筒井康隆のレビュー一覧

  • 虚航船団(新潮文庫)

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     本書が単行本で出たときに買ったのだが、積ん読になったまま幾星霜。
     宇宙を航行している大船団がある。その一宇宙船に船団司令部より指令が下る。使命は惑星クォール全居住民の殲滅。
     鼬族の人口爆発により彼らによる犯罪が頻発。特に凶悪な鼬族約千名を3度にわたり惑星クォールに流刑にして約千年。鼬族は惑星クォールで文明を再び発展させ、刑紀九九九年に到り、「大空からの殺戮者」が襲来する。
     そういう話なのだが……
     なのだが……

     まずコンパスが登場する。なぜなら、指令が下る船というが文具船だからである。船長は赤鉛筆で、副船長がメモ用紙、繊維じゃなくて船医は紙の楮(こうぞ)先生だったりする。文房具は生

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    2016年02月15日
  • 巨船ベラス・レトラス

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     文壇をテーマにした小説らしいということで読み出したがすでにそうしたものには『大いなる助走』がある。うろ覚えで恐縮だが新進作家が文壇の俗物どもにいいようにされて最後にぶち切れて文壇皆殺しをはじめるといった話でなかったか。筒井康隆ともあろう者が同じようなものを書くとも思えぬ。と読み出してみると似たエピソードが導入となっている。つまり私小説を書いている同人誌作家が文壇の前衛作家を狙って爆弾事件を起こすというのが冒頭。しかし本書のテーマは「文壇」ではなく「文学」なのだ。
     そこで書評の導入もこんな風に路線変更。

     私は週に1回だが、少々遠方に仕事に行っている。これまで自家用車で行っていたが、諸般の

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    2016年02月15日
  • ダンシング・ヴァニティ(新潮文庫)

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     本作は文学的実験である。しかし同時に娯楽小説でもある。実験の主たる手法は反復。
     「おれ」は美術評論家で、母親と妻、幼い娘、出戻りの妹とその娘と先祖代々の家に住んでいる。ストーリーは「おれ」の本が売れたり家を建てたり画家と付き合ったりという美術評論家の日常であるが……
     「ねえ。誰かが家の前で喧嘩してるよ」と妹が言いにくる。とばっちりを受けたら大変と家族を奥の部屋に避難させ、「おれ」は二階の窓から様子をうかがう。すると家の前ではやくざと大学生が喧嘩している。喧嘩がエスカレートして死人が出たところで、再び「ねえ。誰かが家の前で喧嘩してるよ」。とばっちりを受けたら大変と家族を奥の部屋に避難させ、

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    2016年02月15日
  • 銀齢の果て(新潮文庫)

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    星1にするか星5にするかでとても悩みました。
    どうせなら、星0ということが出来ないかとも思いました。
    少子高齢化により溢れかえった老人達に暗喩ではなく本当の殺し合いをさせる社会を描いた筒井康隆さんらしい狂気とエロティシズムと社会批判に満ちた不快で仕方がない作品です。

    毎度のことですが、筒井康隆さんに軽蔑の意を示せばいいのか尊敬の念を抱けばいいのかが分からなくなります。ただ、どうしてもこの人の文には惹き付けられてしまうのです。




    ~「あちちちちちちち」津幡は思わず手を振った。梅子の血がこれほど熱いとは思っていなかったのだ。~

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    2015年11月11日
  • 文学部唯野教授

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    学問小説、と言う一風変わった形式。毎章後半に唯野教授の講義が行われ、その内容が非常に興味深い。文芸批評に強い関心があるため非常に楽しむことが出来、ナラトロジーや記号論など、力を入れて勉強をしている範囲については特に楽しめた。大学の講義を受けているような感覚だった。唯野のスタンスは、文芸と学問とのバランスについて、自分と完全に反転した形だなと思った。それらを両輪とした相互フィードバックを志向する点は共通だが、比重が逆だ。メタフィクションとしても面白かった。

