藤原伊織のレビュー一覧
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ネタバレ表題作『雪が降る』
男同士でネクタイを結ぶシーンは本当に作者の粋なユーモアを感じさせる。
かなり凝っていて丁寧な作品。よく短編でまとめあげられるなと思う。
雪が降ることの意味について。
まず、アダモの楽曲名であり、歌詞の意味はおそらく雪の日に待ち合わせで相手が来ないことを嘆く歌だろう。
陽子のメールのタイトルであり、息子の高橋道夫から主人公志村へと向けたメールのタイトルでもある。
雪が降ったことで志村と陽子は一緒のホテルに泊まることになる。
そこで、陽子は何を思ったか? 「人はいっぺんにおとなになることもある。」
少しずつではなく、とある出来事がきっかけで、大きく気持ちに変化がついてしまうとい -
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ネタバレ他の人も書かれていますが、ほんの数頁で引き込まれました。
物語の重要なカギにもなる公園でのやり取り(本文より引用)
「神様についてお話ししませんか」と彼はいった。「申しわけないが、いま仕事中なんでね」「仕事? なんの」「これだよ」酒瓶をふった。「プロの酔っ払いでね」
・・・もう、これだけで面白いの確定です。
結末での主人公の「私たちは世代で生きてきたんじゃない。個人で生きてきたんだ」、この台詞が全てです。
出版当時に「乱歩賞と直木賞、初のダブル受賞作は?」とアタック25で児玉清さんが出題されていて、とりあえず読んでみた記憶が有ります。
当時、自分にはそこまで響かなかった物語が今回の再読では -
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いろいろとできる人間ではある。喧嘩もできるし、人を庇う嘘も咄嗟でついたし、アナログとデジタルの一瞬の違いも見分けられた。
だが、それらを「できる」と思うか「できてしまった」と思うかは人それぞれで、いつの場合でも、本人がどう思っているのかがすべてだと思う。
だから、てのひらに闇があったってあなたはできることがいろいろあってすごいねなどと他人を評価してはいけないのだろうと思う。
本人は、いろいろできるかもしれないが自分のてのひらには闇があるのだと思っているかもしれず、そのどちらなのかは簡単に知れないと思うからである。
そういう探りを入れず、興味もなく、自分がしたいからこうすると行動するのは、関 -
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無駄は1文字たりともない。
人生の半分の逃亡生活は無駄ではなかったし、ここに書かれていること以上に読者が知らなければならないこともないのだと思う。なのに、「私も年をとったのだ」だけが2回繰り返されたのは、決して菊池の生活が無駄だったからではなく、それでも繰り返さざるを得ないほどに長すぎたのだと訴えているからだと思う。
それほどに長い「習慣」は知りたくはない。だが、読者は知るべきだった。だからこそ繰り返された言葉なのだろうと思う。
そして、「私はあやまりを口にした」のあやまりとは、と考える。謝りであり、誤りでもあると書かれているように思った。繰り返しとは逆に、一度で2つを伝えたのだと思う。 -
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全共闘世代、団塊の世代の学生運動を背景に持つハードボイルド小説。
東大卒かつアマボクサーで、とある特定の電子機器に強く、しかもアル中でいて素敵な女性達、男性達にモテるというてんこ盛りキャラクターだけど、現状は独りで都内の狭いカウンターバーを切り盛りする一介のバーテンダーに過ぎず、店では酒とホットドッグしか出さないという主人公。
脇を固める登場人物たちもかっこいい。
乱歩賞新刊、数ヶ月後に受賞する直木賞は発表前という段階で読んで以来ずっと、本棚のお気に入りスペースに鎮座ましましている名作です。
昭和と平成初期のハードボイルドを感じてみたい方は是非。 -
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ネタバレ冷静で勘が冴えているが機械やテクノロジーに疎いバーテンの島村、頼りになる奇妙なやくざの浅井、若くして知性と行動力(それから魅力)を兼ね備えた塔子、ほかにも個性的で生き生きとしたキャラクターが、ハイテンポで展開していく物語を鮮やかに味付けしている。
展開もハイテンポで目まぐるしく進み、線と線がつながって新たな線が浮かんでくる。島村と共に新宿を駆け回って謎を解いていくような感覚で読めた。
クライマックスで島村と桑井が出会う場面。それまで物語のキーパーソンとして舞台装置的な印象であった優子が、桑井との会話によって一気に人間味を帯びてくる。島村との関係、桑井の絶望、優子の涙のわけ、NYでのふたり、 -
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【2023年22冊目】
読んでる途中から「いや、これもうよっぽどのことがない限り★5です、満点です」って思ってたんですけど、めっちゃ面白かった〜!
江戸川乱歩賞と直木賞ダブル受賞ね、ふーんて思いながら読み始めましたが、ダブル受賞伊達じゃなかった。
のどかな公園からスタートする物語が、どんどんと複雑化していき、途中で相関図書いて整理しつつ、結末がどうなるか全然わからなかったので、最後までドキドキしながら読み切りました。
「私」の受け答えがいちいちかっこよすぎる、あと頭が切れるのと同じくらいダメっぷりが光る人間味が良すぎました。
あと、あの、浅井ー!浅井かっこよすぎるでしょー!途中から浅井 -
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'95,'96の乱歩賞&直木賞W受賞作!
評価に違わぬ、素晴らしい小説でした。
本書は、世間一般でいうところのハードボイルドの位置付けのようですが、特定感情に流されず、精神的・肉体的にも強靭で、時に冷酷非情とも言えるような、所謂〝カッコいい〟主人公とは趣きが違います。
中年でくたびれたアル中のバーテンの主人公を始め、他の登場人物も個性が際立っていて、その設定にも感心します。
ストーリーも、客観的で簡潔な描写が淡々と展開され、どんどん引き込まれます。ミステリーを超越し、他のハードボイルドからも一線を画している気がします。
最後は怒涛の驚愕の連続でしたが、 -
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藤原伊織『雪が降る』角川文庫。
最早、絶滅危惧種とっなった男らしい男の生き様を描いた6編を収録した短編集。男女平等だとかLGBTだとかまるで権利を勝ち取ることが正義というような輩ばかりの時代にはそぐわない作品である。昔はこれが当たり前ということがどんどん否定されていく生き難い世の中にこそ読むべき短編集だと思う。
『台風』。深みのある短編。人生は後悔と苦しみの連続なのかも知れない。幸せな思い出はいつの間にか霞んでしまう。台風のある日、会社でかつての部下が起こした傷害事件を切っ掛けに吉井卓也は苦い過去を思い出す。★★★★★
『雪が降る』。表題作。人生で外れ籤ばかりを引いて来た男の再生の物語。