千早茜のレビュー一覧

  • しろがねの葉(新潮文庫)

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    なんだろ、ジブリ映画を一本みた後のような読後感。爽やかな部分と、人間の欲望の部分がメリハリよく描かれていて、複雑な気持ちになる作品でした。

    私は石見銀山に行ったこともないですし、勿論戦国時代に生きたわけでもないです。ましてや男なので、女性の体や気持ちの変化など体験したこともなく、わからないことだらけなのですが、なんだか自分がタイムスリップして、ウメ(主人公)になったような感覚を覚えるほどリアルに世界が描かれていたと思います。きっと著者は石見銀山や当時の人々の生活について、細かく調査されたのだろうと察します。

    間歩(まぶ)や手子(てご)など、聞き慣れない言葉が多々でてくるのですが、自然とそう

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    2025年10月09日
  • 神様の暇つぶし

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    匂いや感触、体の感覚、味の描写が微細。
    自分の体で再生できるようだった。
    それは良い香りや気持ち良いものだけでなく、
    生々しさや痛々しさも。自分の体で再生できるほどリアルなはずなのに、ありふれた表現や長々しい説明的なものではない。

    食事や食べ物の描写だけでその人物の体の変化さえも表現されているようだった。

    生き死にの場面ではない、
    例えばその人物がどう水を飲むのか、どう汗を流しどう血を流すのか、どう腹を立てるのか、どう欲求が高まるのか、どう取り乱すのか、、
    何気ない場面において、むきだしの命的なものを最初から最後までずっと感じていた。

    人が死にました、生まれました、では無い事で
    それを感

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    2025年10月04日
  • 赤い月の香り

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    前作の一香さんと朔の間の、不思議と落ち着く雰囲気、通じ合っている関係性と比べると、今作の主人公と朔さんとの関係はかなりちぐはぐ。

    主人公の特徴が強めで自己主張がある。だから、新城や朔さん、屋敷や依頼人だけに注目して見られた前作と比べると、主観的な印象を受けた。

    前作とはまた違った朔さんや新城、そして同じ所があって、読んでいて楽しかった。

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    2025年10月03日
  • 雷と走る

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    ネタバレ

    またまた千早茜さんです。切なくて、とても良かった。
    千早茜さんらしく、主人公は30歳を少し過ぎて、結婚を考えている恋人もいるんだけど、妊娠・出産に関しては少し慎重になっていて、その気持ちを恋人とうまく共有できていない、という設定。
    そのことは、彼女の生い立ち(幼い頃の思い出)と関係している。
    主人公は幼い頃、父親の仕事でアフリカにいて、そこは非常に治安が悪く、インターナショナルスクールには車で通い、自宅の広い敷地と、インターナショナルスクールは頑丈な塀で囲われ、そこから外に一歩でも出ると危険、という環境だった。自宅の敷地には、番犬用に大型犬を何匹も飼っていた。現地で生活する外国人は、番犬を飼う

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    2025年10月01日
  • しつこく わるい食べもの

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    食には人並みにこだわりがあるのでとても楽しく読めた。「自分の好きなものを、好きなときに、好きなだけ食べる」という終始変わらない作者のスタイルは真似したいと思う。読むと絶対にパフェが食べたくなります。

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    2025年09月30日
  • しろがねの葉(新潮文庫)

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    千早茜さんの作品は幾つか読んできたが、今回の作品は群を抜いて良かった。

    時代背景は、なんと関ヶ原の戦いの頃の日本。
    島根県は石見銀山を舞台とした人間の生き様を描いた作品。

    シルバーラッシュに生きる望みを託した両親に連れられ、住み慣れた村を出たウメは、一人きりで銀山の山師である喜兵衛に拾われる。
    夜目の利く童だったウメは、喜兵衛に慈しみ育てられ、やがて間歩で銀を採ることを志すのだが・・・

    銀山はまさに生命そのものだ。
    間歩の闇の中で掘り出される銀は、そこに生きる道を求めた人々の生きる道標であり、欲望と夢と意地の境地だった。そして、その闇は人間の体を確実に蝕んでいく。