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    2015年08月08日
  • 緑魔の町

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    ネタバレ

    筒井康隆の中で一番好き。SFジュブナイルのほうの文庫は表紙が気持ち悪いけど挿絵はとても良い。挿絵の人が表紙も描けばよかったのに。
    町の人に追いかけられているときの白川青年の「ぼくはきみが倒れたら捨てて逃げるぞ!」という台詞の必死さが面白い。笑った。
    主人公の武夫はさんざんな目に遭うけどきちんと助かるのでそこも良い。

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    2015年07月21日
  • ダンシング・ヴァニティ(新潮文庫)

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    冒頭から初期の短篇 「しゃっくり」 を思わせる時間の反復で始まり、 おい、 これいつまで続くんだよと、 半ば呆れながら読み進めていくと、 いきなりの鮮やかな場面転換が。時間と空間、 過去と現在を自在に行き来し、まるで夢を見ているときのような、 あの脈絡は無いのに妙に生々しい感覚を味わわせてくれる作品。筒井ヴァージンは手を出さないほうが良いかもしれぬ。

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    2015年04月06日
  • 文学部唯野教授

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    大学教授陣の内情を滑稽な姿でもって明かしながら、主人公・唯野教授の批評文学論の講義が一章ごとに進む。
    批評文学論、中でも構造主義の物語学に興味がわいた。文学論の本も読んでみようか? 唯野教授ほどわかりやすくはないかなぁ?

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    2014年12月01日
  • 虚航船団(新潮文庫)

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    ネタバレ

    【1章】文房具が、自らの使用用途(ひとつの役割)に拘るあまり、おかしくなってゆく…僕らと同じね。【2章】鼬の文明史。自前の毛皮があるため毛織物業が発展せず、産業革命が興らないという設定は巧い!【3章】物語のラスト。コンパスイタチは「これから夢を見る」という。彼は、戦争描写で埋め尽くされ、閉じられてゆく物語の中で、自分の内側にあらたな虚構(夢)を建立しようとしている。完全にあきらめられた世界の中で見る夢は、明るい未来か?SF的な危険予知夢か?世界を虚構化(解釈して認識)し、切り開いてゆく営みは、この先もまだまだ続く。

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    2014年06月23日
  • 愛のひだりがわ(新潮文庫)

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    ジュブナイルとされているが、大人が読んでも十分面白い。
    タイトルで勘違いされそうだが、甘酸っぱい恋愛ものではなく、片腕が不自由な少女が父親を探す近未来日本を舞台にした冒険活劇だ。徐々に大人びていく愛の成長には少し寂しさが漂う。

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    2014年04月14日
  • 巨船ベラス・レトラス

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    ネタバレ

    久しぶりの筒井康隆。「大いなる助走」の系譜にある文壇モノ(もちろん、メタフィクション満載)。
    「巨船」が本格的に動きはじめる中盤からは、めちゃめちゃ面白くなる。筒井好きな人は必読。

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    2014年01月14日
  • 脱走と追跡のサンバ

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    筒井康隆の傑作の1つである。登場人物の自我からの脱出の顛末。自我同士の絡まり合いとぶつかり合いによる、時空がねじれ合うドタバタなのに、不思議と最後までするすると読めてしまうのはタイトルにも有るサンバをはじめとした音楽的リズムの賜である。20年ぶりに再読したが相変わらず新鮮。自我により世界が想いのままにねじれのたうつのは、映画「マトリックス」「インセプション」の元ネタになったのではないかとの説もあるが、無いだろう。むしろ下地に有る夢野久作や、どっちが下地かわからないつげ義春の作品が時々フラッシュする。最後の論文のパロディがやや退屈と思ったところで、「これからがパロディでなく、これまでがパロディで

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    2013年10月20日
  • 愛のひだりがわ(新潮文庫)

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    父親が蒸発したのち、母まで病死。住み込みで働いていた先の家族にいじめられ、番犬を連れて父親を探す旅に出る愛。
    波乱万丈過ぎる愛の旅。でもいつも左腕が麻痺している愛の「ひだりがわ」には愛を守ってくれる存在が出てくる。
    愛は優しさに甘えるだけの女のコじゃなく、自分で学び成長する。

    理不尽な環境に置かれたとき、それをどう考え、どのように行動すべきか、とても真っ当な理屈が貫かれていてさっぱりした。

    随所で出てくる「わたしはとても幸せだ」という感覚が大事。

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    2013年04月22日
  • 俗物図鑑(新潮文庫)

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    見た目の厚さの割に一気に読めます。読中はゲラゲラ笑いました。(痰壺評論家はかなりきつかったですが‥笑)俗物万歳!作者の奇才に天晴れ!

