千早茜のレビュー一覧
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ゆらゆら揺れ動く夜の空気みたいな、耽美的な恋愛小説。島清恋愛文学賞受賞作。
古今東西、多くの作家が「恋愛」という普遍的な情熱をテーマにした文学作品を残してきた。熱に浮かされるような感覚、利口に生きられない歓び、嫉妬するのに敢えて装う平静、相手と共有できる非日常の世界、愛する者に振り向いてもらえない地獄の苦しみ、世界を呪いたくなる惨苦、やがて訪れる静けさ、深い虚無感。
しかし現代の恋愛小説において、そのようなロマンティシズムは見受けられない。「恋愛」は本来もっているはずの性質を失い始めている。現代人の空虚は奥が深い。誰もが孤独を恐れつつ、人に傷つかない孤独な安全地帯に潜り込む。「かたち」あ -
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『女は花なのかもしれない。愛でられたいという本能だけで咲く花。』
植物を偏愛し、自宅に自分だけの庭を持ち、そこに自己の存在肯定を見出す編集者の羽野は、表面だけ相手が望むようにふるまっているだけで、他人に対する意思や望みがない。よって人に傷つかない。また女性の底の知れなさが怖い。一度応じてしまったら、果てのない「感情共有」という欲望に、永遠に応え続けなくてはいけない気がするから。
人が孤独なのも、さびしいのも、当たり前のことで、それは幸福でも不幸でもなく、ただの事実だ。愛情によって、ぴったりと重なるような理解ができたと思えたとしても、それは錯覚に過ぎないのだけれど、その錯覚を求める女性は多 -
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強さと弱さ、野生と抑制、絶望と生命力。正反対の性質が共存する者は、生々しくも美しい。
支配欲に満ちた父親に育てられた小波は、意志を持たない。自我を持たない人間は、何も求めてこない。また側にいる者の欲求を、自分のものだと錯覚している。だからなのか、小波と関わった男性は、彼女に強く惹かれ、取り込まれ、そして破滅していく。
自己主張は少なからず、加害性を帯びる。小波のように強固な人格形成をされていなくとも、繊細な心を持つが故に、大切な人といる時には我を持たないという選択を、無意識的にしている人は案外多いと思う。
しかしたとえ望んだとしても、人間は本当の人形にはなれない。常に小波の腹の底には、