実にはいないヒーローを求めているのかも知れない。 -
ネタバレ 購入済み
表題作が戦国ものだったので買ったが、全部戦国ものかと思ったら、幕末ものの方が多かったので失敗した。この作者の人は土方好きみたいだけど、自分は全然好きじゃないので。なんとなくオチみたいなのがなくて、そこで終わるの?みたいなのが多かった。
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「慶次郎縁側日記」シリーズは、随分と数多くありそうなのだが、なぜか、この本が「出会い」となった。
主人公の森口慶次郎は元定町周り同心。仏と名前がつくほど人格も優れた同心だった。その森口に惹かれる主人公の周りの人間たちを濃く深く描いたのがこの「脇役」
一つ間違えば、悪の道をさまよい、落ちぶれてボロ屑のような人生を歩くはずだった者。
心深く思いを持ち続けた相手の女房が、悪人に殺されるように亡くなり、思いを伏せて、嫁ぐ娘。
上役でもないのに、なぜかいつもきになる慶次郎の眼差しに、いつもヤサグレた心に一つ、真白きものを養う男。
短編のような小節を組み合わせて紡がれるこのシリーズは、急流を流されるように読むシリーズではなく、一つ一つ時に外の景色を見るように、読む本なのかもしれない。 -
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深川澪通りの木戸番小屋夫婦の4冊目。
相変わらず雰囲気も、中の人達の気持ちも大変良いです。今回の巻では様々な女性達が主人公です。
家業と姑の世話に明け暮れる母の生き方を嫌い、都会に出て働いている女性が、キャリアアップを目指すのか、気楽に働いていくのかを悩む話。
家族の借金の為に不幸せな結婚をした女性が、婚家を出て好きな人と一緒になるけど、その人が死んでしまう悲しい話。
ヒビが入りかけた夫婦がヨリを戻す話。
前途有望な若者が火事から老婆を助け、代わりに若者が死んでしまう話。助けられた老婆の後悔と捻くれる気持ちが痛々しい。
番屋の書役の太久郎さんの恋の話。
人が信じられなくなって、人を疑い、拗ねて、閉じこもってしまうこの女性の気持ちもよく分かる。太久郎さんと幸せになって貰いたい。
昔、捨てた娘とその夫に身代を取られそうになるが、最後は娘に命を助けられた老人の話。
前科持ちの年上の女性が、正直で人の良い若者に、正直さと善良さで救われる話。
お互いに好き合っていたのに、一緒になるのに15年もかかってしまったカップルの話。 -
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深川澪通り木戸番小屋の2冊目は、悲しい話でした。
1冊目は1つ1つの話に救いがありましたけど、2冊目の特に前半の話は悲しい話です。
2冊目は中編が2作。2作が微妙に繋がってる感じです。
孤児の塩売りから仕事でも狂歌師としても這い上がったけれど、全てを失ってしまう人の話。
仕事に夢中になるあまり家庭を顧みなくなり奥さんに出て行かれるとか、その後知り合った女性とも最後の野心から二の足を踏むうちに時間がなくなってしまうとか、本当に好きだったから逃げてしまったと後から戻って来られても他の男と駆け落ちされたことが忘れられないとか、人の暮らしは江戸時代も今も同じみたいです。
後半は、経済的には自立していて長年不倫をしている女性が自分の行く末に不安になりつつ、それでも自分の選んだ道に胸を張って見栄を張ろうとする話。
夫がいても、子供がいても、友達がいても、結局最後は1人かもしれない、という不安も昔も今も変わらないようです。