藤原伊織のレビュー一覧
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私にとって最後の藤原伊織作品だったので、
温存したかったけど、いつも通り一気読みだった。
辰村と立花の掛け合いがおしゃれで粋でオトナでいいなぁって思う。
(毎回ながら、もの凄い自制心のある男の人が出て来るな)
他も女性は皆、ワガママじゃないけど感情に素直で、素敵だ。
同僚も後輩も、手助けになるあの人や、美味しそうなあの食べ物も、
いいスパイスになってる。香ってきそうだ。
肝心の謎については、ミステリー・ハードボイルド色は薄いかもしれないが、その分、仕事に向き合うことがどういうことか、藤原伊織さんなりの哲学が、他のものよりも実に即して書かれていたと思う。
なんてみんなかっこいいんだろう。 -
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収められているのは「ダナエ」「まぼろしの虹」「水母(くらげ)」の中篇3篇。
タイトルとなった「ダナエ」の主人公・宇佐見は萩原朔太郎の詩の一節に象徴される「何物をも喪失せず、同時に一切を失ってしまった男」として描かれている。人もうらやむ成功を収めた今も、過去を引きずりどこか世捨て人のような生き方しかできない男。伊織さんは溢れんばかりのロマンティシズムとリリシズムをもって描ききっています。主人公の想いに思わず涙してしまったほどです。
こうした男のリリシズムは、この本に収められている「水母(くらげ)」の主人公にも共通しています。昼日中から酒場の椅子に腰掛け酒を飲んでいる男、酒を愛し、博打を愛し -
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ハードボイルド・ファンタジーを自称する藤原伊織さんの魅力が、ぎゅっと濃密に詰まった長編。
ほかの作品とも共通する、ハードボイルドの濃厚な香りが漂いつつも、作者さん自身の職歴がものをいうのか、大手広告代理店の熾烈な世界が、活き活きと描かれていて、働く男の背中が好きな方や、サラリーマンの方には、特につよく進めたい一冊。
小説の楽しさや味わいって、それぞれに色んな方向性がありますが、たとえば、普段とは違う上等のお酒を味わいながら呑むように、美味しいコーヒーを楽しむように、一冊の本にうっとりと酔う、藤原さんの小説には、そういう上質の娯楽のような、なんともいえない陶酔感があります。端々で重厚なリ -
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親友の柿島が死んだ――。とおりすがりの若者たちと思わしき連中からの暴行が行き過ぎた結果、意識不明となって入院していた柿島は、一度は助かると思われたにもかかわらず、容態が急変。あっけなく逝ってしまった。その報を受けた主人公・堀江は、警察に煙たがられるのも一向にかまわず、独力で犯人を捜し始める。はじめはただのオヤジ狩りだと思われていた事件は、調べるにつれて妙な点が目立ち始めて……
やっぱり藤原さんの小説はいい……!
エンターテイメント色の強い作品にもいろいろありますし、大衆向けのスナック菓子のような、軽い娯楽として楽しめるチープな美味しさの小説も、それはそれで大好きなんですけども、藤原さん -
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「好きな作家」のところに『藤原伊織はもう出ないよね』と書いていたけど、文春文庫から「名残り火」が出ててこれに“てのひらの闇2”ってあったので、まずは未読の前作からと、新刊は平積みに戻してこちらを棚から引っ張り出して買って帰る。
知悉の広告の世界を舞台に、いつもの如く何かを背負いながら生きたいように生きる堀江、そしてまた周りには気の利いた美しい女性の部下と同期で出世競走の先を行きながらそれを笠に着ぬ上司。
登場人物の類型は変わらねれど、堀江の素性や自殺した会長との過去を小出しにしながら事件の輪郭をたどっていく展開は予想もつかせず、そして見事に収束する。
借り着の生活の中で過去に封印した筈のものに -
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ああ、そうか、もう、去る5月17日で3周忌なんだわ、と、平積みにしてある本書を手にとって、しみじみ感慨深げにつぶやいてしまいました。
巻末のエッセイで、我が逢坂剛が、「いおりんは・・・」「いおりんが・・・」と、共に直木三十五賞をとった同じ大手広告会社繋がりもあって、親しみを込めた愛称で呼んで懐古しているのを読んで、もうダメ、一気にドッと涙があふれてきてしまいました。
書店の中で、周りの人も怪訝そうな顔をして遠ざかる気配がします、もう、格好悪いったらありません。
確かに、これが最期の小説でした。何度読んだかわかりません。
『てのひらの闇』と本書を、これからも何度も何度も読む自分の姿を想像