    医療や科学が未発達だ

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    2025年09月29日
  • しろがねの葉(新潮文庫)

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    とても読み応えのある物語でした。
    面白かったと書くのはなんだか違う気がして、まだこの胸の昂りを上手く言葉にできないです。
    圧巻でした。

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    2025年09月28日
  • 眠れない夜のために

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    ネタバレ

    千早茜さんの短編集。第一夜から第十夜まで、どの編も眠れない人が主人公です。第一夜の主人公は、眠れない夜にクッキーの缶を開ける。クッキーの缶っていいよね。小さい頃、ドキドキして開けて、姉と中身を分けたことを思い出すけど、そういう描写があって良い。ただ、この主人公は明らかに過食症だよね笑。シンクの下に、そうやって空にしたクッキー缶がたまっている。第三夜の「水のいきもの」は、不眠を克服する話なんだけど、自分と同じ不眠の青年に、深夜の住宅街で出会って、そっと手を差し伸べてもらったことがきっかけで、眠れない夜に出てくる水の中のイメージが克服できる。なかなか素敵なお話だった。
    雨が降ると、身近な人の気持ち

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    2025年09月28日
  • ひきなみ

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    心地よい。ずっと読んでいたくてゆっくりと読んだ。
    情景や感情が文章だけでこれほど五感に訴えかけてくるなんてね…

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    2025年09月28日
  • 胃が合うふたり(新潮文庫)

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    良いところだけ、弱みだけ、を見せ合うのではなく友情にできるだけエンターテイメント性を求める2人の関係が素敵。
    同じ物事について書いてあるけど文体も視点も違う。その中でも胃はとんでもなく合うお2人。
    するする読めるのに読み終わってしまうのが勿体無くて毎日ちょっとずつ読んだ。しばらく経ってからまた読み返しても、日常を少し楽しんでみようと思えるような気がする、そんな本でした。

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    2025年09月23日
  • さんかく

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    タイトルから連想されるのは、三角関係、おむすび、サンドイッチ・・・・

    最初に、大好物の「塩むすび」があって、
    涎がでそうだった。

    京都の町屋のちょっと薄暗い、じめっとした背景に、
    東京の生活に疲れた女性と、年下の男性、その恋人の仕事に忙殺されている女性との、微妙な三角関係の描写が何とも言えなかった。

    高村は、大人で、料理も上手で、仕事もできて、自分をしっかりと生きている感じだった。
    真逆のタイプである華との間で、揺れ動く伊藤君の気持ちもよくわかる。
    3人がそれぞれの目線でストーリーが進んでいく手法はよかったと思う。

    「ヒトってさ、自分にとって都合が悪いものを変だっていうんだよ」
    ともち

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    2025年09月21日
  • 西洋菓子店プティ・フール

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    グロゼイユ、ヴァニーユ、カラメル、ロゼ、ショコラ、クレーム
    甘いお菓子が食べたくなる小説

    お菓子の描写がすごく好き。絵になくても、実際にそこにあって、より繊細に見えてくるようだった。いつも一瞬の美しさが、永遠にあるよう。

    なんか読んだことあるな〜と思ったら、読んだことあった。再読だったけど、前回にはない発見、思いの変化があって読んでよかった。

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    2025年09月21日
  • 私の身体を生きる

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    様々な『自分の』性との向き合い方について書かれている。メタ的な性との向き合い方でないのは、女性の作家たちだからだと思う。
    女性も誰かの性を搾取することもあるだろうが、しかし圧倒的に搾取される側であり、自分の生命と性とが紙一重に近い存在だと思い知る。
    アンソロジーの最初の島本理生さんの作品が個人的ににとても響いた。
    なぜ自分の性と向き合うだけで傷ついてしまうのか。男性も同じなのだろうか。傷ついたことを思い出さないで自分の性について語れる人間がいるならば、どんな人生なのか知りたいと思う。

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    2025年09月20日
  • 西洋菓子店プティ・フール

