長岡弘樹のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
長岡弘樹『夏の終わりの時間割』講談社文庫。
6編収録のミステリー短編集。『救済 SAVE』の改題作というだけに、困難に直面した様々な境遇の人びとへの“救い”をテーマにした短編が並ぶ。
長岡弘樹の短編ミステリーは余り多く詳細を描かない割りには、状況が急展開するケースが多い。そのため、読者にしてみれば置いてけ堀を食った感じになり、もう一度前半を読み返して、初めて納得する場合が多くなる。本作の場合は、割りとしっかりした伏線があり、理解出来ないのはそれを見逃した読者側に否があるということになるだろう。そう言う自分も、何度も伏線を見逃して、読み返しているので余り大きなことは言えない。
『三色の貌』。長岡弘樹らしく、少し読者を突き放すような謎に満ちたストーリー。老舗の漬物屋で臨時社員として働いていた22歳の宮津勇司は職場で震災に見舞われ、九死に一生を得る。宮津はその後、うどん屋でバイトをするが突然解雇を言い渡される。宮津には人には言えない問題があったのだ……
『最後の晩餐』。ヤクザから足を洗い、その後に組織の金に手を付けた達川がヒットマンの桑田に命を狙われる。しかし、桑田は何故か達川を逃がし、組織の掟に従い、兄貴分の鏑木に命を狙われることに。まさかそんな理由があったとは。
『ガラスの向こう側』。元警察の鑑識官の伊関が勤め先の社長の殺害現場で綿密な証拠隠滅を行う。余りにもクリーンな犯行現場に違和感を覚えた警察キャリアの竹野は犯人は鑑識をよく知る警察関係者ではないかと疑う。しかし、コンビを組んだ実の父親の遠山は伊関が犯人ではないと断言する。
『空目虫』。ある日介護施設で、高橋脩平は施設長の坂東に認知症の患者を笑わせて欲しいと頼まれる。患者たちを笑顔にしようと奮闘する脩平だったが……まさかそんなことがあるとは……
『焦げたパン』。空き巣狙いのノビ師が4年前に300万円を盗んだ家に再び侵入する。4年前と同じ住人が同じように慎ましく暮らすその家は……
『夏の終わりの時間割』。小学6年生の祥は知的障害のある19歳の信と共に毎日遊んでいたが、信に放火容疑がかけられる。信が作った遊びの時間割と放火容疑。真犯人とその目的は……
定価682円
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Posted by ブクログ
ネタバレ毎回着眼点に唸らされる、長岡弘樹さんの短編ミステリ。今回の探偵役の職業は、ベテラン俳優。長岡作品としてはひねりがない気もしないでもないが、内容はやはり長岡流ミステリであった。
スクリプターを探偵役に据えた前作『つながりません スクリプター事件File』と、空気感は似ている。どちらも映像業界を描いているのだから、当然といえば当然だが、裏方と役者で立場が違えば、違う風景が見えてくる。俳優もまた、スクリプターとは違う意味で、観察力が必要な職業ではあるだろう。
前作同様、トラブルが多い現場ばかりで苦笑するが、ミステリ性は薄いだろうか。本作収録の各編に、明確な解決編はない。探偵役たるベテラン俳優・南雲も、告発するというより指摘している。相手同様に、読者も南雲の観察眼には畏怖するものの、南雲本人に相手を指弾しようという意図は毛頭ないように思える。
南雲が優れた役者であろうことは察せられる。役になりきり、作中にも溶け込む南雲というキャラクターが、各編の印象を薄くしているのは否めない。自分が思うに、南雲という俳優は、主演型ではなくバイプレイヤー型なのだろう。決して出すぎず、作品を引き締める。派手な解決編にならないのは、ある意味当然だった。
本作の最大の謎は、南雲自身の事情であるとだけ書いておこう。「一拍遅れのプロローグ」と「一拍早いエピローグ」。各編に挟まれたこの小編2編を、なぜこのような配置にしたのか。最後まで読み終えて考えてみると、わかったようなわからないような。南雲は食えない男である。読者に簡単に尻尾を掴ませることはないのだ。
最後の1編は、役者の道を断念して脚本家になった人物の視点で描かれる。役者の資質とは何だろう。「演技力」などと一言で括られることが多いが、では「演技力」の本質とは何か。本作に描かれたのは、事件というより南雲という俳優の流儀だと思う。