池央耿のレビュー一覧
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隠居生活の元弁護士ハワードは、第二次大戦の戦火が広がる中、イギリスからフランスのジュラの山村へ釣りに出かける。戦局に関心をはらっていなかったハワードは、フランスがドイツに攻め込まれ危機的な状況になりつつあるのを理解していなかった。ジュラではゆっくりと釣りを楽しんでいたが、スイスもドイツの手に落ちるのではないかという噂の中、帰国を決める。同じ宿に泊まっていた国際連盟職員の妻から、子ども二人をいっしょにイギリスまで連れ帰ってほしいと頼まれる。列車を乗り継いで帰れると引き受けたハワードだったが、ドイツ軍の侵攻で交通機関は寸断され食料も泊まるところも無くなっていく。バスに乗り換え、最後は歩いてイギリスを目指す。子ども二人でも大変なのに、戦争孤児やユダヤ人の子どもや次々と子どもを託される。英仏海峡を望む町までたどり着いたとき、とうとうゲシュタポに見つかりスパイの容疑をかけられてしまう。
面白かった。何度か映画化・テレビ化されているそうだが、そうしたくなる展開だと思う。出版されたのが1942年だが、まだ戦争が終わっていないではないか。
「渚にて」の著者でもある。
余談だが、ジュラ地方はジュラ山脈に由来し地質年代のジュラ紀もこの地域に多く見られる地層だからだとか。豆知識が増えた。 -
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四人の語り手の手記により、大学で発生した毒殺事件と、その犯人と疑われた女性の運命如何を主筋として、イングランド王政復古時代の政治情勢や党派対立等を絡ませながら、物語は進んでいく。
ミステリとして見れば、信頼できない語り手の問題や語り=騙りといったことになるが、媚びず、卑屈にならず生きていくヒロインの人物造形が実に魅力的だと思った。
ヒロインのラストについては、ウーンという気持ちも拭えないが、語りの中で、そこまで含めて書かれているではないかと言えば、そうかもしれないと思わされる(ネタバレ気味の恐れもあるのでぼかしていますが、最後まで読まれた方には分かっていただきたい)。
本書では、実在の登場人物も多く、当時の医師の社会的立場だったり、輸血研究の先陣争いだったりと、興味深いトピックも面白いし、歴史小説としても読み応えがあると思われる。
ただ、少し注文が。年表や登場人物の表が付され、また訳者解説でも時代背景に触れられてはいるのだが、もう少し、この時代を巡るイングランドの政治党派関係や宗教的対立等について説明があれば、より人物関係の微妙さや出来事の意味合いについて理解が深まったのではないかと思う。 -
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先ずは本書の無事刊行を寿ぎたい。
本書の帯とカバー裏には、『薔薇の名前』とクリスティの名作が融合と謳われているが、本作を手に取り、内容ではない別の面での『薔薇の名前』との共通点を思って、しばし感慨に耽った。
それは、日本語訳がなかなか出なかったということである。『薔薇の名前』が映画化された頃、原作ではアリストテレスやキリスト教、異端審問等に関わる内容が満載だということで、それらに纏わる蘊蓄本がだいぶ刊行されていたのだが、肝心の原作の翻訳が待てど暮らせど出ない、その出版社が東京創元社であった。
翻訳者の一人である日暮氏が、本書についての打合せの始まった時期のことを書いた文章を読んだが、20年以上前から作業は開始されていたようだし、訳者の東江氏の御逝去という事情もあったりと、本書刊行まで難航したことが窺える。そうした困難を乗り越え、刊行に至り、この大作を読むことができたことに、何はともあれ感謝したい。
感想は、下巻にて。 -
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1977年発表、プロスポーツを題材としたサスペンス小説の名編。テニスの国際大会「ウィンブルドン」を舞台に犯罪の顚末を描くのだが、本作がメインに据えているのは、若き天才テニス・プレイヤー二人が切磋琢磨し、頂点へと上り詰めていく過程だ。
豪快且つ正攻法のプレイで魅了するオーストラリアの俊英ゲイリー・キング23歳、天賦の才を持ち華麗な技術と純真な人柄で誰からも愛される亡命ロシア人ヴィサリオン・ツァラプキン17歳。この二人が図らずも出会い、テニスを通して友情を育んでいくエピソードを主軸にしており、何よりも青春小説として味わい深い。
ウィンブルドン決勝。時には相棒として数多の強敵を倒し、互いに待ち望んでいた日を迎えたキングとツァラプキン。一方、同日に向けて計画を練っていた犯罪者グループが脅迫を決行。試合が終了するまでに要求が満たされない場合、観覧する英国女王と勝者は殺される運命にあった。ゲーム開始後、ツァラプキンはその事実を知る。敬愛するキングを決して殺させはしない。勝つか、負けるか。すべては、自分自身のプレーにかかっていた。師弟関係にあり、最大のライバルでもある二人が、クライマックスとなる最終戦で熾烈な戦いを繰り広げていく。タイムリミットが迫る中、最終戦のボルテージは最高潮に達し、劇的なゲームセットへと至る。
読みどころは、当然のこと全編にわたり展開する白熱のゲームだ。ルールを知らずとも楽しめるように配慮されているが、テニスファンなら二倍も三倍も試合のダイナミズムを堪能できるだろう。
会話で辞書が手離せないツァラプキンの設定を、犯罪者との攻防で生かし、結末でのツイストに繋げる伏線も見事だ。中盤から一気に緊張感を高め、終盤へと自然に流れていく構成も巧い。極めて過酷なスポーツでもあるテニスの魅力を存分に伝える稀少なミステリである。 -
Posted by ブクログ
「自由、平等、博愛、さもなくば死!」血みどろのフランス革命。当時の空気ってこんな具合だったんだなあ。気が触れてしまったかのような大衆の熱狂が伝わってきてゾッとした。この狂乱の雰囲気を体感しただけでも読む価値があったと思う。もちろんストーリーも面白い。最後のシーンは別格だった。神聖な輝きが溢れていて、なんとも言い難く美しい。個人的には死体盗掘人の男が終盤で心を入れ替えて言ったセリフもたいへん胸に響くものがあった。全体の作りとして個人の心理を追究するという趣向ではないが、大衆の心理を媒介にして、それを作り上げ牽引する側と犠牲になる側の個々人が複雑に交錯する群像劇はとても読み応えがあった。満足。
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所々泣いてしまう。良い話である。
しかし、良かったと思う一方、斜めに見ている自分がいる。
スクルージは頑固で人に無関心、冷たいけど、悪人ではない。
周囲の人はそんなスクルージを変人扱い程度でたいして憎んでいるわけでもない。
だから、成り立つ話ではないかと思う。
例えば、スクルージが人に対して、罵詈雑言を何度も浴びせる人だったら?もし、何度も暴力を振るう人だったら?何度も金を借りに来る人だったら?などなど…
何度無言で許しても、何度もそうやって酷い目にあわせる人だったら?
謝罪もなく、突然調子よく愛想を振りまいてこられて、周囲は許せるのだろうか。
周囲が許せる範囲であれば安全だけど、許せない範囲であれば、なかなかこうはいかないのではないだろうか。
…という考えもよぎってしまった。
でも、ともかく、悪人ではないスクルージのような人の設定であれば、この話はとても心に響くものだと思う。
クリスマス前に毎年読み返してもいいかも。