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    ネタバレ

    *フランスで菓子作りの修業をしたパティシエールの亜樹は、菓子職人の祖父のもと、下町の西洋菓子店「プティ・フール」で働く。女ともだち、恋人、仕事仲間、そして店の常連客たち……。店を訪れる人々が抱える様々な事情と、それぞれの変化を描く連作短編集*

    大人テイストのスイーツ小説、とでも言いましょうか。
    甘くてかわいいお菓子たちが全てを解決してくれてハッピー♡みたいな単純な展開ではない所がとても良かった。

    そして、甘さの裏に潜むほろ苦さにやるせなさ、人生のままならなさ…など、お菓子に絡めた心理描写が本当にお上手です。
    もろもろ胸焼けせずに最後までじっくり堪能致しました。
    装丁も内容にぴったりの雰囲気

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    2025年09月18日
  • しろがねの葉(新潮文庫)

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    千早さんは、誰も入る隙のない2人で完結された空間を描くのがお上手だと思っていて、今回もそんな静謐な雰囲気の漂う作品。
    変えられない運命を嘆きながらも、やはり間歩から離れずに、男たちを最期まで支えたウメは、銀堀にはなれずとも確かに喜兵衛の手子だったと思う。
    胸が引き裂かれそうな闇の中でも、"おなご"として、母として、ひたむきに強く生き抜いたウメは
    とても美しく輝いて見えました。

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    2025年09月15日
  • おとぎのかけら 新釈西洋童話集

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    一気に読みました。
    おとぎ話の新しい解釈だけれども、話の筋は崩していない。
    キラキラした物語もあれば、
    人間て怖いな、
    ホラー小説の方が怖くないのでは?
    と思う作品もあり、中に引き込まれる感じがした。
    本当はこんなこと無いよね?と思うけれども実際にはどっかであるのでは?
    とも思わせてくれる部分もあり、一気に読んだことを少し後悔しました

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    2025年09月12日
  • 西洋菓子店プティ・フール

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    パティシエの亜樹が主人公だけど
    各短編でいろんな登場人物の目線でかかれていて面白かった。
    ネイリストのミナの、美味しかったことをおそらく憎いであろう相手に思わず伝えた描写で
    やはりスイーツは人を幸せにするなぁとおもった。
    「世界に色がつくみたい」 紅茶屋さんの長岡さんの話が読みたい。

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    2025年09月11日
  • グリフィスの傷

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    グリフィスの傷とは…
    見えない傷のこと。

    p115
    ガラスは仕方がないからって言った。
    ガラスは本当はとても頑丈だけど、目に見えない傷がたくさんついていって、何か衝撃を受けた時に割れてしまうものだって。あなたが割ったように見えるけど、いままでの傷が積み重なった結果だから気にしなくていいのって。そういう目に見えない傷のことをグリフィスの傷っていうんだって教えてくれた

    傷に関するお話。
    どれも
    身体の傷や心の傷、他人には、自分の痛みは正確には伝わらない。計り知れない痛さを想像できればいいけれど、文中にもあるように、人は他人の痛みには鈍感だ。

    竜舌蘭のお話は、印象的。
    国語の教科書にのらないか

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    2025年09月09日
  • しろがねの葉(新潮文庫)

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    私が普段読まないタイプの本で、読みにくいと感じながらも徐々に引き込まれていき、読む手が止まらず映画を観ているようだった。
    泣けた。

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    2025年09月08日
  • 赤い月の香り

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    ネタバレ

    p108思い出して欲しかった

    p109あんたは一度も傷つけようとしていない。同じ目に遭わせてやろうとか、苦しめてやろうとか言ってない。ただ、思い出してほしいだけだろ。それの、何が悪い。あんたは強いよ。殴り返さない強さを誇るべきだ。


    p96 気持ち悪いですね、すみません
      いえ、思ったことを謝らなくていいです。

    p206 拒絶された怒りだったのか。悲しみや寂しさを感じないように真っ赤な怒りで染めて、そうやって俺は生きてきたのだ。
    中略
    腹の底にポッカリとした穴が空いて、力や熱が奪われていく気がした。ああ、これが虚しさなのか。

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    2025年09月08日