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    2013年03月16日
  • 日本以外全部沈没 パニック短篇集

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    著者大暴れ(紙)の作品。
    うっかり油断したら本の中から
    作品の人物が逃走してきそうな気がして
    ちょっと怖いような気がします。
    (現実にそういうことはありえませんが)

    表題作は本編の後がお楽しみです。
    何かは読んでからのお楽しみ。

    面白かったのは大暴れ大暴走の
    「ヒノマル酒場」と「農協月へ行く」の2つ。
    特に前者はギャグまっしぐらな作品だけれども
    実はよく読んでいくとメディア批判なのです。
    そういう意味で読んでいくと結構深いものです。

    ただし、少し構成に難があるので
    読むときには注意。

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    2012年11月14日
  • 虚航船団(新潮文庫)

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    まずは読みきった自分を褒めたい。

    読書って、読者が本の世界に入り込むのがいわば暗黙のルールなのだが、この本に限っては本の世界が頭の中に押しかけてくる感じ。
    それが新鮮だった。

    二章は見ただけでうんざりしますが、地図を見ながら、鼬の勢力の変遷を想像したら楽しく読めました。

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    2012年10月03日
  • 虚航船団(新潮文庫)

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    神話→歴史→SFという歴史的成立過程を倒置し、気狂いだらけの異様な文房具たち、迫力すら感じる歴史書・通史のカリカチュアを経て、"神話"と銘打たれたブンガクのジョイス的極地に至るまでの密度の濃さは類例を見ない。序盤の教会の件以降、宗教的要素のまるで現れない第三部は、しかし"荒唐無稽"という一点においてまぎれもなく神話そのものなのかもしれない。そしてラストに配された親子の会話からは、どんなに前衛や実験と称して迂回や破壊や冒涜を繰り返そうとも、小説として真っ当なオチをつけずにいられない物書きの性が垣間見える。

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    2012年07月30日
  • 笑犬樓よりの眺望

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    筒井康隆のエッセイは毒舌でふざけているように見えて実は生活をしていく上での大きな基本を教えてくれる。おそらく今の若者が読むと時代遅れの意見ととらえるかもしれない。でも僕にとってはこれが正しい物の見かただ。これからも何年かに一度読み直したい。
    そしてこのエッセイの最後の2葉、「日本てんかん協会に関する覚書」と「断筆宣言」はすべての表現者が読んでおくべきだ。

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    2012年05月05日
  • 家族八景(新潮文庫)

    購入済み

    読了

    始めて筒井康孝を読んでみました。
    こういう人の心理や感情を描いた小説は面白いですね。
    読んでて辛くなりますけど...。

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    2012年04月17日
  • 愛のひだりがわ(新潮文庫)

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    表紙が素敵だったのとタイトルに惹かれて購入しました。
    「愛のひだりがわ」というタイトルから、”愛”という
    概念を主軸にしている内容と想像していたのですが、
    とっても単純な意味でした♪
    (勿論、概念の”愛”も大きなテーマの本です。)
    そして、「愛のひだりがわ」の意味が分かった瞬間、
    新幹線で読んでいたにも関わらず涙が我慢できませんでした。
    タイトル一つでもこんなに意味があって、心を打たれるのは
    さすが筒井先生です。本当に言葉が大好きなんだと思います。
    今のままでは将来の日本は作中で描かれている様な
    日本になるのだと思います。そうならないように…子供が
    こんなに苦労したり悲しんだりする日本にならな

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    2012年04月17日